第26話 偽麗の神

 衝撃が木々を揺らす

 そして倒れた幾つかの木々を押し退けて姿を現したのは、先程偽麗の神に細切れにされた上に、戦場から数㎞離れた地点に吹き飛ばさアルバーニだった

 

 「手痛いカウンターだのお………」


 アルバーニは身体の再生を待つ間、倒木に腰かけて息を吐くと、これからの行動について思考を始める


 (お互いの状況から考えるかのぉ、まず儂らは皆、死に体である。続いてズイズ君の魔力の残量は僅かで、頼みの綱であるあの自動再生魔法も使える回数は限られる。対して向こうは、魔力も体力も殆どからっきしだと見える。だが先の攻撃からすると、それでもまだ儂ら比べれば余力を残しているは確実であろう)


 深く考え込むアルバーニ

 彼は逡巡の上で、結論を出す


 「うむ、このままだと儂らの負けじゃな。………………ん~~~~~~~~~~、しかしのぉ」

 

 自身らの負け、そう結論付けたアルバーニであったが、納得いかなそうに腕を組みで唸りを上げた

 

 「正直言って、デオス君たちが死ぬのは良いんだがな、そうするとムネタカ君としろがね君との関係が悪化しかねないのぉ」


 アルバーニの目的は、最高に面白い物語を特等席から見届ける事である

 そんなアルバーニにとってデオスらを見捨てたせいで、最高の物語を提供してくれる可能性が高い浅井らと関係が悪化して、同盟関係が解消されてしまう状況になるのは避けたかった

 だからこそアルバーニは、現状を好転させる方法を悩ましそうな表情を浮かべながら考える


 「う~~~~~~む、どうするかのぉ。それこそ後一人くらい、使える戦力が居、れ、ば……………………………!!」


 その時だった、今まで暗い表情を浮かべていたアルバーニの表情が晴れやかなものに変わる

 

 「カ、カカ、カカカ、カカカカカ!! 居るではないか、丁度良いのが」


 笑いを溢しながらアルバーニは、言葉を続ける

 

 「死者蘇生はリスクが大きいが、仕方ない。今回は儂の目的を果たすためだ」


 アルバーニは両手を胸の前に持って来ると、構えを取る

 するとその構えの応じたように彼の肉体から、靄のかかった球体が出現する

 淀み死の気配を漂わせる球体、その正体はアルバーニの魂であった

 アルバーニはその魂に手をかけると、呪文を唱え始める


 「【totyos[mish]mi,toifutot[misn]miituminana=】【tormisitotfuhatgmishhatn=to=yo】【hatryosrfutottokfu,hatryosrkokofu1000nanayossmisy-hatyosi】

 

 魂が広がり、魔法陣を描いていく

 続いて完成した魔法陣が、強く光を放ち、この星に拡散されていたある少女の魂を集め始めた

 そして魂の集合開始から数秒後、キラキラと輝く魂の欠片はアルバーニの目前で人の形を模った


 「さぁ、目覚めよ!! 異界の旅人よ!!」


 叫ぶアルバーニ、その声と共に魂が集まり造られた少女は、瞑っていた瞼を開く

 そして意識を取り戻した少女に浮かんだのは、強い困惑だった

 

 「………………こ、此処は? なんで私は………………」


 なぜ自分は生きているのか、此処はどこなのか、そういった強い疑問で脳内が埋め尽くされた少女は、困惑を隠せずに周囲を見渡した

 キョロキョロと頭を動かしていた少女に、声が掛かる


 「初めましてじゃな、アサクラヒナミくん」


 彼女を呼んだとても渋いその声の正体は、アルバーニだった


 「え? 一体どちら様で、す、か………………!?」


 届いた声の方に顔を向けた雛美は、視界の先に立っていた巨大な骸に驚いて声を上げる

 

 「ええ、骸骨!? ってことは、もしかして此処は死の世界?」

 

 慌てふためく雛美に対して、近づいたアルバーニは「落ち着け、ヒナミ君」と呼びかけて落ち着かせようとする

 そしてその声で落ち着きを取り戻した雛美に対して、アルバーニは話を続けた


 「おぬしは儂が蘇生したのじゃ」

 

 「蘇生? という事は、私は生きているんですか?」


 「ああ、生きておるぞ。まぁ、身体を構成しているのは魂だから、脈は無いがな」


 アルバーニの言葉を聞いた雛美は、自分が生きているのが信じられないのか身体中をペタペタと触っていた

 

 「生きてる、本当に生きてる」


 ようやく実感がわいたのか雛美の瞳には涙が滲む

 その後、零れ落ちてきた涙を拭っていた彼女は、何かに気が付いたのか声を上げる


 「そ、そうだ皆は!!」


 彼女が気が付いたのは、デオス達の事だった

 雛美にとって今は、偽麗の神を封印し命を落としたあの時から地続きであり、だから彼女は直前で別れたデオス達の事を気にして周囲に視線を送った

 しかし彼女の視線に広がるのは、知らない風景

 一体、何が。王国は何処、皆は何処と困惑する雛美の疑問に答えたのは、アルバーニであった

 但し言葉ではなく、行動でだったが

 アルバーニは骨の棒を、ヒナミに投げ渡す


 「ほれ」


 「これは?」


 「杖だ、戦うには必要だろう。さぁ、助けに行くぞ」


 「戦うって、何と? 助けるって誰を? って、え?」


 アルバーニは、説明不足で困惑する雛美を担ぎ上げると、笑みを浮かべる


 「決まってるじゃろ、デオス君達じゃよ」


 「ええっ、デオスさ――――――ん!?」


 アルバーニは雛美が言葉を言い終わる前に、地面を蹴って飛び上がる

 その行き先は、デオス達の待つ戦場であった



     ――――――――――――――――――――――――――――



 アルバーニと共に雛美は戦場に飛来する

 そして着地した地点にゆっくりと地上に降ろされた雛美は、目前で偽麗の神と対峙するデオス達の姿を見る

 その懐かし背に涙ぐむ雛美であったが、唇を噛んで涙を堪えながら戦場へ向かって駆け出した

 彼女が向かう戦場では、今、偽麗の神が地面を蹴った所だった

 雛美はその事を視界に捉えると、走りながら前に杖を構えて呪文を唱えた


 「結界術・断罪の刃!!」


 呪文の完了と共に地面から飛び出した結界で出来た刃が、デオス目掛けて跳び込んだ偽麗の神の胴体を刺し貫く

 

 「!?」


 百舌の早贄のように貫かれた偽麗の神は、驚き目を見開く

 そしてデオス、ズイズ、レイニールの三人も偽麗の神と同じく背後から現れた雛美の姿を見て目を見開いた


 「ヒ、ヒナミ?」


 「ヒナミさん?」


 ズイズ、そしてレイニールが声を漏らし、デオスに至っては言葉すら出ずに固まっていた

 

 「皆さん………!」


 だが彼らの再開を邪魔するように絶叫が上がる

 その耳障りな絶叫は、刃で串刺しにされた偽麗の神からだった

 偽麗の神は、結界で出来た刃を砕いて脱出すると、再度デオス達へ向かって襲いかかった


 「否、否、否、ァァァァァァァ!」


 絶叫と共に煌めく腕の刃がデオスの首元へと迫る

 だがその刃は直前で雛美が張った結界に阻まれ、砕け落ちた


 「皆さん、話は後で! 今は、敵を!!」


 その雛美の言葉で、動揺から回復したデオス達は、偽麗の神へと向かって動き始めた

 偽麗の神に対し、広がりながら駆けるデオス、ズイズ、レイニールの3人、その背後を追う雛美とアルバーニ

 彼らは、偽麗の神との最後の攻防に移った


 先鋒はデオス

 デオスは、炎の刃を偽麗の神に向けて飛ばす

 勢いよく飛来する炎の刃を、接触スレスレで回避する偽麗の神、その回避地点に待ち構えていたズイズとレイニールは、拳と斬撃を放つ

 偽麗の神は、その拳と斬撃を触手で打ち払おうとした

 だがその瞬間、偽麗の神の周囲を囲むように出現する分厚い結界


 「!?」


 偽麗の神の伸ばした触手は、結界の内側で跳ね返り当初の目的を失う

 更にその結界は狭く、偽麗の神の動きを封じる

 完全に籠に捕らわれた鳥になった偽麗の神

 そこへズイズとレイニールが放った拳と斬撃が迫り、その拳と斬撃が結界に接触する瞬間、結界消える

 そして空中に隙だらけの状態で放たれた偽麗の神の胴体へ、拳と斬撃が衝突する


 「!? ゴォッ――――――!!」


 吹き零れる血潮と共に後方へ弾き飛ばされる偽麗の神

 その向かう先に飛来したアルバーニは、手に持った骨の大剣を振りかぶった

 一閃、骨の刃が偽麗の神の翼を斬り飛ばす

 そして片翼を切り落とされて地面に転がった偽麗の神へと、続いて拳を構えたデオスが接近する


 「火葬絶拳・十六連かそうぜっけん・じゅうろくれん!!」


 続けて振り抜いたデオスの腕から、弾丸のように燃える拳が撃ち出される

 その技に対して体勢を整えた偽麗の神も、技を放つ


 「暴音流 喇叭閃!!」


 上部からはデオス、下部からは偽麗の神の拳が迫り、そしてお互いの拳が衝突した

 その瞬間、周囲に轟く衝突音

 続いて発生した衝撃波が、お互いの拳を砕き血を撒き散らせた

 そしてその時の衝撃で弾き飛ばされたデオスへと、偽麗の神の触手が撃ち込まれる

 狙いは頭部、八つの触手が今、音よりも早く迫った

 

 「邪魔を!!」


 だが触手がデオスの頭部に接触する直前に、滑り込んで来たアルバーニの大剣によって斬り飛ばされる

 そして散らばり地面へと力無く落下する触手、その上を飛び越えてズイズとレイニールがエントリーして来る

 ズイズとレイニールは、そのままの勢いで無数の茨と水の斬撃を放った

 腕から射出された強靭な茨、そして地面を切断しながら進む水の斬撃の二つは、偽麗の神目掛けて一直線に向かい、その胴体に傷を付ける

 更に茨の方は偽麗の神の肉体に絡みつき、その動きを封じた

 拘束される偽麗の神、そこへデオスが現れ、白炎を纏った拳をぶつける

 その拳は抉るように偽麗の神の胴体へ食い込むと、拳から炎が噴き上がり、内部から偽麗の神を燃やした

 上がる絶叫と共に、炎が偽麗の神の目や口から炎が噴出する

 続けてデオス以外の雛美を含めた4人が、炎上する偽麗の神へと攻撃を打ち込む

 

 合計4発、鋭い刃と拳が偽麗の神へと迫った

 

 「「「「!?」」」」

 

 だがその4発は、空を切る

 偽麗の神は、肉体を内部から燃やされながらも、雛美たちの攻撃が接触される直前に上部へと跳び上がった

 そして跳び上がった偽麗の神は、下部に居るデオス達目掛けて無数の触手を振り回す

 鞭のように振り回された触手は、デオスに庇われた雛美以外の肉体を切断する

 飛び散る血液、その真っ赤なシャワーを裂いて偽麗の神が追撃を仕掛けるも、デオス達を囲むように出現した結界に阻まれる

 

 「貴様は、何処までも。アァァァァァァァ!! 『鹿王流奥儀 二角打ち』!!」

 

 だが続けて偽麗の神が放った一撃で、結界は粉砕される

 しかしそれを狙っていたかのように跳び出したレイニールとアルバーニの刃が、偽麗の神を切り裂く

 続けてデオスとズイズが跳びだし、偽麗の神の胴体へ拳を打ち込んだ

 

 「ゴハッ!!」


 偽麗の神は、血を吐きながら後方へ大きく吹き飛び、デオスは急いでその後を追う

 背後では体力が尽きたズイズが力無く地面に落下していたが、デオスが振り返る事は無かった

 

 

    ――――――――――――――――――――――――――――


 

 そして地上に叩きつけられた偽麗の神、その左右から迫るレイニールとアルバーニの二人は、偽麗の神に向けて剣を振るった 

 交差する刃は加速しながら偽麗の神へと向かい、そしてその胴体を切り裂く

 飛び散った血を浴びながらレイニールとアルバーニの二人は、再度剣を構え直し、続けて刃を振るう

 そして走った二つの刃は、偽麗の神の肉体に食い込んだ

 その瞬間、偽麗の神の腕が膨れ上がり射出された刃が、レイニールとアルバーニの身体を貫いた


 「ッ………!」


 「ヌゥ………!」


 苦悶の声を上げる二人

 その触手で貫かれた二人を、偽麗の神は触手を掴んで投げ飛ばした

 地面に叩きつけられる二人、更に続けて偽麗の神は触手を構える

 そして地面に叩きつけられたレイニールとアルバーニの二人目掛けて、鋭い先端を持つ触手を飛ばそうとした

 だがその直前、空から飛来したデオスの拳が、偽麗の神の顔面を捉えた

 

 「オォォォォォォォ!! 火葬絶拳かそうぜっけん!!」


 「ブゥッ――――――ゴッ!!」


 捻じれる首、噴き出す血液、デオスの拳で殴られた偽麗の神は、回転しながら吹き飛んだ

 そして吹き飛んだ先で地面を削るように転がる偽麗の神、その上部から飛来したデオスが蹴りを放つ

 偽麗の神は流星のような軌道で迫ったその蹴りを、肉体を抉られながらも回避する

 だが回避した偽麗の神の胴体へ、突き刺さるデオスの肘

 デオスは蹴りが避けられた瞬間に、炎を吹かして偽麗の神に向かって加速し、肘打ちを放っていた

 深々と突き刺さる肘に、苦悶の声を漏らす偽麗の神

 続けてデオスは、偽麗の神の顎を蹴り上げる

 そして更にデオスは、よろめく偽麗の神へ回し蹴りを放ち、その胴体を抉った

 だが蹴りに合わせて偽麗の神から放たれた触手が、デオスの片腕を斬り飛ばす

 

 「ガ、アァァァァァァァ!」 


 腕が地面に落ち、デオスの肩口から吹き出る血液 

 だがそれだけの傷を負っても、デオスは止まらない

 デオスは腕を斬り飛ばされながらも、もう片方の腕を偽麗の神の胴体に突き刺した

 そしてデオスは深々と刺した腕を引き抜こうとした

 しかしその腕すらも偽麗の神によって切断される

 

 (後、一手。何かあれば――――――!)


 残った片腕を切断され、よろめくデオス

 その隙だらけのデオスに向けて、偽麗の神の腕が迫る


 (何か、何かないのか)


 死が近づき、スローに変わった世界の中で、声が響く


 「デオスさん!!」


 デオスに届いたその声は、彼が大切にする朝倉雛美のものだった

 雛美は偽麗の神の背後から駆けて来ると、杖を構える

 そしてデオスを守るために、偽麗の神へ向けて魔法を放った


 「結界術・断罪の刃!」


 雛美の詠唱と共に地面から結界の刃が射出され、拳を構えた偽麗の神の胴体へ深々と突き刺さる

 だが偽麗の神の動きは止まらない

 偽麗の神は、胴体に大きな傷を付けたまま、デオス目掛けて拳を振り下ろした

 そしてその拳の先に膝を付くデオスは、己の死を悟った


 (もう一度ヒナミを死なせるわけにはいかない………! だからせめて相打ちに!!)


 デオスは残る全ての魔力を心臓に溜めてから爆発させる自爆技で自分諸共、目前の偽麗の神を殺害しようと試みる

 だがその直前、デオスの視界に青い光が写り込む


 (あれは………、しろがねの動力源!!)


 その青い光は、デオスの言う通りしろがねの動力源だった

 動力源は、デオスと雛美が刺し貫いた傷が重なった傷口から露出し、デオスの目前に落下する


 (これだ!!)

 

 その動力源を視界に捉えた瞬間、デオスは地を蹴る

 狙いは一点、落下する動力源へと向かったデオスは、大きく開いた口でその動力源を喰らった

 その瞬間――――――!!

 デオスの身体から黒い炎が噴き上がる

 更に噴き上がった黒炎は巨大な爆発を引き起こし、デオスの変化に驚愕する偽麗の神を後方へ弾き飛ばす


 「ッ!?」

 

 そして吹き飛ばされた先で顔を上げた偽麗の神が見たのは、まるで黒衣の様な炎を身に纏った悪魔デオスの姿だった

 偽麗の神の視線の先に立つデオスはゆっくりを腰を落とし、続けて切断された両腕の断面から噴き出した炎で造った黒炎の腕で構えを取る

 そして静かに言葉を呟いた


 「空亡・黒炎葬装そらなき・こくえんそうそう


 噴き上がる黒炎

 その黒炎に対する偽麗の神は、デオスから視線を動かさず警戒を強める

 だが次の瞬間、偽麗の神の視界からデオスが消失する

 

 「!?」


 驚きながらも偽麗の神は視線を動かしてデオスを探すが、突如後頭部に衝撃が奔る


 (ッ―――――! 背後か!!)

 

 先程までとは違い威力の高い一撃を受け、倒れ込む偽麗の神は、脳を揺らされて膝を付く

 そこへ続けてデオスの蹴りが撃ち込まれる

 

 「グッ………!」


 今度は側頭部を蹴られて吹き飛ぶ偽麗の神であったが、何とか空中で体勢を整えて、デオスの追撃に対処しようとした

 しかしデオスの姿は偽麗の神の背後にあった


 「!?」


 背後から打ち付けられたどす黒い殺気に驚き振り返った偽麗の神は、即座に防御を行おうと腕をクロスさせるが、その防御行動よりも速く黒煙を纏った拳が放たれる

 

 「火葬絶拳・十七連かそうぜっけん・じゅうしちれん!!」


 「ブゥ――――――!」


 砕ける頭蓋、飛び散る脳漿

 偽麗の神は顔面を殴られ、大量の血液を吹き上げながら地面に叩きつけられる

 そして更に衝撃によって地面からバウンドした偽麗の神の胴体に、デオスの蹴りが入り、偽麗の神は上空へと吹き飛ばされた

 その威力は凄まじく、偽麗の神は宇宙に向かって一直線に進んで行く

 そして無様に空を上っていく偽麗の神に対して地上に立つデオスは、拳を構えながら深く腰を落とす


 「これで終わりだ――――――!」


 静かにされど滾る熱が込められた言葉と共に、デオスは大地を蹴った

 

 最後の攻防が始まる

 一直線に宇宙に吹き飛ばされる偽麗の神と、その後を追うデオス。その差は一瞬で埋まっていた

 そして今、お互いがお互いの間合いに侵入する


 「否、否、否、認めるものか!! 我は神ぞ、貴様のような下等で、下劣で、醜悪な者等に滅ばされる事など、あり得ぬわ!!」


 偽麗の神は悲鳴にも似た声と共に、デオス目掛けて触手を伸ばす

 だがその触手は、デオスへと接触した瞬間に焼け消えた

 そして偽麗の神の懐に潜り込んだデオスは、引き絞った拳を今、解き放った


 「黒炎火葬・日蝕絶拳こくえんかそう・にっしょくぜっげん!!」


 鳴り響く轟音、出現する黒き太陽

 全てを焼き尽くす黒炎の拳が、偽麗の神の胴体を捉える


 「オォォォォォォ! 我は、我は!!」


 叫ぶ偽麗の神、その美しくも傷だらけの身体はほどけるように、塵となっていく


 「我は、私は、ただ、外の世界に旅立ち――――――――――――」


 そして今、偽麗の神は、その命を遥か昔、何処かの誰かが思い描いた言葉と共に消えて逝くのだった

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