第25話 『    』

 「ゴッ、ハ………………………………!」


 吐血し、膝をつく浅井

 白銀と青を基調としたコックピット内に、真っ赤な血が吹きこぼれ、地面には臓物の浮かぶ血溜まりが出来上がった

 致死量を遥かに超える血液を流しても未だ意識を保つ浅井は、唯一動かすことが出来た右の瞳を動かす

 点滅しぼやける視界、そんな情報を取り入れる事もままならない瞳で浅井が見たのは、左側を抉られて大穴を開けた白銀の機体だった

 そしてその事実白銀の機体の左側に大穴が開いている事を認識した浅井は、何故自身の左側の感覚が無いのかも理解する事になる

 

 (これは、やられましたね)

 

 未だ全身に激痛が奔り、思考が纏まらない中でも浅井は、現時点で得ている情報から自身に起こった事を推測した


 (現在の状態になる前、一瞬だけ視界に入った閃光、恐らくあれが私たちをこの姿に変えた元凶でしょう)


 浅井の推測通り、最後の攻防で偽麗の神が放った技が、浅井共々白銀の機体の半身を抉り取った元凶であった

 その技の名称は『胎動する運命の槍』

 無詠唱かつ無動作で体内から撃ち出される最速の槍であり、偽麗の神が持つ最強の一手であった

 更に『胎動する運命の槍』には、当たった者に呪毒を付与する術式が練り込まれており、浅井も例外なくその呪毒に身体を蝕まれていた


 「――――――っ、ガハッ――――――ァァ――――――」


 しろがねと同化した事で獲得した再生能力と、白銀の鎧に搭載された再生魔法が浅井の命を繫ぎ止めていた

 だがそれでも初めての損傷半身の喪失と呪毒による激痛が、彼を血溜まりに首を垂れさせる

 

 (奴は狙っていたのでしょう、私が勝利に確信して隙を見せるのを。あの様子だと理性も何も有って無いようなものでしょうに…………………)


 浅井は歯を食いしばり保った意識で思考する

 そして自身の敗北の原因を考える浅井の目前に、偽麗の神が現れる

 もちろんその目的は追撃である


 「『二重付与術・風雷』『殺戮式・幻』」


 迫る風雷の刃、当たれば生存の目は無い

 その濃厚な死の気配に対して、浅井は血溜まりの中で震える右手に力を込め、操縦桿を握る


 「――――――ォ、オォォォォォォォォォォォォ!」

 

 そして浅井は叫びと共に、白偽の機体に対して最後の命令を下す

 半身を失いながら瞳に光を取り戻し、動き出した白銀の機体は、右手に握った大剣に機体維持のための残存魔力を流し込む

 そして青い雷撃を纏う大剣を、飛び込んで来た偽麗の神に向かって突き出す

 血飛沫が上り、雷撃が迸る


 「ゴ!? ――――――ギ、貴様ァ!!」


 大剣の刃は偽麗の神を貫き、その肉体を遥か後方に弾き飛ばす

 そして最後の力を振り絞って白銀の機体を動かした浅井は、白銀の機体維持に必要な魔力が無くなったことで空に放り出される

 先程の行動で力を使い果たした浅井は、空から地面に一直線に落下していく

 そこに―――――― 


 「ムネタカ!!」

 

 デオスが飛来し、力なき浅井の身体を受け止めた


 

     ――――――――――――――――――――――――――――



 地面にゆっくりと浅井の身体が降ろされる

 先の戦闘の影響で周囲には冷たい風が吹き、地面には薄っすらと霜が立っていた

 浅井はそんな冷え切った風を割れたヘルメットの隙間で感じながら、視線をデオスに送る

 その後、震える喉に力を入れて声を発した

 

 「デオスさん、後はお願いします」

 

 「ああ、任せろ。俺たちで決着をつける」

 

 その言葉を聞いた浅井は右手を伸ばす

 デオスはその手を強く握ると僅かに頷いてから、手を離して立ち上がった


 「行ってくる」


 そしてデオスは覚悟の籠った声と共に飛び上がり、空の彼方に消えていく

 浅井はその背を見送ると、近づいて来る医療部隊の足音を聞きながら意識を落とした



     ――――――――――――――――――――――――――――

 

  

  「グ、ガ――――――ガァ――――――!」


 崩れ落ちた山の上で、仰向けに倒れた偽麗の神、その胴体には巨大な傷が深々と入っていた

 傷から溢れ出る血液、その再生と共に起き上った偽麗の神

 その足元に巨大な魔法陣が広がり、続いて4つの影が飛来した

 偽麗の神はその影を睨みながら、血が垂れる口を開く


 「貴様らは――――――!?」


 あの日のと言葉を続けようとした偽麗の神であったが、その続きを発する事は出来なかった

 それはなぜか、簡単な話である、言葉よりも先に偽麗の神の口を塞ぐ一撃が放たれたからだった


 「死ね、白炎火葬・天道撃砲はくえんかそう・てんどうげきほう!!」


 「懺悔しなさい!!」


 「降打水ノ剣フルウチミズノツルギ!!」


 「【totyos[mish]mi】 【mishatyyatot=misk】【hatryosrfutottokfu,ton[misttoh]kokofu14nanayossmisy-hatyosi】」


 デオス、ズイズ、レイニール、アルバーニ、それぞれの持つ強力な魔法や技が、偽麗の神に向けて放たれる

 白い熱戦が地面共々偽麗の神を消し飛ばし、大地から生えた巨大な樹木が偽麗の神を貫き、水の斬撃が偽麗の神を切断し、骨の鯨が偽麗の神を踏み潰した

 そして様変わりする環境と巻き上がる巨大な黒煙、その二つが混ざり合った光景は、僅か4人で造りだしたとは思えないものであった


 だがそれだけの光景を造った魔法や技を喰らっても、それは生存していた

 広がった黒煙を切り裂いて、偽麗の神は飛び上がった

 そして上空で魔法を放つ


 「『雷鳴砲』『氷狼の魔弾』『雷神槍』」


 先の戦闘で偽麗の神は体力や魔力を大きく消耗した為、白銀の機体と戦闘時程の威力は出せないが、それでも凄まじい威力を誇るの魔法がデオス達目掛けて降り注ぐ 

 隙間など有って無いような暴虐と殺意の雨に対し、デオス達は突撃を敢行した

 そして偽麗の神へと一直線に上昇したデオス達は、遂に魔法の雨と対峙する


 「灼熱死流!!」

 

 先陣を切ったのはデオスだった

 魔法との接触寸前でデオスは、炎を空に広げる

 大海のような炎、そこに降り注いだ魔法が衝突していき、巨大な爆炎を造りだす

 そして噴き上がった爆炎の中から単身飛び出したデオスは、偽麗の神に向けて魔法を放つ


 「焔ノ大蛇ほむらのおろち!!」


 空に飛び出した巨大な八首の蛇が、偽麗の神に向かって顎を開く

 そして偽麗の神を喰い殺そうとした

 だが偽麗の神は僅かに翼をはためかせて、焔ノ大蛇を掻き消した

 舞い散る火の粉、その陰から拳を引き絞って現れるズイズ

 死角を付いた接近に偽麗の神は反応できず、その身に拳を当てられる


 「老蝉流奥儀ろうせんりゅうおうぎ 『鳴子鳴掌なるこめいしょう』!!」

 

 独特な構えから拳が飛び、偽麗の神の胴体が抉れる

 偽麗の神の身に撃ち込まれた拳の数は、僅かに八手

 だがそれだけの数で、偽麗の神は絶叫を上げ、拳の衝撃で逆流した血液が大きく開いた口から噴き零れた


 「――――――――――――!!」


 凄まじい衝撃に顔を歪ませる偽麗の神であったが、即座に反撃に転じようと体内に魔力を集め出す

 だが体内の魔力は集まった途端に拡散し、偽麗の神は魔法陣を形成に移行できなかった


 「魔力が練れぬ――――――」


 困惑する偽麗の神

 その僅かに出来た隙を見逃さず、再度ズイズが飛び込み拳を放としたが、魔法が使えないならばと振り回した触手に刺し貫かれる


 「老蝉流 『響――――――ゴハッ!」


 砕ける肋骨、吹き零れる臓物

 偽麗の神は、怒りと共に串刺しにしたズイズを喰い殺そうと顎を開く

 そこに振り下ろされた骨の大剣

 偽麗の神は、突然頭上から迫った骨の大剣によって、一直線に地面へと叩きつけられる


 「ズギャッ――――――ギャガ!?」


 偽麗の神が、地面に叩きつけられた衝撃で砂埃が舞う

 更に砂埃を搔き消すように、撃ち込まれた無数の水の斬撃、その威力で地面に無数の切断跡が出来上がる

 続けて山より大きい骸、かつてコルネスでアルバーニが召喚した破壊骸巨兵が姿を現し、無数の武器を切断跡の上から叩きつけた

 衝撃が奔り、崩壊する大地

 そして更に舞い上がった砂塵、その内部で甲高い音が響く

 同時に、且つ複数の音を重ねた異音、続いて砂塵から飛び出して地面に突き刺さったのは、破壊骸巨兵の持つ武器の破片であった

 砂塵が割れる、そして姿を現したのは笑みを浮かべた偽麗の神であり、深い傷は肉体に刻まれているが未だ戦意を滾らせる偽麗の神は、飛び上がって破壊骸巨兵の胴体をかち上げる

 上空に吹き飛ばされる破壊骸巨兵、骨の破片をばら撒いて舞うその身体は半壊していた


 「あいつ! まだ動けるの!!」


 「白銀の機械との戦闘で消耗していて、これか!」


 「アレを一撃で半壊させるとはのぉ」


 舞い飛ぶ破壊骸巨兵の姿を目撃し、驚愕するズイズ、レイニール、アルバーニの三名

 その三名に向けて視線が飛ぶ


 「復讐か、復讐か、復讐か、カハハハハハ!! 面白い、ならば殺して見せよ供物ども!! 否、否、否、アァァァァァァァ! 何故分からないのです、殺人を行っては駄目だと。ああ、何と愚かな………!! ああ、ああ、仕方ありません、貴様らのような塵には、神自ら裁きを与えましょうぞ!!」


 続けて支離滅裂な言葉共に偽麗の神の肉体が、変形を始めた

 翼は尖り、体は僅かに小さく、そして無数の腕には刃が生える、そして肉体変化が完了すると同時に飛び出す偽麗の神

 その速度は、ズイズたちですら認識するので手一杯だった

 ズイズの一撃で魔力を一時的に練れなくされた上に、魔力の残量も僅か

 だからこそ肉弾戦主体に切り替えた偽麗の神、その無数の剛腕が今ズイズたちに迫り――――――


 「畳みかけろ!! 白炎火葬・日輪絶拳はくえんかそう・にちりんぜっけん!!」


 上空から飛来したデオスの拳で叩き落とされた

 だがデオスも拳を叩き込んだ返しで、胴体に穴を開けられ、両腕を切断される

 そして地上に叩きつけられた偽麗の神は、炎に包まれながらも起き上がり、上空のデオスへ触手を飛ばそうとした

 そこへズイズとレイニールが現れる


 「老蝉流 地壊拳じかいけん!!」


 「降打水ノ剣フルウチミズノツルギ!!」

 

 両側から撃ち込まれる拳と水の刃

 迫る脅威に偽麗の神は、無数の腕を拡げると、構えを取る

 そして取り込んだ格闘家たちの奥儀を放った


 「『鹿王流奥儀 二角打ち』『暴音流奥儀 頭蓋降刺』『メレウス流奥儀 サンガ・ハクセン』『鎧氏奥儀 硬化殺』」


 「オォォォォォォォ!!」


 「ハァァァァァァァ!!」


 接近する両者

 交差する拳と拳、拳と水の刃、それが今、衝突した

 

 「オォォォォォォ!! グゥ――――――!」


 ズイズの連撃が偽麗の神を穿ち、偽麗の神の拳がズイズの頭蓋と内臓を粉砕する


 「ハァァァァァァァ! ――――――ガハッ!!」


 レイニールの刃が偽麗の神の顔面や四肢を切断し、偽麗の神の拳がレイニールの脚を潰し、首を捻じ切った


 「否、否、否、否、否、オオオオオオオオ!!」


 互いの骨、臓物、血液が周囲に飛び散る

 命を削るぶつかり合い、互いに数回の致命傷は喰らっていた

 だがズイズとレイニールは異界降臨・黄泉樹海の再生魔法、偽麗の神は身に宿した再生力で戦いを継続する

 拳、拳、拳、刃、刃、刃、拳、拳、拳

 合計数千発の拳と刃が戦場を駆け抜ける

 その隙間を縫ってデオスとアルバーニが現れた

 デオスは上空から、アルバーニは地上から同時に技を放つ


 「白炎火葬・日輪絶拳・四連はくえんかそう・にちりんぜっけん・よんれん!!」


 「【totyos[mish]mi】 【totohyos[misn]mi=hatmi】 【hatryosrfutottokfu,hatryosrkokofu1nanayossmisy-hatyosi】」


 白炎の拳と骨の棘は、空と地から迫りズイズとレイニールごと偽麗の神を燃やし、刺し貫いた

 

 「貴様共………!」


 炎に焼かれ骨に串刺しにされた偽麗の神は、デオスとアルバーニの仲間ごと攻撃するという強行に驚愕し、目を見開く

 そして燃え滾る炎の中、苦悶の表情を浮かべた偽麗の神の前に現れたのは、全身が黒く焼け爛れた姿をしたズイズとレイニール、そして鬼の形相を浮かべたデオスとアルバーニだった

 

 「白炎火葬・日輪絶拳!!」


 「老蝉流 逆音!!」


 「降打水ノ剣!!」


 「「【totyos[mish]mi】 【mishatyyatot=misk】【hatryosrfutottokfu,ton[misttoh]kokofu1nanayossmisy-hatyosi】


 彼らは生々しい傷跡を付けながら、偽麗の神に向けて技を放ち、その全てが偽麗の神の胴体へ叩きこまれた

 

 「ゴッ!! ガ――――――!


 苦悶の声が上がる

 肋骨を砕かれ、内臓をごちゃ混ぜにされた偽麗の神は、燃え盛る炎から血飛沫と共に弾き出され、地面を転がる

 そして数十㎞転がった偽麗の神を待っていたのは、破壊骸巨兵だった

 破壊骸巨兵は、地面を削るように飛来した偽麗の神目掛けて武器を振るい、ゴルフのように偽麗の神を打ち上げた


 「ブッ!! ゴファ!!」


 山なりに飛ぶ偽麗の神の身体、その行き先に待ち構えるデオスとアルバーニ

 2人は炎と骨の刃を構えて待ち構える

 そして偽麗の神の接近と共に、刃を振り抜いた

 一閃、刃が走り、続いてデオスとアルバーニの顔面が横一文字に切断される


 「「!?」」 


 飛び散る血潮と破片

 偽麗の神はデオスとアルバーニの刃が接触する瞬間に、肉体を変化させて炎と骨の刃を透かした上に、返す腕の刃でデオスとアルバーニの顔面を切断した

 そして驚愕の表情のまま斬り飛ばされた二つの顔が、宙を舞う

 

 「キャハハハハハ!!」


 偽麗の神はその光景を見て気色の悪い笑みを浮かべながら、追撃を仕掛ける

 撃ち出された触手、その触手は一直線にデオスとアルバーニの背中へと迫った

 だがその触手が二人の背中に当たる直前に、デオスとアルバーニは未だ顔の上部を失っているにも関わらず振り返った

 そして振り返ったデオスとアルバーニから撃ち出された炎の波と骨の棘が、触手を消し飛ばしながら偽麗の神へと向かう

 その二撃を掠りながらも避けた偽麗の神であったが、突如そこに地面から生えた巨大な樹木が襲いかかった

 大樹は偽麗の神の足元に広がり、鋭い枝々を拡散させる

 偽麗の神は、その突き出た枝々の隙間を縫うように進み回避していく

 だが大樹から突き出た枝々の範囲と速度は凄まじく、偽麗の神は回避の途中で足を串刺しにされて捕縛される

 そしてそこに飛び込んで来たレイニールが短剣を振るい、水の斬撃が走る

 偽麗の神は、その水の斬撃を翼で弾くが、その瞬間に飛来したデオスの拳を後頭部に受けて弾け飛ぶ

 更に大樹を削りながら落下する偽麗の神へと、ズイズとレイニールとアルバーニの攻撃が撃ち込まれた


 「グゥ!!」

 

 苦悶の声が上がる

 魔法や斬撃に胴を貫かれた偽麗の神は、一気に加速して地面に叩きつけられる

 その衝撃は凄まじく、周囲に轟くほどの激突音と共に地面には巨大なクレーターが出来上がり、砂埃が舞った

 

 「否、否、否、否、否、否、否、否、否、否、否、否、否、否、否、否、否、否、否、否、否、否、否、否、否、否、否、否、否、否、否、否、!!」


 巨大なクレーターの中心で、全身があらぬ方向に曲がっている上に血を流し続ける偽麗の神は、怒りと怨嗟の声を上げた

 そこに追撃を仕掛けるデオス達4人


 「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!」


 「「「「!?」」」」


 だがデオス達から攻撃が放たれた瞬間、偽麗の神から悲鳴のような声が上がった

 そして膨れ上がった偽麗の神からデオス達に向かって、異常な数の触手が放たれる

 爆発のように噴き上がった触手の攻撃は、魔法や技と共に4人を切断し、特に先陣を切っていたアルバーニの事を木っ端微塵にしながら吹き飛ばした

 

 血飛沫と共に地面に叩きつけられるデオス、ズイズ、レイニールの三人

 彼らには背後に吹き飛ばされて見えなくなったアルバーニの事を、心配している余裕など無かった

 三人の目前には、魔力も体力も使い切ったにも拘らず最後の進化を果たした偽麗の神怪物が居るのだから

 

 デオスは目前の偽麗の神を睨みながら、背後の二人に声をかける


 「全員、まだいけるな………?」


 「問題ありません」


 「ええ、幾らでも………………と、そう言いたいところだけど、もう私の魔力は切れかかっているわよ」


 デオス達の再生、その全てを司っている異界降臨・黄泉樹海はズイズの魔力で動いている為、その魔力の残量が殆ど無いという事は、もう彼らが回復できる回数は限られていた

 ズイズの発言を聞いたデオスは、一瞬だけ視線を落とす

 その後、正面を向き直したデオスは背後の二人に問いかけた


 「ズイズ、レイニール、覚悟は出来てるな」


 デオスの言う覚悟とは、命の捨てる覚悟の意味であり、その問いに対してズイズとレイニールの二人は笑みを浮かべながら返答する


 「そのようなもの、当の昔に」


 「ええ、出来てるわ」


 デオスは二人の発言を聞くと、一度だけ頷く

 そしてデオス達三人は、偽麗の神と向き合った

 

 日が沈み、星が輝く夜空の下で睨み合う両者は、構えを取る

 お互いにここから始まる攻防で、この戦闘が決着する事を認識した

 張り詰める空気、衝突する殺気

 三人と一体は、一歩前に足を踏み出す

 そして最後の攻防、その火蓋を切ったのは偽麗の神だった

 偽麗の神は脚に力を込めると、一気に地面を蹴り衝撃波と共に跳び出した

 その速度は今までで最速

 鋭い刃が付いた腕を構えて今、偽麗の神が先頭に立つデオスに接近した瞬間だった


 「結界術・断罪の刃!!」


 少女の声が戦場に響き、そしてその少女の詠唱と共に地面から突き出た刃が、偽麗の神の胴体に突き刺さる


 「!?」


 自身の肉体に突き刺さった刃、その見覚えのある刃に偽麗の神は驚愕する 

 そしてデオス達も、懐かしきその声と刃に驚き振り返った

 睨みつける偽麗の神、そして振り返ったデオス達3人の視線の先に居たのは、かつてこの地で命の落としはずの少女である、朝倉雛美だった




                         第25話 『朝倉雛美』  

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