偽麗の神編
第24話 必殺の一撃
ゼノカ・マルケレス王国、首都マゼレカ跡地から西に約15㎞
王都跡地を見下ろすように広がった山々の内の1つ、その頂上に巨大な陣地を形成する集団があった
その集団は皆、黒に赤い指し色が入った鎧を身に着けており、更に鎧に付けられた紋章からゼノカ・マルケレス王国所属の兵士であることが見て取れた
忙しそうに往来する王国兵たち、そんな彼らの内の1人、副団長と呼ばれていた男が伝令兵から報告を耳打ちされる
その後、報告を聞いた副団長は、王国跡地を腕を組んで見下ろしていた老兵に声をかけた
「団長、上空で待機しているメドレミ連邦軍から、宇宙船が一機こちらへ接近してるとの報告が。どうなさいますか?」
副団長が持ってきた報告は、今回の作戦に協力の姿勢を見せ、かつ戦力として軍隊を派遣した国家の内の一つであるメドレミ連邦からであり、内容は不審な宇宙船が一機、メーディルス星へと接近しているというものだった
その報告に対して団長呼ばれた老兵は一度目を瞑り、考える様子を見せた後、今度は目を開けてから副団長へ返答した
「………通すように伝えろ。それは
吾の客人とだけ、他に何の情報も無い返答であったが、副団長は内容を深堀する素振りも見せず指示に従った
「了解しました、すぐに」
そして副団長が背後から立ち去ったのを気配で感じ取った騎士団長の老兵は、自身の首に巻かれたマフラーを触り、そして過去を懐かしみながら呟く
「ようやっと来たか、
――――――――――――――――――――――――――――
騎士団長の下に報告が届いてから数分後、本陣内に控えていた通信兵が叫ぶ
「次元断裂を確認、来ます!!」
その言葉と、ほぼ同時であった
まるでガラスが割れたように景色に罅が入る
そして数秒後、耳を劈く音と共に、景色が砕け落ちて異界が姿を現す
闇、闇、闇、闇、闇
深い闇が広がる異界、そこからゆっくりと無数の触手が這い出る
続いて空間を触手で押し広げ、拡大した闇から顔を見せたのは、かつてこのゼノカ・マルケレス王国の首都マゼレカに飛来した美しき怪物であった
巨大な角、無数の触手、そして身体を包む美しい翼、まるで神話に出てくるような容姿をした怪物、いや、無数の生物を取り込み偽りの美を得た神は今、地上に降りった
偽麗の神は、地上に降り立ってすぐに触手を伸ばし、近くの森に姿を隠した魔獣や動物を喰らった
だが喰らった生物たちがお気に召さなかったのか、偽麗の神は不機嫌そうな声を発する
「酷く不味い前菜だ。………久方ぶりの食事が此れでは。いや、あそこに良い口直しが居るではないか」
そして不快感の後に怒りを浮かべる偽麗の神であったが、すぐに遠く離れた山の頂上に美味な気配を感じて、視線と共に醜い笑みを浮かべた
続けて偽麗の神の裂けた口から、老若男女混じった気味の悪い笑い声が溢れる
「キャヒャハハハハハ!! グギャガキャハハハハハ!! アハハハハハハハ!!」
「――――――!!」
その笑い声に殺意の籠った視線を向けた騎士団長と、偽麗の神の視線が衝突する
一触即発
遂に偽麗の神と周辺国家大連合がぶつかろうとしていた
だが、その直前
――――――空から落ちてきた4つの流星が、地上に舞い降りた
閃光に包まれ飛来した流星、巻き上がる土煙
その向こう側に立つ者たちの正体、それは白銀鎧、白炎、樹海の魔女、骸の王であった
そして山の頂上に建つ本陣に居た騎士団長も、その姿を目撃すると、マフラーを背後の兵士に手渡す
「ベルゼ、マフラーを」
「はっ!!」
「では、行ってくる」
「お気を付けて」
部下からの見送りを背後に、短剣と円盾を手にした騎士団長は地を蹴った
その後、騎士団長は15㎞の距離を一飛びで移動し、先に偽麗の神と対峙した者たちの真横に着地した
そして今、 世界屈指の実力を持つ5人が、偽麗の神と対峙する
――――――――――――――――――――――――――――
偽麗の神を前に、真横に飛来した鎧の老兵とデオス達は会話を始めた
「お久しぶりです、デオス殿。ズイズ殿は3年前の会議以来ですかね」
「ああ、久しいなレイニール」
「ええ」
その老兵、その正体は、かつてデオス達と共に旅をしたレイニール・ルルファであった
昔とは違い白い髭と深い皴が刻み込まれたレイニールは、瞳だけを横に動かして、浅井とアルバーニに視線を送った
「そちらの二人は、新たなお仲間ですかな?」
「そうだ。両方とも俺達よりも強いから安心して良いぞ」
「了解しました」
そして会話が一通り終わった時だった、今まで観察の為か動きを止めていた偽麗の神が動き出す
「『高位召喚術・
偽麗の神は、翼の下から数万体の怪物を産み落とし、続けて触手を浅井たち目掛けて放つ
その一連の動作が戦闘の合図になった
今も増え続ける怪物、そして地面を抉りながら進む触手たちに対して、行動を起こしたのは浅井一人だけだった
そして唯一、前に走った浅井、その一手目は
――――――ラ・セルガ・メディサ、最強兵器の起動だった
「では、先陣は私が。ラ・セルガ・メディサ起動!!」
「御意」
浅井の命令と共に、伸びた青い線で空中に描かれる設計図
続いて白銀の鎧から噴き出した大量の魔力が、設計図通りに部品を具現化し、ラ・セルガ・メディサをこの世界に呼び覚ます
「オォォォォォォォォォォォォ!!」
叫ぶ浅井、叫ぶラ・セルガ・メディサ
その咆哮を力に突き進んだ白銀の機体が、偽麗の神目掛けて大剣の刃を突き出した
初撃必殺、走った大剣の刃が触手を消し飛ばし、偽麗の神へ深々と突き刺さる
そしてその時発生した衝撃によって偽麗の神の巨大な肉体は、大きく後方へ吹き飛ばされた
「!?!?!? ――――――ゴォッ、ボギャ――――――!?!?」
苦悶の声が上がり、血肉が、臓物が飛び散る
一直線に血の川を作り、何度も地面へ叩きつけられながら吹き飛んだ偽麗の神は、一瞬にして500㎞以上先の山中に衝突する
「ゴ、フォ――――――ガァ!」
血塗れの偽麗の神を追って飛び上がる白銀の機体
対して偽麗の神は追撃が迫る中、噴き上がる血液を抑えながら立ち上がり、その太陽に照らされ眩く光る美しい翼を大きく広げる
巻き起こった竜巻、たったそれだけの動作で偽麗の神は環境に変化を与える
そして開き切った翼の内側からは、一種類だけではなく多種多様な生物が混ざり合った気味の悪い腕が無数に顔を見せる
偽麗の神はその腕を地面に伸ばして支えにすると、前傾姿勢になる
続けて迫る白銀の機体に狙いを絞り、口を大きく裂いた
滴る血液、裂けた頬から覗く無数の牙、殺意迸る口内に今、大量の魔力が注ぎ込まれる
そして口内に次々と巨大な魔法陣が咲き誇った
―――『奥儀・噴煙荒神』『雷鳴砲』『氷狼の魔弾』『蛇毒の霧』『土竜山流』『滅亡七流星』『白鯨濁流』『究極光術・断罪の聖剣』『荒々しき風神が如く』『ボルケーノエルク』『冥王黒点』―――
その数、11門
発動するは、かつてこの世界で猛威を振いながらも、偽麗の神に喰われた哀れな強者たちの最強魔法
それが今、撃ち放たれた
点滅する世界、砕け飛ぶ大地、震動する空気、混ざり合った11の魔法が、白銀の機体目掛けて疾走する
殺意で出来た魔法、その接近に浅井たちは構えを取った
「ムネタカ様、準備を」
「ええ、シールド展開」
合計4つの分厚い蒼い壁が重なり合い、加速する白銀の機体前面に展開される
そして白銀の機体は、4重のシールドの後ろで二対の大剣を構えた
「このまま押し通ります!」
全てを滅ぼさんと進む合成魔法の顎へ、分厚い壁と二対の大剣を手に飛び込む白銀の機体
両者は向き合ったまま一直線に疾走し、そして衝突する
鳴り響く撃音、衝突の余波が周囲の山々を砕き塵に変える
「オォォォォォォ!」
融解し削れ落ちていく蒼壁、しかし白銀の機体は前進を止めない
背面のブースターに魔力を送り込み、火力を底上げする
加速、加速、加速、加速、加速
機体は加速を続け、特級の火力をものともせず押し込んで行く
そして白銀の機体と合成魔法の衝突から数秒後、遂にこの激突の決着が付く
蒼壁の破壊と共に二対の大剣が振り下ろされ、11種の合成魔法が真っ二つに切断される
続いて地面に叩きつけられた二対の大剣から衝撃波が走り、魔法の先に居た偽麗の神に傷を付けた
だが流れた血のわり、その傷は浅い
偽麗の神は怒りと共に反撃に転ずる
「歪、歪、歪なり、またもや異界の民か!! ああ、ああ、悲鳴が上がる、闇が落ちる、であれば全てを塞げ『黒牢大弓』」
呪文の詠唱が後、巨大な闇が弓を形どる
番えられた矢が引き絞られ、放たれる
衝撃波と共に拡散する鏃、行き先は白銀の機体、その胴体を貫かんと進むも、自立飛行砲から発射されたビームで片っ端から撃ち落とされる
だが白銀の機体が矢の対処に意識を裂いた隙を狙い、飛び出した偽麗の神は、その腕を槍のように変形させる
そして大地に巨大なクレーターを作り出す程の踏み込みと共に、槍に変形させた無数の腕を突き出した
剣山のように伸びだ槍先は、白銀の機体の表面に張られたシールドを抉り、表面に傷を生み出す事には成功するが、分厚い装甲を突破することは叶わなかった
そして隙を見せる偽麗の神へ、白銀の機体から反撃が放たれる
勢い良く振り下ろされる大剣、切断され血潮と共に吹き飛んだ偽麗の神の腕たち
続いて白銀の機体は、先程とは別の腕に握った大剣を偽麗の神に向けて突き出したが、偽麗の神は地面に伏せて回避する
頭上を素通りする大剣の剣先、その真下から魔法が放たれる
「『断罪の聖剣』」
地面を割って突き出た光の剣
その高速の刃に対し、浅井がとった行動は、機体の持つ大剣の側面で防御する事だった
「ッ――――――!!」
光と剣と大剣の衝突により発生した衝撃が機体全体に奔り、白銀の機体は後方へ弾き飛ばされる
続いてよろめく白銀の機体に、襲い掛かったのは巨大な重圧であった
機体を地面に縫い付けるような重圧、その正体は偽麗の神が広げた翼に開いた無数の魔眼による干渉であり、多種多様な能力が白銀の機体を蝕む
コックピット内に鳴り響く警告音、魔眼からの干渉を最低限に抑える為に擦り減り続ける残存魔力
「これは………、ッ!!」
そして飛び上がった偽麗の神からの追撃が、白銀の機体に向けられる
「『肉体改造・四章殺人衝動』『精霊よ―――――、我が肉体に荒々しき猛獣を』『四重付与術・風林火山』」
付与術により強化され、膨れ上がり歪な刃物に変化する偽麗の神の前腕
その前腕が変化した巨大な刃が、凄まじい衝撃波と共に撃ち出された
「しろがねさん、武装を大剣形態からライフル形態へ移行してください」
浅井は凶器が迫る中でも、冷静に指示を送る
そして巨大な刃が目前に迫ると、頭上で浮遊させていた自立飛行砲4機を機体の前に配置した
「形態移行完了、いつでも撃てます」
しろがねの言葉と同時に迫った刃が、自立飛行砲を串刺しにする
だが偽麗の神の予定通りに刃が機体へ刺さる事は無く、機体直前で止まる
「――――――!!」
そして腕を自立飛行砲で止められた偽麗の神に向けて、白銀の機体が構えていたライフルの銃口が向けられる
「発射!!」
引き金が引かれ、銃口から閃光が溢れ出した
「ガァァァァァァァ――――――!」
叫ぶ偽麗の神
その胴体を閃光が駆け抜ける
衝撃で地面に叩きつけられる偽麗の神、その胴体には巨大な穴が開き、余波で片翼が消し飛んでいた
だがその傷は浅井の想定するものではなかった
「あの状況で回避しますか!」
偽麗の神はライフルからビームが撃ち出される瞬間に、肉体の形状を僅かに変えてダメージを最小限に抑えていた
咄嗟の判断、神業と呼べる動きだった
そして損害を与えられたものの、未だ健在である偽麗の神は、地面に叩きつけられると同時に触手を伸ばす
顎の付いた無数の触手、その襲撃に白銀の機体はライフル形態を解除し、両手に大剣を握る
続いて迫った触手をコマ切りしていくも、触手の壊滅の直後に偽麗の神が白銀の機体へ向けて魔法を放つ
拡散する雷撃、荒れ狂う暴風、その二撃を白銀の機体は大剣で斬り払う
そして消し飛んだ魔法が地面に当たり巻き上がった砂塵、その砂塵を裂いて偽麗の神が白銀の機体の正面に現れる
「『装甲・穿山甲』『武具召喚術・山断』『武具召喚術・赤鬼刀』『武具召喚術・ゲルデ・バルドネス』『武具召喚術・レーヴォルディ』『武具召喚術・海王三又槍』『武具召喚術・墨豹』『武具召喚術・金剛銃』『武具召喚術・メロセネ』『武具召喚術・呪縛ノ鉾』『武具召喚術・ナラク』『武具召喚術・ドロイカ・メネタコ』『武具召喚術・サーゼネフェス』『武具召喚術・緑天大鎌』『武具召喚術・三十八式戦斧』『武具召喚術・霞』『武具召喚術・スターアックス』『武具召喚術・機械式大弓・鳳凰』『武具召喚術・オーヴァルキ』『武具召喚術・蛟の腸』『武具召喚術・メカラ・モスカ・ダレカ・イルカ・ヴァネク』『武具召喚術・彼岸錘』『武具召喚術・メトロガレン式機関銃』『武具召喚術・蒸気式雷爪』『武具召喚術・完全滅殺兵装・静寂』『武具召喚術・ベルガレン』『武具召喚術・異界審問』『武具召喚術・王座簒奪剣』『武具召喚術・ハルドアキドナツドフユド』『武具召喚術・ゴルデラス・グルネテス』『武具召喚術・アレイン・レイゼン・ジャレーネ』『武具召喚術・シャネロロカ』『武具召喚術・瞑想白漸』『武具召喚術・絶海』『武具召喚術・天命の毒鉈』『武具召喚術・簒奪一死』『武具召喚術・精霊剣オルネス』『武具召喚術・八鋸』『武具召喚術・蚕蚕蚕』『武具召喚術・億足百足』『武具召喚術・精霊剣パルゼネネカ』『武具召喚術・ザエルゼネル』『武具召喚術・エーレル』『武具召喚術・轟』『武具召喚術・蟷螂』『武具召喚術・セトトロッサ』『武具召喚術・イツカノゲンエイ』『武具召喚術・爆殺大筒・枝垂』『形状変化魔法・武具指定・巨大化』」
醜い笑みを浮かべ現れた偽麗の神、その手には多種多様の武器が握られていた
全てが逸品、全てが殺戮兵器
この日、偽麗の神によって、かつてこの世界に名を馳せた者たちの技が凶器が蘇り、白銀の機体へと向けられる
「――――――!」
目を見開き深い息を吐く浅井、その視線の先には数え切れない予測線が書き込まれていた
さぁ、殺戮の嵐が迫る
右、左、右、右下、頭上、左下………………、無数の刃、鈍器、弾丸が機体に向けて撃ち込まれる
猛攻、猛攻、猛攻
途切れることない殺戮の嵐、その中に放り込まれた浅井は、書き込まれていく予測線を最大限に利用して偽麗の神の武器たちを弾き続ける
猛攻、猛攻、猛攻、猛攻、僅か3秒間で両者の手数は38万回を優に超えた
そして未だ続く2体の怪物、その衝突で周囲の山々が消し飛び、大地には斬撃によって渓谷が出来上がり、空に浮かぶ雲は裂かれて消し飛んだ
猛攻、猛攻、猛攻、猛攻、猛攻
誰も介入することのできない斬り合い、その開始から28秒が経過するも、お互いに無傷であり、未だ終わる気配は見えない
「しろがねさんは、機体各部砲、自立飛行砲での援護を」
「了解しました」
「『雷神槍』『臓物大蛇』命が沈み、死が浮上する、であれば誕生に喝采を『黒牢命響』『流動山脈』『奥儀・噴煙荒神』」
更にこの衝突は武器同士の斬り合いで終わらず、レーザービームや魔法や超能力までもが介在し始めた
戦場が荒れる、大地には溶岩が流れ、吹雪が起こり、空からは無数の雷が落ち、数百本のレーザービームが地表を消し飛ばし、念動力で持ち上がった山々が飛び交う
地獄を超える最悪の環境の上で、続く白銀の機体と偽麗の神の殺し合い
「オォォォォォォォォォォォォ!!」
砕ける数々の武器、振り回される二対の大剣の刃が偽麗の神に突き刺さり、その肉体から臓腑を撒き散らせる
「否、否、否、『滅亡七流星』『竜王の顎』『神罰』『狂王の一撃』『三十二刀流奥儀・煙霧』アァァァァァァァ! 醜い、醜い、醜い!! 楽、楽、楽、貴様は美しく可憐である、否、否、否、醜悪で歪で吐き気を催す、否、否、否ァァァァァァァハハハハハハハハハハ!!」
偽麗の神は、感情を制御できていないのか、時には怒り、時には悲しみ、時には笑いを溢しながら暴れていた
溢れ出る狂気と凶器が拡散し、美しい白銀の装甲に深々と無数の傷を付けていく
そしてお互い一歩も引かない戦闘は、佳境に突入する
「損傷率56%、魔力量は残り31%です」
(………………魔力量が心許ないですね)
浅井はしろがねの報告を受け、戦術を組み立ていく
対して偽麗の神は、その身を削りながら白銀の機体に肉薄していた
「さぁ、さぁ、さぁ、楽しもう異界の者よハハハハハハハハハ? 下劣で汚らしい異界人めが!! 殺、殺、殺、殺してやるぅぅぅぅぅぅぅぅぅうう、な、なんてことを言うんだ、駄目だァァァァァァキャキャキャキャキャキャキャキャ!!」
もはや理性の欠片すら見せない偽麗の神、だが未だ変わらずその技術も魔法も研ぎ澄まされていた
そして荒れ狂う暴虐の嵐を前に、浅井はその言葉が届かない事は承知で「異常ですね、貴方は」と言葉を飛ばす
「き、貴様は何がしたいのだ、わた、儂、俺、わたくし、シシシシシ静かにしてください。否、否、否、下賤な人の子よ、どうか安らかに眠りなさい『殺戮式・現』」
「!?」
攻防の中、偽麗の神の放った一撃が、白銀の機体の脚部を抉り取った
傾く白銀の機体、そこに続けて偽麗の神の連撃が走る
「『殺戮式・幻』『三十二刀流奥儀・煙霧』『空蝉の演武』『雷撃強襲』『オルルカ流剣技・ヴェルル・マルジェルカ』『龍牙4連撃』『雷神槍』『氷狼の魔弾』」
四方八方から迫った殺意、まともに喰らえば死は確実の技の数々
その暴虐の嵐に対し、浅井がとった行動は突撃であった
「ムネタカ様!!」
「ええ、分かっています! シールド展開、全ブースター点火!!」
ブースターによって一気に加速した白銀の機体は、シールド共に偽麗の神の放った技の間を突き抜けていく
砕けるシールド、抉れ内部を露出させる白銀の装甲、千切れ飛ぶ部品たち
白銀の機体は多くの犠牲を払い、暴虐の嵐を突き進み、そして遂に偽麗の神の懐に潜り込んだ
「!? 貴様は――――――!」
目を見開く偽麗の神、その胴体に向けてレーザービームが放たれる
「ライフル形態移行完了、吹き飛びなさい!!」
「ガァァァァァァァ――――――!!」
閃光が走り、偽麗の神の胴体が切断される
そして血を吹き上げながら吹き飛んだ偽麗の神は、地面に叩きつけられて苦悶の声を上げようとした
だがその声が上がるよりも前に、自立飛行砲から放たれたレーザービームが上空から降り注ぐ
声も出せぬまま大地と共に炎上する偽麗の神、肉体の半身を失い、現在も傷を負い続けて死に近づいて行く
しかし未だその瞳には強い殺意が燃えがっており、その事を証明するように身体から血肉を噴き上げ再生を始める
浅井はその行動を阻び、そして命を絶つために突撃を仕掛ける
「ハァァァァァァァ!!」
空を一直線に駆ける白銀の機体、対して空から降り注ぐレーザービームを弾き、立ち上がろうとする偽麗の神は、迫る白銀の機体に向けて魔法を撃ち放つ
「『流動山脈』『雷鳴砲』『冥王黒点』『断罪の聖剣』『爆龍鎧閃』」
威力は十分、直撃すれば白銀の機体といえど損傷は免れない
直撃すればだが
浅井は近づく合成魔法を片方の大剣を犠牲にして逸らすと、残った大剣を振りかぶった
「――――――オォォォォォォ!!」
そして叫びと共に大剣を、偽麗の神目掛けて振り下ろした
「ガァァァァァァァ!?!?」
血と臓物が噴き上がり、切断された偽麗の神の肉体や翼が地面に落ちる
続けて浅井は大剣を構え直し、魔力によって高められた刃をもう一度振り下ろそうとした
「これで―――――――――――――――」
だがその刃が振り下ろされる事は無かった
閃光が奔る
「は――――――――――――――――――――――――――――――?」
それは無詠唱であり
それは無動作であり
そしてそれはしろがねの持つ予測機構ですら、予測できない一撃だった
「――――――――――――――――――――――」
白銀の機体が崩れ落ちる
続いてコックピット内に膝を付いた浅井は、異常な寒さと違和感を感じた
(一体、何が………?)
五感が歪み、思考が定まらない浅井
だがその違和感を調べる為に彼は、酷く震える右手を左半身に持っていく
右手が空を切る
(これ、は………………?)
そして浅井は気が付く、
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