第22話 乱入者

 デオスとズイズの過去話が終わり重たい空気が流れる中、浅井が口を開いた


 「それが、デオスさんたちの過去、なんですね」


 「ああ」


 「そして、その話の中に出てきた怪物が、復活しようとしてると」


 「そうだ。俺達は彼女の死を無駄にしない為に、ずっと力を蓄えてきた。だが足りなかった、そこに現れたのがムネタカ、お前だ」


 「私ですか?」


 「今のムネタカの力があれば、奴に手が届くかもしれない。だから、どうか俺達に手を貸してくれないか?」


 デオスとズイズですら一蹴された怪物相手の討伐という、死刑宣告にも近い提案に、浅井は優しく微笑みながら返答する


 「ええ、私の叔母の礼も返さないといけませんから、構いませんよ」


 「ありがとう、ムネタカ」


 浅井の了承により、此処に討伐部隊が結成された

 そしてお互いに思いを共有した彼らは、その怪物が眠る因縁の地へと後は向かうだけのはずだった

 

 「のう、それ儂も混ぜてくれんか?」


 しろがねも含めて4人しかいない筈の船内客室に、老人の声が響いた


 「「「!?」」」


 見知らぬ声に驚き立ち上がったデオス達の視線の先に居たのは、ぬいぐるみのような大きさの骸だった

 デオスと浅井としろがねの三人は、その小柄な骸の正体に即座に気付き、名前を叫んだ

 

 「どういうことだ、なぜお前がここに居る! !!」


 アルバーニ・コープス、それは今から2日前に、デオス達が消滅させた者の名だった



     ―――――――――――――――――――――――――――― 



 「なぜも何も理由は一つしかないだろう、復活したんじゃよ」


 「そんな馬鹿な事が………………」


 デオスはアルバーニの説明とそこに居る事実が信じられないのか、サングラスの奥の瞳を見開く


 「まぁ、良いではないか、そのようなことは。儂が此処に居る事実は変わらないんだからの。それよりも、先の言葉は聞いていてくれたかの? 儂はおぬし等の仲間になりたいんじゃが、良いか?」


 「あ?」


 続くアルバーニの言葉、特に仲間になりたいという言葉に意味が分からないと感情を露わにするデオス


 「何を言っているんだ、お前は」


 「だから、仲間になりたいんじゃよ」


 「どう思考をしていたら、そうなる? 俺達はつい先日、殺し合った仲だぞ。恨みに思うならともかく、仲間になりたいなど」


 「その理由を儂が説明したら、仲間に入れてくれるか?」


 「ええ、構いませんよ」


 二人の会話に割って入ったのは、浅井であった

 浅井はアルバーニの言葉に同意した後、デオスに近づき小声で話し始める


 「ムネタカ?」


 「奴が確実に消滅したのは、しろがねさんが確認しています。それなのに此処に居るという事は、奴が言う通り本当に復活出るのでしょう。そんな奴が復活直後に復讐に動くのでなく仲間になりたいと言ってきたのです、話だけは聞くべきではありませんか?」


 「………………そうだな」


 「それに、この後の事を考えるなら、アルバーニの戦力は非常に魅力的です。なので彼の説明次第ですが、私は仲間しても構わないと思っています」


 「………………………………、………………………………………………」


 浅井の話を聞いて深く考え込むデオス

 そして逡巡の末、デオスは答えを出す


 「分かった、今回はムネタカの判断を尊重しよう」


 「ありがとうございます。ではアルバーニさん、貴方が私たちの仲間になりたいと思った理由を聞かせていただけますか」


 「うむ、面白い物語が見れそうだからじゃ」


 「面白い物語ですか?」


 「そうじゃ、そもそも儂が人を殺したり戦争を起こすのは、困難に立ち向かう人々の物語を最高席で楽しみたいというのが理由なんだが、言ってなかったか?」


 「ええ、初耳です」


 「それはすまんかった。まぁ、それで常に面白い物語を探してるんだが、あの日のあの時に儂は出会ってしまったのだ、最高の物語を持つものとな」


 「それが私たちですか?」


 「そうじゃ。ああ、だが一番はおぬしの鎧、確かしろがねと呼んでいたかのぉ、その者じゃよ」


 アルバーニの口から出たしろがねの名前を聞いて、デオスと浅井は表情を変える


 「何か知っているんですか、彼女の事を」


 「ん? もしかしておぬし等、その者がどのような存在か知らんで一緒に居ったのか? そうか、そうか、であれば儂にとって好都合じゃな」


 小さい身体を揺らして笑うアルバーニ

 

 「では、こうしよう。仲間に入れてくたら、儂が知るその者の事を教えよう。それに先の話を聞く限り、他にも力になれるぞ。カカカ、どうじゃ、悪くない話だろう」


 しろがねの謎、そこに一歩踏み込めるという事実に思考する浅井

 

 「………………、………………しろがねさん」


 「………………ムネタカ様、わたくしはどのような選択でも、構いません」


 「ではデオスさん、ズイズさん、私が決めても宜しいですか?」

 

 「俺は構わんが、ズイズはどうだ?」


 「デオス、彼の判断は信用できるの?」


 「ああ、大丈夫だ」


 「なら私は構わないわ」


 全員からの同意を得た浅井は決断する


 「現時刻を持って貴方は私たちの仲間となり、この先の同行を認めます。よろしくお願いします、アルバーニさん」


 「カカ、カカカカ!! ああ、よろしく頼むぞ、ムネタカ君」


 浅井の伸ばした手を、アルバーニが短い手で握る

 そしてこの日、ズイズに続きアルバーニが、デオス一向に加わる事になった


 「では、儂の知っとることを、おぬしらに教えよう。まず、おぬしらがしろがねと呼んでいるソレは、今から約70億年前に存在していたデューシエカ帝国の決戦兵器ラ・セルガ・メディサじゃ。ちなみにラ・セルガ・メディサは、帝国語で神殺しの銀剣という意味じゃな」


 「デューシエカ帝国にラ・セルガ・メディサ…………、しろがねさん、分かりますか?」


 「いえ、分かりません」


 「では、お二人は?」


 「国名の方は歴史書で」


 「俺も、知ってるのは国名だけだ」


 「不勉強じゃの」


 「そう言ってくれるな。崩壊前の時代の記録は、碌に残ってないんだ。調べようがない。で、そんな情報を、お前は何で知ってるんだ?」


 「そりゃ、儂がその時代を生きていたからに決まっとるじゃろ。当時、儂は色々やらかしてのぉ、指名手配犯として祖国から追われとったんじゃよ。その時にデューシエカ帝国から、逃走の援助をするから研究を手伝ってほしいと言われて、技術提供したことがある」


 「それが、ラ・セルガ・メディサですか」


 「うむ、そうだ。その後、儂は結局殺され、復活しとる間に起きた世界崩壊の影響で、デューシエカ帝国を含む9割以上の国々が滅んだというわけだ。で、質問はあるかの?」


 アルバーニは、一通り知っている情報を吐いた後、浅井たちに質問の機会を設ける


 「では、私が。世界崩壊とは、どのようなものなんでしょうか?」


 「世界崩壊のぉ、先も言ったが儂も死んでいて見とらんし、記録残っていないからな。だから分かるのは、何か異常な事が起こり、今よりも文明が進んでいた当時の国々が星ごと粉砕された事だけじゃ」


 「そうですか。なら、初めて出会った時、彼女は大きく傷つき動力源を全て失っていました、その原因となったのは世界崩壊でしょうか?」


 「当時最強の軍事国家であるデューシエカ帝国が、数百年の時をかけて製造した最終兵器ラ・セルガ・メディサをそこまで損傷させるのは、世界崩壊しか無いだろう」 


 「ありがとうございます、私が聞きたいのは以上です。しろがねさんは、ありますか?」


 「では、1つだけ。私の製造理由は分かりますか?」


 「恐らく他国への侵略目的だろう」


 「そうですか」


 製造理由が侵略目的という話を聞き、しろがねの声音が沈む

 その姿を見たアルバーニは、落ち着いた態度を維持したまま口を開く


 「まぁ、兵器とは総じてそういう物だ、気にするでない。それにどんなものも、持ち主の使い方次第だ。今の持ち主が、命を蔑ろにする者では無いだけ良いではないか。それで、そちらの二人はどうじゃ。何か聞く事は無いか?」


 「特に無いわ」


 「俺も今は無い」


 「そうか、では話はここまでだな」


 そして浅井たちとアルバーニとの会話が終了する

 ズイズは席を立ち、飲み物を取りに行く


 「皆、何か飲む?」


 「俺は赤ワインで」


 「ジュースがあれば、頂けますか」


 「何が良い、ムネタカ?」


 「ではコゴリアジュースで」


 「了解」


 ズイズは赤ワインとコゴリアジュース、そしてグラスを三つ手に取り、席に戻る

 その後、ズイズがグラスに赤ワインを注ごうとした時だった

 宇宙船に強い衝撃が奔り、機体全体が大きく揺れる


 「今度は何だ」


 「皆さん、時空振動です! それにこの反応、私の動力源です!!」


 時空振動、それは転移が行われた地点に発生する現象であり、大規模な転移になればなる程、周囲に衝撃波を発生させる

 そして今回、デオス達の乗る宇宙船近くに発動した転移は、この世界でも非常に珍しい規模の大転移であった

 揺れ動く船内、その内部から外を確認したデオス達の視線の先、そこに居たのは黄金の船団であった

 中心に浮かぶ巨大な黄金船含めその数、21艦

 そしてこれだけの大規模転移を行えるのは、極まった転移魔法、世界有数の超能力、大規模な転移装置のみであり、そのうちのどれかを扱える者がしろがねの動力源を所有していた

 デオスはその事実に誰よりも早く気付くと、背後の三人に指示を飛ばす


 「ズイズとアルバーニは宇宙船の防衛、俺とムネタカで連中の相手をする」


 「分かったわ」


 「了解です」


 「早速、儂の活躍の機会が来たのぉ」


 そして指示の下、全員が動き出そうとした時だった

 浅井たちが乗る宇宙船に向けて、離れた位置に居る黄金船団から通信が届く


 「聞こえるかな、宇宙船に居る宝石型のエネルギー体を持つ者よ。麻呂はジェルフィーゴ黄金船団艦長、サザミ・ジェルフィーゴ・メルフィスである。麻呂は貴殿にエネルギー体を賭けての一騎打ちを申し込む!!」


 この世界では非常に珍しい一騎打ちの申し込みに、困惑する4人


 「一騎打ち、ですか?」


 「さて、どうするか」

 

 「あの艦長のサザミって奴、確か黄金卿だの呼ばれてる男でしょ。昔、戦場で見かけたことがあるわ。当時の私よりも弱かったから、一騎打ち乗っても良いと思うけど。それに試しとくべきじゃないかしら、さっき宇宙船に乗るときに言ってた彼としろがねの新能力」


 「確かにそうだな。行けるか、ムネタカ?」


 「ええ、構いません」


 「するのか一騎打ち。むう、せっかく来た儂の活躍が無くなってしまったわ」


 デオスは「何でじゃぁ」と暴れるアルバーニを足で踏みつけて抑えながら、黄金船団へ通信を送った

 


     ――――――――――――――――――――――――――――



 そして5分後、浅井は巨大な黄金船の上で、黄金の鎧を身に着けた男と対峙していた

 黄金の鎧を身に着けた男は、黄金卿という異名を持ち、幾多の戦場で武功を立てた後に現在艦長を務めている黄金船団を立ち上げる

 輝かしい経歴を持つサザミは、自身の身長の1.5倍は有るであろう11尺の大太刀を持ちながら、目前の浅井と同じく静かに勝負の始まりを待っていた

 そしてそんな緊張感漂う二人の周囲には、黄金船団の宇宙船が待機しており、その鋼板にはデオスとズイズとアルバーニの三人と、黄金卿の部下である1000人以上の船員が待機していた

 その集合した集団の中から1人、巨漢の魚人が一歩前に出る

 巨漢の魚人は、睨み合う浅井とサザミを離れた宇宙船から見下ろしながら口を開いた


 「この一騎打ちの勝利条件は、相手に降参と宣言させるか戦闘不能にするかだけだ。そのことに異存はないな?」


 「ええ」


 「うむ」


 浅井とサザミは、巨漢の魚人の言葉に返答する


 「では、双方構えよ!!」 


 浅井は前傾姿勢の構えを取り、サザミは大太刀を腰に構え体勢を低く落とした


 「いざ、尋常に」


 研ぎ澄まされた互いの殺気が衝突する

 そして張り詰める空気を割って、巨漢の魚人の声が響いた


 「勝負!!」


 この掛け声と共に、しろがねの動力源を掛けた浅井宗孝対サザミ・ジェルフィーゴ・メルフィスの一騎打ちが始まった 

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