黄金船団編
第19話 異世界から来た少女
「奴? 封印? それは一体何のことでしょうか、デオスさん」
浅井の言葉に反応したのはズイズであった
「デオス、伝えるかどうかは貴方が決めなさい。でも私たちの過去を伝えるならこの子も巻き込むことになるわよ」
「………………ムネタカ、俺は――――――」
「此処まで共に来たんです、今更除け者は無しですよデオスさん」
「そうだな、………………今が話すべき時だな。ムネタカ聞いてくれるか?」
「ええ」
「だったら、私の専用機が有るからそっちで話しましょう」
そしてズイズ所有の宇宙船内客室にて
宇宙船の発進を確認した一同は、テーブルを中心にして囲むように設置されたソファーに座ると向き合った
重苦しい空気が充満する中、最初に口を開いたのはズイズだった
彼女は昔の事を思い出す為か、俯きながら話始めた
「私が宮廷魔術師の一人として当時所属していた国、ゼノカ・マルケレス王国に王国滅亡の予言が下り。そしてその予言を防ぐために召喚儀式が執り行われたのが始まりだったわ」
――――――――――――――――――――――
3000年前、ゼノカ・マルケレス王国に所属する予言官から予言が下された
その予言の内容それは『今から1年後、邪悪な怪物によって王国は滅亡する。それを防ぐには王国に伝わる召喚魔法を使用し、召喚された者が持つ秘められた力が必要である』と言ったものであった
王国は滅亡の予言を防ぐために、古くから伝わる召喚魔法を研究の末に復活させる
そして予言から4ヶ月後、遂に一人の少女を召喚するのだった
ゼノカ・マルケレス王国魔術省研究所内
「はぁーーーー!? 私にあの小娘の子守りをやらせるって、頭可笑しくなったんじゃないの!?」
研究所内に女の声が響く
怒りの混じったその声の持ち主は331歳という若さでゼノカ・マルケレス王国の宮廷魔術師に命じられたズイズ・メルテーシアであり、建物を揺らす程に大きい声であった
非難の意志が乗ったその怒声、その行き先には鎧の男が立っており、その鎧の男は聞いたもの全てが縮こまってしまうような怒声に一切怯むことなく無表情で反論した
「違う、教官兼護衛だ」
「そんなの建前でしょ!! てか、こんな天才の時間を予言の少女だか何だか知らない奴の子守りに任命して消費させるなんて、愚かで無駄で馬鹿な命令下したのは誰よ!! 今からぶん殴りに行ってやるわ!!」
キャンキャンと犬のように騒ぐズイズ
そして話も聞かずに動き出そうとしたズイズの前に立ち行動を塞いだ鎧の男は、僅かに眉を顰めながら口を開く
「命令者は騎士団長である私と魔術、予言省長官両名だ。そして陛下の許可も得ている。その意味は天才であるズイズ・メルテーシアなら分かるな?」
「反抗したら国家反逆罪………でしょ」
「分かっているならさっさと荷物を纏めて、国賓用客室に向かえ」
「くぅ~~~~~! 分かったわよ、でも後で覚えておきなさい!!」
「ああ、覚えてはおこう。では」
立ち去る騎士団長
その背を見送り、姿が無くなった瞬間、ズイズは力任せに机を壊すと
背後で先程から様子を見ていた自身の上司である魔法省長官ベルサロット・モーティウスに、ガンを飛ばしてから研究室を後にした
そして怒り状態を維持したままズイズは、国賓用客室の扉を開いた
扉の先、高級品が並んでいながらも気品漂う客室、その窓際に置かれた椅子に座っていたのは、サラサラとした黒髪を後ろで結んだ若い少女であった
黒髪の少女は、入ってきたズイズの姿を見ると椅子から立ち上がる
そして少し不安が混じりつつも力強い凛とした瞳を維持したまま、ズイズの前に歩いてくると自己紹介を始めた
「貴方が教官さんですね。初めまして、私は
無理矢理召喚されたのにも関わらず落ち着きを見せ、更にあまりにも可憐で純粋な雛美の姿に、ズイズは呆気に取られて停止する
「そしてこれが私と「ちょっと、待っていただけますか?」」
「何? まだ話の途中よ」
突然、話の間に入ってきた浅井にズイズは困惑の表情を見せた
「その異世界から来た少女の名前を、もう一度言っていただけませんか?」
それでもズイズは、浅井からの言葉に返答する
「聞き逃したのね、いいわよ。その子の名前は朝倉雛美よ。とっても可愛らしい子だったわ」
朝倉雛美、その名前をもう一度聞いた浅井は「聞き間違えでは無かったですね」と聞き取れない程に小さい声で呟いた後、ポケットのスマートフォンを取り出して操作し始める
何度かのスクロールの後、浅井の指がピタッと止まり、そして表示した画面をデオスとズイズに向けた
「朝倉雛美さんとは、この女性で間違いありませんか?」
スマートフォンの画面には、制服を着た少女と幼い女の子が映る写真が表示されており、その写真を見たデオスとズイズは限界まで目を見開いた
「どうして、ムネタカがヒナコの写真を持っているんだ………………」
続けて叫ぶように声を上げたデオスと未だ固まるズイズに対し、浅井は言葉を続ける
「私としてもまさかとは思っていたのですが、今のお二人の反応で確信しました。その朝倉雛美さん、彼女は消えた私の叔母です」
浅井の口から出た私の叔母ですという言葉で、客室内が静まり返る
だがその静寂を破るように声にもならない声が二つ、重なって響き渡った
「「は?」」
困惑、困惑、困惑
疑問、疑問、疑問
デオスとズイズの脳内は、色々な思いによって滅茶苦茶になっていた
だがそんな二人とは対照的に、浅井の顔は先程までと一切変わっていなかった
「そういえばしろがねさんにしか伝えていませんでしたね。簡単に説明しますと、私の叔母は34年前に突然行方不明になっていて、現在も捜索中でして。それで一切痕跡を残さずにどうやって消えたのか疑問だったのですが、此方に来ていたんですね」
続けて浅井は「それは見つからないわけです」と呟いてから、何度か納得するように頷いた後、手に持っていたスマートフォンを再度ポケットに仕舞った
それから未だ混乱の中に居るデオスとズイズを黒い瞳で見つめながら、優しく微笑む
「話の邪魔をしてしまって申し訳ありません。それでは先程の続きをお願いします」
そして途中で止まっている過去話の続きを催促した
「えっ、でも………」
「私の話よりも重要なのは、これから戦いに行く相手に関わるズイズさんたちの話です。ですから続きをお願いします」
困惑するズイズにもう一度浅井は強く催促した
ズイズはその圧に押され、戸惑いながら話の続きを話し始めた
「わ、分かったわ。それで、さっきのが私とヒナミの出会いなんだけど………その後、私たちは用意されていた生活エリアから息苦しいって理由で抜け出して、王都から100㎞離れた海上都市に入ったの」
ゼノカ・マルケレス王国領、海上都市アノトラにて
王都から雛美を連れて(無理矢理)抜け出したズイズは、海上都市アノトラ内のホテルに居た
その部屋の中で縄でぐるぐる巻きにされた雛美は、困惑した表情でベットに座るズイズに問いかけた
「あの、ズイズちゃん。脱走したら罪になると言われていたのですか、本当に良いんですか、抜け出しても」
「良いに決まってるでしょ。何たって私が貴方の教官兼護衛なんだから、その教官兼護衛が決めたものが訓練になるのよ。だからこれは脱走じゃなくて、訓練場所の変更よ!! それにあいつ等が私たちが居なくなったことに気付いてないわけがないわ。その証拠に――――――、フッ!!」
ズイズは話の途中で突然、背後の扉に蹴りを放つ
すると蹴りの威力で弾け飛び廊下の壁に埋まった扉、その裏から「グベッ!?」声が上がった
そして僅かな間を開けて扉の裏から出てきたのは、黒衣に身を包んだ若い男であった
未だ混乱の中にある黒衣の男の首へ、近づいたズイズが手に生やした茨の剣を突き付けた
「それで、何処所属?」
殺気の混じったズイズ言葉に怯えながら黒衣の男は喋り出す
「ちょっ、ちょっと待ってください。ぼ、僕はゼノカ・マルケレス王国諜報部隊所属レイニール・ルルファです。騎士団長の命令を受けてお二人の監視をしてただけなので、殺さないでください!!」
「こいつ、全部吐いたわ」
諜報部隊に所属しているにも関わらず任務の内容を全て吐いた
その恐ろしい瞳にビビり顔を青くするレイニールは、何とかならないかとズイズにお伺いを立てた
「あっ、………………聞かなかったことには………………」
「出来るわけないでしょ。はぁ、貴方得意武器と能力は?」
「え、短剣と水魔法です」
「実力は?」
「騎士団含めても上の方かと………………」
「分かったわ、なら貴方は明日から訓練に参加しなさい。ヒナミの訓練相手にするわ」
「ですが………………」
「任務を失敗してあのバカ騎士団長にボコボコにされるのと、このまま私たちの訓練に付き合いながら、任務続行するのどっちがいいかしら?」
「はい!! 喜んで参加させていただきます!!」
そして翌日からズイズたちはレイニールという若い王国兵を加えて、訓練を続けることになった
全ては朝倉雛美という異世界が秘める力を目覚めさせ、ゼノカ・マルケレス王国を救うため
――――――予言の日まで後3ヶ月
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