第17話 骸の王

 (いつの間に………………)


 突然、気配無く姿を現したアルバーニ・コープス

 その姿に浅井たち二人は驚愕し、目を見開いた

 しかし二人はその動揺を隠すように表情を変えると、同時に目前のアルバーニへと攻撃を仕掛ける

 だが二人の放った炎の拳と銀の大剣は、軽々とアルバーニの背面から生えた骨の翼によって受け止められた

 

 「カカ、勇ましいのぉ」


 翻る翼、弾き飛ばされる浅井とデオス

 そして二人と距離を作ったアルバーニは、無数の顔に笑みを浮かべながら楽しそうに話し始めた

 

 「あくまでもコルネスとの戦争は、この後に控える無数の国々との大戦までの暇つぶしと思っておったんじゃが………、貴様らのようなのが居るのは嬉しい誤算じゃのぉ。――――だから楽しませてくれ、猛き若人たちよ!!」


 呪文を唱えるアルバーニ

 その呟きを止めようとデオスの炎が撃ち出されるも、先程と同じ様に巨大な骨の翼が炎を掻き消す

 そして呪文の成立と共に浅井ら二人を囲むように、輝く鎧を身に着けた骨の軍勢が現れる

 更に無数の骨が組み合わさって造られた鳥獣や、山を越える背丈を持つ骸の巨人までもが顔を見せた

 そして先程の数十倍に膨れ上がった骸の軍勢は、中心で笑うアルバーニに呼応するように動き始める

 まず初めに浅井とデオスに向けて襲い掛かったのは、輝く鎧を身に着けた骨の軍勢であった

 剣や槍や大鎌などの多種多様な武器を用いた骨の軍勢の突撃に対し、デオスは蒼い炎を拳と足に纏い、浅井は大剣を握りしめ迎撃に移った

 そして瞬きの間に接近し、衝突する二組

 最初の衝突はデオスと浅井に軍配が上る

 蒼い炎の波と、大剣から放たれた斬撃により骨の軍勢の先鋒であった2000体の兵士は、一瞬にして塵となって壊滅する

 しかし骨の軍勢の総数は現在の時点で43億9687万体に及び、今この瞬間も増殖し続ける彼ら骨の軍勢は、即座に次鋒である5億8000万体の軍勢を浅井たち2人に差し向ける

 更に空を駆け上がって来た、骸たちが集合して造られた骸合成獣キメラと山を超える巨体を持つ巨人数十体までもが戦線に合流した

 そして凶器煌めかせながら迫る骸の軍勢に、デオスは体内から噴き出した炎を噴射して応戦する


 「うっとおしい!! 焔ノ大蛇ほむらのおろち!! 蒼炎そうえん華流弾かりゅうだん!! 灼熱死流しゃくねつしりゅう!! 蒼炎火葬・落日絶拳そうえんかそう・らくじつぜっけん!!」


 撃ち出された無数の炎技と炎の拳は、骨の軍勢と巨人たちを粉砕していく

 続いて飛び交う巨大な炎を背後に、浅井も左手に持った琥珀色の剣を煌めかせた


 「オオォォォォォォォォ!! 形成しろ、精霊剣エレクバール!! 撒き散れ!!」


 浅井の呟きと共に発生した琥珀色の輝きは、しろがねの魔力を喰らうと輝きを増す

 そして剣の払いによって斬撃として放たれ、その1秒後、数百本の斬撃に分裂して浅井の周囲を囲んでいた骨の軍勢や骸合成獣たちを結晶に変えていった

 二人の活躍により、次鋒との開戦から数秒、消滅した骸の数は3億体を超えていた

 だがしかし現在89億5342万体に増えた骸たちは、塵と結晶になって消えた同族を超えて次々と浅井たちの下へ飛翔する

 尽きぬ骨の軍勢だけでも浅井たち2人には脅威であったが、ここにきて彼らの下に更なる脅威が舞い降りる

 それはこの骨の軍勢たちの首魁であるアルバーニであった

 アルバーニは巨大な骨の翼をはためかせながら今も激戦繰り広げる浅井たちの前に 現れると、陽気な声で二人を称賛する言葉を並べる

 

  「カカカ!! 見事、見事!! 億を超える儂の兵士を相手に貴様らは一歩も引かぬどころか、踏み越えようとしておる。ああ、ああ、やはり儂が見込んだとおり、貴様らは最高の戦士だ!!」


 そして更に楽しそうに笑いながら言葉を紡ぐ


 「であれば貴様らに敬意を払い、ここからは儂も本気で行かせて貰おう。【totyos[mish]mi】 【tot=[misn]minanatottotohmu=futogmi】【hatryosrfutottokfu,hattyatorfu】!!」


 呪文の完了と共に、アルバーニの身体に骨が纏わっていく

 そして骨の外装を纏ったアルバーニが動く

 狙いはデオス、瞬きの間に距離を詰めたアルバーニは右手に握った骨の大剣を振り下ろした


 「!?」


 デオスの想定を遥かに上回る速度で迫り振り下ろされた骨の大剣を、デオスは腕をクロスして受け止める

 瞬間、骨と炎が接触して、火花が舞い散る

 

 「グゥゥゥゥ!!」


 「カッ、カカカカカカ!!」


 強烈な一撃にデオスの顔が苦悶に歪む

 しかしデオスも負けじと握っていた拳を開き、その手の平からアルバーニに向けて炎を放つ

 一瞬で造られた炎にしては大規模になった炎が、噴火のように上がりアルバーニの胴体を飲み込みこんだ

 更にその炎に押されて後退したアルバーニの胴体目掛けて、デオスの回し蹴りが突き刺さる

 

 「火葬絶脚かそうぜっきゃく!!」


 「――――――!!」


 声にならない声を叫びながら吹き飛んだ炎上するアルバーニに向けて、背後から現れた浅井の精霊剣が煌めいた

 そして放たれた琥珀色の斬撃は、アルバーニへと高速で向かうが、衝突の直前に間に入り込んで来た骨の兵士たちに防がれる

 だが結晶化した骨の兵士たちを割って、デオスがアルバーニの目前に拳を構えて現れる


 「蒼炎火葬・落日絶拳そうえんかそう・らくじつぜっけん!!」


 そして振り抜いたデオスの拳から蒼い炎で出来た巨大な拳が撃ち出された

 

 「――――――カカカ!」


 しかしその拳は出現とほぼ同時に、アルバーニの振った骨の大剣によって消滅させられる

 続いて技を一薙ぎにされたデオスに向けて、アルバーニの骨の尻尾が音よりも早く伸びる

 頭狙いのその一撃を、デオスは炎を噴射して避けるも、回避の勢いで体勢の崩れたデオスに、周囲から高速で集まって来た無数の骸が襲いかかる

 だがデオスはその襲撃を肉体から無差別に炎を放ち、僅かな手傷で突破する

 しかし包囲を抜けた先に、笑顔のアルバーニが大剣を振りかぶった待ち構えていた

 その姿を見て咄嗟に防御姿勢を取るデオスであったが、その防御姿勢が完了する前に、アルバーニの骨の大剣が振り下ろされた、その時―――――


 「デオスさん!!」


  浅井がデオスと振り下ろされた骨の大剣の間に滑り込む

 そして浅井は手に持つ銀の大剣で、骨の大剣を受け止めたが、アルバーニの膂力凄まじく背面のデオス共々、地上へと吹き飛ばされる

 更に一直線に地上へ近づく二人に向けて、巨人たちの持つ刃や数十億体の骨の軍勢が襲いかかった

  

 「ムネタカ!!」


 「分かっています!!」


 殺意が四方八方から向けられる中、空中で二人は位置を入れ替え、デオスは周囲から迫る骨の軍勢を狙い、浅井は地上で咆哮を上げる巨人を睨んだ

 そして互いに対処を開始する

 デオスは内に溜め込んだ炎を一気に開放して白い炎を噴き出し始めると、その白い炎を周囲に撃ち出し、浅井は輝かせた精霊剣を巨人たちへと向けて薙ぎ払った

 結果、ミサイル数百本分の爆炎が数十キロを焼き払い、迫る骨の軍勢どころか現在存在する骨の軍勢の約半数を塵に変えた

 そして浅井の放った琥珀色の斬撃も地上に居た巨人の大半を結晶化させる

 2人の活躍、特に白炎としての本領を見せたデオスの一手で戦況は大きく変わったように見えた

 だが、ある理由によってデオス達は追い詰められることになる

 その理由とは何か、それは時間制限であった

 デオスの白炎状態は劣勢であったジョエル・モスコールとの戦闘の状況を一瞬で優勢に変えるほどの爆発力があった

 しかしその爆発力は己の肉体すら焼く諸刃の刃であり、時間に追われる戦闘を良しとしなかったデオスは風向きが変わるまで温存しようとしていた

 だが未だに増え続ける敵勢力と、デオスと浅井の総合力を上回るアルバーニによる猛攻が襲いかかる状況がそれを許さなかった


 「ムネタカ、ここからは時間との勝負だ、出し惜しみなしで行くぞ」


 状況は非常に悪く、勝てる可能性は余りにも低い

 だがデオスの顔にも、浅井の顔にも絶望の文字は浮かび上がっていなかった


 「ええ」

 

 二人は更に増え続ける敵勢力、そしてその中心で嗤うアルバーニを睨みながら構えを取った

 そして僅かな会話の後、決意を持って空から降り注ぐ骨の軍勢たち数百億体相手に向かって飛び出した


 「オオォォォォォ!! 灼熱死海しゃくねつしかい!!」


 巨大な津波の様に天に広がった白い炎が、まず敵前衛である骨の軍勢数億体を焼き払う


 「形成しろ、精霊剣エレクバール!!」


 続いて炎の津波を突破した骨の軍勢を、浅井の精霊剣が片っ端から結晶へ変えて地上へ叩き落としていく

 だが空から舞い降りる敵の数は二人の連携を超えるには十分であり、生き残った敵軍勢は浅井とデオスと接近戦に入る

 無数の武具を装備した骸の兵士たちは、訓練されたような精密な動きで二人に武器を振るう

 その連携攻撃に対し、デオスは火葬陽刀・開華かそうようとう・かいかを使って相対する

 そして浅井も二つの剣を逆手に持ち、魔力爆発を使用して加速して敵陣に突撃した

 

 「オオォォォォォォォ!!」


 「ハァァァァァァァァ!!」


 斬撃、斬撃、斬撃

 骨の軍勢の内部に数えきれない量の斬撃が発生する

 そして数千体以上の骸たちが斬撃と衝撃によって解体され、再生不可能の欠片となって地上へと落下していく

 浅井とデオスは勢いそのままに、数百億体の骨の軍勢が集合した監獄を突破し、先程までアルバーニが浮かんでいた地点に到着した

 だがその場にアルバーニは居らず、浅井がアルバーニの体内にある動力源を位置を探ろうとモニターに視線を映した、その瞬間―――――

 デオスの胸部から刃が突き出した


 「グゥッ………!」


 胸を刺され吐血したデオスの背後には、骨の大剣を握りしめるアルバーニを居り、二人向けて笑みを浮かべていた

 デオスは胸部の激痛に目を見開くも、即座に胴体が斬れる事など関係なしに振り向いて拳を放つ


 「火葬絶拳かそうぜっけん!!」


 その拳はアルバーニの背に生えた骨の翼による防御を貫通し、その胴体を背後に吹き飛ばした

 そして続けてデオスの両手から炎が噴き出し、胴体に大きな穴を開けたアルバーニへと撃ち出される

 唸りを上げて撃ち出された炎は、巨大な虎の姿に形を変えてアルバーニに向かい衝突して巨大な爆炎を吹き上げる

 更に爆炎の背後から迫っていた浅井が、爆炎に突っ込み精霊剣を中心部で揺れる影に振り下ろした

 だが必殺の一撃である精霊剣は、膨れ上りながら再生した骨の尻尾によって腕ごと弾かれ、放たれた琥珀色の斬撃は地上に消えていった

 ならばと振った右手に持った大剣による数十の連撃は、アルバーニの骨の大剣によって簡単にいなされる


 (今の剣使い、ッ………奴には剣術の心得があるのか。それもそうとう上等な心得が)


 かつて曾祖父が剣術の師範をしていた経験から僅かに剣術の知識を持っていた浅井は、アルバーニが凄腕の剣術を治めているのに気が付く

 そして魔術としてだけではなく剣士として最上級の技量を持ったアルバーニは、浅井たちとの戦いが余程楽しいのか無数の骸骨を震わせる


 「カカ、どうした若人よ。それでは儂を満足させられんぞ」


 「だったら、これでどうだ!!」

 

 アルバーニの背後からデオスが返答と共に跳び出す

 そして背負った巨大な炎の日輪と共に、引き絞った拳を撃ち放つ


 「白炎火葬・日輪絶拳はくえんかそう・にちりんぜっけん!!」


 それはデオス必殺の一撃であり、最強の近接技がアルバーニに迫る

 

 「ムウッ!?」


 アルバーニは咄嗟に自身の周囲に骨の防御壁を張り、更に二対の翼と骨の大剣で防御を試みた

 だがその威力は絶大であり、アルバーニの重ねた骨の防御壁を融解させ、そのまま翼と大剣ごとアルバーニを骨の天幕へと吹き飛ばす

 そして更に骨の天幕に叩きつけられ肉体の大半を消し飛ばされたアルバーニに向けて、デオスの次弾が向けられた


 「白炎火葬・天道撃砲はくえんかそう・てんどうげきほう!!」


 それはデオスの持つ最強の遠距離技であった

 日輪がデオスの正面に移動し、その日輪の中心にアルバーニの姿が捕らえられる

 そして数秒の溜めの後、デオスの咆哮と共に凝縮された白い炎が発射された

 爆音が響き、目が眩むほどの光を発生させながら撃ち出された白炎火葬・天道撃砲は、余波だけで周囲の敵兵数億体を消滅させる

 そして発射から瞬きの間に白炎火葬・天道撃砲は、アルバーニの下に降り注ぐと、周囲十数㎞を一瞬の内に焦土に変え、更に数十㎞以上の大地を砕くのだった

 大地から黒煙が上がり、空を煤で覆っていく


 「ぜぇ、ぜぇ………………ぜぇ………………」


 その光景を酷く歪めた顔で見ていたデオスの背後から、浅井が近づく

 

 「デオスさん、大丈夫ですか!!」


 「ああ、大丈夫だ。それで奴の反応はどうだ?」


 浅井の言葉にデオスは息絶え絶えながらも返答する

 その質問に浅井はモニターを見つめながら答えた


 「まだ存在しています」

 

 そしてその浅井の言葉を証明するように、爆心地から凶悪な気配を持つ魔力が放たれる

 続いて黒煙を斬り払って登場したアルバーニの声が響いた


 「カ、カカ、カカカカカカ!! 素晴らしい、素晴らしいぞ!! ああ、貴様たちならば儂の、儂の渇きを満たしてくれるかもしれない!!」

 

 未だ肉体の大半を焼失しているにも関わらず歓喜の声を上げたアルバーニは、デオス達を見つめながら笑い続ける

 そしてデオスが息を整える間に、肉体を再生し終えたアルバーニの全身に呪文が浮かび出す

 続いて星を割るほどの地響きが起こると、大地に落ちた骸たちが起き上がり、拍手を始める者や、骨で出来た楽器を演奏し始める者までもが現れた

 空を骨の天幕が覆い死の気配満ちる場で、優雅な音楽が鳴り響くその光景はあまりにも異質で不可解なものであった

 そしてそれから間もなく、悲鳴を上げるようになった音と共に大地を割って看板役者が舞台に上がる

 

 「紹介しよう、こ奴は儂の秘術が一つ破壊骸巨兵【tottoi=yosrkokotohmu=mu=tot[misr]ya=togya】じゃ」

 

 その破壊骸巨兵と呼ばれたそれは、無数の骸が重なり合い出来た巨大人型骸であり、体躯は山よりも大きかった骸巨人の3倍はあった、更に胴体からは多種多様な武器を持った複数の腕を生やしており、全身を覆う鎧は日本の具足を連想させた

 そしてそんな怪物じみた存在を目撃した浅井とデオスの顔には、疲労以外に焦りの感情が浮かび上がっていた


 「デオスさん、これは………」


 「ああ、流石に不味いな」


 浅井とデオスの二人は、ここまでの戦闘で体力や魔力を大きく消耗しており、特に消耗の激しい戦い方をするデオスの体力は残り3割ほどまで減少していた

 その為、二人にとってアルバーニが召喚した破壊骸巨兵の存在は、最悪で絶望的と言っても良いものだった

 だか2人は決して諦める事は無く、互いにゆっくりと覚悟再度決めて動き出そうとした

 その瞬間、アルバーニと破壊骸兵が立つ一帯を、巨大な爆発が飲み込んだ


 「!?」


 「何だ!」


 そして舞い上がった黒煙をの背後、先程デオスが開けた骨の天幕の大穴から、数えきれない程の戦闘機や戦車、更に兵士たちが現れる

 続いて地上に広がる骸の軍勢に追撃を仕掛けた彼らの正体

 それは浅井たちと同盟を結んだコルネス軍であった

 

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