第15話 分断

 地面を滑りながら奔る蒼い炎が、未だ高笑いを続けるアルバーニに襲い掛かる


 「なん、じゃとぉ!?」


 嗤う事に夢中で油断していたアルバーニは、先程までと違って一切抵抗することなくその炎の飲み込まれていく

 続けて浅井も火だるまになったアルバーニ目掛けて高速で接近し、その顔面を大剣で斬りつける

 更に剣を振り抜いた浅井の背後から現れたデオスが、アルバーニのがら空きの胴体へと炎が纏った拳を叩きつけた


 「蒼炎火葬・落日絶拳そうえんかそう・らくじつぜっけん!!」


 巨大な炎で出来た拳は胴体に接触すると巨大な爆炎巻き起こし、そのまま炎に包まれた巨体を骨の天幕まで吹き飛ばす

 ここまでの連撃と天幕への激突によりアルバーニの肉体は半壊していたが、いまだにその肉体に宿る魔力反応は健在だった


 「ムネタカ!!」


 その事を即座に察知したデオスは、浅井へと指示を飛ばすと炎を噴き上げながら骨の天幕に向けて突進して行く

 そしてその背を追うように飛び上がった浅井とデオスの二人がアルバーニへと距離を詰めていったその時、地響きと共に大量の骨が地面から突き出る

 更に天幕からも最初に浅井が撃ち落とした量の数百倍はある骨の弾丸が、雨のように大量に降り注ぐ

 

「鬱陶しい!!」


 上下から襲い掛かってきた骨の猛攻に、二人は互いにそれぞれ剣で薙ぎ払ったり炎で消し飛ばしたりしながら進むも、骨の天幕の力なのか全く尽きる事の無い骨の物量のせいで行動を阻害される

 しかしそんな中でも、状況を変えようとデオスが浅井に指示を飛ばす

 

 「ムネタカ、俺があの天幕をここから消し飛ばす。だから僅かに時間を稼げ」

 

 「分かりました」


 そして浅井は指示に従うために一気に加速すると、骨の雨を微塵切りにしながらデオスの真上に辿り着く

 続けて浅井が被弾覚悟で時間を稼ごうとシールドを拡げたその時、視界に広がる骨の天幕に次々と大穴が開き始める

 

 「来ましたか!」


 それは二人が待ち望んでいた者たちからの支援であり、その後に続いて音声が届いた


 「ムネタカ殿、骨のドームが分厚かったために破壊するのに時間がかかってしまった。遅れて申し訳ない!!」


 ―――次に俺たちの奇襲後、まだ敵首魁が生存していた場合に使ってくるであろう死骸共へと攻撃を仕掛けてくれ―――

 それが彼らの作戦の二段階目であった

 しかし結果としてアルバーニが使ったのは死霊の軍勢ではなく骨の巨大な天幕であった為に、攻撃支援が遅れ浅井たちが苦戦を強いられることになる

 だがそんな想定外の抵抗方法に対しても、全力で攻撃を行い二人が想定していた状況に持ち込ませたくれたコルネス軍と指揮官であるドドザに浅井は感謝の言葉を返す


 「いえ、ナイスタイミングです。ドドザさん」


 無数の爆撃によって天幕は崩壊していき、降り続けていた骨の弾丸はその勢いを弱めつつあった

 

 「ムネタカ!! 合わせろ!!」


 そしてドドザ率いるコルネス軍の援護に続くように、真下で力を溜めていたデオスの指示が飛ぶ

 たった一言、合わせろだけの指示ではあったが浅井はデオスの視線や動きから即座に意図を理解し、アルバーニの下へ突撃を仕掛ける

 するとその動き合わせてデオスが溜め込んだ力を技に変えて撃ち放つ

 

 「オオオオ!!!! 灼熱流外装しゃくねつりゅうがいそう!!!!」


 その技は先行していた浅井へ追いつくと、しろがねの鎧と大剣へ纏わりつき、美しい白銀の鎧と大剣を青く染めていく

 

  (この力ならば!)


 そして鎧に纏わせた炎の爆発力を背から吹き上げて速度を上げた浅井は、その進みを邪魔するように突き出てきた骨の剣山の間をすり抜け、遂にアルバーニの下に到達した

 そして未だに沈黙し動きを止めたアルバーニへ、蒼炎の纏う大剣を振り下ろしたのだが


 「何!?」


 突如としてアルバーニの右手に出現し、握られていた巨大な骨の大剣に蒼炎の大剣を受け止められる

 加速力とデオスの炎が乗った一撃を受け止められた事実に動揺を隠せなかった浅井は、続いて唱えられたアルバーニの呪文への対処に遅れてしまい、ギリギリでシールドを張りはしたものの地面からせり上がって来た骨の棘に弾き飛ばされて、崩壊しかけの天幕へ叩きつけられた

 

 「ぐぅっ!!」


 全身を揺らすその衝突時の衝撃で浅井は意識を持ってかれ掛けるが、すぐに呼吸を整えて視界を安定させる

 

 「大丈夫か!」


 そして浅井の援護に回るために移動して来たデオスの言葉に、骨の天幕から這い出た浅井は答えようとした

 だがその時、視界に入った周囲の変化に目を奪われ浅井は言葉を失った

 

 (何が………………起きているんだ)


 まず彼らを囲っていた崩壊しかけの天幕は空からの爆撃を意に返さず再生をしながら分厚く広がっていき、地上で積み重なっていた骨の破片はまるで点に昇るように舞い上がり、更に歪な刺々しい魔力が空気を汚染していく

 そしてその現象を起こしている元凶であるアルバーニの手には、人の骸骨が張り付いた黒い本が握られていた

 浅井はその本と、放出される禍々しい魔力に対して危機感を覚えて、アルバーニに突撃しようとした

 だがその判断よりも先に判断を下して攻撃準備を行っていたデオスの炎が、アルバーニへ向けられた


 「焔ノ大蛇!!!! 重ねて灼熱死流!!!!」


 そしてデオスの手から撃ち放たれた焔ノ大蛇に灼熱死流が注ぎ込まれて巨大な八つの顎に変化し、魔力を放ちながら手を広げているアルバーニへ襲いかかる

 

 ――――――だが二人は次にアルバーニが起こした光景を目撃して悟ってしまった


 「【totyos[mish]mi】 【totyos[mish]mitogmiya=your】【hatryosrfutottokfu,hatryosrkokofu300nanayossmisy-hatyosi】」


 一手、いや二手は遅かったと

 そして先程の詠唱と共に大地と天幕から勢い良く這い出して来るものが在った

 それは、人や魔獣、更には竜や巨人の骸たちであり、その数は今這い出てたものだけでも3億体は下らなかった

 

 「これは………」


 浅井のモニターにはもはや表示しきれない程の敵を示す赤点が浮かび、今も増え続けていた

 そしてデオスもその異常とも言える光景に、眉間に皺を寄せ目を細めて警戒を露わにする


 「チッ………………」


 だが二人はすぐに体制を整え、互いに背を預けて敵の攻撃を待ち構えた

 そして緊張が続く中、遂に地上と天幕から跳び出した骸たちの第一波が二人に襲い掛かった

 カタカタと骨を鳴らして暴れるそれらの波を、二人は連携して捌いていく

 更に第一波を押しのけて四方八方から迫った殺意の第二波目を押し退けた浅井は、横で炎を無差別に放ち続けるデオスに指示を仰ごうと声を出した


 「デオスさ――――――っ!?」


 だが突如、浅井は空を覆う骸の雲を裂いて降り注いだ熱線の衝撃に弾かれ吹き飛ばされる

 更にその攻撃のせいで空中で姿勢を崩した浅井の下に、追撃を仕掛けてきた無数の骸の波に取り込まれ身動き出来ぬまま遥か遠くへ攫われしまう

 そして骸達は内部の獲物を圧殺しようと、徐々に隙間を狭めていく 

 だがその攻撃に対し、浅井は鎧に魔力を過剰供給して爆発を巻き起こし、無理矢理こじ開けた隙間から一気に外へと脱出する

 そして浅井は未だ続くア骸の襲撃を捌きつつ、ヘルメット内のモニターに目を向けた

 

 (先程の位置から50㎞は離れていますね。しかし、この位置だとデオスさんと合流するのも、コルネス軍からの支援を受けるも難しいですね。……………ならば)

 

 無数に書き込まれ続けるモニター情報を精査しながらも、浅井は周囲への警戒を怠らずにいた

 しかし、そんな浅井の警戒網をすり抜けて87本の目を焼くほどの光の柱が、地上へと降り注ぐ

 そして数百体以上の骸ごと中心部で飛行していた浅井を飲み込み、閃光と爆音と共に巨大な爆発を引き起こす


 「ぐぅ!?」


 上空からの不意打ちを浴び、数百メートル吹き飛ばされた先で黒煙を上げる浅井

 だがその傷は軽微であり、即座に体勢を変えて復帰した浅井は追加で降り注ぐ光の柱を避けながら、しろがねに指示を飛ばす

 

 「しろがねさん、この光の柱の正体は分かりますか?」


 そして光の柱を避けて襲い掛かって来た骸達を解体していた浅井の下に、数秒とかからずにしろがねからの返答が入る


 「報告します、光の柱の正体は魔力を熱に変換して撃ち出した熱の光線だと推測されます。そして上空の反応から考えて熱線を撃ち出しているのは、アルバーニの操る骸です」


 「ありがとうございます。――――――ッ、次々と面倒な」


 最初の攻撃から合間を置かず降り続ける熱線と骸たちの猛攻

 その二つに加えて、更にその熱線の影から隊列を組み現れた飛竜に騎乗する骸が浅井の瞳に映り込んだ

 ――――――瞬間

 色とりどりの輝きが飛竜骸騎士たちの手から煌めき、彼らが手に持った槍で突撃すると思い待ち構えていた浅井へ向けて撃ち放たれた

 そして僅かな間をおいて浅井の下に到達した光の正体、それは火球や雷撃、氷の礫などを中心とした魔法であった


 「ッ!!」

 

 浅井にとっては予想外の魔法による遠距離攻撃

 しかしそれを、浅井はしろがねの予測を使いギリギリのところで張ったシールドで受け流して回避する

 だが続けて初撃を捌き切って移動を開始した浅井の移動先に、無数の魔法が放たれた

 そして間を置かずに炸裂した雷撃は、花火のように飛び散りながら拡散する

 それを浅井は急旋回して回避する

 しかし回避した先に、浅井を囲むように陣形を変えた飛竜骸騎士部隊から再度、魔法による攻撃が飛んできた

 

 (また移動先ですか、それにこの陣形は……………)


 弾幕ように絶え間なく襲い掛かる魔法を回避しながら浅井は思考する

 そしてこれまでの魔法の発射先とコルネス軍の鎧を身に纏った飛竜骸騎士部隊の洗練された動きから、即座に浅井は敵が自信を獲物にした狩りをしていることに気が付く


 「恐らくこの戦い方が向こうの十八番何でしょうね。でしたら今の状況は少々不味いですね」

 

 己の置かれている状況に危機感を持った浅井は、一呼吸置いて行動を開始した

 まず浅井は魔力放出で引き起こした爆発の反動を利用して、一番近く似た飛竜骸騎士へと接近して行く

 そして急激な加速による接近に防御姿勢に移行することしか出来なかった飛竜骸騎士を、その防御と骸飛竜ごと一刀両断にする

 更に骸騎士を沈黙させた浅井は突如その場で振り返り、先程の一連の行動に対して焦るように近づいて来た飛竜骸騎士の一体に目掛けて大剣を投擲した

 衝撃波を発生させながら突き進んだ大剣は飛竜共々骸騎士を切断し、その眼に灯した光をかき消す

 そして大剣を再度己の手に構築した浅井は、勢いそのままに乱れた飛竜骸騎士の隊列に突入すると次々に骸騎士を切断して沈黙させていった

 

 (早々に彼らを排除し、デオスさんとの合流を急がなければ)


 飛び散る鎧片と腐敗した人体

 数分と経たない間に約半数を排除した浅井は、急ぐように飛竜骸騎士部隊の完全壊滅の為に動く

 そして飛び交いながら抵抗する骸騎士の一体を大剣を振るって破壊した時だった

 砕け散った大量の破片の中を突き破って突如、琥珀色の剣を構えたコルネス兵が現れる

 

 「―――ッ!!」


 視界を埋め突くほどの大量の破片のせいで、その兵士の接近に気が付けなかった浅井ではあったが、姿が見えた瞬間にモニターに映った予測線に合わせて浅井は大剣を構えて防御を試みる

 

 「グゥゥ!!」


 衝突する互いの刃

 その瞬間、発生した衝撃を受けて浅井は下部へ弾き飛ばされる

 しかし浅井は空中でジェットパックを強く吹き体勢を整えると、先の一撃による腕の僅かな痺れ以外に損傷を負わず下部に広がる川のように広く長い骸たちの塊の上に着地した

 そして着地後すぐに突如現れた兵士を視界に捉える為、顔を上げた浅井の目に映ったのは手に持った琥珀色の剣を輝かせながら落下してくる兵士の姿だった

 

 (防ぐか、それとも避けるべきか)


 死の香りを匂わせる琥珀色の輝きを前に、浅井は選択を迫られるも、その選択の答えを出すよりも先に琥珀色の剣から光の斬撃が放たれた


 「!!」

 

 一瞬にして輝きに埋め尽くされる世界

 その輝きを放つ斬撃を前に浅井は――――――


 「避けてください!! あの光に触れてはいけません!!」


 突如としてヘルメット内部に響いたしろがねの言葉に合わせて回避を選択し、即座に魔力放出による爆発を利用してその場から離脱する

 そしてその離脱からほぼ間を置かずに、先程まで浅井が居た位置に琥珀色の斬撃が衝突した

 瞬間、衝突地点を起点に琥珀色の結晶が発生する

 地面から広がったその姿はまるで珊瑚礁のようであり、そしてその結晶の正体は兵士が放った琥珀色の斬撃に触れて結晶化した無数の骸と飛び散った破片であった

 そしてその異常な光景を目撃した浅井は目を驚愕で大きく見開き、更に顔から大量の冷や汗を流していた

 

  (これは………………、完全に助けられましたね。後でしろがねさんに感謝の言葉を伝えなければ)


 浅井は頭の中に浮かび上がった己の死を振り払いながら、手に持った大剣を構えると空から降り立った琥珀色の剣を持つ兵士と対峙する

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