第14話 開戦
「オラァ!! 吹き飛べぇ!!」
骸骨やゾンビたちが巨大な爆発と共に空へ弾け飛び、更に吹き荒れる炎の波が、地上を荒らす骸象部隊を読み込み消し炭に変える
そして続いて地上で暴れ回るデオスの背後では青い光が流星のように空を何度も駆け抜け、骸飛竜部隊を叩き落としていく
荒々しい天災のような炎と、無駄のない高速の斬撃の嵐に抵抗できず数万は居た死霊部隊は瞬きの間に壊滅する
僅か数分の出来事ではあったが、自分たちが死力を尽くして戦っていた死霊部隊が抵抗虚しく消し飛んでいくその光景を前に、コルネス兵たちは恐怖を覚えて立ち尽くす
「化け物…………」「どうなっているんだ!!」「お、俺は、死にたくない!!」
そして一部の兵士は恐怖心からか、声にもならない声を出し身体を大きく震えさせながら後退りを始める
「静まれぇぇい!!」
しかしそんなコルネス兵たちを正気に変える一声が、戦場に響き渡る
それは彼らの背後に立つ、豪華な鎧を着込んだ小柄な男の声であった
「貴様ら、コルネスの兵士とも在ろうものが、何をやっとるかぁ!!」
その男は複数の兵士を引き連れて戦場のど真ん中に現れると、周囲の兵士に喝を入れていく
身の引き締まるその喝に、兵士は次々を己の武器を担いで戦場に舞い戻っていく
豪華な鎧を着込んだ小柄な男はその姿を満足そうに見送ると、今度はその瞳を戦場中を駆けずり回りながら死霊部隊を千切っては投げ飛ばしていく浅井ら二人へと向ける
「部下からの報告を聞きこの場に参上したのだが、我が軍に加勢の意志を伝えられたのは貴殿らで間違いないかぁ!!」
拡声魔法や拡声器を使っていないにも関わらず、遥か先に居る二人の下に凄まじい音量の声が届く
耳鳴りを起こしかねないその声に、浅井はヘルメットの耳元を外側から抑えながらも大剣を持った手を振って応じた
そして未だコルネス兵と共に暴れ回るデオスを背後に、飛び上がっていた浅井は豪華な鎧を着込んだ小柄な男の下に速度を緩めて飛び降り、先程の質問に対しての言葉を返した
「ええ、私たちが貴軍に加勢の意を示した勢力で間違いありません」
「合い分かった。ではまず、自己紹介をさせてもらおう自分はコルネス四将の一人で名をドドザ・オーガ・シーウルルド・モーテサバットと申す。そして現在、この場の指揮権を預かっている者でもある」
「先に名乗らず申し訳ありません、では改めて私の名前は浅井宗孝です。現在背後で暴れている赤い服の人物と共に傭兵をやっております」
「傭兵? ではムネタカ殿らの目的は我らコルネスへの売り込みですかな? それならば我らとして有難い話ではありますが………」
「売り込みというのも間違った話ではありませんが、私どもの目的は貴国との対等な短期同盟です」
「対等な、それも短期間の同盟? それは………」
対等な短期間の同盟、その言葉にドドザは一気に警戒を強める
その結果互いの間にピリピリとした不穏な空気が流れ始めた
浅井はその空気を感じ取ると、脳内で己のミスを悟った
(向こうからしてみれば私たちは、正体不明の自称傭兵。そんな奴らがいきなり対等な短期同盟などと言い出したら、こうなりますよね。はぁ、もう少し段階を踏むべきでした、これは完全に私の落ち度です)
しかし浅井は少しでも現状を良い方向に持っていくために、冷静に言葉を選びながら話を再開する
「いきなり私どものようなよく分からない傭兵から申すことではありませんでした、申し訳ありません。ですが私どもとしましてもここで話がご破算になるのは避けなければなりません、ですので早々にこちらの交渉材料を提示させていただきます。
まず一つ目は、この騒動の首魁である死霊使いの居場所。そして二つ目は『白炎』デオス・フォッサマグマという戦力です」
「!? 白炎だと!! まさかあの男が国落としの白炎か!!」
白炎という名を聞いた途端、仏頂面だったドドザの表情が大きく変化する
目を大きく見開き、髭に隠した大きな口を周囲に晒す
浅井はその驚き声を荒げたドドザの姿を見て、白炎の名前が世界に知れ渡っている事を知る
そして浅井は自身が今、この交渉の手綱を握っているの確信し、更に背後で暴れるデオスに方へ腕を持っていきながら言葉の追撃を掛ける
「ええ、そうです彼が、白炎その人です。先程見られたと思いますが、あの戦いぶりがその証明です」
「うむ、確かにあの容姿と荒々しさは、伝説に名高い白炎その者であるな。しかしそれならば今度はまた別の疑問が浮かんでしまう。なぜ我らコルネス全軍を遥かに上回る力を持った白炎とも在ろう御方が、我々などと同盟を結ぼうとするのだ?」
「まずは貴国に筋を通すためです。現在貴国は戦争の真っ只中であり、そんな状況下で私どもが勝手に領内で戦いを始めれば、貴国としても私どもを捨て置けないでしょう。ですのでまず敵を同じくする貴国との対等な同盟を結びたいとそう思っております。そして次に現在この襲撃の首魁である者が所持している、宝石型のエネルギー体への不干渉を国として宣言して頂きたいからです」
「ふむ……………………。確かにそれであれば貴殿らが我らと、同盟を結ぼうとする意味が分かる」
「私たちとしてはコルネスの支援とエネルギー体を揉めることなく入手でき、貴国としても我らの戦力と情報を手に入れられます、互いにとっても悪くない内容だと思いますが如何でしょうか?」
ドドザはその条件を聞いて考えを巡らせ居るのか、顎に手を当てて黙り込んだ
そして僅か1分後、ドドザは軽く頷いてから口を開く
「では結論を言おう。我らコルネスは貴殿らの提示した全ての条件を呑み、貴殿らとの同盟を結ぶことをコルネス国側の代表として此処に宣言する!!」
この宣言によってコルネスとデオス一派の対等な同盟が結ばれるのだった
「ありがとうございます。それでは共に敵を討ち滅ぼしましょう」
「うむ、合い分かった」
そして信頼の証として浅井が差し出した手を、しっかりとドドザが握り返した
その後、周囲を囲んでいた部下から敵軍の殲滅が完了した事を聞いたドドザは、部下を引連れて軍の再編を行うためにこの場から丘の上に建てられた本部に戻っていく
浅井はその背を見送ると、今度は高速で空を飛行し己の真横に着地したデオスを迎える
「おかえりなさい、デオスさん」
「おう。それでこっちは問題なく殲滅し終わったが、そっちの交渉はどうだった、上手くいったか?」
「丁度今、交渉が終わったところで、内容としてはこちらの要求は全て通りましたので、上々といった所ではないでしょうか」
「そうか、それは良くやったな」
「ありがとうございます、これもデオスの助言のおかげです」
浅井はこの交渉を任せられた時点でデオスから『白炎』の名前を出せば、交渉を有利に運ぶことが出来ると教えられていた
「しかし今回は上手くいったから良いですが、交渉などしたことも無い一般人に任せないでくださいよ。それに私が白炎の名前を使って交渉するくらいなら、最初からデオスさん自身が行った方が良かったのではないですか?」
「確かに俺が行っても良かったが、何でもかんでも俺が行っていたらムネタカが経験を積めないだろ。だから今回は経験を積ませる為にムネタカに任せたってわけだ、分かったか? ちなみに面倒くさかったわけでは無いぞ」
「はは、了解です。今回は私もそういう事にしておきます。んん、それで話は変わりますが、今回の交渉の中で相手の方がデオスさんの事を白炎以外に国落としと呼んでいたんですが、ソレは一体?」
浅井はドドザと交渉の中で聞いた国落としという異名が何なのか気になり、目前に立つデオスに問いかけた
「ああ、その事か。それは…………まぁ、今は知らなくていい事だ。必要になったら教える」
しかしデオスは余りその異名に触れられたくないのか、サングラス越しに瞳を逸らして答えを先送りにする
浅井はその変化を機敏に捉え、デオスにとってその異名に因縁めいたものが在るのを察する
だが浅井はデオスの醸し出す雰囲気から踏み込むべきではないと判断して「分かりました。ではその時が来たらぜひ」とだけ言って話を終わらせた
そしてそれからすぐ、軍を纏め直して戻ってきたドドザが浅井とデオスに向けて言葉を発した
「ムネタカ殿我らの準備は整いました。いつでも出撃できます」
浅井はその言葉に頷くと、周囲のコルネス兵に向けてデオスを紹介する
「了解しました。ではすぐに共同作戦の説明に移りますが、ここからの進行は私ではなく隣のデオスさんが行います」
「紹介に預かった、デオス・フォッサマグマだ。これから敵死霊使い討伐の作戦の説明を行う。ではまず――――――」
そして堂々たる姿でコルネス兵の前に立ったデオスは、彼らへ見渡しながらこれから始まる大規模な作戦の説明を開始した
――――――――――――――――――――――――――――
上空14000m付近
浅井とデオスの両名は、無駄な体力やエネルギー消費を抑える為にコルネス軍の操縦する戦闘機にしがみつきながら目的の山岳地帯へ向かっていた
当たり前だがそんな高度をマッハで移動する彼らには、凄まじい風圧が襲いかかっていたが、二人は強靭な身体と鎧で影響を受ける事は無かった
そしてこれから起こる戦闘の為に精神統一をしていた二人の下に、しろがねの声が響く
「目的地まで後1800m。動力源の位置は目前の山の中腹部です」
続けて浅井のヘルメット内のモニターに、しろがねの動力源の位置が示された情報が浮かび上がっていく
浅井はそれを確認すると、横に居るデオスと操縦席に座るパイロットに合図を送った
手信号で表されたその合図をパイロットが確認したのと同時に、浅井とデオスは戦闘機から手を離して空へ身を投げ出す
そして続けて落下を始めた二人は、それぞれの方法で空を飛行する
浅井は背中のジェットパックを点火し、デオスは全身から吹き上げた蒼い炎を推進力に変える
そしてお互いに位置の調整をしながら、目的地点である山の中腹部へ向かって一気に加速を始め、残り20㎞程の位置に辿りつた時だった
浅井のヘルメット内に警告が届く
「ムネタカ様、目標地点から強大な魔力反応が確認されました。狙いは私たちです」
その警告通り山の中腹部に、青い魔法陣が浮かび上がる
禍々しくも美しいその魔法陣の出現を確認した二人は、一切の動揺なく淡々と予定された行動を開始した
「ではデオスさん、作戦通りに動きます」
「ああ、頼んだ」
デオスはその場で炎を逆噴射して急停止し、浅井はそのデオスの横を素通りして山の中腹へ突撃して行く
そして彼らが作戦に移ったそのコンマ数秒後、強烈な殺意と共に魔法陣から出現した無数の巨大な骨の棘が、浅井たちに向けて撃ち放たれた
「2秒後来ます」
モニターに刻まれる無数の予測線、その全てが撃ち出された数万本にも及ぶ骨の棘であった
浅井はその予測線を確認すると、即座に実体化した大剣を左側に構える
そして骨の棘との接触の瞬間、全力で大剣を横に薙ぎ払った
「シィッッ!!」
横薙ぎ一閃
轟音が鳴り響き、飛び散る骨の残骸
僅か一振りで、飛来した骨の棘の3割が消し消える
更に浅井はその一撃では止まらず、続けて2撃目、3撃目と大剣を振るう
その結果、隙間なく撃ち出された骨の棘の壁は僅か3振りで消滅した
――――――が、
「二撃目来ます!」
しかし、隙間なく先ほどより濃い魔力反応が山の中腹部から放たれ、先程の魔法陣が今度は山全体に出現する
その数、合計75門
浅井へ対し「先程は見事、しかし次はどうする?」と挑発するかのように、簡単に展開された全ての魔法陣から骨の棘が撃ち出される
単純計算で先程の75倍の量の骨の棘は、浅井の予測込みの対処能力を上回っていた
しかし脅威に対した浅井の顔には、一切の動揺が見られなかった
それはなぜか、その理由は即座に判明する
「では頼みます」
「ああ、後は任せろ! 焔ノ
言葉を残して一瞬減速した浅井の背後から、デオスと共に蒼い炎で形造られた八つの大蛇が現れ、そして浅井を通過して目前に迫った数百万の骨の棘と衝突する
焔ノ
「オラァァ!!」
衝突の瞬間、骨の棘は煮え滾る炎の熱量によって焼き消えていき、まるで骨の棘の弾幕など最初から無かったかのように焔ノ
そして余裕で骨の棘の弾幕を突破した焔ノ
続いて浅井もその一撃の衝突に合わせて降下を始める
山一つ消し飛ばす威力の攻撃後なのにも関わず、浅井が動き理由は一つ
今だ炎と黒煙立ち昇る中に、揺らぐ魔力反応の存在だった
(やはり今の一撃では死にませんか。ですが)
「これで!!」
炎を突っ切った浅井は、一時的に炸裂させた魔力爆発と落下の速度を乗せた上段からの一撃を、黒煙が吹き荒れる視界不良の中でモニターに映る魔力反応目掛けて振り下ろした
「ッ!!」
だがその大剣の刃は魔力反応に当たる寸前に、何か硬い物に衝突して阻まれる
そしてその何かを砕きはしたものの攻撃は防がれた浅井は、即座に大剣を構え直してもう一度攻撃を放とうとした
しかしその一撃が振るわれる前に、しろがねの行動予測による警告が浅井のモニターに届く
場所は浅井の足元、地中からだった
「これは!!」
即座に浅井は攻撃を中断して、背後に飛び退いた
その瞬間、地中を割って跳び出した無数の骨が集合して形造られた巨大な腕が浅井へと伸びる
それを浅井は地面に着地した後、大剣による連撃を放って巨大な骨の腕を細切れにしていくのだが、その骨の腕は即座に散らばった骨を再度取り込んで再生し、浅井を粉砕せんと襲い掛かる
浅井はそのしつこさに眉を顰めながらも、対処為に姿勢を低く変え大剣を力強く握りしめた
そして重い一撃を放とうとしたその時、空から墜ちてきた蒼い炎の塊が衝突して骨の腕を一瞬で塵に変える
その後、浅井は舞い上がった塵の中からゆっくりと歩いて来たその青い炎の正体であるデオスに声をかけた
「すみません、助かりました」
「おう」
「それで作戦の第一段階はこれで終わりましたが、流石にこの程度では倒すこと出来ませんでしたね」
――――まず、最初に俺たちが上空から敵首魁に奇襲を掛ける――――
それが作戦の第一段階目であった
そしてその作戦が終わりはしたものの、いまだ彼ら二人の前には魔力反応が健在であった
「まぁ、だろうな」
そして二人は共に並ぶと、晴れだした黒煙の先を睨む
そこには焼け焦げて半壊した骨の球体がどっしりと構えており、その骨の球体の壊れた隙間からは無数の青い光が不気味に揺らめいていた
青い光は二人の視線に対して睨め返すように輝きを強める
そしてその直後、開いた骨の壁の内部から骨の腕がゆっくりと姿を現した
その後、バキバキと骨の壁に出来た穴を拡げながら這い出てきたのは、豪華なローブを着込んだ巨大な体躯の上に無数の頭蓋骨を乗せた異形の怪物だった
視界に入れるだけで精神を削っていくような姿の怪物の登場に二人は、一気に警戒心を強めた
そして完全に骨の球体から外の世界に降り立った怪物に対して、デオスは言葉を投げかける
「よう、お前がこの骸共の首魁か?」
その言葉に反応するように、骸の隙間から玩具で遊ぶ子供の様に楽しそうな嗤い声が漏れた後、嗤いが混ざる老人の声が続いた
「カカカカ、カカカカカカ! そうだとも、お前の言う通り儂がこの骸たちの王、アルバーニ・コープスである!!」
「アルバーニ・コープスだと!」
「知っているのですか?」
骸の王が名乗った名前を聞いて目を見開いたデオスに、浅井は質問を飛ばした
「ああ、アルバーニ・コープスといえば数十億年前から一定の周期でアンデットを引き連れて現れ、世界各地に死を振りまく神話の怪物の名前だ」
「本物ですか?」
「あの規模の死霊魔法、そしてあのどす黒い気配、間違いなく本物だろうな」
わずか数日前に神話の光景のような戦いを起こしたデオスに怪物と言わせる、目前の存在に浅井は更に警戒を強め、手に持つ大剣に力を込めた
「さて、話は終わったかね。それでは儂を愉しませてくれ、若人よ!!」
そしてその骸の王、アルバーニと名乗った怪物は突如、演劇のように両手を開くと呪文を唱え始める
その詠唱に二人は即座に反応した
まず浅井はその場から大剣を構えながら跳び出し、デオスは手に溜めた炎を撃ち放つ
「フッ!!」
「させるかよ!!」
しかし二人の攻撃は地面から勢いよく飛び出した分厚い骨の壁に阻まれ、アルバーニの下に届かなかった
「【totyos[mish]mi】 【totohtokyosrmisiya】 【hatryosrkokofu10nanayossmisy-hatyosi】」
そしてしろがねの翻訳機能ですら聞き取ることのできない、酷く不気味な言語で紡がれたアルバーニの呪文が、発動して周囲の景色を大きく変えた
「これは………………」
世界が分断され、星空が闇に覆われる
そしてガラガラと異音を上げながら地上の三人を隔離した物の正体、それは
――――――半径50㎞にも及ぶ骨で出来た天幕であった
そしてその天幕を作り上げた相手であるアルバーニは目を光らせとても楽しそうな声で、浅井たち2人へ言葉を投げかけた
「始めよう、儂かお前たちか、そのどちらかが死ぬまで続く愉しい愉しい死の遊戯を。カカ、カカカ、カカカカカカカカカカカ!!!!」
骸は嗤う
「デオスさん」
骸は嗤う
「ああ」
今だ嗤い続けるアルバーニを前に目配せを行った二人は、目前の骸の王目掛けて今行える最大の一撃を放った
「死になさい!!」
「死に晒せ!! 灼熱死流!!」
そして二人が放ったこの攻撃が、デオス&浅井宗孝&コルネス連合軍対骸の王アルバーニ・コープス戦、その開始の合図になったのだった
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