第13話 介入
翌日、デオスと浅井の二人はホテル『Favnir』を後にし、タルケンテラ首都ゼーデルフィの外れにある通称「
鉄錆区はかつて好景気に建設されるも、その後すぐに起きた経済崩壊の影響で放置された幾つもの建設途中のビルが建ち並び、更に職を失った人間や多くのならず者たちが居場所を求めて住み着いたために治安が悪化し、現在は無数のマフィアが根城を置くせいで国の警備兵ですら容易に介入できない危険な地帯となった地区である
そんな観光客どころか現地人ですら近寄らない危険な地区へどうして二人が来たのかというと、それはこの地区の奥に建てられたクラブに居るこの国一の情報屋に会うためであった
そしてこの地区に足を踏み入れて30分後、浅井たち2人は無数の視線に当てられながらではあったものの、一切の襲撃なく目的のクラブへと到着した
(一度足を踏み入れれば生きては帰っては来れない、そう言われてる場所ではありますが、流石に私たち二人に手を出してくる方は居ませんでしたね)
浅井の言う通り、この地区に足を踏み込んだものは皆ここに住むマフィアの構成員や殺害癖を持った通り魔に殺害され屍に変わり果てるのが常であった、しかしそんなこの地区の住民ですら見ただけで全身に悪寒を走らせ生物としての格の違いを押し付けてくる真っ赤な人の姿をした怪物と、背中に巨大な大剣を担ぎ、更にその動きに一切の隙の見せない異質な鎧を着た人物へ流石に襲撃をかける事は無かった
「それで、ここが目的のクラブですか」
「そうだ。それと今回は俺が情報屋の相手をするからムネタカの出番は無い」
「分かりました」
「じゃあ、入るぞ」
そして僅かな会話の後、二人は分厚い扉の横でデオスを見て冷や汗を掻き動けなくなった門番たちの横を通り過ぎて、クラブの中へと踏み込んだ
クラブの内部は天井に設置された無数のライトが地上を照らすように輝き、耳障りなほどに煩い陽気な音楽が流れていた
更に多種多様な種族の客達が隙間なく居り、そんな客達は流れる音楽に合わせて踊っていた
浅井たち2人はその客達を掻き分けるようにして進むと、奥あるバーカウンターの前で立ち止まり、前に立つデオスがカウンター内でグラスを磨く熊顔の巨漢に声をかける
「注文を頼む。メルべスとシャネーゼングリーンを一つずつ」
「シャネーゼングリーンは非常に度数の強いお酒ですが構いませんか?」
「ああ、構わない」
「分かりました。ではこの札を持ってカウンター横の扉から階段を下りてください。その後、廊下奥の緑の扉に札をかざしてから部屋にお入りください。そこでお酒を用意させておきますので」
「そうか」
熊顔のバーテンダーと会話し緑の札を受けとった二人は、指示通りに階段を下りて廊下を抜けると、一番奥にある緑の扉に札をかざしてから扉を開ける
そして部屋に足を踏み入れた二人を待っていたのは、豪華な衣装に身を包む白い鳥の獣人であった
鳥の獣人は部屋の真ん中に鎮座するように置かれた巨大なソファに寝転んでおり、二人が入ってきたのに気が付くと、陽気な声音で話し出す
「やあ、やあ、お二人さん。よく着なさった、それでこの国一の情報屋である僕に何を聞きに来たのかな?」
「一応先に聞いておくか。後ろの鎧の胸に着いた青い宝石に見覚えは?」
デオスの言葉を聞き、鳥の情報屋はデオスから浅井の胸元へと視線を変える
そして僅かな間を置いてから言葉を返した
「ふむ、ふむ、確か似たようなのがアデレア星の市場に出回っていたが」
「それは知っている。他には?」
「無いね。残念だが」
「なら、最近コルネスの………あの辺りだと確かメートリールだったか。で、そのメートリール近郊で青い流れ星が目撃されてないか?」
「ああ、ああ、それならコルネスの地方都市メートリールで目撃されているが………、何故この星に昨日来たばかりの君たちがそんなに詳しく知っているのかな?」
「その事だが俺たちは別に青い宝石を探すためにアンタに会いに来たわけじゃない。もう大まかな場所は分かってる」
デオスの言葉通り二人はこの星に降り立った時点で、しろがねの探知能力により動力源の大まかな位置を把握していた
「では、では、何故ここに来たのかな?」
「これから俺たちはコルネスの方へに向かう。だがその前にコルネスの現状を聞きたい。だいぶごたついてるんだろ」
「……………そういう事か。それなら任せたまえ、ある事ない事全て教えよう」
「いや、ある事だけにしてくれ」
「君は冗談が通じないな。………………さて、さて、気を取り直してコルネスの現在だが完全に戦争中だな。軍が出撃してる」
「敵は? どこの国だ?」
「いや、いや、国ではない。コルネスを襲ったのは死体の軍勢さ」
「死体の軍勢……………集団ではなくか? 自然発生ではないと断言できるか?」
「ああ、ああ、できるとも。まずこれを見てくれ」
そう言って鳥の情報屋は手を広げる
するとその動きに合わせたように空中に、無数のホログラムが浮かび上がった
(あれはコルネスの地図でしょうか?)
「これは、死体の軍勢が大々的に出現したメートリールという都市周辺の地図なんだが。まず奴らはこの都市に来る前に周辺の複数の村を襲っている。そこで死体を確保してからメートリールを襲撃した。その後、更に規模を増やした奴らは、この平原でメートリールからの救援信号を受けた近場の基地から出撃した軍隊と衝突するんだが、その時の全体の動きがこれだ」
そこで鳥の情報屋の操作により、死体の軍勢と対峙したコルネス軍の動きを再現した俯瞰映像が再生される
そしてその後、映像を見ていたデオスがポツリと呟く
「動きに知性があるな」
その言葉に反応するように笑った鳥の情報屋が、デオスたちに向けて指を鳴らす
「そう、そう、それが答えさ。こいつらは自然発生したアンデットの集団などではなく明確に指揮系統を有する軍勢ということさ」
「なら首魁の正体は死霊使いで間違いないか?」
「恐らくは」
「恐らく? 首魁の正体を断定出来る情報はないのか?」
「ない、ない、斥候を飛ばしたが近づいたものは皆情報を残せないまま一瞬で殺された。だから僕が知っているのは首魁の正体が高い確率で死霊使いという事と、その首魁が操る軍勢によって複数の街が滅んだことだけさ。ああ、ああ、期待外れだとか思わないでくれよ」
「いや、これだけ情報があれば十分だ」
「それなら結構。では他に聞くことあるかな?」
「いや、もう無い」
「そう、そう、なら後は情報代を払ってもらうだけなんだけど……………今回の情報は新鮮だから1億くらい吹っ掛けておこうかな。で、で、現金払い? 僕の所は振り込みもやってるからそちらでも構わないよ」
「現金で払わせてもらう。確認してくれ」
デオスは持ち込んでいたアタッシュケースを鳥の情報屋に投げ渡す
それを慌てるように受け取った鳥の情報屋は、アタッシュケースを開けて中身を確認すると「確かに1億受け取ったよ」と嬉しそうに答えた
二人はその言葉を聞くと早々に部屋を後にし、クラブから出ると急ぎ首都ゼーデルフィの門へと向かった
そして二人は目的の正門へ到着すると、宇宙船の貨物庫に乗せて持ち込んだデオス所有のバイクに飛び乗った
「それで今、反応はどの辺にある?」
デオスは赤い華が彫られた木のストラップが付いた鍵を差し込み、バイクのエンジンを掛けながら、しろがねにそう問いかける
「コルネスの首都メリーゼから西に700㎞程の位置です」
「そこから移動はしてるか?」
「いえ、8時間前に100㎞程移動してからは、同じ地点に留まっています」
「ならそこに向かって行くぞ」
「了解しました。それと近場に行けばもっと正確な位置をお知らせできますので、その時はすぐにお伝えします」
「分かった。じゃあムネタカ、今からあの大トカゲの時よりもスピード出すから、しっかりと掴まっておけ」
「了解しました」
そして一通りの確認が終わったことでバイクが動き出し、浅井たちは首都ゼーデルフィを後にして、しろがねの動力源が眠るコルネスに向かうのだった
――――――――――――――――――――――――――――
3時間後、二人はタルケンテラとコルネスの国境を抜けて、コルネス国内へと侵入を果たしていた
そして二人がコルネスに入ると、雲一つない青空に黒いが雲が太陽を覆うように現れ、更に荒々しい冷たい風が吹き始める
(僅か数分でここまで変わりますか。――――――ん? これは………)
様変わりする景色、そして続くように降り始めた雨粒を遮るために手で顔を覆った浅井の下に、風に乗って腐臭が届く
まだ遠くから香る程度であったが、それでも鼻を刺激する不快な匂いに浅井は顔を背けながら、前の席でバイクを操縦するデオスに声をかける
「デオスさん、この匂いは………………」
「ああ、死臭だな。しかしまだ距離があるだろうにこの香り方、だいぶ死んでるな」
(現在コルネスは推定死霊使いからの襲撃を受けています。そしてデオスさんの発言からこの匂いの発生源は死体で確定と見て良いでしょう。ならばこの先に待っているのは本隊では無いかもしれないですが件の動く死体の軍勢で恐らく間違いないですね)
浅井はデオスの発言とここに来る前に得た情報を下に思考する
そして浅井が結論を出すとほぼ同時に、しろがねの声が周囲に響く
「お二人とも、ここから約30㎞先で戦闘が起きていますのでご注意を」
「おう」
「了解です」
(戦闘、という事は私の予想は当たってそうですね)
「ムネタカ、このまま戦場に突っ込むが準備出来てるか?」
「ええ、いつでもどうぞ」
「良し、一気に行くぞ」
そして二人が乗るバイクは更に速度を上げると、死体蠢く戦場へと向かって行くのだった
―――――――――――――――――――――――――――――――
「森林部の部隊が敵死霊部隊と遭遇し、これを撃破しました。死者158名重傷者78名軽傷者234名です」
小山に建てられた急造のコルネス軍の司令陣地に声が響く
それは自軍が敵軍を破ったという報告だった
その喜ばしき報告に対して、司令陣地内に置かれた机に集結していた兵士のうちの一人で他の兵士よりも豪華な鎧を身に着けた小柄な男が口を開く
「そうか、それならすぐに死体を焼却させろ。敵死霊使いに利用させるな」
「は、すぐに」
「ロイ、斥候部隊からの報告は?」
「敵主力部隊は依然変わらず平原の反対側で動きを止めています。しかし上空からの偵察により森林部近くで停止していた敵別働部隊が移動を開始したのを確認しました」
「なら先程の森林で戦闘した敵部隊の目的はこちらの力量を測るためか。そしてその戦闘後に動き始めた敵部隊の行動理由を考えると……っ、すぐに平原の全部隊に伝えろ敵主力部隊が動くと」
「はっ!!」
そして司令官であるその小柄な男の指示が飛んでから十数秒後、平原の反対側にてコルネス軍と睨むようにして止まっていた死霊部隊約3万が動き出す
「敵主力死霊部隊、動き出しました!!」
「航空部隊が敵飛竜部隊と交戦を開始しました」
「戦車部隊と敵騎馬部隊と交戦!!」
「森林部にて交戦を確認!!」
次々に飛び交う報告に司令部の面名が対処していく中、機材の前に座って報告受けていた通信兵の一人が大きな音をたてながら司令官である小柄な男の前に走り込んで来た
「どうした!!」
「先程、航空部隊から報告がありまして。敵飛竜部隊が、突如現れた二名の襲撃者によって壊滅しました。そしてその襲撃者二名は前線の兵士に「加勢します」とだけ伝えた後、敵騎馬隊と交戦を始めたそうです」
「どういうことだ?」
いきなり伝えられた意味の分からない報告に対して、困惑を隠せないままの司令官の小柄な男はすぐに司令部から飛び出して目撃する
「な、何だあれは………………」
死霊部隊を炎で消し飛ばしていく赤いスーツの男と、高速で移動しながら敵を切り刻んでいく銀色の鎧の姿を
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