第12話 新たな星
港町でのトリプル・ヘッド・ドッグ組との死闘から6日後、動力源を取り込み強化されたしろがねの探知能力が指し示す方角を頼りに、浅井たち2人はアデレア星を離れて次の星へと向かう宇宙船の中に居た
そして今、浅井はその宇宙船のラウンジの窓から見える景色に目を奪われていた
「美しいですね」
「確かそっちで宇宙に行けるのは、ごく一部の人間だけなんだっけか?」
背後からかかった声に浅井は窓から視線を切って、振り返った
そして振り返った先に居た、デオスへと言葉を返す
「ええ、地球では宇宙飛行士と呼ばれる職業と少数の富豪だけしか行ませんでした」
「だとするとこの移動は、ムネタカにとっては良い経験になるな」
「ええ、とても。向こうに戻ったら自慢になります」
「そりゃあ、良かったが信じてもらえるか? なんなら写真撮っておくか?」
「それなら大丈夫です。もう撮ってます」
そう言って浅井はズボンのポケットから取り出したスマホを、デオスに向けて放り投げた
するとそのスマホは無重力の中をフワフワと浮かびながら、椅子に座っていたデオスの手の中に収まった
「思ったより綺麗に取れてるな」
「そうでしょう、まぁ流石にこちらの技術には負けますが」
「そりゃあ、地球と違ってこっちは何でもありだからな。魔法とか超能力とか、後は魔物とか」
「確かにそう言われるとそうですね」
その時、会話を行っていた浅井の中に疑問が浮かんだ
それはこの世界の事であり、この世界に来て1週間程の時間が経過したが、まだ見聞きしたこと以外にこの世界を知らなすぎると思った浅井は、いい機会だと未だにスマホを眺めていたデオスへ声をかけた
「デオスさん、今まで色々とごたついてこの世界の事を聞けてなかったので、今更ながら聞いても良いでしょうか?」
「ああ、良いぞ。というかすまんな、本当ならもっと早く説明しとくべきだった」
「いえ」
「じゃあ説明を始めるか………って、その前に飲み物でも取るか」
そう言ってデオスは手を上げて近くの乗務員を呼ぶ
するとすぐに窓際のテーブルまで来た乗務員が、浅井たち二人に向けてホログラムのメニュー表を向ける
「そうだな、俺は800年物のトーゼロをボトルで」
「私は………」
デオスに続いて浅井も頼む物を決めようとしてはいたが、メニュー表にはしろがねによって自動翻訳されたものの浅井の知らない食材の名前が並べられた為に決められないでいた所、デオスから話が振られる
「酒は飲めるか?」
「いえ未成年ですので。飲めませんし飲んだこともありません」
「だったら、そうだな。甘いのは好きか?」
「ええ、好きです」
「それなら、後コゴリアの炭酸割りを一つ」
「承りました」
そしてデオスの注文後に乗務員が下がってから1分と経たずに二人の座るテーブルに、注文品が届けられる
その後、ボトルから酒をグラスへ注いだデオスが話を始める
「まず、この世界だが俺達は皆こう呼んでる『ヴォーデュガ』と。それでその世界が出来たのは今から約500億年前、流石に俺もまだ生まれてないから正確なところは知らないが、そう教えられた。
で、その上では数えきれない程の人種が文明を築いて生活している。当たり前だが彼らはその星に強く結びついた文化、教育、技術を生み出しているが、流石にその内容については大事な数種類だけ紹介して後は時間が足りないから割愛する。
それで、紹介するのは魔法や超能力や精霊術みたいな力の事なんだが」
そこまで言うとデオスは一度、グラスに注いでいた酒を一気に飲み干す
そしてその後、懐から取り出した煙草に指先に灯した炎で火を点けると、その煙草を吸いながらまた説明を再開した
「で、魔法の発動には魔力と呪文が必要、超能力は体力とか精神力みたいなものを消費する。そして精霊術とか呪術などの魔法の遠縁みたいなものには贄が必要になるんだが、ここで問題だ。さっき俺が見せた炎が何に入るかわかるか?」
そこで浅井はデオスが今まで炎を使ってきた場面を思い出しながら、1、2分程考えて結論を出した
「今の解説を踏まえると超能力でしょうか?」
「まぁ、大体正解だな。俺の種族は悪魔っていう、魔物の派生みたい種族なんだが。その悪魔は皆それぞれ固有の力を持っている。俺のは見ての通り炎を生み出し扱う力だ。まぁ、例外もそこそこ有るんだが大体こんな感じで相手の能力が分かるから覚えておくように」
「了解です」
「で、次に魔物の説明だが。魔物は動物とは違い魔力を体内に持っていて―――」
―――――――――――――――――――――――――――――――
そして説明開始から1時間後、二人は新たな星であるフシューラ星へと降り立った
「それで、確かここはタルケンテラって名前の国でしたよね」
「ああ、そうだ」
「ん? でも確か前日に話していた国とは違いますよね、途中で変更になったんですか?」
「それなんだが、今日の早朝に行こうとしたコルネスって国が突然、国交を停止してな。そのせいで急遽変更せざるを得なかった」
「それは残念ですね。ちなみにコルネスとはどういった国なんでしょうか?」
「それでしたら私の方から説明を。先程、観光パンフレットをスキャンしておきました」
浅井はその一言で、そういえば自分が説明会を受けている間に横で、凄まじく分厚いパンフレットに光当ててましたねと、十数分前の記憶を思い起こした
「では、お願いします」
「はい、お任せを。それではまずこのコルネスとはフシューラ星の北部に位置し、8000年前から残る
捲し立てるように話すしろがねの説明に浅井はやや圧倒されつつも、その説明を脳内で噛み砕きながらコルネスという国に対して理解を深めていく
「話を聞いてるだけで良さそうな所ですね。後、シチューは好物なので食べてみたかったです。名物になるほどの物なら尚更惜しいですね」
「まぁ、そう残念がらなくて大丈夫だ。なんとこの金属の国タルケンテラにもシチューではないが絶品の食事が多くあるからな」
「本当ですか?」
「ああ、本当だ。肉でも魚でも何でもあるぞ。どこが良い?」
「では、肉で。分厚いのであれば尚更」
「任せろ。分厚いのなら、旨味亭ハチドリだな。あそこのステーキは絶品だ」
「ハチドリですか? そこであれば私に案内任せてください。パンフレットに書いてありましたので」
「良し!! それならしろがねの案内に任せて早速出発だ。行くぞ、ムネタカ!!」
「ええ、行きましょう!」
――――――――――――――――――――――――――――
そしてタルケンテラの目値へ繰り出した二人は、最初の目的地である旨味亭ハチドリに入店する
「これは、美味です!! 今まで食べたどのステーキより美味です!!」
「そうだろ!! ここは別格なんだよ。大将、8人前追加で!!」
絶品のステーキを浅井は3人前、デオスは22人前の合計25人前を2人で食し………………
「とても巨大な塔ですね、しかし何故先端が王冠のように分かれているのでしょうか?」
「解説します。この建物はタルケンテラ首都ゼーデルフィの防衛機構で、名を銀杭の冠と言います。敵が進行してきた時にはこの銀の王冠から数万発のミサイルが発射されるようです」
「数万発ですか…………、それは凄まじいですね」
次に街の中心に立つ銀の王冠と呼ばれる防衛機構を遠くから見物し……………
「キイェェェェェェェェェ!!!!」
「誰か助けて!! 変態が出たわ!!」
「何であいつら裸なんだ!! 誰か警備隊を呼んでくれ!!」
「良く分からんが、ムネタカ助けに行くぞ!!」
「ええ、しろがねさんお願いします」
「はい!!」
最後に観光途中で謎のテロ組織『本来の美姿』と呼ばれる変態集団と激闘?を繰り広げるのだった
その後、二人は到着した警備隊らに変態たちの身柄を預けると、デオスのおすすめのホテルへ歩を進めた
――――――――――――――――――――――――――――
そして街の中心部、宝石街と呼ばれる無数の高級店が建ち並ぶエリアの中で最も格が高いホテル『Favnir』にて
「今日は色々ありましたね」
「ああ、本当にそうだな」
予約していた部屋に入った二人は、今日の出来事を肴に飲み会を開いていた
そして他愛もない話を繰り返して盛り上がり、2時間後
「それにしても、あの本来の美姿?って集団は一体何だったんでしょうか。正直、精神的疲労だけで言ったら港での戦いよりも彼らとの戦闘の方が大きかったですよ」
「聞いたところによると、この国の創成期直後から暗躍しているらしいぞ。アイツら」
「本当ですか、それは何ともまぁ………酷い話ですね」
「だろ、この国の歴代警備隊たちの苦労が思い知れるよ、って、もうこんな時間か」
壁にかかっていた時計の時刻を確認したデオスが声を上げた
そしてその言葉に反応して振り返った浅井も時刻を確認すると「流石に明日も早いですし、そろそろお開きにしますか」と続けて発言する
「そうだな、じゃあさっさと片付けちまうか」
「分かりました」
その後、片づけを終えた二人は、互いの寝室へと消えていくのだった
そして自室のベットに倒れ込んだ浅井は、出来る限り早く眠ろうと早々に目を瞑って微睡みの中に入って行こうとした
しかし慣れない環境であった為か、全く眠ることが出来ずにいた
「眠れませんね。はぁ、仕方ありません少し外気でも浴びに行きますか」
目をつぶって静かにしていた浅井はそう呟いた後、諦めたように勢い良く起き上がると、バルコニーへと歩みを進めた
そして全身を冷やす冷たい外気を浴びながら手すりに寄りかかった浅井は、手に持っていたスマートフォンのアルバムを開き、中の写真に視線を移していく
ゆっくりと、思い出に浸かるように時間をかけて動いていた指が一つの写真を画面に映したところで止まる
そして優しい瞳を浮かべた浅井が見つめたそれは、浅井の母と父が写る、何気ない日常を切り取った家族写真だった
その家族写真へ数分、視線を落としていた浅井は、深く息を吐きながら視線を上げると胸の中に居るしろがねへ呼びかけた
「しろがねさん、起きてますか?」
「はい、起きていますよ」
「もし、良ければですが………………少しだけ、私の話を聞いてくれませんか?」
「………………ええ、私で宜しければ幾らでも」
「ありがとうございます」
感謝の言葉を述べた浅井は、一度目を閉じ息を吐いてからぽつぽつと話始める
「しろがねさん、私と貴方が出会ったあの日、会話の中で私がどうしても戻らなくてはいけない理由があると言ったのですが覚えていますか?」
「ええ、覚えています」
「そのどうしても戻りたい理由とは、母の事なんです」
「お母様ですか?」
「事細かに説明すると時間を喰いますから、手短に説明します。私が生まれるより前、時間にすると34年前に母の姉、私からすると叔母ですね、が行方不明になったんです。それも8歳の母の目の前で一切の痕跡を残さず突然に」
「見つかったんですか?」
「いえ、今も消えたままです。それで事件後、私の母は相当に参ってしまいまして、父と出会うまでは相当苦しんでいたようなんです。母からもその件で、居なくならないでねと言われた事もあります。それなのに私までもが約束を破り、叔母と同じ様に消えたっきり戻らなければそれはとても酷い話だと思いませんか?」
「そう、ですね」
「ああ、しろがねさんを責めているわけではないですよ、それだけはどうか誤解なく。私はしろがねさんの事も母と同じ様に大切に思っていますから。あの日言葉通りに、絶対に全ての動力源を集めきって記憶を取り戻しましょうね」
そう言って浅井は、胸元のしろがねに向けて優しく微笑んだ
しかしそんな浅井に対して、しろがねは動揺したように言葉を返す
「どうしてですか? お母様ならともかく、貴方を巻き込んでしまった私にまでどうしてムネタカ様はそこまで出来るのですか?」
「ん? それはさっき言った通り『大切なしろがねさんの為』だからですよ」
「そこに自分自身は入っていますか?」
「それは………………ああ、そういう事ですか。でしたら気にしないでください、私はずっと昔から誰かの為に生きてきましたから。そういう人間ですから」
「それでは………………………………、分かりました。では巻き込んだ私が言うのもアレな話ですが、この旅の中で誰かの為とか約束だからではなく、ムネタカ様自身の願いを見つけませんか?」
浅井はその言葉に面を喰らったように固まるも、すぐに笑みを浮かべる
そして何度か僅かに頷くと、しろがねに向けて言葉を返した
「今はまだそう言われたから探し始めますが、……………この旅の終わりまでには誰かの為ではない私だけの願いを見つけてみる事にします」
「はい、共に頑張りましょう!!」
そしてこの話を最後に、二人はバルコニーから部屋に戻ると、明日に向けて目を瞑り深い眠りに入るのだった
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