第9話 狂犬/白炎
高熱の青い炎が海のように広がる建物の残骸の上で、デオスとジョエルの二人が殺し合っていた
「オラァァァァァァァ!!」
デオスは炎で加速させた拳を高速で撃ち出し続け、その手数は僅か数秒間の内に600発に達した
更にその一発一発が灼熱を纏っており、触れたもの全てを一瞬のうちに炭化させる程だった
それに対して異形化したジョエルの振るう六本の腕は、何の超能力も無しにただの筋力だけでデオスと同程度の手数とそれ以上の威力を実現していた
更にジョエルにはその規格外の身体能力だけではなく、炭化させられた箇所を瞬きの間に元通りに直す再生能力も持っていた
そしてそんな強大な能力を持つ二人の男達の殴り合いは、デオスの手数の隙間を縫って拳を撃ち込んだジョエルに軍配が上がった
「「「ガァァァァァァァァァァァ!!」」」
咆哮と共にデオスの腹部に撃ち込まれた拳は表面を抉りながら内臓を揺さぶり、そして炎が纏わった肉体を背後に数㎞吹き飛ばした
「ガハッ!!」
口から大量の血液を吐き出しながら吹き飛び地面を転がるデオスは、その途中で炎を噴射して勢いを墜として停止すると、即座にデオスを追って跳んで来たジョエルに対して巨大な炎を放った
「
デオスの肉体から地面を通して吹き上がった炎の柱は八つに分かれると、全てが巨大な蛇の姿となって追ってきたジョエルを喰い殺さんと一斉に襲い掛かる
うねりを上げて口を開いた炎の顎に対して、ジョエルは六本全ての腕を振るって起こした斬撃でその全てを掻き消した
だがデオスも焔ノ大蛇が迎撃されることを想定していたのか、ジョエルが迫る炎の顎に対処しているうちに懐へと潜り込んでいた
そしてジョエルの隙を突いたデオスは、その巨大な胴体へ向けて拳を放つ
「
炎によってブーストされ高速で撃ち出された六発の拳は、ジョエルの肉体へとぶつかると巨大な爆発を引き起こして周辺の建物ごとその身を破壊していく
更にその一撃を喰らって後方へ吹き飛ばされたジョエルが、大きく態勢を崩しているうちに距離を詰めたデオスが、吹き荒れる炎を纏いながら追撃を仕掛けた
「
デオスは降下の勢いを利用した蹴りと共に、脚に集めた炎をジョエルの肉体に撃ち込む
「「「グガァァァァァァァ!!」」」
そして消えない炎に焼かれて苦悶の声を上げたジョエル、その顔面に向けて更にデオスは必殺の一撃を加える
「まだだ、
青い炎で創り出された巨大な拳は、衝撃波を起こし周囲を焦土と変えながらジョエルを叩き潰した
その瞬間、威力に耐えきれなくなった地面は陥没し大穴を開ける
続けて上部に居た二人は、地下の空洞に落下していくのだった
そして港の地下空洞にて
突然、足元が無くなり1㎞近く下へと落下した二人の周囲には歴史を感じさせるほどに古い遺跡が広がっており、その遺跡たちは天井の大穴から降り注いだ大量の火の粉に照らされて幻想的な雰囲気を見せていた
だがそんな誰でも目を奪われるような景色の中ですらデオスとジョエルの二人は、目前に立つお互いの姿から目を離すことは無かった
そして周囲に火の粉が降り注ぐ中、睨み合っていた二人はゆっくりと動き出す
お互いに徐々に速度を上げつつ距離を縮めていく
そして互いの距離が1㎞を過ぎた瞬間だった、デオスが咆哮を上げる
先手を取ったのは、デオスだった
「
デオスは、中距離から手に集めた炎を振るう
地面を滑りながら津波のように広がった灼熱は、デオスに向けて一直線に走るジョエルを飲み込んでいく
その灼熱は触れただけで全てを焼き尽くす高熱を持っており、そんな中に入れられた生物はどんな再生能力が有ろうが一瞬で焼失する筈であった
だがそんなことなど知らんと、その灼熱を切り裂いてボロボロのジョエルが笑い声を上げながら跳び出す
そして今だ消えぬ炎に身体を焼かれながらも三つの顔全てに凶悪な笑みを浮かべたジョエルは、目にも止まらぬ速度でデオスの目前に移動すると、巨大な建築物の柱のように太い脚でデオスの上半身に蹴りを放った
その蹴りはビル数棟を一撃で粉砕する威力を持っていたが、デオスは炎で強化した腕を上手く使い受け流した。すると、その影響で行き場を失った蹴りは地面を粉砕して巨大なクレーターを作り上げる
そして地面に凄まじい衝撃が奔ったことで周囲に大量の土煙が吹き荒れる中、その環境を作った張本人であるジョエルは続けてデオスに向けて腕を振るう
六方向から迫る凶悪な腕による攻撃に対してデオスは、先程の蹴りと同じ様に受け流して対処しようとした。だがその時だった、突然ジョエルの腕の一本一本の動きが直線的な軌道から蛇のようにうねる軌道に変化する
グニャグニャとそれぞれ歪な軌道を描いて迫ったその腕の動きに、完全に不覚を取ったデオスは、防御なしで六本の腕のうち四本をその身で喰らう
その四撃によりグシャと身体の内部が潰れる音を周囲に響かせたデオスは、そのまま大量の血を噴き出しながら地面を跳ねて遺跡の壁に激突すると、羽をもがれた虫のように力なく地面に倒れこむ
そして口から血を流しながら倒れ伏した体勢から起き上がろうとしたデオスの視界に、目前で爪を煌めかせた腕を振り上げたジョエルの姿が映り込んだ
「ッッ!!」
その姿を認識した途端に身体から炎を噴き出し、無理矢理立ち上がったデオスに向けて六本の腕が襲い掛かった
先程の失敗から防御や受け流すことを一時的に諦めたデオスは、身体中から炎を噴出させて横に吹き飛んで迫る腕と鋭い爪を回避した
そして壁際スレスレを飛行するデオスの瞳は、直前まで居た遺跡の壁一面に深い斬撃の跡が無数に出来上がった瞬間を映す
更にその光景を作り上げたジョエルは崩壊した瓦礫が降り注ぐ中、壁を滑るように飛ぶデオスに怪しく光る瞳を向けた
そして楽しそうに全ての口を三日月に歪めて笑うと、壁を爪で削りながらデオス追って走り出す
ガリガリと遺跡の壁に爪を押し付けて線を描きながら高速で走るジョエルに対し、デオスは火球をばら撒くように放ちながら飛んで下がり続ける
更にデオスは火球の他に焔ノ大蛇や灼熱死流などの高火力技を放ち続けるが、そんな攻撃をものともせずに駆け抜けたジョエルは、一度も勢いを落とすことなくデオスに追いつく
そして再生途中の身体でジョエルは、デオスに向けて攻撃を振るう
壁と地面を深く削って走った複数の斬撃、その隙間をデオスは体中に大量の切り傷を作りながらも、何とか炎の加速で無理矢理にすり抜けた
だが爪による斬撃の嵐を抜けたデオスの先には、ジョエルが拳を振りかぶって待ち構えていた
その姿を視界の端に捉えたデオスは、即座に炎を吹き上げて体制を変えると、続けざまに技を放とうとする
「チィッ!! 火葬ぜっ「「「遅い!!」」」
しかし、デオスの拳が振り抜かれる前に振るわれたジョエルの拳が、高速で移動するデオスの顔面を真正面から捉える
「ゴッ!?」
そしてその殴りを喰らったデオスは顔面から大量の血と砕けた骨を周囲に撒き散らし、何度も地面に叩きつけられながら巨大なクレーターの中に沈む
その衝撃でデオスは首がへし折れ、更に砕けた顔面から脳漿を周囲へとぶち撒ける
だがそれだけのダメージを負ってもデオスは生きており、更にその赤い瞳にはメラメラと燃え滾る殺意の炎が宿っていた
そして未だに戦意を滾らせるデオスは、己を鼓舞するように叫びながら立ち上がろうとした
「「「先程のお返しだ、デオス!!」」」
だがジョエルが追撃をしない筈も無く、デオスの下に六つの拳が流星のように降り注ぐ
そして遺跡中に響くほ程に大きい笑い声を上げるジョエルによって、デオスの顔面も、体も、腕も、足もグシャグシャに変えられていく
「「「ハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!」」」
殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る
デオスは声を上げることも防御することもできずに、ただ一方的に拳を受け続ける
「「「ハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!」」」
殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る拳が逸らされる殴る殴る殴る殴る拳が逸らされる殴る殴る殴る殴る殴る殴る拳を逸らされる殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る、そして拳を止められる
「「「………あ?」」」
突然、拳が受け止められたことに驚いたジョエルは、自分の足元に視線を向けた
するとそこには体全ての部位があらぬ方向に曲がり皮膚が破れ、更に内部の肉がミンチのようにグチャグチャになった死体同然のデオスが、己の拳を掴んで止めている姿が映り込む
その死体同然の姿に流石のジョエルも驚愕し、戦闘中ということを忘れて問いかけてしまう
「「「なぜそれで、動ける? ………………ッ!!」」」
そして受け止められていたジョエルの拳が握りつぶされた瞬間、デオスの身体から噴火のような規模で噴き出した白い炎によって、ジョエルは上空へと吹き飛ばされた
更に空中へ吹き飛ばされ、全身を炎で焼かれるジョエルの顔面に向けて一瞬のうちに追いついていたデオスの蹴りが入れられる
「「「ブッ、ゴファッ!!」」」
その衝撃でジョエルの首の一つは軽々と引き千切れ、残る二つの首が付いた胴体も勢いそのままに地面に激突して土煙を巻き上がらせる
その後、ジョエルの落下した地点の近くに降り立ったデオスは、先程千切れて落下した首を踏みつぶしながら目前の土煙を睨む
すると徐々に晴れていく土煙、その中からジョエルがゆっくりと姿を現す。全身に大きく火傷や深い傷を負っているものの、引き千切れた頭などの損傷も全て再生しきっていた
そしてジョエルは再生した真ん中の頭の顎に、手を当てながら話し出す
「「「ようやく噂通りの姿になったな。待ちわびたぞ」」」
「それは悪かった」
「「「もう隠し玉は無いだろうな?」」」
「ああ、これが俺の
「「「ハッ!! なら
僅かな会話の終わりと共に白い炎を纏うデオスと、完全に肉体の再生を終えたジョエルは互いに構えを取りながら相手の事を観察する
(先程、土煙から出てきた奴の肉体には今までなら再生しきっておかしくない時間が経っているはずなのに深い傷が残っていた。ということは奴も大きく消耗しているのは確実か。ならば俺の身体が焼け切れる前に最高火力で押し切る)
(((白炎としての姿は奴のさらなる強化形態と思っていたが、実際に目の前で見るとそうでもないらしい。確かに火力は上がっているが、その火力が己の肉体すら蝕んでいる。恐らく制限時間付きの物だな。ならば奴が自滅するまで時間稼ぎをしたいところだが……………今の私の体力とあの火力ではそうもいかなそうだ、ならば結局今までと変わらず殴り合いだな。まぁ、楽しいから良いのだが)))
そしてお互いに相手の観察を終わらせると、一歩大きく前に踏み込んだ
大地を揺らす互いの一歩、それが戦闘再開の合図となった
白い炎を纏わせたデオスの拳と、殺気を一気に高めたジョエルの拳がほぼ同時に撃ちだされる
余波だけで周囲を砕きながら迫った互いの拳は、瞬きの間に衝突し合う
そして数秒間続いた拳同士の競り合いに勝ったのは、デオスだった
デオスは炎でブーストした拳でジョエルの拳を飛散させると、そのままの勢いで白熱した拳をジョエルの胴体へ叩き込む
その瞬間、接触したデオスの拳とジョエルの胴体の間で巨大な爆炎が巻き起こり、後方へとジョエルの身体を吹き飛ばす
そして更に空中を物凄い速度で吹き飛ぶジョエルに追い付いたデオスが、頭上に掲げた両腕を振り下ろし、その巨体を地面に叩きつけた
流星のような一閃を描きながらジョエルは地面へと激突し、その衝撃で巨大なクレーターが出来上がる。そして土煙が上がるクレーターの中心で、立ち上がった血塗れのジョエルへと休む暇なく炎の槍が雨のように降り注ぐ
視界を隙間なく埋め尽くす炎の槍の雨に対し、ジョエルは爪をたてた六本の腕を振るう。すると滅茶苦茶な軌道で振るわれた爪から生み出された風の斬撃が、重なっていき巨大な嵐を巻き起こした
その斬撃の嵐は僅か数秒で、飛来した炎の槍数万本を粉々に切り裂いていく
だが空から降り注ぐ炎の槍の雨は、デオスの斬撃を放つ速度を超えて数を増やし続けていく。そして数秒も経たないうちに増えていく炎の槍の一本が、斬撃の嵐を抜けてジョエルの胴体を貫いた
更にその一本に続くように飛んで来た炎の槍が次々とジョエルの身体に突き刺さり、最終的にジョエルは三百八十本の炎の槍をその身に受けて地面へと縫い付けられた
体中を貫通して地面に突き刺さった炎の槍で動きを封じられたジョエルは、口から大量の血と呻き声を周囲へ撒き散らすも、縫い付けられた身体を動かして無理矢理に炎の槍を引き千切っていく
ジョエルはブチブチと肉が裂ける音を周囲に響かせながら、徐々にその束縛から肉体を解放していく。だがその途中で血走る瞳の端に上空から凄まじい速度で迫るデオスの姿が映り込んだ
「ハァァァァァァァァ!!
ジョエルに向けてデオスの右手に集められた炎の塊が放たれる
放たれた直後には小規模だった炎の塊は、一瞬にしてジョエルの視界を塞ぐほどの規模に広がっていく
そして墜落した炎は、二人の居る地下空洞を破壊しながらジョエルを飲み込んだ
全身を地獄のような炎に覆われ焼却される中、ジョエルは初めて己の死を予感する
まだ肉体の再生は追い付いてはいたが、後数分もすれば炎の熱量が彼の再生力を上回り焼き切れてしまうのは確実であった
そしてその事をジョエルは理解していたが、炎の熱量と再生するたびに焼き切れる足のせいでその場から離脱できないでいた
だがこんなにも危険な状況でジョエルの口から漏れたのは、悲鳴ではなく僅かな微笑だった
(((クク!! いつぶりだ、私がここまで追いつめられるのは。―――やはり殺し合いは本当に楽しいなぁ)))
追い詰められているからこそ狂犬の血が滾る
白い炎で焼かれる中で、ジョエルは全身を興奮で震わせる
そして全てが焼かれる炎の中に居るために零れるはずのない涎を噴く動作をしたジョエルは、まだこの殺し合いを終わらせないために思考を加速させる
(((さて、どうする? このままだと死ぬのは分かり切っているが、脱出しようにも足先が焼かれ続けているせいで勢いをつけて跳び出すことも出来ない)))
幾つもの策がジョエルの脳内を駆け巡るが、どの策も現状を解決できる打開策になりえず、ジョエルに僅かな焦りが見え始める
このまま焼け死ぬ可能性が高まって来たその時、ジョエルの脳内にこの状況を打開できる可能性のある方法が浮かび上がった
だがその方法は繊細な操作を求めらるために、今の状況で行うのは不可能ともいえる方法だった
(((失敗すれば即死、だがやらなくとも私は死ぬ。なら結論は決まっているな)))
そしてジョエルは笑みを浮かべた
視点はデオス側に移る
炎の外で僅かに息を切らしながら立つデオスは、過剰な火力のせいで体中が崩壊を始めているのにも関わらず、その状態を維持しながら目前を睨んで構えを取る
今の一撃は先程までのジョエルを殺せるに足る威力の技であると、デオスはそう今までの戦闘から予測していたが、相手の死亡を確認するまで油断することは無い
そしてジョエルの最後を確実に確認する為に炎の海を睨んでいたデオスの視界に、少しずつ大きくなる影が映る
(やはり………)
そうデオスが呟くのと同時に、揺らめく炎を切り裂いてジョエルが現れる
炎を抜けてデオスへと、地面を跳ね暴れるように迫って来たジョエルの姿はあまりに歪だった
全身はなぜ生きているのか分からない程に炭化しているのにも関わらず、足だけは僅かな火傷以外に目立った損傷が無かった
だがデオスはそんな歪で異質な姿を見て、即座にジョエルが何を行ってあの炎の中から脱出したのかを理解する
(まさか再生力の分割か………!!)
そうジョエルがやった事は簡単、ただ足以外の再生力を死なないギリギリに調整して、その余った分の再生力で足を炎の中でも保てるようにしただけだった
そしてそれによって機動力を確保したジョエルは、炎から脱出することに成功する
(確かに肉体の一部が欠損した時にそこに再生力を集めて、即座に再生させる事は再生能力を持つものなら誰しも当たり前に行っていることだ。だがジョエルはあの炎の中で、一寸の狂いも許されない程に繊細な再生力の分割を行って成功させたとでもいうのか………?)
炎の揺らぎや温度の変化などの不確定要素が犇めく炎の中という状況で、再生力を分配するのは本来不可能な事だった
だがジョエルはこの土壇場で、己の限界を一つ突破して賭けを成功させる
そしてそんな奇跡のような事を起こした張本人であるジョエルは、炎を突破した瞬間に再生力を全身に分配して炭化した足以外の部位を修復させると、正面に立つデオスに向けて突っ込んだ
「「「カハハハハハ!! デオス!!」」」
嗤いながら迫るジョエルに向けてデオスは即座に腕から炎の斬撃を飛ばしてけん制するが、その数十本の炎の斬撃をジョエルは更に己の走る速度を上げる事で回避していく
その速度は今までよりも数段速かった
(ここにきて何故更に速くなった? ――――――っ!?)
そしてそのままの速度で迫ったジョエルが、デオス目掛けて蹴りを撃ち込んだ
その蹴りの威力は余波だけだけで空気を震わせ地面を粉々に粉砕する程だった、だがそれをデオスは両腕をクロスさせて受け止める
瞬間、デオスは威力で身体を後ろへ持っていかれるが、炎の逆噴射で速度を落として耐えきった
続けてデオスは即座に、蹴りを放ってきたジョエルの脚を掴んで反撃に出る
デオスはジョエルの事をハンマー投げのように回転しながら振り回すと、上空に向けて大きく投げ飛ばした
更にその後ジョエルを追って跳び出したデオスが放った白き炎の蛇が、八つの巨大な顎を開きながら天井近くまで飛ばされたジョエルの下に迫る
生き物のように多彩な動きで加速していくその巨大な蛇に対して、ジョエルは向き合うように空中で体勢を立て直した後、六本の腕を炎の蛇に向けて構えた
その瞬間、ジョエルの腕がブクブクと泡立つように膨張し始める
肥大化した六本の腕は枝分かれするように無数の腕に分離していき、そしてその全てが意志を持って動き出し炎の蛇に向かって行く
空から迫った大量の枝分かれした腕の一つ一つが放った斬撃によって、炎の蛇は一体ずつ次々に掻き消されていく
そして最後の炎の蛇が掻き消されたその時、飛散した炎を突き破ってデオスが跳び出す
炎を纏って加速するデオスは、一気にジョエルとの距離を埋める
だがその接近にジョエルは、枝分けれした腕全てを向かわせて対抗する
そして殺意を込めて四方八方から向かっていく大量の腕相手に、デオスがとった選択は小細工なしの正面突破だった
肉体から高熱の炎を展開しながら、デオスは己の肉体すら破損させていく速度で真正面から来る腕の隙間を抜けていく
デオスはジョエルの腕による防衛網を通り抜ける間に、何度も腕によって肉体を抉られるもそんなことはお構いなしに突き進み、遂にジョエルの正面に到達した
「「「デオス!!」」」
そして目前に現れたデオスに吼えたジョエルの顎に向けて、デオスの拳がぶち込まれる
「火葬絶拳!!」
「「「ゴォッッッッ!!」」」
速度を乗せたその一撃によって、ジョエルは最初にこの遺跡跡の洞窟に入って来た時に空いた大穴まで一気に到達し、外へと放り出された
高く、高く空まで打ち上げられたジョエルの肉体は速度を失って落下して行き、瓦礫が積まれた地面へと激突した
そしてその後を追うようにデオスも、地下空洞に通じる大穴から跳び出して地上へと帰還する
僅かな星の光を残して暗闇に包まれた空の下で、二人の男が立っていた
片や今までであればすぐに再生させる筈の抉れて半分無くなった顔面や、全身に付いた火傷などの深い傷をその身に刻んでその場に立ちつくし
片や全身の骨は歪に歪み内臓は潰れ、更に己の炎の火力に肉体は耐えられず指や足先から崩壊し続けていた
動いただけで死ぬ、それほどまでに傷ついた二人であったが、互いの姿を視認すると動き出す
ジョエルは三本の右手を地面へと突き立てると一気に力を込める
するとその三本の右手がブクブクと歪に動き出し肥大化していき、その後肥大化した右手同士が絡まって一体化して一つの巨大な右腕に変わった
そしてジョエルは巨大化した右手を構えると、クラウチングスタートのように身体を屈めた後、一気にその場から空気を震わせるほどの咆哮を上げて跳び出した
そしてジョエルの行動とほぼ同時に、デオスも大きく息を吐いて肉体から噴き上がる荒ぶった炎を落ち着かせると、右手へ安定化させた炎を集めて強く引き絞り力を溜め始める
その拳に集まった炎の輝き、は蝋燭の最後のように今までで一番の輝きを見せた。
そしてその輝きと共に背に炎で出来た輪が浮かび上がった瞬間、デオスは目前に迫ったジョエルへと視線を合わせて狙いを付けると一歩前へ力一杯踏み出し、限界まで引き絞った拳を撃ち放った
「ウォォォォォォォォォォ!!
「「「ガァァァァァァァァァァァァァァァ!!」」」
生命力と再生力が注ぎ込まれ歪に巨大化したジョエルの拳と、白炎を纏ったデオスが持ちうる最強の近接技が衝突した
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