機炎異界

第8話 死闘

　浅井は僅かに身体を屈めると、勢いをつけて跳び出した

　その速度は今まで数倍の速度であり、それまでの速度に慣れ切っていたタイタスの隙を突く形で浅井は接近を果たした

　「なっ！！！」

　まずは一撃と、浅井は驚いた顔のタイタスの身体に向けて引きずるように手に持っていた大剣を斜めに振り上げる

　一気に走った剣先は簡単にタイタスの身体に傷を付けて、真っ赤な鮮血を周囲に飛ばす

　だが隙を突かれたと言ってもタイタスはこの世界で有数の実力者、剣先の到達と共に僅かに背後に跳んでダメージを抑えていた

　(奴が油断している一手目で決めたかったのですが、流石にそう上手くはいかないですよね。ですが今の一撃で分かったこともあります)

　先の僅かな攻防で浅井が気が付いたこと、それはもはや浅井とタイタスとの間に明確な差が無くなっているという事であった

　そしてタイタスもその事に気が付いていた

　その証拠に先程浅井が与えた傷はもう修復されているにも関わらず、タイタスは剣を構えたまま動きを止めていた

　先程までと違い、もうタイタスの中に浅井を下に見る感情は残っておらず、己と対等の敵として強烈な殺意を向けていた

　そしてその殺意が急激に溢れたその瞬間、浅井の前からタイタスが消えて背後に現れ、その手に持った剣を振り下ろした

　「シッッッ！！」

　今まででは回避も防御も出来なかった勢いが乗ったその背後から一撃を、浅井は背に持ってきた剣で当たり前のように受け止めてから力一杯に弾くと、空中で無防備になったタイタスに向けて振り向きながら剣を振るう

　遠心力の乗った剣はタイタスの反応より速くその肉体へと到達すると、一切の抵抗なく肉体を抉るはずだった

　「！？」

　　しかし剣が半分まで到達したその時、タイタスの肉体が突然、大量の糸の塊と変わる

　(分身ですか………！！　何時の間に)　

　そして糸に変わったタイタスの中心まで進んでいた剣は、その大量の糸に絡めとられ蝶の繭のようになると床に張り付けにされる

　浅井は何とかべったりと糸で雁字搦めにされた剣に力を込めて引き抜こうとするも、物凄い粘着力で張り付けられているせいか一切動かすことが出来ないでいた

　そこへコンテナ裏から跳び出して来たタイタスが攻撃を仕掛けてくる

　大剣を封じられた状況で迫るタイタスの刃、その脅威の中でも浅井の中に焦りは無かった

　浅井は即座に大剣の実体化を解除して振り向くと、再度剣を実体化してタイタスの剣を防ぎきる

　火花が飛ぶ鍔競り合いの中、先程の剣の出し入れを見たタイタスが「そういうことですか」と呟くと、浅井の持つ大剣を蹴って大きく背後に跳んで距離を取った

　そして浅井の纏う鎧の胸元の宝石を一瞥した後に話し出した

　「その胸の宝石を取り込んだことが貴方の急激な強化の理由でしたか………。確かに貴方達は、オークションでソレを落札しようとしていましたね。であればあの時の貴方の可笑しな動きは、それを手に入れるための作戦というわけですか」

　「ええ、上手くいくかは賭けでしたが」

　その後、浅井は「露骨に取り入ったら、バレて邪魔されるのはわかりきっていますから」と言って肩をすくめた

　「では、申し訳ないのですが話はこの辺で終わりにしても？　早々に貴方を倒して仲間の手助けに行かないといけないですから」

　「確かにそうですね、わたくしも戦いの途中なのに話過ぎました。ですがお仲間の事なら気にしなくて大丈夫です、貴方はわたくしに負けて此処で死にますから。では再開しましょう殺し合いを」

　　その言葉と同時に手を広げたタイタスの身体から無数の糸が放たれ、倉庫内のコンテナや瓦礫へと繋がっていく

　そして固定化されているはずのコンテナや相当な重量があるはずの瓦礫がユラユラと意思を持って動き出し宙へと浮かび始めると、一斉に浅井目掛けて飛んできた

　弾丸のような速度をもって迫るコンテナや瓦礫に対して浅井は、両手剣を強く握り腰を落として構えると、間合いに入った物から次々に叩き斬っていく

　そして浅井が半分以上を捌ききり、次に飛んで来たコンテナを斬ろうと背後を向いた瞬間、切断されて地面に横たわっていた視覚外のコンテナの影からタイタスが姿を現し、浅井のがら空きの胴体に向けて突きを放つ

　「フッッ！！」

　それを浅井は一切見ることなくしろがねが強化された事で獲得したジェットパックを吹かし、その場から飛び上がって回避する

　「逃がさん！！」

　しかし突きを避けられたタイタスも即座に態勢を立て直すと、残ったコンテナと瓦礫を操り、飛び上がった浅井へ撃ち込んだ

　まるでマシンガンの様な密度と凄まじい軌道で迫るコンテナと瓦礫を、浅井は予測を使い華麗に避け続けていく

　そして更に撃ち込まれた無数のコンテナしがみついていたタイタスからの奇襲すらも、浅井は大剣で弾き返し

　「グゥゥゥ！！」

　「貴方は速い……………、しかし」

　逆に空中に取り残されたタイタスへ上段からの一撃を放った

　それをタイタスはしっかりと二本の剣を合わせてガードして受け止めたが、浅井は攻撃の勢いそのままに背のジェットパックを点火し、そのままタイタスを押し込み無理矢理地面へと叩きつけた

　「グッ………」

　更に叩きつけられた衝撃で顔を歪めたタイタスへと、浅井の追い打ちが行われる

　ジェットパックの勢いを更に強め、地面に背を付けるタイタスを二本の剣ごと切断しようとした

　「グゥゥ………ガァァ！！」

　「オォォォォォォォォォォ！！」

　上下からの押し込みで剣同士が擦れて火花が散る中、徐々に浅井の大剣がタイタスの剣二本によるガードを圧していき、そして剣先が肩に僅かに食い込み血を滲ませた

　その出血に浅井はここが正念場だと大剣に全体重を乗せて押し込もうとした

　しかし浅井は突如、横から襲った衝撃に弾き飛ばされる

　(ッ！！　あの状況で、私に瓦礫を！！)

　そして弾き飛ばされた浅井が態勢を整えて着地した瞬間、糸を使い高速で移動してきたタイタスが剣を振り上げた

　だが浅井も即座に大剣を自身の身体とタイタスの剣の間に滑り込ませて何とか受け止めるも、体勢を整えたばかりだったせいでバランスを崩し、天井へ打ち上げられた

　更にタイタスの猛攻は終わらない、コンテナ内に収納されていた武器を糸で引き寄せると、天井に埋まった浅井に撃ち込んだ

　そして弾幕ように飛んで来た無数の武器を避けることは出来ず、天井に磔にされた浅井に向けてタイタスは追撃として突きを放つ

　喰らえば胴体を貫きかねないその一撃を前に浅井は覚悟を決めると、即座に大剣の実体化を解除する

　そして次に全身からシールドを発生させて、身体を磔にする無数の武器を吹き飛ばし、接触寸前の剣を両手で抑え込んだ

　しかしその威力は絶大であり、受け止めたはずの浅井は天井に押し込まれる

　そしてその衝撃に耐えきれず天井は崩壊し、浅井の身体は宇宙船内部を上部に向けて突き進んでいく

　その後、勢いそのままに幾層もある内部を進んだ浅井の身体は遂に宇宙船を突破して、外へと放り出されるのであった

　「なんと手荒な…………」

　そして滞空する中、浅井は自身を外まで吹き飛ばした力任せのタイタスの攻撃に悪態を付く

　しかしそんな中でも頭だけは冷静さを維持しており、即座に視界から消えたタイタスを探そうと視線を動かした

　そしてそんな浅井の前に更に非常識な光景が映り込む

　「無茶苦茶な事を！！」

　それは瓦礫と岩が集合してできた全長400mの巨大な塊であった

　そしてその巨岩の近くに浮かぶタイタスが指揮者のように手を動かすと同時に、巨岩とその周囲に漂う小規模の岩や武器などが一緒に加速しながら動き出す

　「あの岩の塊とタイタス以外は行動予測から弾い下さい。武器と小粒の岩は私がどうにかします」

　「分かりました」

　「勝ちますよ、しろがねさん」

　「はい、勝ちましょうムネタカ様」

　最低限の準備を終えタイタスへと飛び込んで行った浅井に対する先鋒は、武器と瓦礫の流星だった

　弾幕と言える程の凶器を浅井は速度緩めないまま対処する

　避けられる物は最低限の動きで避け、避けれない物は剣で斬り飛ばしていき、それでも防げない物はシールドと鎧の強度に頼って耐え忍ぶ

　簡単に見えるが隙間など無いと言っても良い凶器相手に、浅井はこの繰り返しで対応し、これを突破する

　そして次鋒としてやってきたのは巨岩であった

　その速度は全速力の浅井並であり、更に岩と瓦礫の塊のサイズは島と見間違えるほどの大きさがあった為に避けることは難しかった

　ならばと浅井は剣を振りかぶり、巨岩に迫り、斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬りまくって、巨大な塊をバラバラに解体しながら突き進んでいく

　そして巨岩内部を斬り進み反対側へ抜けた浅井の下に

　「頭上２秒後来ます」

　しろがねの予測通りタイタスが現れ、上段に構えていた二本の剣を振り下ろした

　降下の勢いが乗ったその二撃を浅井は、先程斬った塊から分離した岩を足場にしてその場に踏ん張り両手で構えた大剣で防ぐと、背中のジェットパックを吹かせた勢いでタイタスを弾く

　そして背後に押し退けられたタイタスの首目掛けて浅井が剣を振り抜くが、その剣先が到達する直前にタイタスは足を開脚して避ける

　その攻防で剣を振り抜いた体勢になった浅井に向けて、今度は低い体勢から起き上がる勢いを利用した一撃がタイタスから放たれる

　右わき腹から左肩口への切断を狙ったその一撃であったが、事前に予測で来る位置を知っていた浅井は身体を傾けながら前に飛び上がることで避け、更にそのままタイタスの頭上を通過したタイミングで力を込めて剣を振るう

　その結果、背中をバッサリと斬られたタイタスから大量の鮮血が吹き上がった

　「グゥ………ッ………」

　苦痛を嚙み締める声僅かに漏れ、膝をつくタイタス

　その姿を見て浅井は即座に地面に降り立ち、未だ鮮血付く大剣をタイタスの背に撃ち放った

　しかしその大剣がタイタスを切り裂く事は無く、持ち主である浅井共々無数の糸に引き寄せられて、空中へと投げ出される

　そしてそのままの勢いで空中に浮かぶ大岩へと叩きつけられ、更に群がって来た大量の糸によって身体を岩に固定される

　(これは、非常にまずい)

　続けて固定され身動きが取れない浅井の視界に、無数の岩と瓦礫が全方向から飛んできているのが映り込む

　それを認識した浅井は即座に力で糸を引き千切るのを諦め、ジェットパックを一気に点火した時に周囲に放出される火で焼き切ろうとした

　しかしとうに遅く、一つ一つが一軒家くらいはある破片によって全身を背後の岩と瓦礫の塊の間に埋められて押さえつけられる

　そしてその間で藻掻く浅井の下に更に追撃だと放たれた、2つの数百メートルの岩と瓦礫の塊が高速で飛来して衝突する

　　――――――――――――――――――――――――――――

　二つの岩と瓦礫によって出来た塊が衝突し、それによって発生した衝撃が空中に張られた大量の糸を強く揺らした

　そしてその揺れる糸の上で優雅に立つタイタスであったが、背に大きな傷を負いながら能力を全力で行使したこともありかなり消耗していた

　しかしそんな状態でもタイタスは攻撃の手を緩めることは無かった

　だらんと垂らしていた両手を広げると、指に絡まった糸を動かす

　すると鎧の男を潰した二つの岩と瓦礫の塊が、一つになるために徐々に圧縮されていく

　そしてメキメキと音を周囲に響かせながら圧縮されていった岩と瓦礫の塊は、遂に一つの球体となる

　隙間など無くなった岩の球体の姿を見れば、誰もがこう答えるだろう「もう中に居る鎧の男は死んだ」と

　だがそんな光景を見てもタイタスは油断をしなかった

　理由は一つ、今の鎧の男が自身と対等だと認めたから、ただそれだけだった

　だがそれだけの理由で良い、こちらの全てを使い切っても確実に殺したと認識するまで手は緩めないと、更に力を込めて岩と瓦礫の球体を潰し切ろうとした

　―――その時、

　目前の球体の隙間から青い光が漏れ出し、そして爆発が起こった

　遠く離れたタイタスまでその衝撃と破裂音を届けたその爆発によって、球体全体を覆いつくす程の黒煙が発生する　

　そしてその巨大な黒煙から、眩い一筋の青い光が飛び出してくる

　「あれは………！！」

　見開いたタイタスの視線の先、そこには青い光の粒子を鎧から放つ浅井の姿があった

　　　　――――――――――――――――――――――――――――　

　　無理矢理エネルギーを暴走させて外部に吐き出すことで生まれた爆発によって岩と瓦礫の球体から脱出した浅井は、過剰出力の反動で暴れる鎧を何とか制御しながら空を飛んでいた

　「後何分この暴走状態を維持し続けられますか」

　「今の放出量だと１分で空になります」

　「であれば予測と修復機能を切っても良いです、それで時間は伸びますか？」

　「はい、それなら３分持ちます」

　「それだけあれば十分です」

　制限時間が決まったのと同じタイミングで、ヘルメット内のモニターに時間が表示される

　浅井はその徐々に減る時間を視界の端に入れながら片手で剣をしっかりと握り、大きく息を吸いながら突撃態勢に入る

　そして溜め込んだ空気を吐くと同時に、浅井は視界の先に立つタイタスに向けて一直線に突っ込んだ

　全身から青い光を輝かせながら進むその姿はまるで流星の様であった

　そんな流星を撃ち落とさんと、タイタスが操る岩の弾幕が撃ちだされる

　しかし流星はその全てを軽々と躱すと、一瞬にして距離を詰めタイタスを捉え、すれ違いざまに大剣を脳天目掛けて振り下ろした

　「ムゥッ！！」

　その一撃に対して咄嗟にタイタスは剣を二本共に前面に構えて受け止めようとするも、速度が掛け合わされた一振りの威力に耐えきれずに下に広がる海に向けて吹き飛ばされる

　そして落下していくタイタスを追う浅井は、背中に発生させた爆発の衝撃を利用して速度を上げその背に追いつくと大剣を振り抜いた

　しかしその攻撃は空中に引いたあった糸を足場にしたタイタスに躱される

　「まだだ！！」

　だが浅井の猛攻は終わらない

　ジェットパックを吹かせて無理矢理に身体の角度を直すと、糸の上に立つタイタス目掛けて大剣を構えた

　だがその時、タイタスの身体から大量の糸が浅井目掛けて放たれる

　その糸たちは先程浅井を引っ張って岩と瓦礫の塊に叩きつけたものと同じであった

　高い強度と粘着性を持ったそれは高速で浅井へと迫り

　そして一本残らず焼き切れるのだった

　「何が！？」

　そして目前で起きた光景に驚愕してタイタスは目を見開く

　「ッ！？　そうか、その光が！！」

　しかしそんな混乱の中であっても、タイタスは糸が焼き切れたのは鎧から出たエネルギーの過剰放出によって発生した高熱が原因だと見破り

　そして更に即座に意識を切り替えて防御態勢に入ろうとするが

　もうその時点で、全てが遅すぎた

　「もう私の間合いです」

　「ッ！？！？」

　振り抜かれた大剣の刃がタイタスの身体を切り裂き

　それによって大量の血が噴き出し肉が抉れ、胴体から内臓が露出する

　「グッ…………ガ……、ガァァァァァァァ！！！」

　だがそれでもタイタスは死ななし止まらない、口から大量の血と一緒に雄叫びを上げると両手の剣を力一杯に振り下ろして浅井を僅かに弾き飛ばした

　そして浅井との距離を取ったタイタスは口を裂きながら開くと、そこから大量の小蜘蛛を周囲にばら撒くように放ち即座に爆発させた

　タイタス自身をも巻き込む距離で破裂した蜘蛛の爆発は爆炎と破裂音を起こし、その後大量の黒煙を周囲に撒き散らした

　その勢いは凄まじく、回避行動を取っていた浅井すらも一瞬で飲み込み覆い隠すのだった

　視界が完全に闇に包まれ方向すら掴めない黒煙の中でも、浅井は大剣を低く構えながら周囲を警戒して神経を研ぎ澄ませていた

　そして黒煙発生から5秒後、僅かな揺らぎと共に浅井の背後からタイタスが跳び込んで来た

　しかし浅井は跳び込んで来たタイタスとは逆の方向に大剣を振るった

　「フッッッ！！！！」

　その一撃は何もない場所へと吸い込まれていき、空を切ると思いきや黒煙を裂きながら姿を現したタイタスの剣に受け止められる

　(やはり先のタイタスは糸で作った分身ですか。そしてこちらが本体！！)

　浅井の予想を肯定するように先に近づいて来た方のタイタスは、今も青い光を放つ鎧に当たった瞬間に焼失した

　そして本物であるタイタスは浅井の剣を受け止めたと同時にもう片手の剣を振りかぶり、全力で浅井の顔面に向けて投擲した

　「！？！？！？」

　その一投は完全に浅井の虚を突く攻撃であった

　しかし浅井は本能で何とか頭を横にずらすが完全に避け切れず、大きな衝撃を顔面に受けて黒煙の中から猛スピードで黒煙の外まで斜め後ろに弾き飛ばされた

　そして黒煙を抜けた浅井の後を追ってタイタスも黒煙を抜け出し、その手に持った剣の刃の先を落下する浅井の胴体へ向ける

　「狂気、ですね」

　血も止めず、内臓も露出させ鬼の様な形相で獲物を狙うその姿を見た浅井は、そう言葉を溢した後、ジェットパックを点火して空中で停止する

　そして浅井も大剣を構えると、落下してくるタイタスに向かって一気に加速して突っ込んで行く

　これが最後の攻防になると確信しながら

　美しい星空を背景に徐々に二人の距離が縮まっていく、そして遂に互いが互いの剣の間合いに入り込んだ

　その瞬間、タイタスは最小の動作で剣を振るい、それに対して浅井は攻撃ではなく背に集めたエネルギーを暴走させて爆発を起こした

　周辺に轟音を轟かせた爆発によって起こった衝撃により勢いよく上空に弾き飛ばされた浅井は、タイタスの振るった剣で胴体を斬られながらも、その背後へ回り込む

　そして背後に回り込んだ浅井はタイタスの方向へ振り返りながらもう一度、背中から爆発を起こして加速すると持っていた大剣に大半のエネルギーを注ぎ込み、無理矢理に威力を底上げしてから全力で振り下ろした

　今までで一番の威力を持ったその一撃に対し、背後を取られた事で不意を突かれていたタイタスも、何とか反応して剣を身体と大剣の間に滑り込ませて防御するが、刃同士が接触した瞬間にタイタス側の剣が融解して溶けていく

「オォォォォォォォォォ！！！！！！！！！！！！」

「負けて、なるものかァァァァァァァ！！！！！！！！！！！！！」

　互いの雄叫びが響き渡る中、浅井の大剣がタイタスの剣を真っ二つに切断し、そしてそのまま防ぐすべを無くしたタイタスの胴体を切り裂いた

　その一撃が決め手になったのだろう、深く胴体を切断されたタイタスは噴水のように赤い血液をまき散らしながら荒れた海へと消えていくのだった

　「………ようやく終わりましたか」

　「お疲れ様です、ムネタカ様。お怪我はありませんか？」

　「しろがねさんが守ってくださったので一切ありません。ですがここまで傷つけてしまって申し訳ないです」

　そう言って浅井は自身の身体に纏わっている鎧を見る

　先程の戦いがどれほど激戦だったのかを思い起こせる程に傷だらけであり、顔と胴体には今も中に入っている浅井の姿が見えるくらいに深い傷が残っていた

　「いえ、お気になさらず。私は魔力と時間さえあれば治りますから。それにムネタカ様が戦わなくてはいけなくなったのは全て私のせいですから、これくらいはさせてください」

　「そう思っているんでしたら、もう一戦付き合ってもらっていいですか？　ほら、デオスさんを助けに行かないといけませんから」

　「そうですね、待たせるの悪いですから急ぎましょう」

　そして二人はデオスの下へ約束を守るために全力で向かうのだった