第7話 格上
「三秒後、来ます」
浅井と対峙した男、オークションの司会として潜入していたトリプル・ヘッド・ドッグ組若頭のタイタス・ヴィーガーは上段に構えた剣を振り下ろす
その瞬間、5mは離れている浅井たちの下へ斬撃が高速で地面を切断しながら向かってくる
それを浅井は横に跳んで避けるが、その跳んだ先に向けて第二第三の斬撃が放たれる
だが浅井はしろがねによる行動予測のおかげもあり、その続けざまに迫った二つの斬撃をも簡単に回避していく
「ふむ…………。なら、これではどうですか」
するとその様子を見ていたタイタスが剣を下段に構えた後に地面を蹴り、一瞬で浅井の正面に現れる
その移動はまるで瞬間移動でも行ったんじゃないかと思える程の速さであり、現代で言うところの縮地に近いものであった
そしてタイタスは速度そのままに構えていた剣を振り上げた
「フッ!!」
速度と速度が合わさったその一撃は、回避不可能レベルであった
だが浅井は僅かに身体を横にずらして避けると、剣を振り上げていた為に空いたタイタスの脇腹に蹴りを放つ
しかしその蹴りは読んでいたのか簡単に左腕の側面で受け止められ、更に蹴りを止められたことでがら空きになった浅井の胴体に向けて剣による突きが放たれた
だがこの胴体を狙った突きも先程の振り上げ同様、本来なら避けることの難しい一撃であったが、浅井は攻撃が放たれるの同時に回避を実行していた為に剣の刃スレスレで避けることに成功した
「………………」
するとその突きを避けられたタイタスは、一度大きく飛び退き浅井と距離を置く
そして顎に手を当てて何か考えるそぶりを見せた後、口を開く
「予知、いえ、高度な予測ですか。それは厄介ですね」
(………………ふむ、これは予想外です。そしてタイタス・ウィーガーという男、明確に私より格上ですね)
僅か数手の攻防で予測がバレることになるとは思ってもいなかった浅井は、その一言を聞きタイタスの脅威度を引き上げた
そして警戒心を露わにした浅井の目前ではタイタスがどこから取り出したのか二本目の剣を持っており、何処か楽しそうにその二本の剣をくるくると回しながらゆっくりと浅井に近づいてく
「貴方は戦闘経験がそう多くはないようですね。ですので知っていますか? 予測には多くの弱点がある事を!!」
そしてまた一瞬で目の前に剣を構えた状態で現れたタイタスに対し、浅井は回避を選択する
まず右手で持つ剣による肩へ向けた剣を屈んで避けると、次にその屈んだ浅井に合わせて放たれた左手で持つ剣の一振りを背後に跳んで回避する
だが逃がすまいと背後に跳んだ浅井に向けて、即座に右手の剣が投げられる
僅かな動作で投げられた剣であったが、その速度は衝撃波を放つ程だった
浅井はその投擲された剣を身体を傾けて避けるが、更に追い打つようにタイタスが残った左手の剣を浅井目掛けて振りかぶっていた
しかし浅井もその動きを想定してか即座に体勢を変えて迫るタイタスの懐に入り込み、タイタスの持つ剣のガードと腕を押えこんで動きを止める
するとそこから斬り付けの始動を止められたタイタスと止めた浅井とで、押し合いの力比べが始まった
技術も何もないただの力任せの押し合いの中で剣と腕を掴まれているという不利な状況のタイタスは、浅井の全体重をかけた押し込みに対し徐々に押されていく
そして膝を付いたタイタスをそのままの勢いで、地面へと押し込もうとした浅井であったが
「――――ッ!?」
突如として背に奔った衝撃により、その場から弾き飛ばされるのだった
(一体何が?)
浅井は空中に投げ出される中、思考を加速させる
地面にぶつかるまでの僅かな時間であるが、先程まで自分が居た場所を中心に目を配った浅井は、そこで無数に浮かぶ糸とその糸に操られるように動く先程タイタスが投擲した剣の姿を目撃する
そしていつの間にか立ち上がっていたタイタスは、浅井に向けて講釈垂れるように話し出す
「では、まず一つ目ですがそれは、視認外からの攻撃です。自身が視認していない物の予測などしようがありませんから。今回は背後からの剣による攻撃ですね」
そして地面へと激突し転がった浅井に向けて、跳び上がったタイタスのガバッと大きく開いた口から、小型の蜘蛛が無数に吐き出された
その蜘蛛たちは浅井を囲むように高速で迫ると、突如として膨れ上がった
「次に、面での攻撃」
浅井は異常に気付き全力で走り出して蜘蛛の檻から抜け出そうとするも、その蜘蛛の檻の端に着く前に全ての蜘蛛が爆発を起こす
連鎖を起こすように爆発した蜘蛛の威力は、宇宙での活動を想定して頑丈に作られていた宇宙船の床に大きなクレータを作り出す程であった
だがそんな威力の爆発であっても、浅井は黒煙の中から僅かな手傷のみで生還する
(奴の言っていた面とはこういう事ですか、事前にしろがねさんの予測が有っても範囲が広すぎて避けることが叶いませんでした………。ッ!?)
しかし僅かに疲弊した浅井は態勢を整える事叶わず、またもや目前に現れたタイタスの襲撃を受ける
「そして最後はとてもシンプルです。相手の対処能力を超える事、このように!」
まずタイタスがその言葉と共に放ったのは、浅井の首目掛けた一振りであった
それを浅井は予測を使い避け、更に続けざまに振られた二撃目も何とかギリギリ回避する
だがそれと同時に周囲に漂い始めた細い糸に向けて背後に跳んだタイタスが、そのうちの一本に飛び乗る
そしてタイタスはその糸を始点に、周囲に張り巡らされていた糸の間を飛び交い始めた
タイタスが飛び交う速度は異常な程であり、浅井は視界にその姿を留めておくだけで精一杯であった
そして飛び交っていたタイタスは自身の動きが最高速に到達した瞬間、殺意を露わにしながら攻撃へと転じるのだった
右上、左下、真横、頭上………………と連撃が四方八方から迫る
それを浅井は予測を最大限に利用して避けていくが、更に鋭く多彩になっていく斬撃に押され、徐々に避けるのがギリギリになっていく
本来この世界であっても予測という技能は最強格である
ではなぜそんな予測という力を持つ浅井が押されているのか、その理由はただ浅井宗孝という男がしろがねの予測に着いて行けないという簡単なものであった
どれだけ予測の精度が完璧でも、それを扱う人間の処理能力には限界がある
そしてそれを証明するように短時間で大量の予測という情報を浴びせられた浅井の脳は、その情報を処理しきれなくなり、遂に限界を迎える
「ッ……………、――――――ッ!?」
脳が情報を処理できなくなったことによりできた一瞬の機能停止、その隙を突かれ浅井はタイタスの凶悪な一撃を防御もなしに喰らってしまう
「ガハッッッッ…………!!」
その強烈な一撃に浅井は大きく吹き飛ばされ、何度も地面をバウンドしながら遠く離れた壁まで叩きつけられた
先の攻防で浅井はシールドを出せず、受け身すら取れていなかった
であれば真正面から剣と複数回の衝突のダメージをその身で受けることになり、その衝撃は計り知れないであろう
だが浅井は壁に叩きつけられた直後、何事も無かったかのように立ち上がった
そして追ってきたタイタスもその姿を目撃し、驚き目を見開いた
「今の一撃をまともに喰らって何故、その程度の傷だけで済んでいるのですか? 貴方の鎧は一体………?」
タイタスの言葉通り宇宙船の頑丈な床を簡単に切り裂くほどの威力を持つ一撃を防御なしで喰らったにも関わらず、明確なダメージと言えるのはヘルメットに食い込んだ僅かな傷のみであった
(それは私も同意します。本当に何なんでしょうかね
タイタスが疑問を持ったようにしろがねという存在は謎だらけであり、浅井も同意するように心の中でそう問いかける
「いえ、そんなことを気にしている場合ではありませんね」
今の言葉はタイタスではあったが、浅井も同じように今は目の前の疑問より敵への対処だと優先すべきだと考え、互いに目の前の相手に視線を移す
そして先に動いたのはタイタスであり、彼は二本の剣を構えると壁際に立つ浅井に向けて、先程と同じく糸を中継地点にした移動方法を使い迫って行く
無数の線を描くように糸の間を飛び交う動きは獲物追い詰めるような動きであり、ここまでは先程の攻防での再現のように進行していく
「シィッッ!!」
そしてこれも再現するように、浅井の処理能力の限界が来る瞬間を狙っての一撃が放たれる
それを浅井は無理矢理に腕の側面を合わせて弾き飛ばした
(むっ!? 受け流した!? いや、自身の防御力を信用して無理矢理受けにいったのか)
浅井は先程とは違い全てを回避しようとはせず、致命的なダメージを減らす為だけの動きに変えてどうにか対処する
この方法であれば自身の処理能力でも対処できると浅井は踏み、その考え通り僅かな手傷と引き換えにタイタスの連撃の嵐から逃れていた
「良くお考えのようで。ですがそれでは僅かな時間稼ぎしか叶いませんよぉ!!」
その言葉通り荒れ狂う連撃によって、中心に立つ浅井の鎧に少しづつ細かな傷が増えていく
確かに浅井の行った対処法ではダメージを軽微なものすることは出来る、しかし軽微であって無傷ではない為にそのダメージは蓄積していき、いつかは限界が来て破綻することは誰の目にも明らかであった
(ええ、理解してますよ。ですので何処かで逆転の一手を打つ必要があります)
だからこそ浅井もこの対処法はあくまで時間稼ぎだと割り切り、思考を回す
そして数秒の後、過去の出来事から一つこの状況を突破できる可能性に行き着く
浅井はその出来事から組み立てた作戦が実行可能なのかをしろがねに確認する
するとしろがねから「はい、可能です。それならこの状況を打破出来ると思います」と言葉が返って来る
「では、やりましょうか」
そして作戦が決まったその瞬間、今も続く猛攻の中から浅井が無理矢理跳び出した
浅井はその時に背中に大きな傷が付き大きくバランスを崩して失速したが、すぐに態勢を立て直して走り出す
そしてコンテナ内のある地点に全力で向かう浅井の背後からは、倉庫内に張り巡らされた糸の間を飛び交いながら追いかけてきたタイタスによる攻撃が行われる
まずタイタスは糸で掴んだコンテナを高速で投擲し浅井の進行方向にある道を塞いだ、そして更にその塞がれた場所を避けて道を変えた浅井の下にばら撒くように爆発する小蜘蛛をぶち撒けた
その総数は500匹は下らず、一帯ごと浅井を爆散させる気でいるのが丸わかりだった
だがその攻撃も浅井は大量のコンテナを盾に防ぎ切り、それどころかその時に発生した黒煙を利用してタイタスの視界から逃れる
そして浅井が目的の地点にあと少しと迫った時だった、背後から強烈な殺気と共に剣を振りかぶったタイタスが現れる
(もう追いついて来ましたか!!)
黒煙を利用した逃走法で完全に撒いたと思っていた浅井にとっては、予想外の出来事であった
そして更に浅井がその気配に気が付いた時には、避ける事の出来ない距離に迫られていた
(この位置では…………)
浅井が想定していた作戦は、位置と攻撃を受けるタイミング重要であった
そのため想定外の場所と想定外のタイミングで来た回避不可の攻撃という最悪な状況に、ヘルメット内で浅井は酷く焦りを見せる
だが浅井も生半可な男ではない
想定通りにいかないなら、少しでも可能性のある方へ進もうと思考を切り替える
目的の位置、角度、距離、障害物の有無、と
多くの事を思い浮かべながら思考を加速させた彼の脳が、ギリギリのタイミングで一つの地点を浮かび上がらせた
その瞬間、浅井は背後のタイタスの振るう剣の軌道上から慌てて逃げだしたように動き、僅かに位置を変えた
「逃がすと思いますか?」
そして浅井の想定通り、タイタスからは怖気づいてみっともなく逃げ出したように映っていた
この土壇場でなんと無様なと、タイタスは思っただろう
しかしその考えを諭されるのは、ここから始まる攻防から十数秒後の事であった
「シィッッッ!!」
振るわれた二本の剣、背後から迫ったそれに対し浅井は接触の直前で両腕を構えながら振り向いた
そしてその腕に張られたシールドと二本の刃が衝突する
この瞬間、タイタスは思っただろう浅井との押し合いが始まると
だが浅井は剣の刃がシールドに喰い込んだタイミングで、後ろへと僅かに跳ぶ
それによって地面から足が離れた浅井は支えを失い、タイタスの一撃で起こった全ての衝撃を全身に受けて背後に大きく吹き飛ばされて行くのだった
――――――――――――――――――――――――――――
腕から伝播した衝撃は全身を揺らし、浅井に苦痛の声を漏らさす
「ガッッ……グゥ………!!!」
浅井の身体は空中で何度も何度も回転しながら幾つものコンテナ衝突しては貫通して行き、壁際のコンテナまで到達するまでその勢いが治まることは無かった
「………………ッ!! カハッ!!」
そして身体が止まるのと同時に、背中に奔った衝撃で肺から息が吐き出される
更に衝撃で脳が揺れたせいなのか歪む視界の中で浅井は、どうにか状況を確認しようと周囲を探る
薄暗いながらも大きく空いた穴からは外の照明の光が差し込み、浅井の周囲に散乱した物を照らす
(正面には私が衝突したことで出来たと思われる穴、そして私の周囲に落ちているのは確か、………………ああ、そうですオークションで出品されていた物ですね。であればここはコンテナ内ですね)
その物品の存在から即座にここがコンテナの中であると結論付ける
そしてここが自身が想定したコンテナの中ならばと、浅井は未だ霞む視界でモニターを睨む
するとモニターには浅井のすぐ近く、手の届く位置から信号が発されていた
「ははっ、だいぶ分が悪かったですが賭けには勝ったのは私のようですね………」
浅井はその信号を認識すると即座に自身に覆いかぶさった物品を払いのける
それから飛びつくように信号の場所を掻き分け、豪華な装飾が施された箱を手に取り開いた
そして中に収められた光るソレを手に取った
その瞬間――――――
――――――――――――――――――――――――――――
糸と糸の間を飛び交いながらタイタスは思考する
なぜ鎧の男が急に弱々しい動きを見せたのか
なぜわたくしの攻撃に対して防御を合わせたのに力比べの一つもせず無抵抗に吹き飛ばされたのか
なぜ吹き飛ばされている最中に態勢を整える事をせず、倉庫の端まで飛ばされたのか
幾つも浮かぶ鎧の男の可笑しな行動に答えを出そうと考えこむも答えが出ず、すぐにタイタスは思考を打ち切った
そして糸と糸の間を跳び移って倉庫の端、今も土煙が上がるコンテナへと近づいて行ったタイタスは遂に激突の衝撃のせいか大穴が開いたコンテナに到着する
「やはり、生きておりますね」
タイタスは暗闇に包まれたコンテナ内部に、まだ人の気配が残っているのを感じ取る
(あの一撃では殺せないだろうとは思っていましたが、予想以上にしぶとい相手ですね。しかし、今まで与えた傷と先程の一撃であの鎧の限界が近いことは分かっていますので、後はこのまま追い詰めていけば問題なく殺せるでしょう)
そして両手に持った剣を振り上げて構えると、内部で動く気配に向けて斬撃を放とうとした
だがその時、突然コンテナ内から青い光が放たれる
「ッ何が………!?」
それは目を眩ませる程の輝きであった、しかしタイタスは怯みながらも剣をコンテナ内部の気配に向けて振り下ろした
走る斬撃、大地を切断しながら進むソレはコンテナに更なる傷を付け、そして内部に居る生命体を切断せんと襲い掛かり
――――――簡単に弾かれた
「………!!」
タイタスは驚愕に目を見開く
彼の斬撃は今まで、避けられることはあっても真正面から弾かれたことはなかった
だからこそ目の前で起きた光景に目を細めて更なる警戒を現した
その時、コンテナの中から土煙を裂いて一人の男がゆっくりと歩いて来た
「あと一秒遅ければ死んでいましたね」
一歩間違えれば自身が死んでいたのにも関わらず、いつも通りの口調で現れた男の正体は浅井であった
だがその姿は口調とは違い先程までと大きく変わっていた
傷だらけだったはずの銀の鎧は、完全に修復されたのか傷一つない姿に変わり
更にスラッとしていた筈の外見にはゴテゴテとした分厚い外装が加わり、体形も一回り大きくなっていた
そして今まで一度も見たことない大剣を地面に突き立てた浅井は、目の前に立つタイタスに視線と共に言葉を送った
「では、第二ラウンドと行きましょう」
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