第6話 船内外

 空になった倉庫を前に、二人は状況をふまえて会話を始めた


 「これは………。しろがねの動力源を含めて、オークションに出されていた商品が丸ごとなくなってますね。であるならばデオスさんの仰っていたとおり、こちらが本命のようですね」


 「当たって欲しくはなかったがな。しかし、これだけ計画的だとすぐに追いつかないとこの星から逃げられるな。仕方ねぇさっさと取り返しに行くぞ」


 「了解です」


 会場裏の惨状を目撃してから僅かに数分、デオス達は次の行動に移る

 まず建物外へ出るとデオスが「火喰鶏ひくいどり」と呟き、鳥の形を模った炎を外につながる大穴へと向けて飛ばした

 そして飛び上がった炎の鳥は無数に分裂しながら地下を抜け、地上へ到達すると四方に散らばっていく


 「目を星全域にばら撒いた。これで商品を盗んだ連中を探し出す」


 鳥たちが飛び立ってから僅か5分


 「見つけた、ここから北に80㎞の港だ」

 

 デオスの飛ばした火喰鶏の一羽が、オークション会場から持ち出された商品を港に泊めた大型の宇宙船に詰め込んでいる途中の集団を発見した

 

 「ムネタカ、掴まれ。近くまで俺が飛んでいく」


 そして差し出した手を浅井が掴んだことを確認したデオスは一気に空へと飛び上がり、襲撃犯が居る港の方角へ向けて空に炎の線を描きながら速度を上げて飛んでいくのだった



 

 

 ――――港まで約5㎞地点

 2人は目的地である港ではなく、その手前の山中に降り立っていた

 

 「ムネタカよく聞け、ここから俺たちは別行動で港に向かう」

 

 「ここからですか?」


 「ああ、作戦はこうだ、まず俺が先に港の敵本体に襲撃を行う。そして俺が敵と交戦しているうちにムネタカは宇宙船に潜入し、動力源を取り返して取り込む。その後は俺の援護にでも来てくれ。分かったか?」


 「分かりましたが、デオスさんに援護ですか? それ程までに敵は強いのでしょうか?」


 「敵の正体が俺の思う相手ならな。まぁ、そん時は期待してるぞムネタカ。それとしろがね、ムネタカを頼むぞ」


 「はい、お任せを。傷一つ付けずデオス様の下までお連れします」


 「それじゃあ、また港で会おう」


 その一言を最後に飛び上がったデオスは空の彼方へと消えていく

 続いてその背を見送った浅井も、しろがねと共に木々の間から跳び出し山から脱すると、港へ目掛けて一直線に地面を蹴って走り出すのだった



     ―――――――――――――――――――――――――――― 


 

 ――――――そして視点は宇宙船が停泊する港へと移る

 

 

 港では黒いスーツを着た男たちが所狭しと集まっていた

 そんな彼らは近隣の星に本拠を置くヤクザであり、その名をトリプル・ヘッド・ドッグ組と言った

 そんな彼らトリプル・ヘッド・ドッグ組は数か月前から計画していたオークション襲撃計画を難なく成功させ、その日に出品されていた商品、合計134点を全て強奪していた

 そして宇宙船の近くではその商品の積み込み作業が行われており、その作業をしていた内の一人であるトカゲ顔の男が目前で最後の荷物を積み込み終わったのを確認した後、近くにある高級店に駆け込んだ

 そのトカゲ顔の男は急いで窓際の席まで進むと、その席で高級なワインを呷っていた巨漢の男に対して報告を行った


 「親父、全ての荷物を積み終わりました」


 「「「そうか」」」


 「出航準備もあと数分程で終わります」


 そして驚くことに彼らトリプル・ヘッド・ドッグ組はオークション会場の襲撃からわずか1時間で全ての荷物を積み終わり、後はこの星から出て行くだけという段階まで進んでいた

 

 「「「おう、追手が来ないうちにさっさとずらかるぞ」」」


 「へい!!」


 「「「全てが計画通り進む、これは何度経験しても格別なものだな。クク、クハハハハハハハハハハ!!」」」


 そう言って高笑いを上げた組長と呼ばれた男は、満足そうにその三つの犬顔それぞれに邪悪な笑みを浮かべた

 そしてそれから数分もしないうちに、組長の下に先程のトカゲ顔の男から待ち望んだ報告がやって来る


 「親父、出航準備も完了しました。すぐにでも出航できます」

 

 「「「そうか、私たちもすぐ行く。全員先に乗り込ませとけ」」」


 「へい!!」


 報告に着た部下に指示を出した三首の男は残ったワインを飲み干してから立ち上がると、六つの腕を器用に使って帽子とコートを羽織って店から立ち去ろうとした

 ―――その瞬間、空から何かが店内へ墜ちてきた


 爆音を奏で周囲を震わせたその衝撃によって、職人が手作業で造り上げた高級店自慢の天井は崩壊し店内を土煙が埋め尽くす

 視界を覆う程の土煙であったが、三首の男にはしっかりと店内に墜落、いや着地した者の姿がはっきりと見えていた

 そして徐々に晴れてきた土煙の中から赤髪のオールバックに赤いサングラス、更に胸元を開けた赤いスーツ着た男、デオス・フォッサマグマがゆっくりと口元に笑みを見せながら歩いてくると、目前に立つ三首の男に対して言葉を放つ  

 

 「最悪、船ごと沈めるしかないと思ってたんだが良かったよ、あんたがまだこんな所に居てくれて」 


 「「「そうだな、私たちも今更後悔しているよ。こんな所で酒を呷っている場合じゃなかったと」」」


 デオスの煽りにも動じず軽口を叩く三首の男

 まぁ、こんな言葉で動じてくれないよなといった顔を見せたデオスであったが、続けて話を振る


 「それで、一応確認しとくがトリプル・ヘッド・ドッグ組組長ジョエル・モスコールで間違いないな?」


 「「「間違いないが、それを確認してどうするんだ? まさか見逃してくれるわけでもないだろう?」」」


 「ああ、逃がさない。ただ、これから殺す相手の名前ぐらい憶えておきたかっただけだ」


 そしてその言葉を最後にデオスは構えを取る

 ジョエルもその言葉を聞いてニヤリと楽しそうに口角を釣り上げた後、六つの腕で構えを取る


 「「「は!! 私たち相手に良く吠えた。だがその蛮勇に免じて私たち自ら、お前の事を引き裂いてやろう」」」


 そして構えを取ってタイミングを見計らっていた両者は、僅かな数秒の沈黙の後


 「シィッッ!!」


 「「「ガァァァァァ!!」」」


 その距離を一気に詰めて激突した



     ――――――――――――――――――――――――――――


 

 ――――デオスが敵の首魁との戦闘開始から数分後


 「すでに始まっていますか」


 港に到着した浅井は、先に向かっていたデオスが想定よりも早く戦闘を行っていた現状に対し反省をしていた

 そして先程のデオスの言葉を証明するような激戦が、浅井の視界のずっと先で巻き起こっていた

 ミサイルの爆発に似た巨大な爆炎が各所から巻き上がり周囲を焦土に変える

 更に続いてかまいたちのような斬撃が建物を地面ごと両断し、空に浮かぶ雲を吹き飛ばしてく

 だが浅井は己に課せられた役割をこなす為にすぐにその光景を背後に向け、オークションの商品が詰め込まれた大型の宇宙船へと向けて歩を進めた

 そして宇宙船近くの建物に身を隠して周囲を確認する


 (敵の姿は、ほとんどありませんね)


 宇宙船の周りにはデオスの襲撃への対処の為にトリプル・ヘッド・ドッグ組の組員は出払っており、最低限しかいなかった

 浅井はそれを好機とみて身を隠していた建物から宇宙船近くの高さのある建物の屋上へ移動し、そこから宇宙船目掛けて跳び出す

 そしてトリプル・ヘッド・ドッグ組の組員の誰一人にも気が付かれることなく宇宙船の甲板に着地した浅井は、近くの扉を開き内部への潜入を成功させた


 「良し、ここまでは問題ありませんね。後は動力源の場所ですが………、しろがねさん、どこに在るか分かりますか?」


 「これだけ近くに在れば、動力源から漏れ出すエネルギーを辿れますので分かります。場所は此処から真下に130mの地点です」

 

 「了解しました」


 浅井はしろがねの動力源の大体の場所を把握すると、急ぐように駆け足でその地点目指して内部にある階段を駆け下りていく

 宇宙船の内部は広大で、初めて入る人間にとっては迷宮を思わせる程であったが、浅井は壁に描かれた簡単な通路表示と動力源の場所を頼りにほぼ最短の距離で進んで行った

 しかしここまで順調な浅井の進行を邪魔するように、3人の男が通路に立っていた

 

 (あの場所だと避けることはできませんね………さて、どうしますか。別の道を探すのもありですが、しかしそれだと時間がかかり過ぎます。であらば)


 今までは騒ぎを起こしたくはなかった為に戦闘を回避していた浅井であったが、目的の動力源が真下に迫る中、もう気が付かれても無理矢理突破できると確信し戦闘を解禁した

 そして戦闘を行うという結論を出した浅井は、しろがねに指示を出す


 「防御を任せても良いですか?」


 「はい、お任せください。ムネタカ様には傷一つ付けさせません」

  

 「では、行きます」


 確認を終えると浅井は勢いをつけて道の角から一気に飛び出し、敵目掛けて突撃して行く

 角から出れば逃げ場無しの直線の道である為、すぐにスーツの男たちは駆けて来る浅井に気が付き、一斉に手に持ったマシンガンのトリガーを引く

 そして撃ちだされた無数の弾丸は隙間なく浅井の下へ向かっていくが、浅井は一切防御することなくその弾幕へ突っ込んで行く

 浅井と弾丸、互いに止まることなく進んで行けば当たり前に衝突の瞬間が来る

 道の真ん中を浅井が通過したその瞬間、一発目の弾丸がスーツの男達の狙い通り浅井の顔面に吸い込まれていき当た――――ることなく全身を包むように張られた半透明のシールドに弾かれる

 そして続けて到達した無数の弾丸を前面に張ったシールドのみで弾きながら進んだ浅井は、あまりにも簡単に先頭に立つスーツの男の目前に辿り着く

 先頭に立つ男は全ての弾丸を無視して迫る浅井に驚愕したせいか咄嗟に動くことが出来ず、振りぬかれた浅井の拳をもろに顔面に受けて血飛沫と砕けた肉と骨を周囲にばら撒きながら吹き飛んだ

 更に戦闘に慣れた浅井がその一撃のみで動きを緩めるはずもなく、続けて銃を捨てて腰に差してあった剣を抜こうとした二人目の男の手を右手で掴んで引っ張ると、空いた左手でその男の顎に向けて拳を打ち付け、そのままの勢いで顎を砕き二人目も無力化するのだった

 

 (あと、一人)


 そして浅井は地に伏せた二人目の男の横を抜け、剣を構える三人目の男に向けて距離を縮める

 地面を滑るように移動する浅井に対し、三人目の男も抜き放った剣を上段に構えて待ち構える

 そして遂に浅井が三人目の男の攻撃範囲に踏み入れた

 その瞬間――――――


 「2秒後、上段からムネタカ様の左肩を狙って来ます」


 浅井はヘルメット内部に響いたしろがねの言葉に従って身体を傾ける

 そしてその言葉通り、先程まで浅井の左肩があった場所を男が振り下ろした剣が通り過ぎた

 

 「!?」


 スーツの男はまるで未来でも見ているかのような動きで攻撃を完璧に避けられたことに驚愕し目を見開く、しかしそれでも動きを止めずに二撃目を振るおうとする

 だが男の二撃目が振るわれることは無かった

 一撃目を避けた時点でもう男の懐に入っていた浅井は、背中側に回転しながら左肘を男のこめかみに叩きつけると、そのまま体勢を崩して前に倒れ込んだ男の後頭部に蹴りを放ち頭蓋骨を粉砕した


 「これで終わりですね」


 「はい、お見事でした。さすがムネタカ様です」


 「いえ、しろがねさんが居なければ私はこの世界では戦えませんから、全てしろがねさんのおかげです。しかし想像以上に先程の予測は強力ですね。たしか視線や筋肉の動きからの行動予測してるんでしたっけ」


 「そうですね、相手がどんな存在でも行動する直前に僅かな動作がありますから、それを利用しています。これさえあれば同等程度の相手に負ける事はないと思います。しかし格上が相手だと、この程度の予測ではすぐに対処してきますので過信はしないでください」


 「分かりました、心得ておきます」


 そして道を塞ぐ敵全員を倒し終わった浅井は、しろがねとの軽い会話の間で息を整えると、足早にその場から階段に向かって走り出した

 その後、今までよりも長い階段を降り切った浅井の前にオークション品が入った木箱やコンテナが大量に並ぶ巨大な倉庫が現れる

 広大ではあるが静まり返った倉庫内には、連れ去られ檻に入った動物の鳴き声だけが不気味に響いていた

 浅井は倉庫内に足を踏み入れると周囲を警戒しながら、しろがねに話しかける


 「それで、どうです。動力源の正確な位置が分かりましたか?」


 僅かな時間の後、「分かりました」と呟いたしろがねが動力源が入ったコンテナの位置をヘルメット内のモニターに映し出した

 浅井はモニターを確認すると、その反応を頼りにして動力源の入ったコンテナに向けて走り出した

 そして目的のコンテナまであと少しという所まで来た時、彼のヘルメット内にしろがねの声が響く


 「右に跳んでください!!」


 浅井はいつもより強めの口調で声を発したしろがねに驚きつつも、考えるのは後にしてその場からしろがねの指示通り右に飛ぶ

 その瞬間、先程まで居た地点を斬撃が走り抜けていく

 音も無く走った斬撃は床だけではなく、後ろのコンテナも貫通して大きな切断跡を残すのだった

 斬撃を回避し着地した浅井は、斬撃が飛んで来たコンテナの影に視線を向けて呼びかけた


 「どちら様ですか?」


 その呼びかけに答えるようにそのコンテナの影からゆっくり出てきたのは、一人の男であった

 

 「その鎧、オークション会場の襲撃時に見ましたね。舞台上からも目立っていたので良く覚えていますよ」


 「貴方は確か――――――」


 見覚えのある顔の登場に、浅井は声を漏らす

 

 (オークション会場の襲撃の直後から姿が見えなかったので、てっきり死んだか逃走したと思っていましたが、そういう事ですか)


 「一応、オークション会場で名乗りましたが、もう一度改めて名乗らせていただきます。わたくしの名はトリプル・ヘッド・ドッグ組若頭タイタス・ヴィーガーです。短い付き合いになると思いますが、どうか覚えて逝って下さい」


 蜘蛛顔の男はそう名乗りながら、目前の浅井向けて優雅にお辞儀をするのであった



 

  ――――――そしてムネタカが宇宙船の倉庫で敵と対峙した瞬間より、時間は僅かに遡る

 

 

 美しい景色が有名なこの港は今、焦土と化しており少し前まで人が住んでいた多くの建物は元の形が分からない程に裁断されたうえ炭に変えられていた

 そしてそんな地獄のような状況を作り出した二人、デオス・フォッサマグマとジョエル・モスコールは僅かな戦闘の後、宇宙船から10㎞程離れた地点でお互いに無傷の姿で睨み合っていた

 張り詰めた空気の中、ジョエルが口を開く

 

 「「「赤い髪に赤いスーツの炎使い。そうかお前があの白炎のデオス・フォッサマグマか!!! クククク、確かにお前が白炎なら私たちを殺すと言ったあの言葉、決して蛮勇から来た言葉では無かったな。ならば先程の言葉は訂正し、謝罪させてもらおう。

 そして提案だ、お前をここで殺すのは惜しい、だから私たちに下れ白炎!!」」」


 上機嫌でジョエルはデオスをスカウトしようとした

 それに対してデオスはただ一言、「断る」そう呟いた


 「「「断るか………、それは今、宇宙船で戦う男が理由か?」」」


 「………………!?」


 デオスはジョエルに宇宙船に潜入したムネタカの事がバレていた事に、驚いて僅にサングラス内で目を細める


 「「「なぜお前が、白炎のデオス・フォッサマグマとも在ろうものがあのような弱者に拘る? 理由を答えよ!!!」」」


 「理由? あの少年のことが気にいったからだ」


 「「「それが理由だと? 愚かだな。そんなものの為に命を懸けるというのか。もう一度だけだ、あんな弱者の事は捨てて私たちに下れ。それで命を助けよう」」」


 「なら俺ももう一度だけ言おう、断る」


 「「「交渉決裂だな。ならばあの男ごと死ぬが良い!!!」」」


 そして戦いは再開される

 地面を蹴って急加速したジョエルは、筋肉の詰まった太い六本腕を振るう

 その一撃は大地と背後の高層ビルを紙を切るように簡単に切断し、更に大きく避けたはずのデオスの肉体に僅かながら傷を付ける

 そして追い打ちをかける為に大きく跳んだジョエルはデオスへと視線を向ける

 だがそこ在ったのはデオスの姿ではなく、視界一杯に広がった巨大な炎の壁だった

 

 「「「……………!?」」」

 

 ガードすらする余裕なく炎の壁に飲み込まれたジョエルであったが、唸りと共に炎を掻き切って無傷の姿で跳び出してくる

 だがその瞬間をデオスが逃すはずも無く、跳び出してきたジョエルの顔面に炎を纏った拳を叩き込む

 一撃でビルを粉砕するほどの威力の拳がジョエルの真ん中の顔を歪ませながら、そのままの勢いでその身体を地面に撃ち落とす

 そして一閃を描きながら地面に激突したジョエルに向けて、デオスは更に追撃を行った

 デオスは空中でジェット機のように炎を点火し、クレータの中心に埋まるジョエルに向けて加速する

 衝撃波を発生させながらジョエルに向けて迫ったデオスは、先程と同じ様に炎を纏った拳を叩きつけようとするも、起き上がったジョエルの手の一本がデオスの顔面を鷲掴みにする


 「グッ……………」


 「「「次はこちらの番だ」」」


 そしてジョエルは掴んだデオスの頭を馬鹿力で地面に叩きつけると、そのままの勢いでデオスの顔面を地面に擦り付けながら走り出す

 ジョエルはガリガリと不快な音を響かせながらデオスの顔を地面に建物に当てながら、十数㎞を一瞬で駆け抜ける。その間デオスの身体から噴出した超高熱の炎に全身を焼かれながらもその速度を緩めることは無かった

 そしてその後、このまま削り殺してやると更に肉体に力を入れて走り出そうとしたジョエルだったが、さっきまでデオスを掴んでいた手の感覚が突然消えた

 

 「「「何が――――――、ガハッッ!!」」」


 そして感覚の消えた右手へと視線を向けようとしたその瞬間、腹部に強烈な威力の衝撃と内部を焼くような激痛が走った

 その一撃に三首それぞれから胃液を吐き出しながら、唸ったジョエルの6個の瞳には焼き切れた己の右腕と――――――


 「「「俺の腕を焼き切って脱出したのか―――――、それにこれは」」」


 腹部に突き刺さったデオスの腕が見えた

 まずいと、その腕を抜こうとしたジョエルよりも早く、デオスは突き刺した腕からジョエル内部に向けて炎を放つ


 「火葬紅蓮かそうぐれん!!!!!」


 唸るようにジョエルの肉体の内部で暴れる炎は、どんどんとその火力を増していく

 そして内部での逃げ場を無くした炎は、無理矢理逃げ場を作るためにジョエルの肉体を焼き切って表面から噴き出すと、空に紅蓮の華を形どり咲き誇った

 だがトリプル・ヘッド・ドッグ組組長ジョエル・モスコールが内臓を焼かれた程度の傷で、死ぬようなひ弱な男な筈がなく


 「「「私を舐めるな!!! 白炎!!!」」」


 炭化した肉体を無理矢理に動かすと、その巨大な口でデオスに嚙みついた

 そして鋭い牙をデオスの肩に食い込ませると、無理矢理に口の力でデオスを持ち上げて投げ飛ばした

 

 「グゥゥ!!!」


 投げ飛ばされ地面を跳ねながら壁に激突したデオスの肩には噛みつかれたときに出来た巨大な穴が開き、そこから大量の鮮血が吹き上がった

 だがデオスは即座にその噛み跡を炎で焼いて出血を止める

 そして目前に視線を向けると、そこには体中が炭化し内臓を焼かれたのにも関わらず、凶悪な顔に今まで以上の笑みを浮かべたジョエル・モスコールが立っていた

 

 「「「最近は弱者ばかりで一方的な蹂躙しか出来てなかった、だからこそ白炎、お前という対等な相手との殺し合いを私たちは心から楽しく思うよ。

 ああ、だが安心して欲しい、本番はここからだ。さぁ、もっと楽しい殺し合いをしようじゃないか!!!」」」


 「そうだな、俺も本気で行かせてもらうよ」


 その瞬間、両者の身体に大きな変化が起き始める

 バキバキと歪な音を響かせながら肥大化し、炭化していた肉体と焼き切れた三本の右手が再生していくジョエル・モスコール

 そして、それと同じタイミングでデオスの身体に纏われた炎が強く燃え上がり、色が青く変化していく

 

 ――――――そして変化が終わる

 片方は赤黒く赤熱する肉体へを持った、見る者全てを恐怖させる巨大な三首の犬の怪物に変貌し、もう片方はその場に立っているだけで周囲を焦土に変える、青い炎で形造られた悪魔へと姿を変貌させた

 さぁ、これで準備は整った

 これより始まるは、

 

 三首の右腕である蜘蛛顔の男も


 「では、お逝きなさい!!」


 鎧を纏った異世界からの来訪者と記憶を失った機械も


 「行きますよ、しろがねさん」 「ええ、何処までも」


 世界を手中に収めんとする三首の怪物も


 「「「さぁ、行くぞ」」」


 全てを地獄に変える炎の悪魔も


 「ああ、いつでも来い」

 

 退くことは許されない、命を懸けた死闘である


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