第5話 オークション
ズイズの店を出てから約1時間、デオスと浅井の二人はシーウォーン市場の地下深く、違法な品が多くを占める闇市場に居た
闇市場は縦に貫くように開いた大穴を中心に何十層にもなる階層に分かれており、ビルなどの現代的な建築が多かった地上とは違い、自然物の中に建築物が混ざったような光景が広がる不思議な場所であった
その自然と人工の闇鍋のような風景を観ながら闇市場の奥へと進んで行き、更に地下に流れる巨大な滝の上に架かる大橋を渡った二人の前に、美しい黄金の劇場のような建物が現れる
その建物の周りには無数の店と集まった客たちの熱によって、まるでフェスティバルの様な凄まじい盛り上がりをみせていた
「凄い規模のオークションですね。会場の規模も人の量も想像以上です」
「まぁ、出品される商品も高額な物ばかりだし、近隣だけじゃなく遠方からも客が集まるからな。規模もそれに合わせたもんになるってものだ。っと、もうこんな時間か。そろそろオークションが開始されるし、さっさと入っておくか」
「そうですね」
――――――――――――――――――――――――――――
僅かな移動の後、二人はオークションの会場となる黄金劇場の入口の前に立っていた
入口には剣や銃などで武装し、分厚い鎧を着込んだ守衛と思われる集団が周囲に目を光らせていた
そんな守衛たちは入場しようとする客一人一人に例外なく近づいて行くと、会員証の提示と所持品の確認を行っていく
その光景を僅かに離れた場所から見た浅井はデオスに確認を入れる
「デオスさん、会場に入場するには何か会員証の様なモノを提示する必要がありそうなんですが持っていらっしゃいますか?」
「ああ持ってるぞ」
デオスは懐から先程、他の客が提示していた会員証と同一の物を取り出して浅井へと見せた
「デオスさんもここの会員?なんですね」
「いや違うぞ」
「では、それは?」
「ムネタカ、ここをどこだと思っているんだ? 世界最大クラスの闇市だぞ、
「あー、そういう事ですか」
「それじゃあ行くぞ」
そして浅井の心配は他所に会員証の提示も所持品検査にも一切引っ掛かることなく、二人は簡単にオークション会場に入ることに成功する
「ここまですんなり入れるとは」
「言いたいことは分かるが、魔法だの超能力がある時点で正直検査なんて意味ないからな。だから検査も最低限の形式的なもので御終い。自分の身は自分で守るしかないってわけだ。まぁ、皆それが分かっているから護衛を連れてきているんだ」
「そのようで」
会場内には武器を携帯する者たちが複数人居り、皆殺気立っていた
浅井はそんな彼らの姿を見て納得する
そして未だホールに残る者たちの横を抜けて会場の扉を開けたデオス達の視界に広がったのは、オペラハウスのような美しい造形美の会場であった
会場内部はほとんど隙間なく客が座っており、更に熱気立つその客達は誰が見ても金持ちだと理解できる程に豪華な服と装飾品を身に着けていた
「ムネタカ、俺たちはあの席だ」
「了解です」
二人は隣の席に座る客同士で盛り上がる彼らを横目に見ながら、会場内の階段を下りていく
そして自分たちの席へ到着した二人は着席した後、オークションの開始までの時間を潰すために手元の商品リストへ目を通し始めた
15分後、浅井が商品リストの3分の1程に到達したその時、会場の明かりが弱まり軽快な音楽が鳴り始め、続いて舞台に下りていた幕が上がった
更に幕が開いた舞台上、複数のライトで照らされたその中心には一人の男が立っていた
「ご来場の皆さま、お待たせしました。これからシーウォーンオークションを始めさせていただきます!! 司会はわたくし、タイタス・ヴィーガーが務めさせていただきます!!」
そのタイタス・ヴィーガーと言う人型の身体に蜘蛛の頭が付いた男が名乗った瞬間、席に座る客達から盛大な拍手と歓声が上がった
会場を揺らす拍手と歓声の後、舞台横から商品が運ばれて来た
「それでは、商品№1ツガーメ王国を壊滅させた毒竜オルへインの毒袋。5000万からです!!!」
そして司会のこの言葉が合図になり、金と欲が渦巻くオークションが始まった
――――――――――――――――――――――――――――
「4億5000が出ました!! 他にどなたか居りませんか? 居りませんね。では決まりです! 海獣メルへデュクを討伐した海賊ドア・バルデンの雷震銛は4億5000万で落札です!!」
オークションは盛り上がりをみせる
出品される商品は過去の戦争で活躍した英雄が使っていた武具や希少な生物や美術品であり、その多くは最低でも1000万の額が付いていた
それ以外にも僅かに1品だけではあるが異世界からの漂着物が出品されていたが、その外見は浅井にも見たことが無く地球の品ではないことは明らかであった
そして色々な商品の落札を見届けた二人の前へ、遂にお目当ての商品が現れる
「次の商品は№68 宝石型の高純度エネルギー体です。先日、突然宙から降って来た謎の飛来物であり、測定不能のエネルギーを内部に秘めてます。この商品を求め今日、このオークションに来た方も多いのではないでしょうか。ですのでわたくし共も期待を込めてこの値段を付けさせて貰いました。それでは10億から開始です!!」
そして始まったしろがねの動力源であるエネルギー体のオークション
次々と手を上げた客達によって額が釣り上がっていく
値段が30億5000万まで上がったその時、静観していたデオスが遂に手を上げる
「おぉっと!! 出ました50億、50億です!」
一気につり上がる値段
それによって参加していた大半の客が大人しくなったが、まだ一部の客は諦めずに値段を上げていく
しかし今度はデオスではなく、別の男によって残った客が黙らせられた
「100億! 100億です!!」
「あのカネヲモッチ卿が遂に声を上げた!」 「これは凄い勝負になるぞ!!」
100億を提示したカネヲモッチ卿と呼ばれた男の登場で騒がしくなる会場内
そしてこの値段のつり上げによって、会場内で手上げているのはカネヲモッチ卿とデオスのみになった
しかしデオスはその100億という金額に対して一切気にする素振りを見せず、涼しい顔で更に値段を上げていく
150、200、250と、どんどん価格が上がるにつれて片方の顔に変化が訪れる
それはカネヲモッチ卿であり、苦しそうな顔を浮かべていたが何とかこの競に勝つために300億を提示した
「300億が出ました、しかしそちらの赤いスーツの方が400億を提示しました」
「なぁっ、よ、400億!?」
しかし簡単にデオスから出たそれを超える400億という数字を聞いて、カネヲモッチ卿は精気が抜けたような青白い顔になり、地面へと崩れ落ちるのだった
そして今回のオークションで最大の400億という額に会場中が騒然とする中、司会は興奮しつつも他の客に向けて呼びかける
「400億が出ました!! 他にどなたかいませんか!! 誰も居なければ決まりますよ、良いですね!! 決まりです、宝石型の高純度エネルギー体は400億で落札です!!」
しかし誰も手を上げる者が出なかったため、司会がドンドンとガベルを叩く
その音が鳴ったという事は、デオスがしろがねの動力源を競り落としたという証明だった
「よし、これで2つ目だな」
「1つ目と違ってあっさり?手に入れられて良かったですね」
「そうだな。それで、商品を受け取れるのはオークションが全部終わってからだから、このまま最後まで見ていくか? それとも外の屋台で時間でも潰すか?」
「せっかくですから、最後まで見ていきましょう。私にとってはどれも物珍しくて見てて飽きないので」
「そうか。なら見ていく――――――、しろがね!!」
「デオスさん!?」
突如、しろがねの名を叫ぶデオス
それとほぼ同時に浅井の身体にしろがねが鎧として纏わった
そして急に大声を上げて席を立ったデオスと鎧を纏った浅井の姿に、オークション会場内の全員が驚いて振り向いた、その時
静寂に包まれた会場の扉が巨大な爆発と共に弾け飛んだ
更にその爆発を合図にするように会場の複数の扉からスーツを着た覆面姿の男たちがぞろぞろと現れ、会場の客に向けて手に持っていたマシンガンを乱射し始めた
「っ!?」
浅井は会場内に入ってきた男たちの持つ銃を目撃すると即座に伏せ、飛び交う弾丸から身を守ることに成功するも、呆気を取られた客の一部は胴体に大量の穴を開けられて一瞬にして死体に変えられるのだった
「………さて、どうしますか」
頭上を飛び交う銃弾と罵声、そして視界に入る大量の血を流して倒れ伏す客
しかしそんな変わり果てた光景を見ても浅井の感情は一切揺らぐことがなく、冷静なまま次の行動を考え始める
「しろがねさん、この鎧は銃弾を受けても問題ありませんか?」
「はい、この程度の弾丸では傷一つ付きません。ですが今回はもう活躍の機会はないと思いますよ」
「それはどういう事で?」
どうにかこの状況を打破するための行動を起こそうとしていた浅井であったが、彼の行動を止めるしろがねの言葉の真意を聞き出そうした時、突然背後から声をかけられる
「ムネタカ、もう終わったぞ」
「終わった?」
「ああ、見てみろ」
それはデオスの声であり、今度はデオスの言葉の意味を知るために浅井は顔を上げる
そして上げた先で浅井が目撃したのは、僅か数秒前まで銃を乱射していた覆面の男たちの死体だった
覆面の男たちの死に方は様々で、炭になってる者から真っ二つに切断された者や地面から生えた杭で串刺しにされた者まで居た
その光景に一瞬、呆気を取られた浅井であったがすぐに死体の近くに立つ者たちの姿からこの場で何が起こったのかを理解した
(あれはこの会場に来ていた客の護衛たちですね。であれば私が伏せて次の行動を考えているうちに、デオスさん含めこの会場の護衛たちが覆面の男たちを殺害したんでしょう)
「すみませんデオスさん、何の役にも立てず」
「気にするな、それに正直言って俺が何もしなくても会場内の護衛でどうにかなっただろうし、しろがねが要ればムネタカだけでも皆殺しに出来る程度の連中だった。だからこいつらは簡単言うとただの時間稼ぎ、捨て駒ってことだな」
「捨て駒ですか?」
「ああ、ここまで内部の人間に気が付かれず侵入出来た奴が相手ならもう少し勝負になってる。だからこっちは陽動で本命はオークションの商品の強奪だな。この予想が合っているかは裏の保管庫を見に行けば分かる」
デオスの提案で未だ混乱の中にある会場から舞台裏にある保管庫へと歩を進めた二人は、そこで凄惨な現場を目撃する
血、頭、血、胴体、血、腕、血、足、血、内臓
先程まで生きていたはずのオークションスタッフたちと守衛たちが、最低でも2分割に切断され、更に酷いものではもはやみじん切りの肉片と化していた
「これは、何とも酷い」
「守衛には手練れも多かったはずだが、数分も持たずに全員殺されているな。ああ、やはりそうか、ムネタカこれを見ろ」
そう言ってデオスが指で示した方角には綺麗に切断され真っ二つになった分厚い扉と、中身がすべて持ち去られて空っぽになった巨大な倉庫の姿があった
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