第4話 旅の始まり

 「ここがシーウォーン市場。凄い規模ですね」


 浅井たちはデオスの案内でこの星、最大の市場であるシーウォーン市場へと赴いていた


 「ああ、他の星の市場にも行ったが、ここ程の規模の市場はそうはない。いい経験になるだろうから良く観察しておくと良い」


 シーウォーン市場とはアデレア星の流通の中心と言える場所であり、全世界でも3番目に巨大な市場であった。そんなシーウォーン市場には円形の外壁があり、その内部にはテントや屋台のような小規模なものから、城と見間違えるような程に豪華で巨大な建物まで多種多様な店構えの商店が建ち並ぶ

 更にこのシーウォーン市場にはこれだけの規模の市場があるにも関わらず、それ以上の特徴と言えるものが存在した

 それは地下に向かって広がる巨大な闇市場だった

 販売物も表市場とは違い危険薬物から盗品、更に暗殺依頼に人身売買等々という違法パレード

 しかもアデレア星を治める政府が、自国富強の為に主導で行っている事業であった

 

 「それで、ここへは何をしに?」


 隙間が無い程に密集した人たちの間を縫うよう抜けながら、浅井は横で歩くデオスへ質問を口にする


 「取り合えず情報収集からだな。まずこの表市場の中心部にあるズイズという副業で情報屋をしている女の店に向かい、最近市場に流れてきた商品を確認する。そこで怪しい商品が有ればしらみつぶしに調べ上げる。もし無ければ少し時間はかかるが、この星を出て世界最大の市場に向かう気でいる」


 「そうですか、了解しました」


 その後、目的の場所へ浅井たちは歩を進める

 ユニコーンや小型のドラゴンを売るペットショップや雷を纏う剣や呪いの鎧を売る武器屋など幾つもある店を通り過ぎ、高級店が多く建ち並ぶ市場の中心部に到着した三人は、その中の裏路地にひっそりと建つ小さな商店の前で立ち止まった

 蜘蛛の巣が張り、大量の蔓が壁面を這うその商店は、まるで御伽噺に出てくる魔女の家の様であった


 「相当古い建物ですね」

 

 「確か築2000年くらいだったはずだ。まぁ、こっちだと比較的新しめの建物に入るがな」


 「2000年で新しめですか、それはなんと」


 現代日本では見られないような建物に興味深々な浅井

 その浅井に「さぁ、入るぞ」と言いながらデオスは、建物の扉を開き店内へと足を踏み入れた

 店内は明かりが灯っておらず、窓から入る光も周囲の建物の影響で少ない為、その全容を把握できない程の暗さであった

 

 「ズイズ、居るか?」


 しかしデオスはそんなことを気にする様子もなく、ズカズカと足音を鳴らし店内の奥へと進んで行く

 するとデオスの進みに合わせるように、天井のからぶら下がった照明に明かりが灯り始める

 そして店内全ての照明が点灯し終わったのを見計らったように、店の奥から一人の女性がゆっくりと二人目指して近づいて来た

 

 「よお、ズイズ待ったか?」


 その女性、デオスからズイズと呼ばれた女性は酷い隈があるもののエメラルドをそのまま埋め込んだのような美しい輝きを放つ瞳と、宝石が填めこまれた髪留めが似合う光を浴びて煌めく緑髪に、特徴的な長い耳を持った美麗な人物であった

 ズイズはデオスの姿を見るなり何者も寄せ付けない氷の様に冷たい表情から、誰が見てもイラついているのが分かる表情へと変化させると

 

 「デオス貴方、今が何時か分かってるの? いつも待ち合わせ時間くらい守りなさいって言ってるわよね!!」


 見た目通りの美麗で聞き心地の良い、ただし怒りの籠った声でデオスを説教し始めた 


 「そもそも、どうしたらこんなに遅れるのって、――――誰よ貴方!?」


 何時間でも説教が続くくらいの勢いでデオスに詰め寄っていたズイズであったが、背後に立つ浅井の姿を見て驚きの表情を浮かべる


 「ああ、説明するよ。こいつはアザイムネタカ、異世界人だ」


 「なっ、んですって!? ………貴方はまた」


 目を見開くズイズ

 そして固まったズイズを前に状況がよく分からない浅井は、困惑しながら自己紹介を始める


 「ご紹介に預かりました、浅井宗孝です。地球という星からこちらの星に迷い込んだようで………、そして先程少々トラブルに巻き込まれていた所をデオスさんに助けて貰い、現在私の帰還を目的に同行してもらっています」


 簡単な説明を終えた浅井は、ズイズへと深く頭を下げる

 するとそのタイミングでようやく再起動したように動き出したズイズは、浅井の自己紹介に返すように名乗り返す


 「ズイズ・メルテーシアよ。この店の主人をしているわ、よろしく」


 「ええ、こちらこそよろしくお願いします」


 「それでデオス、貴方はこの子を紹介するために来たわけ?」


 「それもあるが、別に二つお前に聞きたいことがあって来た」


 「わざわざ私に?」


 「ああ、まず一つ目なんだが――――見てもらった方が早いか。ムネタカ、しろがねを見せてやれ」


 「了解しました、しろがね」


 「はい」


 浅井の呼びかけに応じるように、彼の全身に銀色の鎧が纏わっていく

 そして完全に姿を変えた浅井の姿を指してデオスは、横に立つズイズに問いかけた


 「何よ、ソレは………。機械人形? アメジア製の強化外装? いえ、それにしては使われている技術力が高度過ぎる………、デオス、それはいったい何なの?」


 困惑、困惑、困惑

 ズイズの顔には、それだけが浮かび上がっていた

 

 「さぁな? 俺達も知らん。分かっているのはムネタカをこっちに転移させた原因って事だけだ。頼りの本人は記憶媒体を損傷しているせいで何も説明できんから、ズイズに聞きに来たんだがズイズでも知らないか」


 「申し訳ないけど、私の所にそんな異質な機械鎧の情報は入ってきてないわ」


 「そうか、なら次に聞きたいのはこいつの胸部に付いてる青い宝石の事だ」


 そう言ってデオスは、浅井の胸元の宝石をコンコンと指で叩く


 「こいつはこの鎧を動かしている動力源なんだが、これとよく似た物体が市場に入ったかどうか分かるか? そのまま宝石としてかそれともエネルギーを秘めた希少な動力源として入ったかはわからんが、もしも後者なら裏のオークションに出品されてても可笑しくない」


 熱量を持って話すデオス

 そのデオスの姿を冷ややかな目で見ていたズイズは、彼が話し終えた瞬間、突然デオスに向けて凄まじい魔力の放出と共に無数の植物の棘を地面から出現させる


 「ねぇ、貴方、この子の為に色々してやりたいのは分かるけど………、私たちの目的忘れてないでしょうね」


 殺意の籠ったその言葉と鋭い植物の凶器を首元に差し向けられる中、デオスは一切の動揺なく、だが今までに見せたことのない酷く濁り淀んだ暗い瞳で目前に立つズイズを見つめながら言葉を放った


 「忘れるわけないだろ。目的は必ず完遂する、だが一度コイツに出会い助けたんだ、なら見過ごせない」


 あまりにも冷え切った言葉とその瞳、それは彼らが3000年前に掲げた目的を今も彼が忘れてない証明となり、そしてそれとは別に先程会ったばかりの異世界人を助けるという事も、彼にとっては大切であると証明するのだった

 そして今のやり取りでデオスが腑抜けていない事を確認したズイズは、諦めたように溜息をつく


 「―――――はぁ、分かったわ。今から調べるから少し待ってなさい」


 そう言って店の奥に下がっていったズイズは数分後、手にタブレットを二つ持って戻って来た

 そして片方のタブレットをデオスに投げ渡すと、タブレットに視線を落として説明を始めた


 「私は今日行われる大規模なオークションの商品一覧を確認するから、貴方達はそれで市場のリストでも確認しときなさい。分かったかしら?」


 「「はい」」


 三人が商品リストを確認し始めてから10分程経った頃、ズイズが声を上げた


 「あったわ」


 その言葉に作業を止めた二人がズイズへと近づくと、彼女はタブレットの画面を二人へ向けた

 画面にはオークションの商品である為か、詳細な説明文と共に青い宝石が写った一枚の写真が載っていた

 

 「デオスさん、これは」


 「ああ、大当たりだ」


 完全にしろがねの動力源と完全に同じ姿をした宝石の姿に、二人は顔を見合わせ笑みを浮かべる


 「ズイズ助かった」


 「良いわよこれくらい」


 「それじゃあ、俺達はオークションの時間が有るからもう行くよ」


 デオスはそう言って立ち去ろうとするも数歩して足を止め、もう一度ズイズの方へ振り向いた


 「ああ、忘れるとこだった。俺の方は収穫無しだ、悪いな」

 

 「そう。まぁ、私の方も一つ噂を聞いたから現地へ行ったけどガセだったって事ぐらいだから、大差ないわね。後、話は変わるけどついでだから伝えとくわ。まだ詳しい情報の精査が出来てないけど、最近このアデレア星の近くの星を根城にするトリプル・ヘッド・ドッグ組の動きが活発になってきていて、色々な国に襲撃をかけている事は知っているわよね。で、その組長であるジョエル・モスコールがこの星近辺で目撃されたって情報が私の下に入って来たから、一応気を付けなさい」

 

 「そうか、気を付けとくよ」


 「あ! 言っとくけどこれは貴方になんか遭ったら戦力が減るから教えただけで、貴方の事を心配して教えたんじゃないんだからね! 分かった?」


 「ハハハ! ああ、良く分かってるよ!」


 デオスは笑いながら建物を後にする

 そして浅井もわちゃわちゃと変な動きをしているズイズに深く一礼した後、先に出て行ったデオスの背を追って建物から出て行くのだった

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