第3話 記憶喪失の機械

 「さて、これで落ち着いて話が出来るな」


 肉体から噴き上がる炎を抑えながらデオスは、炭化した巨大トカゲの死体へ近づいて行く

 そしてトカゲの前に到着すると屈み、手を突っ込んでグチャグチャとその大きな死体の内部を漁りながら背後の浅井に向けて話始めた

 

 「それで殺したのは良いんだが、何でこいつがムネタカを追ってたのか分からんままだな。ムネタカ、こっちに来るときか、もしくは着たときにか誰かと会わなかったか? こう、召喚したとか言われてると話が早いんだが」


 「いえ、そういった方とは全く………………、ん? あ、いえ一つだけ確証は無いのですが」


 「それでもいい」


 「なら、こちらに来る直前に空から飛んで来た何かと衝突しました。…………あれは確か銀色の物体でした」


 「他に思い出せる要素は?」


 その問いに浅井は現在の時刻から数十分前の記憶を辿っていく

 連続して無数の困惑や命の危機と言った出来事が立て続けに起こったせいで未だにごちゃつく脳内を整理し2分後、彼はその銀の物体に青色の輝く宝石の様なモノが付いて事を思い出す


 「青い宝石の様なモノが付いた銀の物体………。その青い宝石ってこんなのか?」


 そう言って上げられた死体を漁って赤く染まったデオスの手には、周囲の光に照らされて美しく輝く青い宝石が握られていた


 「ええ、それです。って、どうしてそれを?」


 「いや、こいつの死体を漁ってたら出てきた」


 「そのトカゲの中から? ………一体何故ですか?」


 「恐らくだが―――――!」


 立ち上がったデオスが青い宝石を持って浅井へと近づいたその時だった、宝石が強い輝きを放ちだす

 そしてその青い宝石から放たれた光は白い雷に変化しデオスの指を弾き飛ばして空中へ飛び出すと、物凄い速度で浅井の胸元へと吸い込まれて行く

 だが浅井に衝突による衝撃が襲うことは無かった

 宝石はまるで実体が無いように浅井の体内に溶けていった

 

 「ッ!?」


 消えた宝石に彼らが戸惑っていたその時、浅井の胸元から青い光が全身に広がっていく

 そして青い光のラインから、バチバチと青白い雷と共に発生した光が肉体を飲み込み

 

 ―――数秒後、浅井の姿は大きく変化を遂げていた

 全身に奔る青く光るラインと金属のような銀の身体、そして胸元には煌めく美しい宝石が填められており、その姿はまるでSF作品に登場するパイロットスーツの様だった

 

 「………何ですかこれは、!?」


 「おいムネタカ、それは………、む!」


 ――コアの再接続を確認 緊急モードを解除します――

 

 驚き固まる二人の耳に、電子音声が届く

 

 「おはようございます」

 

 そして先程のものと続けて鳴った音声は、浅井宗孝が纏っている銀の鎧から発せられていた

 女性のような声色の音声に、浅井は戸惑いを表面上は隠しながら言葉を返す


 「おはようございます。それで貴方はどちら様ですか?」


 「ワタクシですか、ワタクシは………誰でしょうか?」


 「???」


 「………………申し訳ありません。どうやら記憶媒体が損傷しているようで。思い出すことが出来ないです」


 「それは困りましたね。あなた自身が分からないとなると、誰にも分からないですから」


 「検索………検索、………申し訳ありません。やはり何度検索してもワタクシの情報を引き上げることが出来ません」


 「では、別の質問を。私は恐らく貴方にこちらの世界へと転移させられたと思われるのですが、私をもう一度元の世界に送り返すことは出来ますか?」


 「現在ワタクシの内部には転移魔法もしくはそれに関連する情報が完全に欠落しており、ムネタカ様が仰るようにワタクシが転移を行っていたとしても、それを可能にする方法もエネルギーも失われている為、不可能だと思われます」


 「そう、ですか………………」


 その言葉を最後に両者の間に重たい空気が流れるも、空気を呼んでかデオスが記憶喪失の何某かへ疑問を口にした


 「じゃあ俺の番だな。先程青い、その胸元に引っ付いている宝石がムネタカに吸い込まれた途端に、お前がムネタカの身体に纏わる形で現れたんだが………、お前とその宝石に関係はあるか?」


 「検索します………………はい、その情報に関しては僅かではありますが残っていました。その宝石はワタクシの動力源です。3分前に動力源が接続された事により緊急モードが解除された記録が残っておりますので、確実な情報かと」


 「ほう、ならもう一つ聞きたい。その宝石は俺の後ろで黒焦げになっている巨大トカゲの内部から取り出した物なんだが。コイツから出てきた事とムネタカがコイツから追われていたその理由に予想は付くか?」


 「ワタクシの内部に残る僅かな情報からの推測になりますが、ワタクシの動力源は他生物にとって、生物としての格を上げる程のエネルギー源になります。 

 ですので何処で取り込んだかは分かりかねますが、内部から出てきた理由としてはそれで確実だと思います。そしてムネタカ様が追われた理由としてはワタクシが内部に居たことが理由でしょう。恐らく自身が取り込んだエネルギー源と同じ匂い、その残り香を感じてもう一度取り込もうとしたのだと思います」


 「そういうことか。ふむ、なら………なぁ、お前の動力源は幾つだ? 胸のパーツには後4つ窪みがあるようだが」


 その言葉通り銀の鎧の胸部には、青い宝石が嵌っている窪みと同じサイズの窪みが4つ存在した


 「………………確認しました、私の動力源は合計5つです」


 「では先程の話に戻るが、確かお前は記憶媒体とエネルギーが足りないと言ったな。ならもし残りの動力源をお前が回収していったらその破損している記憶媒体を修復し転移に必要なエネルギーを捻出できるのか?」


 「………………断言は出来ませんが高い確率で記憶媒体の修復は可能だと思いますし、エネルギーも捻出できるはずです。そしてムネタカ様が実際にワタクシとの接触後に転移した事実から、完全な状態の私であれば別世界の転移という高位技術を問題なく行使出来ていたと思いますので、ムネタカ様を帰らせることが出来ると思います」


 「らしいぞ、ムネタカ。良かったな、帰れるぞ」


 「ええ、まだ可能性の話ではありますが、その事実だけで少し安心しました。私としてはどうしても戻らなくてはいけない理由がありますので」


 「さて、帰還に必要な情報が分かったなら。次に必要なのは戦力だな。そこらへんに落ちてるならともかく、今回みたいに誰かが取り込んでいたら面倒だろ? ってことでムネタカ、どうだ俺を雇う気はないか?」


 「デオスさんをですか? しかしその提案は有難いのですが、対価として払えるような物を何も持っていませんよ私。唯一金品が入っていた鞄も転移の時に向こうに置いてきてしまいましたから」


 浅井は一応、確認の為にポケットを漁り、ブレザーからスマートフォンを見つけると、デオスに渡そうと手を伸ばした

 

 「あ、いやスマホがありました。ただこれで対価になりますか?」


 「要らん」


 「しかし、それでは」


 デオスは浅井の提案を払い退けると、ズボンの後ろポケットから煙草を取り出す

 そして能力で作りだした火で煙草に火を灯すと、大きく一吸いしてから口を開いた


 「フーー、対価を決めるのは俺だ。その俺が要らないと言っているんだ気にするな。それに別にタダ働きってわけでもない。俺としては気に入った奴と旅が出来るんだ、ならそれで報酬としては十分貰えてる。だからもう一度言うぞ、俺を、傭兵デオス・フォッサマグマを雇わないか?」


 真っ直ぐなその視線と言葉、更にデオスの強い思いが浅井へと向けられた

 その思いに浅井は大きく呼吸を挟んでから、デオスに視線を返すように向き合う


 「その言葉を聞いて断れる男は居ませんよ。分かりました、どれほどの旅になるかは分かりませんが、これからもよろしくお願いします。それではデオスさんと、えーとそういえば名前覚えて無いんでしたっけ、ではどう呼べば………」

 

 「もしムネタカ様が良いのであれば、付けて頂けないでしょうか?」


 その提案に浅井は、「私そういうの向いてないんですが」と言いながらもこめかみを指でトントンと叩きながら考え始めた 

 

 (さて、大体の命名の仕方はその時の季節に関する言葉や体の色や特徴などから持って来ることが多い筈なんですが、この世界の季節は分かりませんし必然的に特徴か色ですか。しかし特徴と言ってもパイロットスーツや鎧のような見た目からは取れそうも無いですし、なら全体の大半を占めている銀色か宝石とそこから伸びるラインの色である青色のどちらかに関連する言葉から取ることにしましょう)


 そして頭を悩ますこと数分、ようやく浅井が口を開いた


 「気に入って頂けるか心配ですが『しろがね』と言うのはでどうでしょうか? 体の多くを占めている銀色、その別名です。私として古風で良いと思うのですが……」


 「シロガネ………、ええ、とても良い名前です。ムネタカ様、ありがとうございます」 


 「気に入って頂けたなら良かったです。ではしろがねさんもこれからよろしくお願いします」


 「はい、こちらこそよろしくお願いします」


 そうして終わった命名式の後、二人を見守っていたデオスが前に出てくる


 「話は纏まったな、だったら俺たちの目的はしろがねの動力源である宝石を集めて記憶媒体を修復し、ムネタカを元居た世界へと帰還させる事だ。分かったな」


 「ええ」


 「はい」

 

 デオスはそう二人に目的を再確認させるとニヤリと笑みを浮かべて「なら、ムネタカ手を出せ」と言い、その言葉を聞いて浅井も「ああ、そういう事ですか」と手を差しだした

 そして二人、いやしろがねを含めて三人は互いの手を握りしめ握手を交わす

 この瞬間、これから多くの出来事に巻き込まれることになるであろう地球人浅井宗孝記憶喪失の機械しろがね異世界人デオス・フォッサマグマという、異色な面子が揃ったパーティーが出来上がったのだった

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る