第20話 作戦
「村人の協力は得られるのかな?」
ルスット村までは街道が通じている。その街道の途中で俺は誰にともなく訊いた。
「協力は得られないだろ」
あっさりとバレートがこたえた。ポリメシアがうなずく。
「仕方ないわよ。村人たちは戦いに慣れていないから」
「そうだな」
俺もうなずいた。
確かに村人に協力を求めるのは難しいだろう。戦えないからこそバンサーに依頼したのだろうから。
最弱のゴブリンといっても怪物は怪物だ。村人に戦いを強いることはできない。
「でも、俺たちだけでゴブリンの群れの相手なんか本当にできるんだろうか?」
今更ながら俺は首を傾げた。それから腰にぶら下げた皮製の水袋を手にする。
季節は夏なのだろう。熱い日差しが降り注いでいる。
俺は水袋に口をつけた。皮臭く生ぬるい水が喉を流れ落ちていく。
あらためて俺はこの世界の不便さを感じた。保温性のある水筒なら冷たく美味しい水を飲む事ができただろう。
「難しいかもね。けれどゴブリンを放っておくわけにはいかないわ。でしょ?」
ポリメシアが目を閉じた。自身に言い聞かせているかのように。ポリメシアも怖いのだ。
ポリメシアは勝ち気なように見えた。事実、そうなのだろう。
が、やはりポリメシアは少女だった。魔法を使えても、怪物と闘うのは初めてなのだ。恐怖していても仕方なかった。
「ゴブリンは何匹いるんだったっけ?」
バレートが訊いた。こたえたのはミカナである。
「十数匹くらいのはずです」
こたえるミカナの声に怯えがにじんでいた。ゴブリンとの戦いが現実味をおび、ミカナもまた怖いのだろう。
「十数匹かあ」
バレートが唸った。
「やらなけりゃあならないのはわかっているけれど、本当に大丈夫なのかな。十数匹だぜ。対する俺たちは五人だ。三倍ほどもいる。まともに戦ったら、さすがに厳しいかもな」
楽天家のバレートも少し不安になったようだ。
手練れのバンサー数人なら、ゴブリンが十匹でも二十匹でも負けないだろう。けれど俺たちは初級バンサーの集まりだ。三倍の数のゴブリンを斃せるとは思えない。本音をいえば依頼を受けたくはなかった。
「なにか方法はないかな?」
俺は考え込んだ。
まともに戦ったら、あまりに勝率は低い。勝率を少しでも上げる策が必要だった。
「良い作戦を思いついたわ」
ポリメシアが目を輝かせた。するとバレートがにやりとし、白い歯をみせた。
「よし。そいつでいこう!」
村をでると、俺たちは森を通り抜け、ゴブリンが住み着いた洞穴を目指して歩いていた。油断なく周囲に気を配りつつ。
ゴブリンは夜行性である。闇に属する怪物だからだ。太陽光を極度に嫌っているらしい。
ゆえに昼間は洞穴の中でゴブリンは眠っている。遭遇する可能性は極めて低いはずだった。
それでも俺たちは警戒を怠らなかった。例外はどこにでもあるからだ。
ポリメシアがたてた作戦は単純なものである。
襲撃を昼間に行うというものであった。それであれば寝込んでいるゴブリンを襲うことかできる。
具体的には洞穴の入り口で火を燃やし、煙を洞穴内に送り込むというものだった。そうすれば驚いたゴブリンが慌てで洞穴から飛び出てくるだろう。狼狽えているので、しばらくは戦えないはずだ。
その隙にポリメシアの魔法で攻撃。あとは俺とバレート、フォシアが接近戦を挑むという筋書きだ。太陽光が苦手なので、ゴブリンどもの行動が阻害されるという期待もあった。
作戦が決まると、バレートが意気揚々とし始めた。もうゴブリンを斃した気にでもなっているのだろう。
生来の楽天家なのだ。
が、俺はちがった。こんな簡単なものでいいのかと不安になる。
「俺ががんばらないとな」
そっと俺はつぶやいた。
俺には転移によって得た力がある。バンサーに勝った力が。
あの力があればゴブリンを翻弄することができるかもしれない。
俺は深く息を吸い込んだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます