第17話 初めての夜
「ありがとう」
ベッドに歩み寄ると、フォシアは衣服に手をかけた。するすると脱ぎ始める。
「あ、ああ」
俺は悲鳴のような声をあげた。カンテラの光にフォシアの裸身が浮かび上がっている。
やや小麦色の肌は磁器の滑らかさをもっているようだ。細身だが、引き締まった肉体。
乳房は衣服の上からではわからなかったが、思いの外大きい。尻は柔らかそうな丸みをおびていた。
俺の存在など気にしたふうもなく、フォシアは振り返った。反射的に俺も振り返る。そのままだと何もかも見えてしまうからだ。
「どうしたの?」
不審そうなフォシアの声。俺は背をむけたまま何でもないとこたえた。
「ハルトは身体を拭わないの?」
「あ、ああ。俺は後で」
「ふうん」
納得したのかどうかわからない声でこたえ、フォシアは湯で濡らした布で身体を拭き始めた。壁にフォシアの影が踊る。乳房が揺れているのがわかった。
「ねえ」
フォシアが声をかけてきた。背で聞きながら、俺は何だいと訊く。
「背中を拭いてもらえる?」
「あ、ああ」
かすれた声で俺はこたえた。ぎごちない動きで振り返る。
フォシアの裸身が目に飛び込んできた。無論、背を俺に向けてはいるが。
けれど、尻はむき出しのままだ。むっちりとした白桃のような尻である。
尻から視線を引き剥がすと、俺は濡れた布を受け取り、フォシアの背に這わせた。
「あん」
フォシアの口から甘い声がもれた。俺は慌てて手を引く。
フォシアはちらりとふりむくと、上気した顔を俺の目に映じさせた。
「ハルト、くすぐったい」
「ご、ごめん」
どぎまぎして謝ると、俺は再び布をフォシアの背にあてた。今度は力を込めて拭く。
柔らかいのに弾力がある。フォシアの肉体の感触が布を通してわかった。
「これで、いい?」
「うん。気持ち良い」
フォシアがこたえた。肌がうっすらと赤く染まっているようだ。
しばらくの間、沈黙の時が流れた。ときおり響くのはフォシアの唇からもれる声だけだ。
あっ、とか、はん、とか。やはりくすぐったいのだろうかと俺は思った。
「もう……いいよ」
ちらりと俺をみてからフォシアがいった。俺は慌てて背をむける。フォシアがふりむいたからだ。
フォシアには羞恥心というものが多少欠落しているのかもしれない。フォシアはそのままベッドに潜り込んだ。
俺はちらりとフォシアを見やった。タオルケットのような布にくるまり、背をむけている。
ゆるく布が動いていた。寝息がするところからみて、もう眠っているのだろう。
太い息をもらすと、俺は衣服を脱いだ。フォシアと同じように布で身体を拭く。
フォシアの身体を拭いたからなのかもしれないが、布からは甘い香りがした。それだけなのに変な気持ちになってくる。
身体を拭き終えると、俺はもう一度衣服を身につけた。それからはたと困った。
ベッドは一つだ。フォシアが裸で眠っている。
フォシアの隣で眠るわけにはいかなかった。しかたなく俺はテーブルのそばの椅子に腰をおろした。
今日はいろんなことがあった。ありすぎた。
異世界に転移。城からの放逐。ならず者の襲撃。フォシアとの出会い。バンサー協会の登録など。
さすがに疲れていた。まぶたが重くてたまらない。
俺はテーブルにもたれて寝ようとした。その時だ。
「なにしてるの?」
声がした。フォシアのものだ。
驚いて俺は風いたふりむいた。
ベッドの上でフォシアが身を起こしているのが見える。裸の上半身がカンテラの光に輝いていた。
俺は慌てて顔をそむけた。その俺の背にフォシアの声が届く。
「そこで眠るつもりなの?」
「あ、ああ」
俺はこたえた。するとフォシアがぽんとベッドをたたいた。
「ここで眠ればいいじゃない」
「そういうわけにはいかないよ。男と女が同じベッドで寝るわけにはいかない」
それに君は裸だし、という言葉を俺は飲み込んだ。
「しかたないでしょ。ベッドは一つなんだし。さあ」
フォシアが促した。
固辞しようとしたが、逆に意識していると思われそうで、俺は承諾した。ベッドに歩み寄る。
「だめよ」
フォシアがいった。
「そんな埃まみれの衣服をつけたままベッドにのるつもり? さあ、早く脱いで」
「う、うん」
どぎまぎしながら俺は衣服を脱いだ。裸になってベッドにもぐりこむ。
俺は背をむけた。恥ずかしくてたまらないからだ。
フォシアも背をむけた。その背から体温が伝わってくるようだ。
フォシアが身じろぎした。すると俺とフォシアの背が軽く触れた。
びくりと俺は身を震わせた。
こうみえてもおれも高校生だ。肉体が過敏に反応した。
そのことを知られるのが恥ずかしく、俺は少しフォシアから身をはなした。フォシアの方はもう眠ってしまったのか、じっとしたままである。
それに比べて、俺は胸が高鳴って眠れそうになかった。かたまってしまったかのように横になっている。
とはいえ、やはり疲れていたのだろう。知らない間に俺は眠っていたようだ。
ふっと俺は目を開いた。すると、眼前に花の蕾があった。
いや、花の蕾じゃない。うっすらと開いたフォシアの薄紅色の唇だ。
眠っている間に俺はフォシアの方に寝返りをうっていたのだろう。フォシアをもまた。
眠っているフォシアの顔は可憐だった。やや気の強そうな美貌も、今はあどけなさがにじんでいる。
俺の顔にフォシアの寝息がかかった。甘い花の香りがする。
たまらなくなって、俺はもう一度背をむけた。
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