第14話 迎撃

 俺の考えを読み取ったかのようにポーアンがニンマリした。剣を振り上げる。


 対する俺はまだポーアンに届いてはいなかった。短剣の間合いは短いのだ。


 そして剣の間合いは長い。俺の頭めがけて剣が振り下ろされた。


 ポーアンは剣を寝かせている。刃で切るのではなく、剣身で叩くつもりなのだ。


「なっ!?」


 ポーアンの愕然とした声が発せられたのは次の瞬間だった。ポーアンの剣が空をうったのだ。


 驚いたのは俺も同じだった。ポーアンの剣を躱したからだ。


「えっ?」


 俺は思わず声をもらした。


 俺の目はポーアンの剣の動きを捉えていた。そして躱した。回避することができたのだ。


 信じられなかった。俺は普通の高校生で、剣術なんかしらない。竹刀すらもったことはないのだ。


 それなのにポーアンの剣の動きを見切り、素早く躱してのけた。何が何だかわからない。


 その時、フォシアは微笑をもらしていた。無論、俺は気づかなかったが。


 俺が意図的に回避したことをポーアンたちは気づかなかったようだ。ポーアンは空振りしたと思って顔を赤くしているし、他の連中は揶揄するようにニヤニヤと笑っていた。


「何してんだ、ポーアン」


「やきがまわったんしゃないか」


「うるせえ!」


 からかう仲間にポーアンが怒鳴った。そして、あらためて剣をかまえた。


「今度はしくじらねえぜ」


 ポーアンが剣で切りつけてきた。銅級とはいえ、バンサーの一撃だ。鋭い斬撃であったろう。


 が、どういうわけか俺には剣の動きが見えていた。わずかに身をひねって躱す。


「あっ」


 ポーアンの口からひび割れたような声がもれた。初級バンサーに二度も剣を躱されたからだ。あってはならないことなのだろう。


「くそがっ!」


 ポーアンが横殴りに剣を払った。もはや叩くなどという一撃ではない。殺意のこもった勢いがあった。


 が、その一撃ですら俺は見切っていた。素早く跳び退って回避する。


 動体視力が良くなっているだけではなかった。俊敏性もよくなっているようだ。


 ここに至り、ポーアンたちの顔から嘲弄するような笑みは消えた。ポーアンが空振りしているのではなく、俺が回避していると気づいたのである。


「こいつ、初級のくせにやるぞ」


「素早いぞ。やっちまえ!」


「おう!」


 ポーアンたちが一斉に襲いかかってきた。三振りの刃が舞う。


 見える。見えるぞ。


 俺は驚いた。三人の剣の動きがはっきりと見てとれるのである。


 回避も思いの外簡単だった。俺の感覚からすると彼らの動きは遅いのだ。


 ポーアンたちの攻撃の悉くを俺は躱した。彼らの顔に焦りの色が濃くなっていく。


 三人は肩で息をしだした。が、俺の呼吸に異常はない。


 三人の動きに比して、俺のそれは小さく少ないためもあるのだろう。けれど、それより耐久力が増大していると考えた方が良さそうだった。動体視力や俊敏性と同じように。


 その時だ。男の一人が俺から離れ、フォシアめがけて走り出した。

 

 俺を捉えることができなくて業を煮やしたのだろう。フォシアを人質にするつもりに違いなかった。


「させないぞ!」


 俺は地を蹴った。あっという間に男との距離をつめる。


「待て!」


 叫びながら、俺は男の腕を掴んだ。


 ビキリッと嫌な音がした。次いで男の口を割って悲鳴がほとばしり出た。


 俺の手はある感触をとらえている。男の腕の骨が砕ける感触だ。俺が男の腕の骨を握りつぶしたのだった。


「うう」


 骨の砕けた腕を他方の腕でおさえ、男は苦悶しつつうずくまった。ポーアンともう一人の男は、呆然とその様子を見つめている。


「こ、小僧。何をしやがった?」


 我に返ったポーアンが怒鳴った。俺が男の腕をへし折ったとは思っていないようだ。


 俺はこたえなかった。俺自身にも何が起こっているのかわからないからだ。


 俺の沈黙を嘲弄ととらえたか、満面をどす黒く染めたポーアンが斬りかかってきた。手加減なしの必殺の一撃だ。


 さすがに俺も慌てた。必死になってポーアンの剣を躱す。


 剣が俺をかすめた。もっていかれた前髪が数本空に舞う。


 ほとんど無意識的に俺は反撃した。生存本能が俺をつき動かしたのだ。


 のびたポーアンの腕を俺は掴んだ。彼の仲間の時とは違い、意識的に力を込める。


 骨の砕ける気味悪い感触。ポーアンの口から苦鳴がもれでた。

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