第9話 バンサー

「バンサー?」


 俺は思わず聞き返した。何のことかわからない。ただ、とんでもなく嫌な予感がした。


「バンサーって……何?」


「怪物と戦う者」


「か、怪物!?」


 俺は思わず聞き返した。フォシアは今、怪物と戦うとかいわなかったか?


「怪物って……何?」


「怪物は怪物よ。遠い昔、邪神によって作られた魔物の末裔。ミノタウロスとかグリフィンとか」


「そ、そう」


 俺はごくりと唾を飲み込んだ。やっぱり嫌な予感は的中したのだ。


「その怪物と戦うバンサーが僕の生きる道?」


「そう」


 あっさりとフォシアうなずいてみせた。至極当然だというように。


「怪物を斃すと核が手に入るの。それは魔力が凝縮されていて、貴重なのよね。バンサー協会が買い取ってくれるから、それで生きていけるわ。実力がものをいう世界だから、異世界人だろうが亜人だろうが関係ない。どう、ハルトにうってつけでしょ?」


「そ、そうかな」


 俺は曖昧にこたえた。


 確かにバンサーに人種は関係ないだろう。けれどフォシアは大事なことを忘れている。怪物と戦うのが、戦う力のない俺だってことだ。


「俺には……その……ちょっと無理なんじゃないかな」


「そんなことない」


 あっさりとフォシアは首を横に振った。至極当然だといわんばかりに。


 俺は否定した。


「そんなことあるよ!」


「そんなことない。ハルトはバンサーとしてやれる。だって、わたしが仲間になるんだから」


 明るく可憐にフォシアは笑った。そして倒れている男に歩み寄っていった。


「本当は剣がいいんだけど……まあ、いいか」


 つぶやくと、フォシアは男のそばに落ちている短剣を拾い上げた。それから男が身につけている鞘を奪いとる。


「ハルト。とりあえず、これ、装備して」


「そ、装備って」


 俺は慌てた。フォシアの行為は窃盗であるからだ。


 そのことを告げると、フォシアは苦笑した。


「いいのよ。他人のもの奪うような奴らなんだから。自分のものが奪われても文句はいわないでしょ」


「そうかなあ」


 俺は首を傾げた。フォシアのいうことはまちがっていると思ったからだ。


 他人のものを奪おうとするような輩は欲深い。奪うことは平気だが、奪われることは平気ではないのだ。


 が、フォシアは平然としたものだ。


「いいの、いいの」


 掌を振ると、フォシアは短剣と鞘を押しつけてきた。無理に逆らう気もないので、俺は短剣を受け取り、鞘におさめた。

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