第3話 騎士が来た
さすがに敦は驚いたようだ。目を見開いたまま声もない。
が、すぐに敦はニヤリとした。辺りをキョロキョロと見回す。
その様子に気づいた美穂が訊いた。
「村上、何してんのよ?」
「探してんだよ」
煩わしそうに敦が顔をしかめた。
「探す?」
美穂が怪訝そうに眉をひそめた。
「何を?」
「カメラさ」
敦がニヤリとした。
「カメラ?」
「ああ。ドッキリだろ、これ。どこかにカメラがあるんだぜ、きっと」
「そっか」
美穂が顔を輝かせた。テレビに映っていると思っているんだろう。
恵里は鏡を取り出して顔を確認している。
「馬鹿か」
苛立たしそうに賢一が吐き捨てた。
「この街並みや人々がセットやエキストラとでもいうつもりか」
「そうだよ。そうじゃないとおかしいだろ。お前は稲葉のいう異世界転移なんていう寝言を信じてるのかよ」
「それは」
敦の指摘に賢一が言葉をつまらせた。
すると敦は賢一から目を離し、遠巻きに取り囲む人々にむかって話しかけ始めた。エキストラだから日本語が通じると思っているらしい。
「ここにいるのってまずくない?」
呆れたような目で敦を眺めながら、結菜がいった。
俺はうなずいた。野次馬の数が多くなっている。
「騒ぎが起こるとまずいな。人目のないところに移動した方がいい」
考え込むように賢一は眉根をよせた。
「でも、移動するってどこに……」
言い出した結菜が困惑した顔で周囲を見回した。
「わからない。けれど、ともかく移動しよう」
賢一が歩きだした。触れられるのを恐れるかのように野次馬の群れが割れる。
結菜が後に続いた。俺もまた。
「敦」
裕之が呼んだ。なんだ、とばかりにふりむいた敦に告げる。
「みんな行くってよ。どうする?」
「勝手なことしやがって。仕方ねえな」
舌打ちの音を響せ、それでも敦は俺たちの後を追ってきた。異世界だということは信じてはいないが、一人で取り残されるのは不安なんだろう。
人混みをかきわけて俺たちは石畳の街路を進んだ。
あてもなく。ただ人の目をのがれて。好奇心にぎらつく視線が突き刺さってくる。
異変が起こったのは、どれくらい歩いた頃だろうか。
突然、叫ぶ声が響いた。
驚いてびくりと身をすくませると、俺はふりむいた。往来の人々を押しのけるようにして走り寄ってくる一団が見える。
明らかに往来の人々と違う一団だ。鈍い銀色の甲冑に身をかためている。ただし兜はつけていない。腰には剣を下げていた。
「騎士……」
俺は思わずつぶやいていた。
彼らの格好は、まさに映画やアニメで見たことのある騎士そのものだ。なんだか、さらに厄介なことに巻き込まれつつあるような気が俺にはしていた。
俺が立ち止まったので、賢一たちも足をとめた。騎士に気づき、呆然と立ち尽くす。
騎士たちは歩み寄ってくると、一人が話しかけてきた。厳しい顔つきで、どうやら騎士のリーダーであるらしい。
何をいっているのかわからないので、俺たちは黙っていた。美穂と恵美は顔を見合わせている。
二人にあまり焦った様子は見えなかった。事態の重大さが飲み込めていないようだ。
俺たちが黙っていると、騎士のリーダーは小さくうなずいた。言葉が通じないことに困惑してはいないようだ。
俺たちのような存在に慣れているのかな。
俺は、ふと、そう思った。
するとリーダーの騎士は立てた親指で自身を、それから彼らが来た方を指し示した。どうやらついて来いということらしい。
返事を待たず、リーダーらしき騎士は背を返した。
逡巡したものの、賢一が騎士の後を追って歩き出した。他に選択の余地がないからだろう。
俺も賢一の選択に従った。こんなところに残されても困るからだ。今は賢一同様騎士にすがりつくしかなかった。
それは他の者たちも同じであったらしい。全員、俺の後に続いて歩き出した。
そしてーー。
やがて俺たちはたどり着いた。豪壮な城に。
それはエーハート王国の王城だった。
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