第4話 奥の手

「それにしても英子も手の込んだことをしたものだ。長子を逃がして我々の眼を欺いた。まあ、孫が戻ってきたから良かったとするか」


「僕の中に景教の知識はないぞ」


 孫? どういうことだ。僕は英子さんの孫なのか?


 奇異怪奇な表情を浮かべて老人は嗤った。


「構わん。お前の中に流れる血筋が重要だ。景教を復活させ、中華の支配下に置く。カーツが到着する前に解決すれば良いだけの話だ」


「それはどうかな?」


 懐にしまっていたラジエルの書は無事な様子だ。創始者の手紙も。そして、聖書も。


「あなた達が本当に欲しいのはこれだけの筈だ」


 ラジエルの書を突き出す。中身を少し確認したが暗号になっていて読み取り辛い筈だ。何かの鍵を知識として持っていなければ機能しないと視える。


 だから、この老人も僕の懐に預けているのだ。


「お前の記憶の中に鍵がある筈だ。答えろ。さもなくば、英子と菊がどうなっても良いのか?」


「それは困る」


「なら解読の鍵をサッサと提示するんだな」


「いや、こんなもの燃やしてしまおう」


 近くにあった蝋燭にラジエルの書をかざし、火を点ける。


「何をやっているんだ!」


 僕は外に書を放り投げた。


「馬鹿か! この書物さえあれば世界を自在に動かせるのだぞ! その価値を知っておきながら」


「それがどうした? 為政者に渡るよりましな筋道でしょう?」


「どうやら死にたい様子だな」

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