窓からの西日がまぶしくて、目が覚める。どうやら夕方まで寝ていたようだった。

 この西向きのワンルームは、再び仕事が決まったのを契機に引っ越した部屋だ。駅からは少し遠いが、比較的新しくてセキュリティも申し分ない。この白くて殺風景な狭い部屋での暮らしを気に入っていた。

 近々やってくる家賃の引き落としに憂鬱になりながらもベッドの上で伸びをする。あらゆる関節がギシギシと痛んだ。昨晩はかろうじて着替えはしたが、顔も洗わずに寝てしまった。全身がじっとりとした不快感に包まれている。空腹を満たすより先に、シャワーを浴びようと決めてベッドを脱出した。

 風呂場の鏡に映る女は、目が腫れて、肌は艶がなく、化粧は崩れて、見るに堪えない状態であった。おそらく昨夜、往来にいるときからずっと酷い顔だったのだろう。

風呂場は寝起きの身体にとってはひんやりしていた。シャワーの水が温かくなる間に、まだ眠っている頭で昨日のことを思い出そうとするが、寝起きの頭ではどうも思い出せない。しばらくしてやっとお湯になったシャワーを浴びていくうちに、身体をつたう熱い湯がぼんやりとした私の意識を覚醒へと導いていった。昨日はどうやって帰ったのか。そんな記憶が次々引き出されていく。

 そういえば、帰りの電車がなくなった私たちは、それぞれタクシーで帰った。お礼のハンカチは、外側の袋がぐしゃぐしゃなのに彼女が受け取ってくれた。そして何より、私は彼女に抱きしめられた。夢ではなかったかと疑ったが、確実に彼女の腕の感覚は身体に残っていた。あれは現実だ。

 あのときはただ満ち足りた気分で彼女の腕のなかにいたが、一日たつと急に恥ずかしさでいっぱいになる。そわそわした気持ちをかき消すように、がしがしと全身を洗った。

 シャワーで身体を清めると、無味乾燥な室内のなかでも唯一雑然としている、起きたままの状態のベッドからスマートフォンを探し出す。見ると彼女からメールが来ていた。

『昨日はありがとう。無事帰れましたか? 今度、また会ってゆっくりお話ししたいです』

 人に会えるのは素直に嬉しい。ここ最近は精神的に参ってひとりで思いつめることが増えていた。誰かに会って気を紛らわせたかった。しかし、よりによって彼女と会わなければならない。どんな顔をして彼女と会ったらいいのかわからない。具体的にどんな話をしたくて私を誘っているのだろうか。それとも、ただの社交辞令なのか。考え出すときりがない。

 ベッドに腰を掛け、濡れた髪のままでどう返信すべきかと思案に暮れる。そして、数文字書いては消す、その行為を繰り返した。結局、時間をかけたにもかかわらず『わかりました』とだけ返信した。送信のボタンを押したとき、思考はほとんど停止していた。

 いつの間にかすっかり日も落ちていた。起きてから何も口にしていないことに気づく。それと同時に猛烈な空腹が襲ってきた。買い置きしていたカップ麺にお湯を注ぎ、タイマーを五分にセットして、ベッドで待つ。

 ああ、疲れた。身体の奥深くから込み上げた溜息とともに、目頭がじわじわと熱くなってくる。理由はわからない。こんなことは今までなかった。私はすっかり情緒不安定になってしまった。枕に顔をうずめて、嗚咽した。昨日出し切ったはずの漠然とした不安や苦しさが、涙と情けない声になって込み上げる。枕はすっかりびしょびしょだ。

 タイマーがけたたましく鳴る。わずかに顔を上げ、手を伸ばしてタイマーを止めた。深い呼吸で気持ちを整えたのち、のそのそと机まで動いて、カップ麺の蓋を開ける。滲む視界のなかで麺をすすった。そこに食べているものへの興味はなく、ただ空腹を満たすための作業のようだ。胃にすべてを流し込むと、私は再び布団にもぐり、少しだけ泣いた。



 朝からしとしとと雨が降り続ける。予報によると一日中やまないそうだ。

 窓から見える歩道の行き交う傘を眺めながら、コンビニのサンドイッチを口に運ぶ。この時期にしては寒くて、職場の休憩室は底冷えしている。何かあたたかいものを買えばよかった。

 私は今、この会社の誰よりも憂鬱だ。寒気はするし、薬をのんでも下腹部は痛むし、小さなニキビもできた。何より今日は彼女に会わなくてはいけない。ちょうど一週間前と同様に、食事をすることになっているのだ。

 どういう態度で彼女に接すればいいのだろうか。彼女は美人だ。それに親切だった。意外と話し好きで、お酒を飲むとより饒舌になった。でも、それしか知らない。私は彼女がどんな人間なのかいまいち掴めていなかった。

 なぜ私にかまうのだろうか。きっとあの見た目と性格なら友達も多いはずだ。彼氏だっているだろう。私と関わるメリットがあるとは思えない。哀れな私に同情しているのか。それともひそかに私を下に見て、気分を良くしているのだろうか。清らかで美しい彼女がそんなことを考えているなんてありえない。性格は顔に出ると言うがその通りで、実際私は性格そのままの陰気でひねくれた顔をしている。彼女の性根が腐っていたら、もっと醜悪な見た目になっているはず。じゃあ、彼女は厚意で私とかかわっているのだろうか。思考の渦に巻き込まれ、食べかけのサンドイッチを片手にフリーズする。

 突如肩に誰かの手が触れる。私は驚きのあまりびくりと身体を飛び上がらせ、あわや椅子から転げ落ちるところであった。

「ごめんごめん、驚かせるつもりはなかったんだ」

 振り返るとそこには上司が立っていた。背がすらりと高いだけでなくそこそこ筋肉もあるようで、なかなかの大男に見える。大学時代スポーツをやっていた名残で、今もジム通いが趣味と言っていた。健康的な身体と同様に顔も若々しく、にこりと笑う様子はとてもアラフォー間近には見えない。

「かなりぼんやりしてたからさ。大丈夫? 缶コーヒーでも飲まない?」

 私の隣に座り、コーヒーを差し出す。礼をして受け取ると、私の冷えた指先がじんわりと温まっていく。

「雨ってテンション下がるよな。湿気で髪の毛がヤバくてさぁ……」

 上司は一人で話を続ける。私は適当な相槌をしながら、早く食事を済ませようと急いだ。

 仕事ができて、面倒見も良く、理想的な上司ではある。しかし、私は上司との距離感を測りかねていた。決して嫌いではないが、男性が苦手な私にとって積極的に部下と絡もうとする上司は接しにくかった。

「でさ、なんかあったの? 最近、調子悪そうじゃん。大丈夫?」

 顔を覗き込まれて目が合う。

 背中がぞくりとする。怖い。逃げたい。彼が私に危害を加えることなんてない。それがわかっていても、身体はこわばる。

「……大丈夫です。すみません、何かミスしてましたか」

 なるべく取り乱さないようにと、平静を意識する。腹痛で声に力が入らないまま、言葉は口を滑って落ちてゆく。

「いや、そういうわけじゃないけど、最近なんか思いつめてるみたいだから。大丈夫かなって」

 近頃の不調を完全に見抜かれていた。

「そんなことないですよ。大丈夫です。コーヒーありがとうございました」

 コンビニの袋にごみをまとめて、席を立つ。拍子抜けしたように「ならいいんだけど、午後もよろしくね」と言って、上司は手を振った。

 もう少し愛想よく対応できればよかった。気を使ってくれた上司にいつまでたっても恐怖を感じてよそよそしく振舞ってしまうのが心苦しい。そう頭で考えても実行できないから、より一層悔しいのだ。

 午後はなんとなく仕事が手につかなかった。冷めた缶コーヒーを飲みながら事務作業をする。下腹部の痛みはひたすら増すばかり。冷や汗は出るし頭は回らない。そういえば、コーヒーはこういうときに飲まないほうがいい、とどこかで聞いたかもしれない。

 彼女との約束の時間が近づくにつれ、会うなんて言わなきゃよかったという後悔が心を覆っていく。いつもは決して残業なんてしないが、今日は一分でも長く職場にいたかった。約束に遅刻するわけにはいかないが、時間ギリギリになってもいいだろうか。もういっそのことドタキャンしてしまおうか。こんなことを考えてダラダラと仕事を進めていると、終業のチャイムが鳴る。こんなに絶望的な気持ちで終業時刻を迎えたのは初めてだ。私はもう断頭台の目の前まで来ている。あとは拘束されて処刑されるのみだ。

 なるべく時間をかけて帰り支度をする。大きく何かが変わるわけではないが、これは小さな抵抗だ。この前と同じ、会社の一駅先の駅前で待ち合わせをしている。このままのんびりと向かえば、約束の時刻ちょうどに到着するだろう。

「あれ、すぐ帰らないの? 珍しいね」

 オフィスの出口で、上司に声をかけられる。本日二度目だ。上司は、派遣社員である私の同僚たちに囲まれていた。

「いやぁ、みんなが飲みに行きたいって聞かなくてさ。せっかくの華金だからって。今から一緒にどうかな?」

 困ったように、へらりと笑う。四、五十代の派遣社員が多いなかで、年下の上司というのは苦労も多いのだろう。

 私は今の会社に入ってから、あらゆる食事の誘いを断り続けている。初めのうちは周りが気を使って誘い続けていたが、じきに誘っても来ないと分かると誰も声をかけなくなった。しかし、上司は違った。周りと馴れ合わない私を気にかけているのだろうか、律儀に毎回行くかどうかを聞いてくるのだった。

「ごめんなさい。今日は用事があるので」

 精一杯に申し訳なさそうな言い方をして断った。同僚たちは「いつも誘っても来ないじゃないですか」とゲラゲラ笑う。私は会釈をしてそそくさと立ち去るしかなかった。ぱらぱらと冷たい雨が降るなか、足早に駅へと向かう。

「このまま帰っちゃおうかな」

 独り言は雨の音にかき消された。



 時間きっかりに待ち合わせ場所に到着すると、既に彼女の姿があった。紺のワンピースに深紅の傘を持った彼女は、かなり目立っていた。

「お仕事お疲れ様。また会えて嬉しい」

 私をじっと見つめて、噛み締めるように言うと、ふわりと頬を緩ませた。そこまで嬉しそうにされるとは。やはり来てよかったのかもしれない。そう思った私はかなりちょろい人間なのだろうか。

「すいません、お待たせして。あと、先週も。色々とすみませんでした……」

 コンディションの悪い身体で、力なく謝罪する。自分じゃない、別の誰かが喋っているような気分だ。

「いいの。私も悪かったし……とにかくお店で話しましょうよ。個室を予約したから」

 案内されたのは駅近くの小綺麗な居酒屋だった。店内はガヤガヤと騒がしく、前回のイタリアンとは大きく異なっていた。

「これくらい騒がしいほうが話しやすいかなって。一応個室で禁煙だけど、いいかな?」

 席に通されてから文句は言えない。黙って頷く。確かにこの騒がしさなら沈黙にも耐えられる。

 私たちは適当な飲みものと食事を頼み、ちびちびと食べ進める。二人とも酒は頼まなかった。箸を動かしながら、今日は寒かったとか、もう六月も終わるとか、当たり障りのない会話を続けた。彼女は心ここにあらずという感じで、たまに返事がないこともあった。何か話したいことでもあって誘ったようなのに、いつまでたっても話題は行ったり来たり。お世辞にも楽しいとは言えない。

 私はしびれを切らして、彼女に問うた。

「あの、今日はどうかしたんですか? 何か私に用でもありましたか?」

 彼女は大きな黒目をあちこち動かし、何かを言おうとしてはためらった。ぐいとウーロン茶を流しこむと、視線を私の目に定める。深い闇のような瞳を向けられ、私はそれに釘付けになった。思わずごくりとつばをのむ。

「理由がなかったら会っちゃだめかな? 私、お友達になりたいの。理由がなくても一緒にいたいし、また会ってほしい」

 あまりにも彼女が真剣で、思わずふっと笑ってしまう。この年になってそんなことを言われるとは。私は今まで自分が周りと違うことで傷つきたくない一心で、人とのかかわりを最低限にとどめていた。だから、友と呼べるほど親しい人はできなかった。

 それでも、彼女となら親しくなってもいいのだろうか。私を受け入れてくれた彼女だから大丈夫だと思う反面、彼女のようなまともな人が欠陥だらけの私を相手にするだろうかと疑念も生まれる。

「友達、ですか。それは私に同情するから? それとも好奇心? いずれにせよ、私とかかわっても楽しくはないですよ」

 意地が悪いのだろうか。でも傷つかないためには自衛が必要だ。いままでそれを、さんざん身をもって体感してきた。

「楽しいとか、そんなことは求めてない。利害じゃなくて、そうじゃなくて……ちょっとでも私と一緒にいてくれたら、それで十分だから」

 予想以上の熱量で私は圧倒される。素面でいたって真面目なようだ。彼女の揺らがない意思に、結局私はあっさり陥落した。深呼吸をしてから、覚悟を決める。

「……わかりました。そうですね、友達になりましょう」

「本当に? 良かった、実のところ私って嫌われてるかと思ってたから」

 彼女は安堵の表情を浮かべ、ふうっと息を吐く。私もつられて息をつく。

「嫌ってなんかいませんよ。まあ、でも、意外と頑固なところありますよね」

 試しに軽口をたたいてみる。やりすぎたかと、一瞬どきりとする。視線が合い、咄嗟にそらしてしまう。

「えー、なにそれ悪口?」

 彼女はにやりと笑った。傷ついたというより、楽しそうだ。友人というのはこんな距離感であろうか。なんだか妹を思い出す。

「いやいや、悪口じゃなくて褒めてます。芯がしっかりしてますよね。私は、そこに救われたと思うし」

「そうかな? それならいいけどね」

 ふたりで声を出して屈託なく笑う。朝からの最悪な気分はすっかり失せていた。

 彼女の顔が動くと、髪の隙間から花の形をしたピアスがチャリと音を立てる。今までは気づかなかったが、彼女の小さな耳にはピアスの穴が開いていた。

 どこかつかみどころのない性格だが、私を救ってくれた美しい彼女。好意的に見られていることは、悪い気がしなかった。何より私が初めて自分の内面を吐露した相手だ。嫌われていなくて本当によかった。私の心の真っ黒な海原に、美しい岸辺ができたようだった。

「じゃあ、仲良くなった記念にお酒でも頼んじゃおうかな」

 彼女は嬉しそうにドリンクメニューを開く。口元は完全に緩み、うふふと小さな笑いが漏れている。

「私、予想以上に友達になれて嬉しいみたい。美味しいお酒が飲めそう。一緒にどうです?」

「いや、今日はやめておきます。もうお腹いっぱいなので」

 満腹なのは事実だが、それ以上にまた酔いたくないという気持ちがあった。前回のように酔って、醜い部分を彼女に見られたくない。せっかく友人になって楽しい今に水を差したくはないのだ。

「そっか、じゃあ私は日本酒にしちゃおうかな」

 無邪気に笑いかけられる。様々な日本酒が書かれたページをなぞるネイルが施された指からは、彼女の喜びが伝わってきた。まるで小さな子供のようだ。そうして、彼女はかなりの量の日本酒を飲んだ。一升瓶をあけるほどに飲んだのではないだろうか。酔って上機嫌になっていたが、決して暴れたり騒いだりはしなかった。そのことが、いっそう彼女を魅力的に見せた。

 饒舌な彼女につられて私もよく喋った。彼女がおしゃれであることを褒めると、嬉々としてファッションについて語った。私の知らない世界を彼女は知っているようで、私は聞き入った。しまいには、いつか一緒に買い物に行こう、という約束までしたのだった。

 私たちは終電がなくなる前に解散した。私とは別の路線で四駅のところに、彼女は一人暮らしをしているという。別れ際に彼女は「なんか寂しいな」とこぼした。私はそれを聞こえないふりをした。彼女の寂しさを埋める手立てを、私は持っていないような気がしたからだ。



 私と彼女はメールでのやり取りを頻繁にするようになった。主に私は当たり障りのない天気や仕事のことを数日に一回、彼女は出掛けた場所や食べたものをほぼ毎日、メールに記した。

 私は彼女の生活を垣間見ることに小さな喜びを感じていた。これまで人と密に連絡を取り合うことがなかったので、新鮮な体験だった。ときには彼女が食したコンビニスイーツを自分でも購入し、ひそかに彼女との繋がりを感じていた。

 その一方で、彼女の生活には疑問も多く生じていった。彼女は教師をしているが、今は休職中だと言った。しかし、彼女に休職の理由があるようには見えなかった。彼女はよくどこかしらへ出掛けていた。彼女は至って健康そうで、仕事を休む必要はなさそうに感じた。

 それに加えて、大きな収入もないであろうに、やけに華やかな生活をしているようだった。そういえば彼女の持ち物はブランドものばかりだった。貯金でもあるのだろうか。それとも実家が裕福なのだろうか。彼女とは住む世界が違うと見せつけられているようで、大きな隔たりを感じる。そしてそう感じた日は必ず、メールを返信する気が失せてしまうのだった。

 彼女を不思議に思いながらも、彼女のプライベートを詮索しようとは思わなかった。聞かれては嫌なことがあるのかもしれないし、そもそもそこまで親密になるつもりはなかった。あくまで彼女は私の救世主で、憧れで、ちょっぴり遠い存在であってほしいのだ。

 梅雨も明けてきた頃からメールでのやり取りは始まり、夏の終わりになってもそれは続いた。しかしその間、私たちが実際に会うことはなかった。

 てっきり、約束したように彼女が買い物にでも誘ってくるものだと考えていた。しかし、そのようなことは一度もなかった。彼女は酒を飲んでいたので、約束を忘れていてもおかしくはない。そう自分に言い聞かせた。彼女が会いたいと言わないなら、きっと私に会いたくないのだろう。そう考えて、私から彼女を誘うこともしなかった。意気地なしである私は断られることを恐れていたのかもしれない。

 肌寒い季節になると、彼女からのメールは以前のように頻繁には来なくなった。忙しいのかもしれない。そう考えているうちに、週に一度、数週間に一度、とメールの間隔が長くなっていった。それに合わせて私もあまり連絡をしなくなった。事情があるのだろうか。面倒になったのだろうか。かかわりが薄れていくことに寂しさがないわけではなかった。それでもやはり、彼女のプライベートに踏み込むことはためらわれて、理由を尋ねることも、返信を要求することもできなかった。

 十一月の小春日和、『今日は少しだけあたたかいね』というメッセージを最後に、ぱたりとメールが来なくなった。はじめはまた数週間すれば連絡が来ると思った。しかし、いくら待っても音沙汰はなかった。

 彼女との繋がりがなくなっても平穏な生活は続く。大きな感情の起伏はない日常。そのなかでも、少しずつ彼女に話したいことは堆積していく。

『そろそろ姪が生まれます。プレゼントは何がいいか迷い中です』

『最近やっと男の上司と少し話せるようになりました。このまま男性を克服できるといいです』

『東京も雪が積もりましたね。お体には気を付けて』

 それらは送信されることなく、全て下書きのまま放置されていった。

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