4 地震・雷・火事・管理人

「は、はい……?」


 おそるおそるインターホンに向かって呼び掛ける。カメラ? そんなものは、ついてません!


『おはようございます、陸田さん。海野です』


「!!!」


 なんとも聞き覚えのある若い女性の声。と、名前。うみの? 海野って……。


 俺の全身から血の気が引いた。

 心臓が猛烈な勢いで血液を送り出し、今にも破裂しそうな圧迫感で、痛みまである。

 血の気が引いたんじゃなかったのかって? 知らないよ、そんなこと!


「かかかかか管理人さんですか!?」


『はい。管理人の海野ですけど』


 慌てまくりどもりまくりな俺とは正反対に、この賃貸マンションの管理人こと海野さんの声は落ち着いている。


 あれ、怒ってない……?


「あ、あ、あの、なにかご用でしょうか?」


 猫のことを気付かれたんじゃないのか?

 それとも、嵐の前の静けさなのか?


『陸田さんてば、とぼけてらっしゃるんですか?』


 管理人さんの声が、さもおかしそうに笑った。


 やっぱりバレてる!?


 管理人である海野さんの住居は、俺の住むこのE棟の隣にある。別棟ではあるものの、建物同士の間隔が狭く、俺の部屋と階層が同じ。ちょうどここの真横に位置している。


 管理人室はその1階だが、彼女が待機するのはたしか朝9時から。ほぼお隣さん状態の俺の部屋から猫の鳴き声なんかしたら、聞こえまくりだろう。


 終わった……。

 部屋の更新、打ち切られるかも。


 失意の俺に、猫が体を擦り付けてくる。

 喉なんて鳴らして、やっぱりマイペースだ。


「ナーン」


 実は俺のウチの猫では? と錯覚しそうになるほど甘えまくりな、猫の鳴き声が響く。


 だめだ、絶対聞こえた。もう誤魔化そうとしても無駄だろうなぁあぁもぉぉ……。


 俺は観念して、玄関の扉を開けた。


 とにかく、謝ろう。

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