5 酔ってた

「当たり前じゃないですか」


 室内に猫がいると白状した俺に対し、管理人さんが一言。


 やや呆れ気味に見える管理人さんの目の前で、俺は今まさに土下座の姿勢に入ろうとしていた──のを急停止した。


「あたりまえ?」


 クラウチングスタートのようなポーズで止まっていた俺は、二日酔いの重たい体を揺すって立ち上がりながら訊ねた。


「うちの猫、預かってくれたでしょう」


 困ったような表情で俺を見上げる彼女は、明らかによそ行きの格好をしていた。


 念入りに施された化粧、ダークチョコレートの巻き髪、シフォンのワンピース、踵の高いパンプス、キラキラと光る戦闘力の高そうな爪。


 ……デートだな。


「俺が猫を預かったって、どういうことですか?」


「だから、昨日の夜です。私、一晩家を空けなきゃならなくて。……キャリーケースとトイレはそちらの納戸に入れてましたよね?」


 まったく覚えていない。が、管理人さんが指差す玄関のすぐ横、開けっぱなしの納戸を覗くと、ドーム型の猫用トイレとオレンジのキャリーケースが入っていた。トイレのほうは使った形跡がある。


 うっかり閉めなくて良かった……。


「うわ、本当だ。あの、俺……ゆうべは接待で、めちゃくちゃ酔っ払ってまして」


 お得意先の部長さんに、しこたま飲まされたんだよな。顔に出ないだけで、大して強くもねえのに……。


 歩いて家に帰ってきたのは覚えているが、そこからの記憶がない。まあ、それ自体はたまにあることだ。いつもなら、あんまり気にしないんだけど。


「うそ。全然平気そうだったのに……」


「ホントです、記憶飛んでます。大切なご家族を預かっておきながらすみません。俺たぶんご飯とかもあげてない……」


「それは大丈夫です。記憶にないとは思いますけど、預けていくとき、すごく楽しそうにご飯あげてくれてましたよ」


「覚えてないです……。あっ! 朝ご飯まだですけど、もしかして預かってました!?」


「預けてませんよ。だからコレ、今ここであげてもらってもいいですか?」


 管理人さんが、鞄からドライフードの小袋を取り出した。

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