第36話 深夜勤務

 交錯しながら明滅する赤い光が、深夜の公園を照射する。体育館前に集結した車両の間を、物々しい人影が忙しなく行き交う。

 赤みを帯びた長髪をなびかせ、霧紫ムラサキはてきぱきと指示を下していく。


 部下の捜査員がクリップボードを手にやってきた。


「主任。一次検分の報告ですが、競技スペースおよび用具保管庫に建物と器具の損壊が見られます。血痕も数カ所から検出されてていて、特に保管庫のものはかなりの量です。しかし、館内は無人の模様」


「無人ね。退去した後なのか、或いは……跡形もなく喰われたか。管理システムの入出記録はどうなの」


「現在当たっていますが、二〇時以降は誰も出入りしていないことになっているようです」


「改竄されている?専門的なスキルを持つ人物が関与していると言うことか。その人物が何らかの動物を使って犯行を重ねている可能性がある。香雨コウ君、緊急で検問の手配を。大型の動物用ケージを載せた車両に留意して。館内の捜査は、まだ未確認体が館内に潜んでいる可能性があるから、警戒を怠らず遺留品の採取を進めて」


「了解です……あの、主任」


 何か言いづらそうにしながら、香雨はその場に留まっている。


「妹さんには連絡を入れたのですか。その、結局今日も帰宅できなくなってしまったじゃ無いですか」


「あの子なら、もうよく眠っている時間よ。余計な心配は良いから、我々は職務に専念しましょう」


「はい……」


 心残りに目を伏せて、香雨は駆けだしていく。


 その背中を見送ると、傍らの車体に寄りかかりながら、霧紫はちらりと端末を確認した。これでまた、数日は帰宅は出来なくなっただろう。せめて妹は、今頃いい夢が見られていれば良い。安らかな眠りに恵まれていて欲しいと、霧紫はこいねがう。


「深紅……顔が見たいな」


 深く溜め息を吐きながら、暫し待ち受けを穴が開くほど見つめる。


「……うん。充電完了」


 艶やかな長髪を翻し、霧紫は赤い光が飛び交う輪の中へと復帰していった。

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