15

一泊二日の熱海旅行は気づけば終わっていた。早すぎたなと思う。


波留奈と智弘と熱海駅で別れ、花崗と車で帰った。さっきまでの楽しかった感情が、それがもう過去のものになってしまっていると思うと、悲しくなる気がして、ぐっと胸のどこかに押さえつけるので精一杯だった。助手席で眠る花崗は、普段そんなにはしゃぐような人ではないけれど、久しぶりのメンバーだったからか、二日目は誰よりもはしゃいでいたと思う。


地元の花屋で働く花崗は、いつか自分で花に関わる喫茶店を出したいと言っていた。だから、僕が古民家カフェを継いだと連絡をしたときは羨む声を上げていた。今はフラワーコーディネーターになるための勉強をしているらしい。大学ではインテリアデザインの勉強をし、そこで花と空間を融合させた店を出したいと興味を持たそうで、その夢に僕含め三人は頑張る花崗の背中を全力で押したいと思っている。






高速道路のサービスエリアについたらしい。目を覚めると悠が「ごめん、起こしちゃった? サービスエリアついたけど、トイレとか行きたかったら行ってね。俺はコーヒー買ってくる」と言った。シートベルトを外し、今にも出ていきそうな悠の袖をつかむ。


「待って、私も行く」


夏の夜は暖かく、まるで少し暖房のきいた真っ暗な部屋にいるみたいだった。


「夜でも暖かいんだなあ。夏って感じ」


隣で悠が言う。


「そうだね、暖かい。熱くはないけど」


外にある自動販売機に着き、悠は財布から小銭を取り出し、一枚一枚入口へと入れていく。小銭が機械の中で弾ける鈍い音だけが聞こえる。


「一瞬だったな、熱海」


暗くて顔が見えないけれど、落ち込んだトーンで悠は言う。


「でも楽しかったよね! また三人でどこか行こうよ!」


コーヒーが完成し、コーヒーを機械から取り出すと、街灯に照らされて悠の顔がはっきりと見える。


「そうだな。また行きたいな」


その瞬間、胸が苦しんだ気がした。ぐうっと奥に引っ張られる感じ。なんでだろうな。


車に戻る際、悠は開いている左手で空を指さす。


「ねえ、流星群、流星群だよ!!」


その人差し指の先には一瞬だが流星群らしきものが映った。流星群を一回も見たことないから、それが本物かは分からないけど、この時は確かに流星群だと思った。


「あ、願い事しなきゃ。うわあ、コーヒーが邪魔で手合わせられないよ!」


あたふたしている悠の左手を気づけば私の右手が握っていた。


ちょうど目の前にあったから、


「これで願い事、願えるよ」


「これでもいけるのか?」


「いけるよ」


そして悠は眼を瞑る。


そして私も目を瞑る。


流星群、消えないで。


とっさに思った。


願い事は、ないのかもしれない。


ただ、流星群がある今この瞬間が、続いてほしいと願ったのかもしれない。


流星群、消えないで。


もし願い事をするとするのならば、願い事かどうかは分からないけど、本人には直接聞けないけど、聞いてみたいことが一つある。


私じゃだめなの?





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