思い出

12

8月は半ばにさしかかり、夏が体を徐々に溶かしていく。


「悠くんお疲れ様、来週の数日休みなんですって?」


常連客の由美子さんがアイスコーヒーを飲みながら聞く。


「そうなんです。すみませんね、店閉めちゃって」


「いいのよ、夏休みとるぐらい普通よ普通。それで、なにか予定とか立ててるの?」


「懐かしい友達と遊びに行く予定です。楽しみです」


「いいわねえ、大人になっても遊びに行ける友達がいるってのは。私は引越しが多かったから、そーゆー人は出来なかったわ」


「由美子さんそうだったんですか。初知りです」


悠のスマホが電話の着信と共にバイブで揺れる。


「すみません」


悠は裏口から外に出、電話に出る。


「もしもし、波瑠奈?」


「あ、悠くん。明日の熱海旅行のことなんだけどね……」


あの後、波瑠奈は花崗に、俺は智弘に連絡をとり、その後話を進まった。決まったのは1泊2日の熱海旅行。四人で話を進め、大体の内容は決まったところだ。


「予定通り、来週の木曜日と金曜日に行けるでいかな。止まる場所もペンションで」


「うん。いいよ、了解。でもよかったね、他のホテルが満室になってたから焦ってた」


泊まる宿は波留奈の親戚が経営しているというペンションだ。海外旅行に行くのが好きな親戚の人、らしい。でも、親戚の中では一番交流があると言っていたから安心だ。


「後で花崗に言っとくから、悠くんは智弘にお願いね」


「うん、わかった。波留奈今休憩中?」


「そう、休憩中。あと五分後に始まるかなーって感じ」


「そっか。撮影頑張ってね」


「悠くんもね。お客さん待たせるとあれだから、じゃあね」


「ありがと。じゃあね」




扉を開け、室内に戻り、カウンターに戻る。


「すみません、緊急用にスマホの通知オフにできなくて」


「そのぐらいいいのよ。それに私だけだし。そういえば悠くん、このBGMは悠くんが選んだ曲なの?」


由美子さんは店内BGMを流している無線スピーカーの方を見る。


「そうですよ。この曲どうですか。この店と合う気がして選んでみました」


「すごくいいよ、この店と合ってて。落ち着けるわね」


「ありがとうございます」




懐かしの中学校から帰っている途中、波留奈は時間があるからと、僕の店を訪ねた。そしてアイスコーヒーを口にしてこう言ったのだ。


「ここの店にはBGMとかつけないの? つけたらもっといい感じにあると思う!」


「スピーカーとかないからなあ。でもたしかに、ちょっと物足りないかも」


「だよね。だからよさそうなの教えてあげる。これなんだけど……」


そうして見せてきた通販サイトにあったスピーカーを迷うことなく購入し、BGMも波留奈がおすすめした曲を購入した。




「いい雰囲気ですよね。好きな空間です」


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