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「悠くん悠くん! この前言ってたあの漫画、すごい良かったよ!」


「もう読んだのか? 相変わらずそーゆーことに関しては集中力高いよなー」


「それが私の才能かなあ」


「それなら俺にも才能あるわ」


「悠くんは才能ないよー」


「なんだ? からかってるのか?」


「別にー。ただ、悠くんに才能がないって言っただけ」


「やっぱりからかってるじゃん!」




昔から波瑠奈とは他愛もないことばかり話していた。


二人は当時の席に座り、番号が続いている二人は前後の席で当時の思い出が蘇ってはそれを話した。


「波瑠奈って褒めたらすーぐ調子乗ったよなー」


「うわ懐かしいー。言われてみればね、そうかもね。悠くんをからかうのは悪い気がしなかったからねえ」


「それ、褒められてるのか褒められてないのか…」


「ふふっ、褒めてるよお。悠くんはからかいやすいって」


「やっぱり褒めてない。おれは波瑠奈の都合がいい道具なのか」


「そこまで言ってないよ。でもなつかしいなあ、ここからみる景色」


「話逸らしたな……。まぁ、うん、懐かしいね。休み時間になったらこうやって波瑠奈が毎回ちょっかいかけてくるこの感じ。なんか泣けてくる」


「そんな重い思い出?」


波瑠奈はクスッと笑う。


「他の奴らも元気かなー。久しぶりに会ってみたくなったなあ」


智弘ともひろとか花崗みかげとか?」


「懐かしい! 言っても成人式で会ったから3年ぐらい会ってないだけだけど」


「そうだ! 修学旅行メンバーで今度どこか遊びに行こうよ!」


「いいねーそれ。4人でどこ行くか」


「熱海とか沖縄とか行きたい! 海! 温泉! 草津とかもいいなあ」


「全部は行けないよ。でも海いいなあ」


「海いいでしょ! やっぱり熱海が1番近いしいいかなー」


「そうだね。てかこのことを他の2人に伝えないと」


「私花崗の連絡先知ってるよ。あと智弘も」


「おれは智弘のしか知らないなあ。じゃあ花崗は頼んでもいい?」


「おっけー。行くとしたら夏だよね。8月? 来月ぐらいか」


「あ、そうか、もう来月8月か。早いなあ」


「もう蝉いるの気づいた? 夏もう来てるんだよ」


気づいたら一時間が経っていて、外で鳴く蝉の音はこれからのスタートを感じさせる。本番になればその声は何層にも重なって夏色に染める。


高校、大学の生活はぱっとしなかった悠だったが、15歳から8年が経った今、久しぶりに錆びかけた歯車がまた回りだそうとしていた。


「波瑠奈は次またいつこっちに来るの?」


「8月とかかなー。また休みとって、その時にどっか行こう!」


「そうだね。そろそろ帰るか。随分と長居しちゃったね」


「草刈りの校長先生には感謝だね。教室にまで入れてもらえて。後でお礼言わないと」


懐かしいものは懐かしいままで、でもそれがいいのかもしれない。懐かしさはあるけれど、感じるのはまた別の感覚で、それがまた時間が経てば懐かしいものになる。その繰り返しが思い出という名の本の1ページを作っていく。中学の頃の懐かしいの続編は、また別のものになるに違いない。







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