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「悠、ここの店、継いでくれないか?」
それは突然のことだった。
時は正月、1月1日。都沢悠含めた三人の家族は、おばあちゃんの家に泊まりに来ていた。都沢家では、これは毎年恒例のことだ。そしておばあちゃんと二人きりで正月の特番番組を見ながら炬燵の温かさにうとうとしているときに、そう言われたのだ。
「店って、古民家?」
「それしかないでしょう」
おばあちゃんはおじいちゃんが死去して以後、自分の家を改装し、古民家カフェを始めた。昔おばあちゃんはカフェで店長をやっていたというほどで、その腕前は確かなもので、今では地域に愛される古民家カフェである。
「おばあちゃんもう歳でね、最近すぐ体が悲鳴をあげるのさ。で、ここを閉めようか迷ったけど、どうしてもできなくてね。それで、悠ならここ引き継いでくれないかなーって思ってね。悠は、仕事決まりそう?」
バイト先に社員にならないか誘われている、でもそのことがなぜか言えそうになくて、「どこも見つからない。でも俺なんかでいいの?」と言ってしまった。
鬼塚さんには悪い気がした。あの店の雰囲気はとても好きだ。だけど、それよりも大事なものがあるような気がした。
昔はよくこの家に来て、おじいちゃんやおばあちゃんとは遊んだものだ。この家にはたくさんの思い出がある。それをつぶすのが、なにか切なく、もったいない気がした。
「悠が継いでくれたらおばあちゃん大歓迎だよ。きっとおじいちゃんも喜ぶだろうね」
このことを両親に伝えると、二人とも喜んでくれた。
しかし、バイト先に何といえばいいか、申し訳なさが募る。
後日バイトにて、鬼塚さんと二人きりになり、また前と同じシチュエーションになる。
「悠君、何か言いたいことがあるみたいだけど、言ってごらん」
鬼塚さんは見かけによらず、よく人を観察しているなあと思う。
「実は、仕事が決まりまして、その報告に」
「おお、それはめでたいことだねえ。なんでもっとはやく言わないのさ」
「いや、鬼塚さんが前に言ってくれたこともありまして、ここでも結構やさしくしてもらっているので、」
「別に申し訳ないなんて思わなくていいよ。僕最初に言ったでしょお? べつに腰掛でも悪いなんて思ってないって。むしろその逆さ。僕は悠君の仕事が見つかってよかったと思っている。ここで培ったことが、今後どう活かせるかはわからないけど、僕たちの事は忘れないでね」
「忘れませんよ、ここであったことも、人も、鬼塚さんも」
「そうでいてくれ。それで悠君。その、仕事先聞き忘れてたけど、どこで働くんだい」
「僕のおばあちゃんが古民家カフェを経営しているんですけど、その跡継ぎみたいなもので」
「え、すごいじゃん。いい場所もらえてよかったね。じゃあ悠君も僕と同じ店長になるってことだねえ」
「そうなりますね、すみません、なんにもしないで出世して」
「喜ばしいことだよ。店長になるってことは、店を引き継ぐってことは、胸を張って生きていかなくちゃね。誰かの上に立つ人がしっかりしてないと、店はつぶれちゃうからね」
「ありがとうございます。その言葉、大事にしまっておきます」
「じゃあ、ある程度店まわせるようになったら教えてね。悠君の淹れるコーヒー飲楽しみにしてるから」
「鬼塚さんあ満足できる一杯を、つくれるように修行します」
「待ってるよ。さあ悠君、お客さんが来たよ。最後の最後まで、眼鏡を売るよお」
「売ってきます」
「売ってらっしゃい」
鬼塚さんはほんとうにいい人だと思う。この人のおかげで快い一歩が踏み出せそうだ
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