その海の中に


「うん、大丈夫……。この世界の水も、みんな俺に力を貸してくれる……!」


「行くぞカノア! たとえ何があろうとも、私は最後までお前と一緒だっ!」


 目の前に広がる海。

 というか水。


 水泳EXを発動してその全部と繋がった俺は、心の中でその水達にありがとうって呼びかけた。そして――。


「あそこまでの道は、俺が作る――!」


 俺達の世界よりもずっと多い、本当にとんでもない量の水に呼びかける。


 俺をあの場所に……。

 海の神のところまで連れてって欲しいって。

 

 俺がそんな風に考えると、辺りの海が一斉にぱああああって光って、暗い空に向かって一直線に伸びる青く光る水の柱になったんだ。


「これでおっけー。みんな、俺についてきて」

 

「任せとけ! 私達だって絶対にお前とリズをあの化け物まで届けてやるからな!」


『ドール隊前へ! リズ様とカノアさんの露払いをしますよっ!』


「それなら私達だって負けていられないね! 行くよ皆、長きにわたり私達の世界を守り続けてきた勇者と冒険者の誇り……! 今こそ見せる時だ!」


『『 うおおおおおお! 』』


 俺の作った水の柱。

 ラキとアールリッツさんを先頭に、俺達は一気にその水と光の柱を昇っていく。

 

 俺はリズの手をぎゅって握って、とにかく前だけど、上だけを。

 俺達が行かないといけない、海の神のど真ん中だけを見て。


 だけど――。


「む……っ! どうやら来たようだな! 全員気を引き締めろ!」


『海の神の眷属……。海の神が外敵の攻撃に晒された際に姿を現わすという、免疫システムのようなものじゃな!』


「ははっ! ようやく出てきたか、さっきから何もすることがなくて暇してたところだっ!」


『気をつけて下さい皆さん! 先代様の話では、滅びる以前に行われたこの世界の軍勢による抵抗は〝全て阻まれた〟と聞いています! 闇雲に相手をするのではなく、あくまでカノアさんとリズ様を海の神内部に送り込むことを優先してくださいっ!』


『ギャオンギャオーーン!』

『グルルルルルッ!』


「ありがとうみんな、俺もやるからね……!」


 海の神めがけて伸びる柱の周り。

 今もずっと降り続くもの凄い量の雨がいきなり形を変えて、よく分からないキモイ蛇や虫、サメみたいな形になっていく。


 それは本当にとんでもない数で、俺が作った柱の光を遮って、まるで分厚い雲みたいになって俺達の前に広がったんだ。


『行きますよ皆さん! ドール隊全機、一斉射!』


「ラキ君に続け! 魔族の皆だけにいい格好はさせられないよッ!」


「足場のことなら気にするな! どいつもこいつも、全員私の魔法でビュンビュン飛べるようにしてやってるからなっ!」


「ならば……ッ! 行くぞオディウム、ナイン! そしてヘドロメール翁!」


「ヒャッハー! キタゼキタゼキタゼー!」


「が、頑張ります……!」


『ヒョーッヒョッヒョッヒョ! 分かっておるわ青二才の小童が! 伝説のドール乗りと謳われたこのヘドロメールの技量、しかと見るが良い!』


『ギャオオオオオオン!』

『バウバウッ! グルルルルルルッ!』


 そこからは一気に凄い戦いが始まった。

 

 ラキのオルアクアや、沢山のドールが発射したミサイルやビームが。

 アールリッツさんや他の勇者さん、大勢の冒険者の皆の攻撃が。

 タナカさんも、オディウムさんも、ナインさんも。

 それに、サメ猫とサメ犬も、口から凄い数のビームをバンバン撃って攻撃した。


「リズ、俺達も――!」


「むっふっふーん! 待っていたぞカノアよ! ならば……私達初のラブラブ合体技を叩き込むとしようッ!」


 そして、オルアクアの背中から飛び降りて、真っ直ぐに昇っていく水の上に着地した俺とリズ。

 俺達はぎゅって手を握って、リズの体をしっかりと抱きしめながら、凄い速度でぐんぐん上に昇っていく。そこから――!


「みんな……! 俺とリズに力を貸して……!」


「カノアが集めてくれた水……! それはそのまま、この私の力となるのだっ! 大魔王水素核融合式爆縮ジェノサイド砲ッッ! てええええええええええええええい――ッ!」


 瞬間。皆が戦っている戦場を突き抜けて、俺の集めた水をたっぷり溜め込んだリズの大砲の光が真っ暗な空目がけて昇っていった。


 それはその光の間にいた怪物をみんななぎ倒して、消し飛ばして、さらにその先にいる海の神にまで確かに届いた。


「うおー!? やるじゃないかリズ! お前達いつのまにそんなド派手な合体技作ったんだ!?」


「ナーーーーッハッハッハ! 私とカノアがただ日々をイチャイチャチュッチュしてるだけだと思ったら大間違い! ちゃんとこのように新技の研究も行っていたのだっ! さあ全員進めっ! 海の神までの活路は開けたぞ!」


「みんな、俺の波に掴まって!」


「いいだろう! やってくれ、カノア君!」


『分かりましたカノアさん! では、僕達ドール隊は後方の守りを!』


 了解のサインを送ってくれたラキのオルアクアに向かって頷いた俺は、すぐに両手を広げて水の柱に波を起こす。

 戦ってくれてる皆を守るように、一人も落とさないように注意しながら、その波をそのまま海の神まで加速させる。


 青く光る水の粒が真下に向かって線みたいになって流れる。

 さっきまで暗くて分からなかった海の神の大きな体……真っ暗な空に浮かぶ、丸い水の塊が俺達の目に飛び込んでくる。


「ここからだっ! 頼んだぞ、カノア!」


「うん! 一緒にやろう、リズ!」


 そのまま綺麗な星が光る世界に飛び上がる。

 俺は皆をしっかり連れて、リズともちゃんと手を繋いだまま……。


 海の神の中に、一直線に飛び込んだ――。


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