二人だから嬉しい


『――というわけで、皆さんは私ともう一人の女神の想いの先に生きているというわけですよっ! どうかどうか海の神なんてボコボコにやっつけて、またこうして勝利の美酒を味わおうじゃなありませんかっ!』


「「 おおおおおおお――――ッ! 」」


「うわあ、すごい」


 夜。


 忙しい時間はあっという間に過ぎた。

 今日が終われば、明日は海の神っていうのをなんとかしにいく日。


 パライソの議事堂前の広場に集まった俺達は、凄く美味しい料理を食べながら、作戦の前の最後の晩餐っていうのをやってた。なんか〝最後の〟って言われるとめちゃくちゃ怖いんだけど……。


「むっふふふ……! 見つけたぞカノアよ!」


「うわ、リズだ。もう忙しいのは終わったの?」


「うむっ! 残りは全てアールリッツとパパ様に任せておいたのだ! 今からは私も自由時間……! ならば、これから私がしようとしていることも当然分かるな……?」


「さっぱりわかりませ――うわわっ!?」


「ナーーーーッハッハッハ! 分からぬのなら教えてやろうっ! 私とカノアの二人でそれはそれは濃厚な〝ラブラブチュッチュ〟をするに決まっておろうがッ!? とっくにリリーとラキもこっそりと何処かに消え去ってしまったのだ! 私達も後れを取るわけにはいかんぞッ!」


「マジか」


 でもその時。いきなり俺の目の前にいつもより豪華な黒いドレスを着たリズがババーン!って出てきた。

 リズは驚く俺の手をガシ!って掴むと、凄くかわいい笑顔で大笑いしながら、ズンズン会場の中を歩いて行く。


「フゥーーーーハハハハハッ! どけいどけい有象無象の者共よッ! 今から私は最愛のカノアとラブラブするのだッ! 我が恋路を邪魔する者は全員馬に蹴られてサメのエサになるであろうぞッ! クハハハハハッ!」


「全然こっそりじゃないんだけど……」


「なーに気にするなっ! どうせもう隠しておく必要などこれっぽっちもないのだ! ならば今まで我慢していた分、カノアが私のものだということをきっちり世間に示しておかねばな! クックックッ!」


「そっか」


 そんな風に言うリズは本当に嬉しそうだった。そしてそんなリズの嬉しそうな顔を見た俺も、いつのまにかリズと一緒になって笑ってた――。



 ――――――

 ――――

 ――



「――リズの機械は上手く作れた?」


「むふっ……! むふふふー……! んむ~~……? どうしたのだ……? このような時に機械などどうでもよかろぉ~……? むふふ~~……っ!」


「リズがまたふにゃふにゃに……」


 むちゃくちゃ堂々と正面から会場を抜け出した俺とリズは、そのまま議員会館ってところに用意されてた俺達用の部屋でギュッギュしてた。


 もう何度もこうなったから分かってたんだけど、リズは俺とこうするのが凄く好きみたい。


 リズは猫みたいにぴたって俺の体にくっついてきて、今もずっとすりすりしてる。

 俺もそれが気持ちよくて、ちょうど胸のあたりにあるリズの頭をよしよしって撫でた。


「むふふふ……。私は本当に幸せなのだ……。明日も、明後日も……毎日ずっとこうして生きていきたいのだ……」


「うん……」


「なあカノアよ……。私は見たのだ。パパ様から渡されたデータの中で、もう一つの世界を滅ぼした〝海の神〟とかいう存在の姿を……」


「どうだった? やっぱりヤバイ?」


「それはそれはとんでもない化け物だったぞ……! なにせ私達が今いるこの星よりも遙かに巨大なのだ! 奴に比べれば、私達の存在などアリどころか砂粒以下の存在だろうなっ!」


 リズは俺によしよしされたまま、気持ち良さそうに目を閉じたままそう言った。

 そんなにヤバイ化け物の話をしてるのに、リズはなんだかどうでもいいって感じだった。


「そ、そうなんだ……。そんな凄いの相手に、俺で大丈夫かな……」


「さてな……。それはやってみないと分からん。私もカノアも、他の者も……皆そのために最善を尽くしてきた。後はただぶつかるのみなのだっ!」


「それはそうだけど……。リズは怖くないの? もし失敗したらって、考えたりしないの?」


「怖い? むふ……むっふふふ……っ!」


「んむ――っ?」


 そう俺が尋ねると、リズはいきなりパチッて目を開けて、凄く悪い顔でいきなりキスしてきた。

 それどころかそのまま押し倒されて、ガバって馬乗りになっちゃったんだ。あわわ……。


「私だって怖いものは怖い。しかし……やはりそれ以上に嬉しいのだ! なぜなら、今回は最初から最後まで私達は一緒だ。二人で力を合わせ、目の前に迫る困難に二人で立ち向かうことが出来る……」


「二人で……」


「もうパパ様やママ様がいなくなった時のように、その場にいなかったということもない。カノアが頑張っているのを、指をくわえて見ていることしかできないわけでもない……。私もカノアと一緒に……大好きな人の力になれるのだっ! これを幸せと言わずになんという?」


「それはそうかも」


 押し倒された体勢のまま、リズは何度も何度も俺にキスしてきた。

 そうされながら、リズはマジで強いなってぼんやり思ってた。


「あの時、カノアに会いに行って本当に良かったのだ……」


「あの時?」


「初めてカノアの家で私が待っていた日のことだ。初めはただ、ありがとうとお礼を言いたかっただけだったのに……。気がついたら、いつもカノアのことばかり考えて、ずっとカノアと一緒にいたいと思うようになっていたのだ……」


「俺だって、リズと会ってなかったらどうなってたか……」


「本当に色々あって、私達はこうなった……。たとえ偶然と幸運のおかげだろうと、私はもう〝この今〟でなければ嫌なのだ……」


 もう何度目かわからない。

 俺の目の前がリズで一杯になって、潤んだリズの赤い目と俺の目が合う。


 いつのまにか、俺の中にあった怖いって気持ちは消えてた。

 とにかく、リズとこれからも一緒にいたいっていう気持ちだけになってた。  


「大丈夫……。カノアのことは、私が絶対に守るのだ……。そして私のことは――」


「――俺が守るよ。何があっても、絶対に」


「ふふっ! そうだと思ったのだっ! 大好きだぞ、カノアっ!」


 うん。

 やっぱり、これだけは絶対だ。


 リズを守る。


 俺を見て笑ってくれるリズを。

 俺のことを好きって言ってくれるリズを。


 とんでもない怪物をなんとかしないといけなくても。

 もうダメだって、怖くてどうしようもなくなったとしても。


 リズだけは絶対に守りたい。

 何があっても、絶対に辛い目に遭わせたくない。

 

 凄く嬉しそうに笑うリズのことをぎゅって抱きしめて、俺は生まれてから一番ってくらいに強く、それだけを考えてた――。


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