滅亡の元凶


『この世界と繋がるもう一つの世界を管理していた、もう一人の女神……。その女神が最後の力を使って生み出した存在こそ、カノア・アオ……君が持つ水泳EXなのだ――!』


 結局、その後も色々びっくりする話は続いた。

 あの話の間、30回くらいはびっくりしたと思う。


 水泳EXがそんなに凄い力だったっていうのもそうだけど、他にも本当にいろんな話を聞いた。


 だけど、やっぱりあまりにも情報量が多すぎた。

 俺も驚くだけで、じゃあどうしようとか、そういうのは全然考えられなかった。


 でも、その中でも一番驚いたのは――。


「ううううむ……っ! 私にとっても驚きの連続だったが、やはり一番驚いたのは私達魔族が〝もう一つの世界から逃げてきた人類の末裔〟だったということだ! ファッションセンスやら文明レベルやら、道理で色々違うわけなのだ!」


「それは俺もびっくりした……。でも安心もしたかな……。別の世界の人達も、皆死んじゃった訳じゃなかったっていうのが……」


「ふふ……カノアは優しいな。しかしこれで合点がいったぞ。いきなり何もかもが違う別世界から大量の人間が現れれば、当然争いにもなろう……。魔族のデータベースにも、千年前の情報は殆ど残っていなかったかからな……。魔族も当時は相当に必死だったということだ……」


「うん……」


 そうなんだ。

 リズのお父さんやハルさんの話の中でも一番驚いたのはこれ。


 俺とリズはちょっとの休憩時間に、二人で議事堂の隅っこでそんなことを話してた。


 それは、もう一つの世界が滅びそうになったとき、危機一髪ギリギリで俺達の世界に逃げ出した人達の生き残りが、リズ達魔族だったってこと。


 だから魔族の人達は凄い道具や機械を持ってて、でもリリーが使うような魔法は使えなかったんだ。


 他にも、俺達が戦った〝十字型の怪物やサメ猫〟とかも、向こう側の世界の人達がなんとか滅亡しないようにって作った機械や、新しい生き物だって言ってた。


 特にあの十字型の怪物は、もうあっちの世界が滅んだ後も、皆を助けるための〝手がかり〟を探して勝手にあっちこっち動き回ってるんだって……。


 それが偶然俺達の世界に迷い込んだのが、リズのお父さん達と戦ったり、式典で俺達と戦った奴らだったんだ。


「しかし、千年という月日はあまりにも長い……。我々魔族の中にも僅かだが人間共のように魔力を扱う者は生まれてきているし、そもそもこの私自身が魔力の扱いにむちゃくちゃ長けているのだからなァ……ッ! クックック……正に二つの世界のハイブリッドというわけだ……ッ!」

 

「その通りだぞリズよッ! そしてカノア君……いや、近いうちに我が〝義理の息子となる海の英雄〟よッッ!」


「うわ、リズのお父さん」


「パパ様!」


 でも二人でそんな話をしてる時。


 いきなり俺達の後ろからグワって黒い影が広がって、その影の中からリズのお父さんが赤い目をピカピカ光らせて出てきた。ちょっと怖い。


「はわわ……。あ、その……すみません……。リズとは、凄く真面目に将来のことも考えてて……最近は早起きもお仕事もしてるので……えーっと……」


「フッ……。そのことならさっきも言ったが当に知っている。先ほどあの会議の場で話したが、カノア君もリズもクロスウェブ……お前達が言う〝十字型の怪物〟とは何度か戦っているだろう? 実はあの機械は、〝個体同士で情報を共有〟しているのだ。我々はあちら側の世界であの〝怪物のネットワーク〟をハックし、あの怪物が得た情報をそのまま手に入れられるようにしていたというわけだなッ!」


「ご、ごめんなさい……。さっぱりわかりません」


「ナーッハッハッハ! 案ずるなカノアよ! カノアが分からなくとも、私が分かっていれば大丈夫なのだ! つまりパパ様は、あの十字型の怪物が見た光景はそのまま知っているということなのだな!?」


「そのとーりだ! だから二人で固く手を繋ぐリズとカノア君や、ぎゅっと身を寄せ合うリズとカノア君もばっちり撮影済み……! 孫が生まれる前には帰らねばと妻と共に話していた所よッ! ファーッハッハッハ!」


「なんてこった」


 じゃあ、あの復興式典の時も、無人島でのことも全部リズのお父さん達には見られてたって事なのか。


 な、なんだか恥ずかしいな……。


「しかし、まずは孫の顔を見る前にこの世界の危機を乗り越えねばな……。カノア君、そしてリズよ……正直、お前達にだけ大きな責任を負わせることになってしまい、申し訳ないと思っている……」


「さっきパパ様が言っていた、もう一つの世界を滅ぼした〝元凶〟のことだなっ!」


「そうだリズよ……! あちらの世界に無限の水を降らせ続ける死と生命の根源……。やがて宇宙すら軽々と飲み込むであろう水の特異点――〝海の神〟。あれを滅ぼさない限り、我々に明日はない……ッ!」


「海の、神……」


「もはや残された時間は僅か……。私達があちらの世界で十二年にわたって生き延び、集めたあらゆるデータは全て持ち帰った。リズにはそのデータを全て解析し、その上で海の神を打倒するシステムを構築してもらう!」


 お父さんのその話に、リズはいつもみたいに笑ったりも、自信満々で何か言ったりもしなかった。ただじっと黙って、俺の手をぎゅって握ったんだ。


「そしてカノア君……! 君はリズの構築したシステムと共に海の神内部へと突入し、海の神を破壊、もしくは制御する……! それこそが、我々に残された最後の手段なのだ……ッ!」


 それは、さっきも聞いた話。

 この世界がどうなるかは、全部俺とリズにかかってる。


 そんなこと出来るのかな。

 出来たとして、俺にやれるのかな。


 ううん……。

 出来る出来ないじゃない。


 俺にそれが出来るかもしれないなら。

 きっと……やるしかないんだ。


 ごくりって唾を飲み込んで。

 俺はリズに握られた手を、いつもより少しだけ強く握り返した――。


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