最終章

進む日々 始まる日々


「あ、カノア君お疲れ様! 今日も大活躍だったね!」


「議長さん」


「おー、議長よ! 出迎えご苦労! ドラクル帝国の土壌改善と海流の調整はひとまず完了したのだ!」


 今日もいつもと変わらない青い空に青い海。


 港から直接パライソに上がれるようになってる場所から帰ってきた俺とリズは、そこで待ってた議長のトルクスさんに話しかけられた。


「グェンオッズ皇帝は退位したけど、ドラクルが食べていくのに大変な国なのは変わらないからね……。余計な火種を増やさないためにも、ある程度不満が出そうな部分は積極的に助けてあげないとね」


「良い心がけだ! カノアが潮の流れを緩やかにしたことで、今後はドラクルでも多少は海産の類いが獲れるようになるだろう!」


「俺は全然……。どうすればいいとかは、全部リズが計算してやってくれたから」


「どっちにしたって、二人がいなかったらこんなことは出来なかったよ。いつもありがとう!」


「ナーッハッハッハ! まぁあああああなッ! また何かあればいつでも相談するがいいッ!」


「じゃあまた、議長さん」


「またね! 今回の依頼の報酬は、いつも通りカノア君の銀行口座に入れておくから、後で確認してね!」


 トルクスさんに見送られながら、俺とリズは二人で一緒に歩いて行く。


 リズと会ってもうすぐ半年以上経つけど、俺達はいまもずっと一緒だった。

 最近は議長さんやリリーから今回みたいな仕事を頼まれることも増えたし、勿論リズの仕事もちゃんとやってる。


 リズは最初に契約してくれた条件からさらにお金を俺にくれるようになったし、自分で言ってたとおり福利厚生も完璧だった。


 それに……恋人になってからは殆どいつも一緒で、俺の身の回りのこととかもやってくれてたりしてる。一緒にお風呂に入ったりとかもしてて……。


「うむうむっ! こうして一仕事した後は気分が良いのだ! ところでカノアよ、お前が立派に働くようになってから随分と経つが、特に金に困ったりはしていないか?」


「ぜんぜん。どうしてそう思ったの?」


「カノアが普段から全く金を使わんからだっ! 食事も会った頃と全く変わらんし、買い物もせいぜい新しい服や靴を買っただけ。食器や家具も壊れなければ新しくはしないだろう? ならば逆に、何か欲しいものでもあって貯めているのかと思ってな!」


「欲しい物……。大きなクマさんのぬいぐるみだけど、あれって邪魔になるから……」


「ぶふぉーっ! か、カノアのパンツやタオルやコップと妙にクマさんが多いとは思っていたが……そこまでクマさんが好きだったのか!? それに邪魔になるからとは……どれだけデカイぬいぐるみが欲しいのだっ!?」


「俺がすっぽり埋まって寝れる奴。子供の頃から欲しくて……」


「想像以上にデカいな!?」


「だよね。だから無理かなって……」


 そうそう。そうなんだよな。

 子供の頃はもっと小さなクマさんでも良かったんだけど、今は俺もデカイから。


 実は夢なんだ。クマさんのぬいぐるみに抱っこされて寝るの。


 そうだ。クマさんって言えば、この前実家に挨拶しに行ってから、父さんと母さんとも何度か手紙でやりとりしたり、直接会って話したりもしてる。


 その時、俺が家に置いてきちゃったクマさんグッズとか、子供の頃の食器とか。

 そういうのでまだ使えそうなのは、今の俺の家に貰って来たんだ。


 父さんや母さんが、俺の持ち物を捨てずにとっておいてくれてたのは凄くびっくりした。だから、俺の部屋には前よりもクマさんが増えてるんだ。


「な、なあカノアよ……。その……相談なのだが……」


「うんうん?」


「今のあの家も悪くはないが……私とカノアの二人で住むには、少々手狭だと思わないか……? この際だから、その……どこかもっと広い場所に引っ越しして、正式に二人で住むとか……というか……け、けけ、けけけ……けっこ……こけ……こけッ!」


「こけこっこ?」


 そんな話の最中。リズはいきなり顔を真っ赤にしてクネクネモジモジしだすと、なんかぼそぼそ小さな声で何か言おうとし始めた。


 流石に、俺ももうこういう時のリズが何か大事なことを言いたいんだろうなってのは分かってて、リズのことをまっすぐ見ながら、うんうん?って何度も頷いて待ってた。そしたら――。


「――お待ち下さいリズ様。とても大切な一時をお邪魔して申し訳ありませんが、一大事です」


「ぎゃぴぃぃぃぃッ!? ら、ラキッ!? き、貴様一体いつ!? どこから現れおった!? この私でも全く気配を感じなかったのだがッ!?」


「うわ、いきなりどうしたの?」


「申し訳ありませんリズ様。実はカノアさんの背中に使い切りの瞬間転移シールを貼り付けて、いつでもリズ様の危機には駆け付けられるようにしていたのです」


「なんだそれは!? また私の断りもなくそんなことを!?」


 リズが何か俺に言うよりも早く、突然出てきたラキが俺達に声をかけたんだ。

 ラキに言われて背中に手を回したら、確かに小さな丸いシールが貼ってあった。びっくり。


「ですが、今回は本当にそれどころではありません。リズ様も、どうか落ち着いて聞いて下さい……」


「な、なんだと……!?」


「ごくり……」


「つい先ほど、以前僕達が囚われた〝謎の海域〟の調査を行っていた部隊から連絡がありました。先代大魔王様と奥方様……。リズ様のお父様とお母様が、ご帰還されたと――」

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