伝えたかったこと
「おー? もしかしてお前らがカノアの家族か?」
「フフフ……。街が随分と大変なことになっていたのに、駆けつけるのが遅くなって悪かったね。でも、これでもう何も心配はいらないよ」
「ほ、本物の聖女様と勇者様だっ! か、カノア兄……! 本当にこんな凄い人達と知り合いなのかよ!?」
オレンジ色の夕日に照らされた港。
すごい勢いで走ってきたリルトとラルラは、すぐにリリーとアールリッツさんのことを目をキラキラさせながら見た。
「ちょ、ちょっと待てリルトよ!? 貴様この大魔王であるリズリセ・ウル・ティオーの時と反応が違いすぎではないか!? 私の時は〝へぇー大魔王なんだー……〟という感じだったではないかッ!?」
「ご、ごめんリズ姉ちゃんっ! でもやっぱりこの二人は凄すぎだって!」
「すみませんリズさん。私達は大魔王……というか魔族の皆さんには詳しくなくて……」
「カノアさんと同じですね。でもおかげでカノアさんも僕達に偏見を持ってなかったわけですし、仕方ないですよリズ様」
「なはは! なんだなんだ、可愛い奴らだなー! 今日は大したことしてないし、特別にサインしてやるぞー!」
「フフフ……。私も今回はリリーについて来ただけだからね。今なら記念撮影もOKだよっ!」
「じゃ、じゃあ! 私も一緒にお写真を……っ!」
リルトはともかく、ラルラまで凄く嬉しそうにしてるのを見て、やっぱりリリーとアールリッツさんは凄い有名人なんだなって思った。実際話してみると全然そんな感じしないんだけど。
「カノア……。怪物は、もう……?」
「父さん、母さん……」
少し離れた場所でリリーやリルトの様子を見てた俺とリズに、父さんと母さんがおずおずって感じで声をかけてきた。
母さんはマジでびっくりした顔のまま。
父さんはなんだか申し訳なさそうに俺のことを見てた。
「うん。後はリズやリリーがなんとかしてくれると思う」
「そうか……。本当に、ありがとう……。全部……お前のお陰だ……」
「ほう……」
「父さん……」
父さんは凄く何度も目をそわそわさせた後、でも最後には俺のことを見てお礼を言った。俺が父さんに〝ありがとう〟って言われたの……もしかしたら初めてかもしれない……。
でも――。
「な、なあカノア……っ! その……あんたならこの人の……ディーオの体も治せるって……」
「あ、うん……っ。そうなんだ母さん、だから俺が……」
「やめろナディ……ッ! 俺達がカノアにしてきたことを忘れたか……!? 俺はもう、このままでいい……。今のこのシワシワが、俺の〝本当の姿〟だったんだ……。それにカノアだけじゃない……。俺は他の奴らだって、散々上から踏みつけてきたんだぞ……。当然の報いだ……」
「あんた……」
「なるほど……私の手紙を捨てていたのも、カノアの申し出を頑なに断ったのも、どちらも罪悪感からというわけか。なかなかに殊勝なことではないか……? だがな……やはり貴様達は〝カノアの気持ちを何も分かっていない〟のだ……」
「カノアの、気持ち……?」
「むぅ…………」
父さんのその言葉は、本当に弱々しかった。
そしてその言葉を聞いたリズは、俺の隣で腕を組んでぶんぶん首を振った。
もうこのままでいいって……。
俺や皆に酷い事をしてきたから、父さんはシワシワのままでいいってこと……?
でも……どうなんだろう。
俺はもうリズや皆のお陰でかなり幸せだし、父さんがどうこうなんて、あんまり気にしてないんだ。
だから、俺はやっぱり――。
「ごめん、父さん。父さんの気持ちはなんとなく分かるけど――やっぱり治すね」
「な……っ!?」
そう言って、俺はそのままスタスタ港の端の方に。
そこから海に向かって手をかざして、ぶわって水の柱を呼び出すと、そのままそれをばっしゃーーーーんって父さんにぶっかけた。
「グワーーーーッ!? か、体が……!? 俺の体が、ムキムキに……!? 歯も生えて……!?」
「ディーオっ!? アンタ、体のシワシワが戻って……!」
「え!? 父ちゃん!?」
「父さんが元通りになってる!?」
「うん。俺が治した」
叩き付けられた水の中から、俺にも見覚えのある日に焼けた肌と、バキバキの体に金色の歯。それにギンギンに光る目の父さんが出てくる。
リリー達と話してたリルトとラルラもびっくりしてこっちに来て、元通りになった父さんに心配そうに抱きついてた。
「な、何故だカノア……!? なぜ俺を治した!? 俺は、お前に助けられていいような人間じゃない……! 俺は親としても、人としてもダメな……ダメダメ人間なんだぞ……ッ!」
「えーっと。なんて言えばいいのか……」
「ククク……ッ! 丁度良かったではないかッ!? 貴様はカノアに治されたくなかったのだろう? ならば、こうして自分の意思を無視してカノアに治されたことは、貴様にとっては罰のようなものではないか。なぁ……?」
「へぇー? リズの奴、随分久しぶりに大魔王っぽい雰囲気出てるじゃないか。それで、カノアはどう思ってるんだ?」
「フフ。家族というのは難しいもの。それは私もよく分かっているつもりだよ」
「まあ、今のカノアさんならきっと何か考えがあるのでしょう」
周りの皆の視線がじーって俺に集まる。
俺はその視線が恥ずかしくて、マジでなんて言っていいのか……。
あー……。
うー……。
あ。
そうだった。
そもそも最初から、〝これ〟を父さんと母さんに言おうと思ってたんだった。
すっかり忘れるところだった。
「ありがとう――」
「え……?」
「は……?」
そうそう。
俺は二人に〝ありがとう〟って、お礼を言いに来たんだった。
だって――。
「いっつも俺達のために頑張って働いてくれて……。早起きも、漁師の仕事も、色々してくれてありがとう。父さんと母さんが俺を育ててくれたおかげで、俺は今幸せだから」
「か、カノア……っ。お前……そんな……!? そんな、ことを……っ」
「あんた……! 私達に言いたい事ってのは……それなのかい……っ!? あんた……っ!」
「うん。だから、父さんを治したのもそのお礼って事で」
父さんと母さんはびっくりして口をぱくぱくさせてる。
なんでこんなにびっくりしてるんだろう……。
俺のこの気持ちは本当だから。
だって……もし俺が父さんの立場だったらそもそも早起きできないし、あんなにどっちが上とか、どっちが下とかのキツい場所で頑張ったりするなんて、絶対に出来なかったはずだから……。
『アオオオオオン! クゥーンクゥーン……』
「あれ……? じゃあ、俺はちょっとサメ犬の様子見てくるね」
「むふふふっ……。待つのだカノア! 私も一緒に行くのだっ!」
俺は一度父さんと母さんに頭をペコって下げて、なんかむちゃくちゃニコニコしてるリズに頷いてから、悲しそうに鳴いてるサメ犬の様子を見に行った。
俺が伝えたいことは、これでちゃんと言えたから。
「ぐ……ぐぅ……ッ! すまん、カノア……っ! ありがとう……っ。本当に……本当に、すまん……っ! ありがとう……っ。うぅ……っ!」
「カノアが……。あの、カノアが……っ? こんな……」
「カノア兄……。かっけぇ……! ちょーかっけぇよ……!」
「兄さん……」
後ろからの皆の声に振り向こうとしたら、なんでかそれはリズに止められた。
なんでも――。
「ヒーローは背中で語るもの……! そしてカノア……やはりお前は、私の大好きな一番の英雄なのだっ!」
「そうなんだ。嬉しいな……」
気がついたらまた二人で手を繋いで。
サメ犬の向こうにある綺麗な夕日を見ながら、テクテク歩いていった――。
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