頑張る英雄


「クックック――ようやく来たかカノア! おはようなのだっ!」


「お、おはよう……」


 ラキと一緒に色んな人の話を聞いてから二日後。

 俺はまだ日も昇りきってない朝早くから、パライソのど真ん中でリズと合ってた。


 なんでかって、それは……。


「しかしあのカノアが〝新しい服を選びたいから一緒に来て欲しい〟とは……! 突然どうしたのだ? まさか、どこぞの悪い病気にでもかかったのではあるまいなっ?」


「むぅ……それは、その……」


 それは……俺がリズのこと好きって伝えるため。


 俺はラキがチェックしてくれた服装や、いつもより少しだけ気合いの入った感じの髪型にして、ちゃんと自分からリズのことをお出かけに誘ったんだ。


「今まで、リズに誘って貰ってばっかりだったから……。たまには、俺からもいいかなって……」


「お、おおお……っ!? そ、そうか……!? それは勿論いいのだっ! というか……わ、私も……っ!」


「う、うん……」


「ん……」


 はわわ……。

 な、なんだこれ……。


 っていうか、これどうすればいいの。


 まだ挨拶したばっかりなのに。

 き、緊張しすぎて……全然いつも通りに出来ないんだけど……。


 しかも、よく分からないけどリズの方まで様子がおかしい。


 妙にもじもじして、くねくねしてる。

 いつもは自信満々で俺のことをまっすぐ見てくるのに、さっきからずっと目を逸らしてるし……。


「う、嬉しくてな……」


「え……?」


「カノアが誘ってくれたのは、これが初めてだろう……? 実は、少し気にしていたのだ……。いつも私ばかりがカノアを連れ回してしまって、迷惑だったりしないかと……」


「え……? ぜ、全然……っ。それはぜんぜんだいじょうぶっ! 俺はいっつも楽しくて……っ」


「ほ、本当かっ? それなら、良かった……」


 なんてこった。

 リズがそんなこと気にしてたなんて、さっぱり気付いてなかった……。


 目の前でいつもより小さくなって、ほっぺたを赤くしてるリズに、俺はまたごめんなさいって心の中で謝った。


 悪いことしちゃったな……。

 やっぱり、これからはもっと言わなきゃ……。


 リズと一緒だと楽しいって……。

 買い物に行ったり、お手伝い出来て嬉しいって……しっかり言おう。


 そうしないと、俺が気付かないところでリズが悩んだり、心配したりするかもしれないんだな……。


 そんな風に思った俺は、本当に凄く迷ってからふーって息を吐いて、なんかもじもじふらふらしてるリズの手を、なるべく優しく握った。


「はう……っ!? な、これは……!?」


「いつもリズから繋いでくれるから……今日は、俺からで」


「はわわ……!? なんなのだこれは……!? か、カノアがどこぞの勇者のようにキラキラと……! ま、眩し……っ!?」


「心配させてごめんなさい……。いつもありがとう……」 


「か、カノア……っ」


 ちょっと話したら、リズは俺の手をぎゅって握り返してくれた。

 俺もまだ緊張してたけど、それで少し楽になった。


 そうして、二人で手を繋いで歩いてく。


 最初はいつもみたいに話せなかったけど、段々いつも通りに話せるようになった。

 でも考えてみれば、俺はリズと会ってからもう何度もこんな風に二人で一緒に出かけてる。


 買い物だってしたし、一緒に美味しい料理を食べたりもした。

 ラキとリリーと一緒にデートだってしたし、手だってもう何回も繋いだ。


 サメ猫の時は、リズを守ろうとして抱きしめたりもしちゃったし……。

 本当に、ここ最近の俺はリズとずっと一緒だったんだな……。


「やはり私の見立てに間違いはなかったぞっ! カノアにはこのような色の服も良く似合うのだっ!」


「そうなの?」


「うむっ! この服はオレンジだが、これならばピンクや黄色も似合いそうだな……。カノアは体は大きいが、雰囲気そのものは丸い……。だから柔らかい色がいいのではと思っているのだ……!」


「そうなんだ」


 こんな風に、いつもと同じ感じで。

 俺とリズは、今日も一緒だった。


 でも、リズのことが好きだなって考えながら一緒にいると、いつもと全然違った。


 なんていうか……。

 凄く嬉しい。


 まだ好きだって言えた訳でもないのに。

 それでも、リズが一緒にいてくれるのが凄く嬉しかった。


 もっと一緒にいたいって思ったし、もっと喜んで欲しいって思った。


 ラキはそう思うのが恋だって教えてくれたけど……。

 それならやっぱり、俺はリズのことがとんでもなく好きなんだな……。


「フゥーーハハハハハッ! 今日もこの世の終わりかと思うほど楽しく遊んだのだっ! 私も満足のいくカノアのコーディネートが出来たしなっ!」


「ありがとう。俺も楽しかった」


「むふふ……っ」


 楽しい時間はあっという間に過ぎた。

 帰る頃には、空はオレンジとか紫とか……とにかくそういう感じの綺麗な夕焼けになってた。


 いつもの帰り道を二人で歩く。

 そうしたら、いつもみたいに一緒に夜ご飯を食べて、リズは帰る。


 でも、今日は――。


「あの……。ちょっと、いいかな……」


「ん……? どうしたのだ……? そのように改まって……」


 人もそんなに歩いてない、夕日に照らされたまっすぐな道。

 そこで俺は、思い切ってリズのことを呼び止めた――。


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