応援される英雄
「フフフ……! なるほど、そういうことだったんだね。でも残念だけど、私はカノア君の力にはなれそうにないね」
「そうなの?」
「なぜですか?」
ナインさんに励まして貰った俺は、そのままどんどん色んな人に話を聞いた。
ナインさんの次に会ったのは、凄く優雅な感じでワイングラスを手に持ったアールリッツさん。
「フフ……。私も本当ならカノア君のことを助けてあげたいんだけどね。実はここだけの話、私にはまだ誰かに〝恋をした経験がない〟んだよ」
「そ、そうなんだ」
「意外です。アールリッツ様程の方なら、そういった方面にもお詳しいかと思っていましたから」
「ははっ! そんなことはないよ。私はこの歳になるまで、ずっと勇者としての修行と実績作りに明け暮れていたからね。今みたいに、どこかに腰を落ち着けるなんてこともしてこなかった。ラキ君とリリーのお陰で、そろそろ〝そういうこと〟も考えないといけないなって思っていたところだったのさ」
直視するのが難しいくらいにキラキラしながら、アールリッツさんは凄い良い笑顔でお話ししてくれた。
でも、アールリッツさんにもそういう経験がなかったっていう話。
これはラキも言ってたけど、俺もとってもびっくりした。
だってアールリッツさんは凄く強くて、格好良くて、勇者だからお金持ちだし、有名だし、優しいし、頭も良くて……。ちょっとリリーのことが好きすぎるけど、マジで完璧な人だと思う。
そんなアールリッツさんだから、きっと俺なんかとは全然違う、恋とか愛の主役みたいな人だと思ってたから……。
「つまり、カノア君は私にとっては〝恋の先輩〟ということになるね。今後の参考に、是非また話を聞かせて欲しいものだね。直接力になることは出来ないけど、君とリズさんの関係が上手くいくように心から祈っているよ! フフフ……!」
「あ……。ありがとうございます……」
もちろん、俺達はアールリッツにさんの他にもお話を聞きに行った。
例えば――。
「あはははっ! そんなに難しく考えるなって! 恋愛なんてハンマーと一緒さ! ドカンって叩いて、バーンとぶち抜けばいいんだっ!」
「ドカン。バーン」
「なんなら、カノアにも私がいつも使ってるハンマー貸してやろうか? ハンマーはいいよなー! 持ってるだけで勇気が湧いてきてさー! ハンマーがあればなんでもできるっ!」
「それはリリーだけだと思う……」
他にも――。
「ホッホー? この邪悪博士ヘドロメールに恋愛相談をしにくるとは……さすがは海の英雄、わかっておるようじゃな!?」
「いや、その……ラキが……」
「恋愛に限らず、人と人との関係は積み重ねた年の功も重要です。その点ヘドロメール博士なら、なにか有効なアドバイスを頂けるかと思いまして」
「うむうむ! 我輩も貴様には命を救われ、ついでに腰痛やリウマチその他諸々全ての不調を治して貰った恩があるからのう……! 我輩の叡智を結集して力になってやるぞい!」
ヘドロメールお爺ちゃんは、前に会った時よりもむちゃくちゃ元気になってた。
それで俺とラキの話を聞いたお爺ちゃんはすぐに自信満々に笑って、奥の部屋からなんか紫色の〝ヤバそうな薬〟を持ってきた。
「ホッホッホ……! こいつは我輩が特別に調合した惚れ薬ならぬ〝チャラ男薬〟じゃ……! どんなに気弱で貧弱な草食系男子も、これを飲めば即座にムキムキ……! 全身小麦色の肌が眩しく輝く肉食系チャラ男に――――ん? ラキとカノアはどこに行ったのじゃ? まだ話は途中じゃぞ!?」
こんなのとか――。
「いいですねぇ! 若さですねぇ! 私にも以前こんなことがありました……! あれは私がまだ十歳の頃……父を迎えに寂れた乗合馬車の待合まで出向いた私の横に、突然身の丈3メートルはあろうかという巨大なトロールが……」
「あの、ハルさん……。それって、どこがどうなって恋愛の話に……」
「まあまあまあそう焦らずっ! そこでそのトロールに手持ちの傘を貸してしまった私は、幼い妹と一緒に雨に濡れて帰ることになってしまったのですよっ! そうしたらですねぇ――!」
こんなのとか――。
「ケケケッ! そういうことならこのオディウム様に任せナァ! 俺様のナノマシンで〝カノアの脳神経を遠隔コントロール〟して、うまいことリズ様とくっつけてやるヨォッ! ヒャッハーーッ!」
「……そういえば、オディウムさんはヘドロメール博士のお弟子さんでした……。行きましょう、カノアさん……」
「うん……」
こんなのとか――。
『ギャオオオオオオオン! ゴロニャアアアアアアアン! キシャーー!』
「良かったですねカノアさんっ! サメ猫さんも、カノアさんのことを心から応援してくれてますっ!」
「そ、そうなんだ……」
こんなのとか――。
まあとにかく……俺はラキの言う通り、本当に色んな人にアドバイスを貰った。
参考になる話も、さっぱりな話もあった。
けど……。
「どうですかカノアさん。リズ様に想いを伝えられそうですか?」
「わかんない……。だけど……」
だけど……こんな俺にもはっきり分かったことがある。
それは、みんな俺のことを本当に応援してくれて、考えてくれてたってこと。
俺はぜんぜん知らなかった。
皆から励まして貰って、お話しして貰えるのがこんなに嬉しいんだってことを。
だから――。
「やってみる……。なんだか、言えそうな気がしてきた……」
もうすっかり暗くなった夜遅く。
最後まで一緒に付き合ってくれたラキの目を真っ直ぐに見て、俺はそう言った。
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