ごめんなさいの英雄
「そ、そうだったんですね……っ! 私なんかで良ければ、なんでもお答えさせていただきますっ!」
「いきなりナインさん」
「ありがとうございます、ナインさん。カノアさんの話を聞く限り、同性である僕に言われるよりも、異性であるナインさんにお話を聞いた方が自信になるかと思ったので」
あのラキとの話の後。
時間はさっき夜になったとこ。
通りにある小さなお店のテーブル。
そこで俺とラキの前に座っているのは、四天王の時とは全然違う普通の格好のナインさんだった。
リズとの仕事も終わった俺とラキは、そのままパライソの北側にある、魔族の人達が沢山住んでる地区に来てた。
お城が無くなっちゃった魔族の人達は、パライソから直接伸びた感じの、何もかも機械で出来た街を作ってそこに住んでる。
最初は色々あったみたいだけど、今は魔族の人がいてくれた方が便利っていう人も多くて、パライソの街中でも魔族っぽい人を沢山見るようになったけど。
「それで、私は何をお話しすればいいんでしょう……っ?」
「はい。先ほども説明した通り、こちらにいるカノアさんはリズ様に好意を抱いていらっしゃいます。その想いをリズ様にお伝えするに当たり、どうしても決心がつかないと……」
「なんかすみません……」
「わぁ……! やっぱりそうなんですねっ! とっても素敵だと思いますっ!」
ラキの話を聞いたナインさんは、凄く嬉しそうに笑った。
す、素敵なのかな……。
リズに嫌われるのが怖くて、今だって全然言えそうな気がしないのに……。
「素敵ですよっ! それってつまり、今のカノアさんの心の中はリズ様のことで一杯になってるってことですよね……? そういうの、凄く良いと思いますっ!」
「リズのことで頭がいっぱい……。それは……うん……」
「私……思うんです。恋だけじゃなくて、それがどんな感情でも誰かのことを一生懸命に想ったり、考えたりするのって……とても素敵なことだなって……っ!」
ナインさんはそのままニコニコ笑いながら、ちょっと遠慮がちに俺のことを見た。
俺はそれが恥ずかしくて、むぅ……って目を逸らしちゃった。
「私は、別に今すぐリズ様にカノアさんの想いを伝えなくてもいいんじゃないかなって思います。急いではっきりさせたいっていう方もいるでしょうけど……。皆さんにもそれぞれのペースってありますし……。それにさっきお話しした通り、〝大切な人のことを想う時間〟も、カノアさんにとっては無駄じゃないと思いますから……」
「大切な人……」
「そうですね……」
なんだかわからないけど……。
ナインさんのその話は凄く勉強になった……気がする。
ナインさんにそう言われて……やっぱり俺はリズのことを思い浮かべてた。
恋とか恋愛とかはまだ全然わからないけど、リズは俺にとって凄く大切……。
それは多分、そうだなって思ったから。
「あ……でもでもっ! もしカノアさんから告白されたら、きっとリズ様はとってもお喜びになると思います……っ! 絶対ですっ!」
「そ、そうなのかな……」
「はいっ! それとも、カノアさんには何か心配ごとでもあるんですか?」
「いや……。だって……俺ってこんなんだし……。いっつもぼーっとしてて……。今だって勇気がなくて……こんな……」
「ふふ……っ。カノアさんなら大丈夫ですよっ! だって――」
しょぼしょぼした俺の言葉に、ナインさんはさっきまでよりもっと嬉しそうに笑った。な、なんでこんなにニコニコするの……。
「――だって、リズ様はそんなことを気にする方じゃないですからっ! もし無事にお気持ちを伝えることが出来たら、カノアさんがどれだけ悩んで、どれだけリズ様に告白するまで大変だったのか、お話ししてみるといいですよっ!」
「それはそうかも……」
「それに……もし私が同じ立場でも、やっぱり凄く嬉しかったと思います……。そんな風に一生懸命悩んで、考えて……想いを伝えてくれたんだって。どんなに悩んだって、怯えたって……ぜんぜん格好悪くなんかないって、私はそう思います……!」
「そうなんだ……」
いつのまにか、俺はちゃんとナインさんの目を見て話を聞いてた。
リズなら……。
初めて会ったときから、ずっと俺とお話ししてくれたリズなら。
こんな俺のことを、一番最初に〝ダメ人間なんかじゃない〟って言ってくれたリズなら……ナインさんの言う通り、こんなしょぼしょぼした俺でも〝頑張ったな〟って言って、喜んでくれるのかもしれない……。
っていうか……ちゃんと考えれば、あんなに優しいリズが俺のことを馬鹿にしたり、気持ち悪がったりなんてするはずないのに……。
それに気付いた俺は、リズに悪いなっていう気持ちで一杯になって……心の中でごめんなさいって謝った――。
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