第八章

急病の英雄


「クックック……! さあ出来たぞカノアよ! 今日もこの魔族一の料理人である私が作った究極の料理にむせび泣くがいいッッ!」


「うわ、凄く美味しそう」


「保証するが、死ぬほど美味いぞ! もはや以前とは違い、カノアの味の好みも把握済みだからな! 料理とは、食べて貰う相手を想定することでさらに進化するのだっ!」


「そうなんだ……ありがとう」


「ふふ……っ。さあ、早速一緒に食べるのだ! せっかくの料理が冷めてしまうからなっ!」


 そう言って、俺とリズはいつも通りに二人で一緒にご飯を食べる。

 今日はリズが作ってくれたけど、昨日は俺が作った。


 部屋にある小さな窓は全部開かれてて、いつもと同じ青い海と青い空が見える。

 パライソから出たり入ったりする船の数も、どんどん増えてる気がする。


 窓から入ってくるちょっと湿った海の風がぱたぱた白いカーテンを揺らして、ぼーっとしてるとその様子を一日中見てられそうだった。


 あの変な島から帰ってきてまた何日か経った。

 なんでも、今は魔族の人達があの場所がなんなのか調べてるらしい。


 俺達を襲った怪物のこともあるし、一気に調査って感じじゃないみたいだけど、リズの話だと結構色々分かってきてるんだって。


「あ、このスープ美味しいね」


「クックック……! そうだろう……! このスープは焼いた魚の骨をダシに使っているのだ! しっかり焼くことで臭みが消え、香ばしさと旨味が出る……! 骨までしゃぶり尽くすとは正にこのことよ……! フハハハハ……!」


「すごい。今度俺もやってみよう」


「うむうむ! その時は私が教えてやるのだっ!」


 そんないつも通りの話をしながら、リズは俺のことを見てにこって笑ってくれた。

 リズに色々教えて貰ったお陰で、最近は俺も料理が上手くなってる気がする。


 リズと一緒にいると楽しい。

 会った頃からそうだったけど、最近はもっと楽しくなってる気がする。


 ラキはそのうち俺もリズも忙しくなって一緒にいる時間が減るかもって言ってたけど、今のところ全然そんなことなかった。っていうか、むしろ長くなってた。


 前はそんなこと思ってなかったんだけど……。最近は俺もリズがいないと寂しいって思ってる気がする。


 ただ……。


「今日は〝大魔王ツノ〟を新しくしてみたのだ! その……似合うだろうか……?」


「う、うん……いいと思う。かわいい」


「そ、そうか? それなら良かった……っ! ――ふふっ」


「む、むぅ……」


 例えばこういう時。その日はリズがいつもの大きな黒いツノじゃなくて、小さな猫の耳みたいなツノをつけて来たんだ。


 問題は、俺がそれを〝良いと思う〟って言った時の、リズの嬉しそうな顔の方。


 丸いほっぺたをちょっと赤くして、凄く嬉しいって感じで笑うリズを見て、心臓の辺りがドカンって痛くなるが分かった。


 しかも、そういうのはこの一回だけじゃなくて――。


「むにゃむにゃ……。私としたことが、つい遅くまでカノアとのバトルに夢中になってしまったのだ……。ま、瞼が勝手に閉じていくのだ……っ!」


「今日も一回も勝てなかった……。大魔王強すぎる……」


「ふ、ふふふ……。また明日も一緒に遊ぶのだ……きっと楽しいぞ……。むにゃむにゃ……」


「寝るのも早い……」


 俺の部屋にリズが持ち込んだ変な箱……。

 その箱で遊べる〝大乱戦スマッシュファミリーズ〟っていうゲームで夜遅くまで遊んだ後。


 リズはそのまま、自分専用のトゲトゲした大魔王ソファーの上でスヤァ……ってなって寝ちゃった。

 

 普通、女の子ってこんな風に人前で寝たりしない方がいいんじゃ……。

 流石の俺でもそう思うのに、リズは安心しきってるみたいにしてスヤスヤ寝てた。


 しょうがないからお布団を持ってきて、俺はなるべく優しくリズの上にかけた。


「むふふ……ありがとうなのだ……むにゃむにゃ……」


「……うん、おやすみ」


 その時そんな風に言われて、ちょっとドキッとした。

 起きたのかなって思ったけど、寝言みたいだった。


 そのままリズを起こさないようにして俺も寝たけど、リズがそうして安心してくれてるのは嬉しかった。


 他にも、とにかくなんか最近の俺はおかしい。


 リズに手を握られたりしてもドキってする。

 リズの可愛い感じのにこにこ笑顔を見ても心臓が痛い。


 なんなんだろう……。

 もしかしたら、なんかの病気なんじゃ……。


 そんなこんなでまた何日か経って。


 流石に不安になってきた俺は、たまたまリズについてきてたラキにお願いして、話を聞いて貰うことにした。そしたら――。


「――そうですか。今のお話を聞く限り、カノアさんは相当重症ですね……」


「やっぱり病気なんだ……どうしよう」


「ええ、病気です。でも安心して下さい。僕はその病気の治し方を〝熟知〟していますので」


「なにそれ凄い。むちゃくちゃ頼りになる」


 俺の話を聞いたラキは、白い紙にメモを取りながらうんうん何度も頷いた。

 そして――。


「いいですかカノアさん。貴方の病名は〝恋煩い〟……治療法は、リズ様に貴方の口から直接〝好きだ〟と伝えることです」


 

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