空を飛ぶ海
〝お前のような出来の悪い息子では、恥ずかしくて外にも出せん〟
〝図体ばかり大きな役立たず。寝ていてくれた方がどれだけ楽か〟
――声が聞こえた。
本当についこの間まで、俺は確かにそう言われてた。
辛いとは思ってなかったはず。
まあ……〝俺はそうなんだろうな〟って思ってた。
父さんにも、母さんにも。弟や妹にも。
周りの人に迷惑ばかりかけちゃって悪いなって……。
本当は、俺も皆の役に立ってみたかった。
ありがとうって言われてみたかった。
お前のお陰で助かったって、言われてみたかったんだ。
けど俺は役立たずだから……何もしないで寝てた方がマシ。
何かをすれば、きっと皆に迷惑ばかりかけちゃうんだって。
ずっと、そう思ってた。
だけど――。
「でも違った……! 俺は〝そうじゃない〟って……! リズが……皆が俺に教えてくれたんだ――っ!」
『……Ppppxeeeeeeee……!?』
「皆が大変なんだ……! 助けたいんだっ! だから、俺に力を貸してくれ――!」
必死だった。
あの式典の時と同じくらい。
ううん、もっともっと必死だった。
そして、その俺の必死さに海が応える。
『aaaaa……go……d……S……EA……en……se……arch……!』
瞬間。全部の水は俺の中にあった。
もっとちゃんと言うと、この世界にある水全部と俺が繋がった感じ。
どこまでも広がる海。そして水。
その全部が、俺の声に応えて集まってくれた。
水は俺を支えてくれた。
〝頑張って〟って……俺のことを応援してくれてるのが分かった。
ありがとう……。
俺はその声に頷いて、眩しいくらいに青く光る海の中で拳を握る。
水が渦を巻く。
それはもうただの渦じゃない。
俺達がいた島全部を覆ってもまだ足りないくらいの、とんでもない大きさの渦。
その渦は俺のことを追ってきた何体かの怪物を飲み込んで、一瞬で身動きも取れないまま粉々に吹き飛ばした。
「皆を――っ!」
周りにいた怪物を纏めて片付けた俺は、そのまま渦の中に飛び込む。
そしてラキと一緒に頑張って練習した、クロールっていう一番速く泳げる方法で限界まで加速。一気に海の底まで潜ってから、一瞬で空まで飛び上がる。
空中に飛び出した俺の後を追って渦が弾ける。
とんでもない量の水。
それが飛び上がった俺に続いて、山よりも大きな水の柱になる。
空高く上った水に支えられた俺は、もっともっと――ぐんぐんぐんぐん海から水を集めて、そこからさらに速度を上げる。
始めはただの大きな水柱だったそれは、あっという間に捻れてうねる。
そして最後には島の空を覆い尽くす程の、ヤバイ大きさの水の竜みたいになった。
『これは……っ! カノアさん!?』
「っ!? な、なんだいこれは!? まさか……これがカノア君の!?」
「ま、マジかよ……!? いくらなんでもぶっ飛びすぎだろ……っ!」
それは〝空を飛ぶ海〟だった。
そして、俺はその中を必死に泳いでた。
絶対に助けたかった。
酷い目になんて、絶対に遭って欲しくなかったから。
『……aaaaaaggggggg……!eeeeeeEEEEEEEEE……Code……Ere……!』
まるで津波みたいな勢いで、島の上だけをとんでもない量の水が流れていく。
そしてその激流は、リズやリリーを囲む残りの怪物を一瞬で飲み込んだ。
「カノア――!」
青く光る水の中の隙間から、こっちを見上げる皆の顔が見えた。
リズもちゃんと無事なのが見えた。
良かった。
本当に。
でも俺がほっとしたのも少しだけだった。
水で押し流した怪物達が、一斉に俺の方に近づいてくるのが分かった。
さっきは不意打ちみたいな感じでバラバラに出来たけど、残りの怪物達は俺がこうしてくるのを〝分かってた〟みたいだった。
『OOOO……Pn……e……li……MinA……tioN……gOd……o……F……sEa……PPpppbee……xxxNNNe……!』
青く光る激流の中。
音よりも速い怪物が四方八方から俺を囲んで、紫色のビームを撃ってくる。
それは式典の時にも見た、辺りの水ごと吹き飛ばす大爆発。
なんでかは分からないけど、こいつらは〝俺の力が水だって知ってる〟……。
だから、真っ先に水を無くそうとしてるんだ……!
今の俺には、伝わってくる水の力でそれが手に取るように分かった。
でも――!
「駄目だ……! この水にだって、酷い事はさせない……!」
『Eeeee……Waaaaaaaa……t…………!?』
切り離す。
一気に泳ぎの速度を上げた俺は、怪物達の周りを一秒間で数十万回くらい回って流れから弾き飛ばした。
弾かれた怪物達は島の上空に向かって吹っ飛んでいく。
それを見た俺は、俺を支えてくれる水の竜と一緒に怪物めがけて空に昇った。
「俺は、リズと一緒に帰る――っ!」
『a……e……!』
貫いて、爆発した。
島の真上。
一カ所に集められた残りの怪物は、海から島、そして島のど真ん中の火山の上まで繋がったまま走りきった水の竜と激突して大爆発した。
「これで……いいかな……?」
土砂降りの雨みたいな勢いで打ち付ける水を体に浴びながら、気の抜けた俺は青い空からひゅーって島に落ちていく。
そしたら――。
「カノア――!」
「あれ……?」
いつの間に来たんだろう。
俺の体は空飛ぶ円盤の上に乗ったリズにしっかりキャッチされて、ふわって感じで抱きしめられてた。
「また無茶なことをしおって……! お前は……本当に困った奴だ……っ」
「ごめんなさい……。ありがとう……」
体に回されたリズの細い腕。
俺はその腕をちょっとだけ握って……。
本当に良かったって思いながら目を閉じた――。
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