見つけた手がかり
『り、リズ様――! 他の皆さんもこちらに! ここに……これ……っ!』
「っ?」
そのまま化け物の周りを調べてた俺の耳に、今まで一度も聞いたことのないようなラキの切羽詰まった声が届いた。
いつものどんな時でも冷静で、落ち着いた感じのラキじゃ全然なかった。
「どうしたのだラキよっ!? 一体何を見つけたというのだっ!?」
「大丈夫かラキっ!」
「はわわ……! ま、待って下さいよ皆さんっ! 私は常日頃から運動不足でして……ひいふう……っ」
「……ラキ?」
片膝を地面についた格好のオルアクア。
ラキはもう地面に降りてて、四つん這いになって何かをじっと見つめてた。
でも……俺はそれ以上ラキに近づくのをちょっと迷った。
だって……。
その時のラキの横顔は、まるで〝泣いてる〟みたいだったから……。
「リズ様……っ! これを……っ」
「これは――………………っ!? っ……!?」
「お、おいっ!? 二人共どうしたんだよ!? その〝サビだらけの板〟になんかあるのか?」
完全に固まって声も出ないって感じのリズとラキ。
俺も皆の後ろからひょこひょこって覗き込んだけど、どうも二人が見てるのは土の下から出てきたサビた機械っぽかった。
ぱっと見、それは十字型の怪物の体と見分けがつかなかった。
でも良く見ると、そのサビの周りの色は白じゃなくて青くて、掠れてはいたけど、黄色のペンキでかっこいいマークが描かれてるみたいだった。
そして――。
「そうか……っ。ならば……早く、これを調べなくてはならん……っ。すまないが……皆にも……手伝って欲しいのだ……っ」
「リズ……泣いてるの……?」
「うっ……うぅ……! すまん、カノア……っ! すまん……っ! こんな……私は、まだ……っ。泣いてはいけないのに……っ! うあああ――っ!」
「リズ……っ?」
びっくりした。
心配になって近づいた俺に、リズはいきなり縋り付いてきて、顔を埋めてわって泣き出しちゃったんだ……。
「これは……僕達魔族の使っている〝ドールの残骸〟です……。そして、このエンブレムは……。先代大魔王様の……。リズ様の、お父上の機体に描かれていた筈の……」
「リズの……お父さん……?」
「マジかよ……」
「…………」
「なんと……」
「えぐ……っ。えぐ……っ! すまん……っ。このような時に……! 今は、泣いている時ではないというのに……っ!」
それは、今まで何度か見てきたリズの泣き顔の中で、一番辛い顔だった。
もしかしたらリズは、俺が声をかけるまでは必死に我慢してたのかもしれない。
ラキの話が本当なら……。
つまりここに埋まってる機械は、リズのお父さんが乗ってたドールってこと……?
こんなにボロボロで、サビだらけで……。
これじゃ、中に乗ってた人だって、きっと……。
〝私は今でも皆が死んだなどとはこれっぽっちも思っておらん……! 今だって、暇さえあればパパ様とママ様を探し続けている……!〟
〝私は、もう誰一人として消えて欲しくない……! 皆にも、カノアにも……! 全ての者がこれから先もずっと元気で……私と一緒にいて欲しいのだっ!〟
それは、前に聞いたリズの言葉……。
ああ……。
なんだろう……。
凄く……嫌だな。
本当に、凄く嫌だ……。
なんでリズがこんな目に遭わないといけないんだろう。
リズには、ずっと笑ってて欲しいのに。
楽しいことばっかりで、幸せなことしかなくて。
こんな風に泣いたりなんて、絶対にして欲しくないのに。
俺の胸に顔を埋めてえぐえぐって泣くリズの肩を、俺はよしよしって支えた。
それくらいしか、出来ることが思いつかなかったから……。
「――分かった。そういうことなら、リズは少し休んでろ。まずはこのドールを掘り返せばいいんだろ?」
「では、ここは僕とリリーで作業を進めましょう。このドールが本当に先代のドールなのかどうか、確かめないといけません」
「だな……! 早速やっちまおうぜ!」
「あ……俺も手伝うよ」
泣いてるリズを支えながら、俺は二人に声をかけた。
だけど――。
「ばーか、何言ってんだよ。カノアにはそれよりもっと大事な役目があるだろ?」
「カノアさんはリズ様のことを頼みます。このような時に無理をすれば……ただでさえ深いリズ様の心の傷がもっと深くなってしまいます……。どうか、リズ様の支えになってあげて下さい」
「っ……! 待つのだっ! そのような気遣いなど、私には……っ!」
「いけませんよ大魔王さんっ! 聖女さんとラキ君の言う通りですっ! 一介の受付である私には大魔王さんの事情はさっぱり分かりませんが、そんな私から見ても今の大魔王さんはとても辛そうに見えますから……」
「なら……俺はリズがちゃんと休めるようにこうしとく……」
「……っ」
元々赤い目をもっと赤くしたリズを、俺はもうちょっとだけ自分の方にぎゅって寄せた。リズもそれで良かったのか、それからは特に何も言わずにじっとしてた。
静かになったリズをなるべく優しく支えながら、俺はなんとか覚えてることを思い出してみる――。
〝リズ様のお父上である先代大魔王様は、奥方様や当時の大魔王親衛隊だった僕の両親も含む少数の精鋭と共に、魔王城に迫っていた正体不明の大軍勢を迎撃するべく出陣されました。そして……そのまま二度と戻らなかったのです〟
うん……。
あの式典の時。ラキは確かにそう言ってた。
うん……うん……。
多分、これはちゃんと考えれば俺でも……。
リズのお父さんとお母さん。
それとラキのお父さんとお母さん。
皆はリズが小さい頃に戦いに行って帰ってこなかった。
そして、このドールが本当にリズのお父さんのなら。
それって、もしかして……。
リズのお父さん達が戦ったのって――。
リズのお父さん達が、帰って来れなかったのって――。
「――伏せて!」
「え……っ?」
だけどそこまでだった。
いつもよりもっと頑張ってた俺のもやもやした考えは、突然響いたアールリッツさんの大声で吹き飛ばされた。
というか、実際に俺も吹っ飛ばされた。
でも、真っ直ぐに俺達めがけて飛んできた紫色のビームは、いつのまにかキラキラ光る剣を抜いたアールリッツさんが弾いてくれてたんだ。
「なるほど……。どうやら、私達の〝やらかしフラグ〟は全て立ったね……。なら、ここから先は、一度立ってしまったこのフラグを全力で〝折る〟しかない――」
「兄貴っ!?」
「これは、攻撃……!?」
「ひゃわああああっ!? な、なんですかなんですかこれはなんですかこれはああああっ!?」
「〝敵〟だよ……! 私の〝ゾッとする不安〟は的中してしまったようだね……!」
「な……!? こいつら……っ!」
「や、ヤバすぎる……」
咄嗟にアクアリングから水の力を引き出した俺は、リズを抱えたままくるくるって回ってなんとか地面に着地した。
けど、着地した俺が見上げた先――。
そこには地面に突き刺さったままのとはまた別の、傷一つ無い元気満々の十字型の怪物が〝沢山浮いてた〟んだ――。
「フフフ……! どうやら、いきなり大ピンチ……ってところかな? けど安心していいよ! なぜなら……私達の誰にもまだ〝死亡フラグ〟は立っていないからねッ! そしてこの勇者アールリッツがいる限り……これから先も、決して立つことはない――ッッ!」
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