流れ着いた場所


「ま、間違いない……っ! これはつい先日の復興式典で我々の前に現れた、謎の化け物ではないか……!? さ、サメ猫の足跡どころの話ではないぞ……!?」


「待つんだリズさん! たった今僕達全員に〝やらかしフラグ〟が一つ立った。ここからは、何をするにも慎重に行動することをお勧めするよ」


「やらかしフラグ? ってことはつまり、見た通りにこれはヤバイ状況ってわけだな。なら、ここからは流石に気合い入れていくか……!」


「な、なんともこれは……! さっきの足跡といい、一体この島はどうなってるのでしょう!?」


 探検中、俺の意識に引っかかった物。


 大きな十字型の機械みたいな体に、ぎょろっとした目みたいなのが体中についてる白っぽい色の化け物……。

 それはどこからどう見ても、あの式典で俺が〝月まで吹っ飛ばしたアレ〟だった。


 ただ……。


『オルアクアによるチェック、完了しました。この正体不明物体は以前僕達が交戦した個体とは〝別個体〟です。機体内部の熱源反応無し……完全に機能を停止しています』


「そっか……。これで同じだったらもっとややこしいことになってたところだ。なあリズ、そういえばお前ら魔族の方でこの化け物の正体の調査とかはしてたのか?」


「無論だ! ただ、あの不明機そのものは今現在遙か彼方の月にあるからな。無人の調査ロボを作って月から回収……もしくは現地で調査をさせる予定だったのだ!」


「私は直接戦ってはいないけど、リリーとリズさんの二人がかりでも結構ヤバかったらしいじゃないか。私としては、そんなふざけた化け物が〝複数いた〟という事実の方にゾッとするよ」


 それはそう。

 俺はアールリッツさんのその言葉に、ごくって唾を飲み込んだ。

 

 あの時、いきなり出てきたこの怪物はかなりヤバかった。


 たまたま俺が全力を出せる海の上だったから良かったけど、もし今みたいに陸で……例えば、パライソのど真ん中とかで襲われてたら、きっとどうしようもなかったから。


「むむむ……っ! しかしこうして見ていては何も始まらぬ! むしろ、わざわざ月に調査ロボを送り込む手間が省けたというものっ! 用心して調査を開始するのだっ!」


 リズの言葉に頷いて、俺達はその化け物の所に近寄っていった。

 あの時は暗い夜の海だったから分からなかったけど、こうして見るとやっぱり大きいし、本当にこんなの見たことない。


 白い体の色は色んな所が剥げてて、体中についてる目玉も割れてたり、閉じてたり、傷一つ無いのとか色々あった。


 そういえば、前は耳を澄ませるとキーンっていう高い音が聞こえてたけど、それも全然聞こえない。やっぱりこいつはもう壊れてるんだな。


 リズは俺達皆に上手く指示を割り振って、テキパキ作業を進めた。

 

 一番怪物の近くで作業するのは、リリーやアールリッツさんみたいな強い人に。

 水が無いとなんにも出来ない俺や戦えないハルさんは、怪物から離れた場所の地面に何か無いかを調べたりした。


 そして……。


「むむむん……。あと少し……あと少しで全てが繋がりそうなのだが……」


「大丈夫? 水飲む?」


「むむ……! 貰うのだっ! ぐびぐびぷはーっ!」


「良い飲みっぷり」


 光る板を持って唸ってたリズに、俺は水筒とコップを持って声をかけた。

 そしたらリズは水筒をがばーって取って、直接ぐびぐび飲んじゃったんだ。


 俺の水筒だったのに、良かったのかな……。


「ふーーっ! 助かったぞカノアっ! この私ともあろう者が、どうやら調査に夢中になりすぎて水分補給を忘れていたようだ!」


「それは大変」


 俺は結局使わなかったコップをベルトに引っかけると、そのまま返して貰った水筒の蓋を閉めた。


「何かわかった?」


「いや……まだこれといった物は分かっていない。解析もこれからだ。だが……」


「……?」


「うむ……実はな、私はこの島に流れ着いた当初からどうも妙だと思っていたのだ……。カノアは〝昨晩の夜空〟を見たか……?」


「夜空……?」


 リズはそう言うと、俺にぴたって肩を寄せて光る板を一緒に見せてくれた。

 そこにはキラキラの星が光る夜の空が映ってた。


「これは昨日私が撮影したこの島から見えた夜空だ。何か気付かぬか?」


「きれい」


「そ、そうではないっ! 確かに綺麗だが……私が独自に測定したところ、この星図は私達の知る星図とは全く異なっていたのだ……!」


 どや!って感じで目を光らせるリズ。

 けど俺はどういうこと?って感じで首を捻った。


「ずっと不思議だったのだ……。初めはあのサメ猫だ。これは自慢だが、私は大洪水が起きる前の時点で、世界中に住む数万種類の生物を全て丸っと暗記していたのだぞ? その私ですら知らぬ化け物……それもあんな巨大な化け物が、なぜいきなり出てきたのだ……?」


「わからない。っていうかリズがヤバイ」


「この十字型の機械もそうだ。サメ猫といい、大魔王の私でも知らなかった者共は一体どこから来たのだ? カノアよ……もしかすると私達は、冗談でもヤラセでもなく、本当に〝世界の真理〟のすぐ傍に立っているのかもしれんぞ……っ!」


「世界の、真理……」


 そんな感じで、凄く熱っぽくリズは色んなことを俺に説明してくれた。

 でも、なんだろう……。


 やっぱり俺は今のリズの話の内容は全然分からなかったし、それ以上にそういう分からないことが沢山起こるのも怖かった。


 今だって、すぐ目の前にあの超怖い化け物が地面に突き刺さってる。

 もしこれが動き出したらって思うと、俺は凄く怖い。


 それなのに、リズは平気……。


 ……でもないのか?

 いつのまにか、リズは俺のことを見上げながら、俺の手をきゅって握ってきてた。


 そのリズの手はいつもより汗ばんでて、俺と同じで緊張してるみたいだった。


 それで……なんとなく分かった。


 多分だけど……リズも怖いのは怖いんだ。

 けどそれよりも、目の前のことを調べるのが好きなんだ。


 分からなかったことが分かるようになるのが。

 知らなかったことを知れるのが好きなんだな。


 なら……。


「俺ももっと色々探してみる」


「うむっ! 何かおかしな物を見つけたらすぐに教えて欲しいのだっ! 頼んだぞ、カノアっ!」


「わかった」


 俺はリズの手をそっと離して作業に戻る。

 

 リズが調べるのが好きなら、俺も手伝いたい。

 そして、もしそれで危ないことが少しでもあるのなら……リズを守らなきゃ。


 リズだけじゃない。


 俺と一緒にいてくれる、大切な仲良しのみんなのことだって。

 危ない目になんて、絶対に合わせたくなかったから――。


 そうして。


 それから少し後。

 俺達は本当に本当の、正真正銘の〝とんでもない物〟を見つけることになったんだ――。 



 

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