島に眠るもの


「大魔王の私が~~♪ ジャングル~~をすーすーむ~~♪ 英雄と聖女と四天王と勇者と受付を引き連れてす~す~む~♪」


「むっちゃ歌ってる……」


「ナーッハッハッハ! お前も歌うのだカノアよ! 歌詞カードもくれてやろう!」


「無理……。ちょー恥ずかしい……」


 いつもの黒い大魔王服じゃなくて、なんかリリーの作業着を青くしたみたいな服になったリズは、さっきからずっとご機嫌で歌ってる。


 子供みたいで可愛いけど、俺は恥ずかしいから歌わなかった。

 いくらなんでも人の前で歌うのは無理。まだ早い……。


「クックック……! 海に何も無い以上、やはり調べるとしたらこの島しかあるまいっ! ラキよ、この島について分かっていることは!?」


「はい、リズ様。島の面積は約300平方キロメートル。島の中央に見える山は標高1500メートルほどで、山頂の形状からかつては火山だったと思われます。植生は我々の知る地理で言えばパライソ南部の群島地に似通っていますが、オルアクアのデータベース上では確認できなかった植物も複数存在しています」


 探検隊のユニフォーム?

 とにかくお揃いの帽子を被った俺達は、リズを中心にして色々作戦を練っていた。


 ラキは後ろに立たせたオルアクアから長いコードを光る板に繋いで、俺達にも見えるように島の映像を見せてくれてた。


「付け加えさせて貰うなら、私のフラグチェックSSで見たところ、現在君達全員の死亡フラグ反応はゼロだ。今からクエストを開始したとしても、即座に危険な目に合うことはないだろうね」


「へー! 兄貴のスキルってそういう使い方も出来るのか。案外便利なんだな」


「いやはや、懐かしいですねぇ……。私は今もはっきりと覚えていますよ。アールリッツさんにフラグチェックSSの概要をお伝えした際の、幼い顔に浮かんだ僅かな不安と、それでも輝く未来を見据えた迷い無きキラッキラの笑顔を……! あれを見た時、私はこの子なら間違いなく勇者になると確信しておりましたともっ! ええっ!」


「フフ……。たとえどんな力でも、それを生かすのは使い手次第だからね。今後も危険なフラグの兆候を感じ取ったらすぐに警告するから、皆も安心して欲しいっ!」


「た、頼もしすぎる……」


「ならば、早速調査に向かうとしよう! 気をつけるのだぞ……! どこに危険な毒蜘蛛や毒蛇が隠れているかも分からぬからな!」


「はーい」


 そうして、俺達は島の奥に向かった。

 とりあえず今日は真ん中の山を中心にして、ぐるっと時計回りに回る。


 先頭は勇者のアールリッツさんで、一番後ろはオルアクアに乗ったラキ。

 上からはリリーがハンマーの上で寝転びながらふわふわ浮いてて、真ん中に俺とリズとハルさん。


「どうだカノアよ、何か反応はあるか!?」


「なんにもない」


「なるほどなるほど……。このぎゅうぎゅうに水が詰め込まれた腕輪があれば、本来なら水の中でしか力を発揮できないカノアさんの力を、陸上でも引き出すことが可能と……。流石は大魔王さんっ! すごい! 天才! 漆黒の脳細胞っ!」


「クックック……! そうだろう、そうだろう! 当然水中と同様にはいかぬが、それでも私達の中ではカノアが最も探知能力に優れているはずだからなっ!」


「がんばる」


 ズンズン進むリズの言葉に、俺はしっかり頷く。

 さっきまで、俺が皆みたいに役に立ててないかもって不安だったから、ちゃんと自分のやることがあると元気が出てくる。


 リズは勿論。ラキだってリリーだって、アールリッツさんだってハルさんだって。

 水泳EXが役に立たない今みたいな状況でも、誰も俺を役立たずみたいに言ったりしなかった。


 皆がそんなこと言う人じゃないのは良く知ってる……。

 けど、やっぱりどこかで言われるんじゃないかって、ビクビクしてたのかも。


 だから、俺に出来ることがあるならちゃんとやりたい。


 すぐには上手くできなくても、少しずつでも、ちゃんと皆の力になりたい。

 そう思って、俺はアクアリングに意識を向けた。


 前みたいに倒れたりしないように。

 でもちゃんと周りのことが分かるように。

 

 頑張って、自分の役目を果たせるように――。



 ――――――

 ――――

 ――



「――待ってみんな。なにか見つけたかも」


「なんだと!? でかしたぞカノアっ!」


 出発してから一時間くらいは歩いた頃。

 俺はどこまでも続く森の中に、なんとなく〝覚えのある何か〟を見つけた。 


 前にそれを感じたのがいつだったのかは思い出せない。

 けど、確かにこの不思議な感じは覚えてる。そういうのだった。


「おー!? なんか見つけたのか!? 空からは相変わらず森しか見えないぞっ!」


『カノアさん、それがどちらの方角かは分かりますか?』


「うん……こっちだ。海の方」


「ならば全員気を引き締めよ! 何が待っているかわからんぞっ!」


 俺はアールリッツさんと一緒に先頭に立って、見つけた何かの方向に歩いて行く。

 近づけば近づくほどその感覚が首筋にチリチリきて、それがなんなのか俺にも段々思い出せてきた。


 そうだ。

 この感覚。これは――。


『そんな……!?』


「ま、マジかよ……」


「馬鹿な……!? な、なぜこれがこんなところにあるのだ……!?」


「待って、これは本気で怖い」


 さっきまでずっと続いてたジャングルはいきなり消えた。

 海に出たからじゃない。


 どう考えても不自然な感じに、そこだけ草や木が吹き飛ばされて、荒れ地みたいになってたんだ。


 そしてその開けた場所の真ん中……。


 そこには全身サビだらけで、ツタとか苔とかに覆われた凄く大きな〝十字型の何か〟が、地面に突き刺さって立ってたんだ――。


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