みんなの力
よく分からない無人島に流れ着いてから二日経った。
はっきり言うと、特に生活には困ってない。
やっぱりリズやリリーの力は凄くて、流れ着いた日の夜にはもうお風呂やシャワーまで完成してた。
アールリッツさんはちゃんと食べ物を沢山見つけてきてくれたし、ラキも風向きや島の形を測定して、安全な位置をリリーに教えてた。
俺もなんかしなきゃって思ってはいたんだけど、魚もいないからあんまり力になれなくて、リズと一緒に料理を作ったりした。
「ははは。別にそう気を張らなくたっていいじゃないか。誰にだって得手不得手はあるものさ。むしろ、今のような状況で焦ったり、不慣れな作業を勝手にしたりするのは止めた方がいい。〝死亡フラグ〟が立つからね……!」
「そうなんだ……。気をつける……じゃなかった、気をつけます」
「フフ……そう畏まらないでくれよ。私だってリリーやリズさんに比べれば、力仕事くらいしか出来ることもないからね。困ったことがあったら、何でも相談してくれていいんだよっ!」
「うわ、まぶしっ」
朝。
少しでも皆の役に立とうと思った俺は、苦手な早起きも頑張って、水くみとか朝ご飯の準備とか、そういうのをやった。
そしたらアールリッツさんが起きてきて、ピカピカ光って俺にそう言ってくれた。
アールリッツさんは俺に取ってきた食べ物の料理方法とかを教えてくれて、お陰で昨日の夜よりも美味しい料理を作れた。
「心配しなくても、君には凄い力があるし、それを正しく使おうとする意思もある……。他の皆が頑張っている間、いつでも動けるように準備しておくのも立派な役目だよ、カノア君」
「はい……ありがとうございました」
アールリッツさんも優しいな……。
眩しすぎて直視できない。
さすが勇者って感じだ。
アールリッツさんにそう言って貰えたお陰で、俺の気持ちも結構楽になった。
やっぱり、遭難なんてしたせいで俺も焦ってたのかな……。
「ははははっ! そーかそーか。あの兄貴がカノアにそんなこと言ったのか。まあ、そこに関しちゃ私も同意見だな」
「ふふ、アールリッツ様らしいですね」
「うん。とっても眩しかった」
それとはまた別の時間。
小屋とは別にまたなにか建物を作り始めたリリーとラキ。
俺は二人にお水を持っていったついでに、色々お話ししたりした。
「私だってなんでも出来るってわけじゃないしなー。もしリズみたいに魔法で家や空飛ぶ機械をぱぱーっと作れるなら、私だってそうしたいよ」
「出来ないの?」
「出来ないなー。ドカーンと派手なのは得意なんだけどなー!」
「聖女であるリリーの魔力は確かに強大ですが、繊細で精密な操作や、力の応用は苦手なんです。これはリリーが……というわけではなくて、人間が扱う魔法そのものの限界です」
「なにがなにやら」
リリーはそう言うと、自分のベルトにぶら下げてたハンマーとかノミとかクギとか、とにかく色んな大工道具をふわーって周りに浮かべて、空中でくるくる回し始めた。
「なははっ! 簡単に言うとな、私達人間の魔法は〝おおざっぱ〟なんだよ。街みたいな重い物を空に飛ばすことは出来ても、切った木を勝手に組み合わせて家を作ったりはできない。人や動物を元気には出来ても、病気を完璧に治したり、酷い傷を綺麗に消したりはできないんだ。私と一緒で細かいのが苦手ってことだなっ!」
「ぜんぜん知らなかった……」
「だから私も、昔はリズのことが羨ましくてさー。リズには私の方がなんでも出来るように見えてたらしいけど、私から見たらリズの方こそ何でも出来る奴だろって」
「そういう訳ですから、カノアさんもそんなに気にすることないですよ。僕達はみんな、カノアさんのことをとても頼りにしてますから」
「ありがとう」
二人からそう言われて、なんとなく気付いた。
多分だけど、俺は水泳EXがあんまり役に立たなかったから焦ってたのかも……。
自分ではあんまり意識してなかったけど、やっぱり俺はどこかで水泳EXのことをあてにしてたんだな。
アールリッツさんもリリーもラキも。
もちろんリズも。
みんな自分の持ってる特別な力とは別に、物知りだったり、落ち着いてたり、家を建てられたりする。
俺はあんまりそういうのがないから……。
きっとそれで焦ってたんだな。うん……。
「なーにを仰いますかカノアさんっ!? そんなこと言ったら私なんて、どこからどう見ても完璧に何にも出来ないノロマの役立たずじゃないですかっ! うう……っ! 冒険者ギルドの存在しない場所においては、この私に存在価値などないのですよ……っ!?」
「なんてこった」
さらにさらに別の時間。
お昼も食べ終わった俺は、今度はハルさんにお願いされて島の奥に向かってた。
なんでも、昨日は結局冒険者ギルドの看板を立てられるような場所を見つけられなかったんだって。
「カノアさんは既にご存知だと思いますが……。私は世界中の冒険者ギルドに瞬時に移動することが出来ます」
「初耳です」
「あれ、そうだったんですか? まあ出来るのですよっ! ですので、この看板を立ててこの島にも冒険者ギルドを作ってしまえば、パライソにも戻れるのではないかと思いましてっ!」
「だから色んな所にいたんだ」
「そーいうことですっ! 以前は冒険者ギルドの受付スタッフも大勢いたのですが、それも今や世界で〝私ただ一人〟となってしまいました……! 時代の移り変わりとはいえ、寂しいものですねぇ!」
「大変そう」
なんかさらっと凄いことを言ってるような気がしたけど、俺にはその凄さを上手く言葉に出来なくて結局スルーしちゃった。
冒険者ギルドの受付って、ハルさん一人でやってたのか……。
マジで大変そうだな……。
「まあそういう訳ですので、勇者さんも仰っていた通りなんだかんだこの看板設置は大切な仕事なのですよっ! とりあえず立ててみればきっと色々分かると……って、か、カノアさん……これっ!? ちょっと見て下さい! なんですかこれはっ!?」
「え……?」
でもその時。
俺の前を歩いてたハルさんが、いきなり地面を指さしたんだ。
それは、地面に出来た大きなくぼみ。
俺の身長くらいはある大きな穴に、いくつかの肉球みたいな穴がいくつか……。
ん……?
なんかこれ、前にも見た気がするな……?
驚くハルさんを横に、俺はこれなんだったっけと頭にハテナマークを浮かべて首を捻った――。
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