第七章
遭難した
「あががが……っ!? ど、どこなのだここは……!?」
「俺にも全然わからない」
「困りましたね……。オルアクアも幾つかの機能が破損したようです」
「もしかしてこれって遭難したのか? へへ……なんだかワクワクしてきたなっ!」
「フフフ……! そう心配することはないよ。なぜなら、君達には無敵の勇者であるこの私がついているんだからねっ! 大船に乗ったつもりで楽にするといいっ!」
「たった今その船沈みましたけどっ!? いやはや……これはほんの僅かにマジの大ピンチですねぇ……!」
どこまでも広がる青い海と青い空。
そして絵の具で描いたみたいな、妙にもくもくした白い雲。
いつまでも波が打ち付ける砂浜で、俺達は呆然とその景色を眺めてた。
まあ……なんていうか遭難したっぽい。
船には俺も乗ってたし、オルアクアで動けるように待機してたラキもいた。
オルアクアより速く泳げるリリーのお兄さんもいたし、元気満々のリリーだって乗ってた。
それなのに、なんでこんなことになったのかっていうと――。
――――――
――――
――
「よっし、じゃあちょっと行ってくる。夜には帰ってくるから、私の留守は頼んだぞ、トルクス」
「ほ、本当に気をつけて下さいよ!? リズ様の話じゃ、その〝サメ島〟には大きなサメの怪物もいるらしいじゃないですか。いくら陸地があるからって、そんな怖い所にわざわざいかなくてもいいと思うんだけどなぁ……」
「ナッハハハ! そう心配するな議長よ! そのサメの怪物……サメ猫ならばすでに私とカノアが手懐けておる! 今や陸地は貴重な財産だからな……現地調査もあらかた終わったし、こうしてお前達人間共にも情報を共有してやったというわけだっ!」
「めちゃくちゃ探したけど、チュパチュパボンボリアンデスワームはいなかった……」
俺達が遭難する数時間前。
パライソの港に集まった俺達は、お見送りに来てくれた議長さんや何人かの偉い人とお話ししてた。
リズも言ってたけど、調査の終わったサメ島の現地確認っていうのをパライソの人にもやって貰う必要があるんだって。
今までは俺とリズだけで全部調べてたけど、これからは本格的に移住とか開拓とかの話も進めたいって言ってたから。
「それはそうなんですけど……何もリリー様がいかなくてもよくないですか!?」
「なら私の代わりにお前が行くか? 私とお前、どっちかがパライソに残ってればいいんだ。別にお前が行ってもいいんだぞ?」
「あ、あー……。ご遠慮しておきます……はい……」
「フフ……! リリーの安全は兄であるこの私が絶対に守ってみせるよ。それに、パライソには私ほどじゃないにしろ他にも勇者が何人も滞在しているし、一日くらいなら聖女が留守でも問題ないさ」
「それならいいんですけど……。本当のほんっとーに心細いので、皆さんお早めに帰ってきて下さいよ!」
「フゥーーーハハハハッ! そう心配せずとも、この船には大魔王と聖女と勇者と四天王とさらに極めつけに海の英雄カノアまでおるのだぞ!? たとえどのような災厄が待ち構えていようと、裸足で逃げ出す布陣なのだ! さあ行くぞ……! サメ島目指して出航だっ! クックック……! アーッハッハッハッ!」
「あ、ついでに今回は冒険者ギルドを代表してこのハル・ヨルネットも同行しますので! 何かあったらよろしくお願いしますねみなさんっ!」
「はーい」
――――――
――――
――
「ば、馬鹿なぁぁぁ……っ! それがなぜ……なぜこんなことにぃぃぃ……っ!?」
「俺も超ビックリ」
というわけで。
サメ島目指して出発した俺達の小さな船は、途中でこの世の終わりみたいな嵐に巻き込まれて沈没した。けど――。
「どうですかカノアさん。なにか分かりましたか?」
「うーん……だめだ。やっぱりなんかおかしい……」
「おかしいって、なにがおかしいんだ? あ……っていうかカノアがいれば、パライソにもすぐ戻れるんだな」
「ううん……。多分それも……」
乗ってきた船が沈んだのをとりあえず見届けた俺は、ちゃぷちゃぷって海の中に体を沈めて、水泳EXを発動する。
実は、さっきの嵐から皆を助けるときにも同じことをしたんだけど……。
「……なにもない」
「なにもない……?」
「ど、どういうことだカノアよ……!? 何も無いとは、一体何がないのだっ!?」
俺は目を閉じて、かなり頑張って水泳EXに意識を集中した。
どこまでも深く、遠くまで見えるように。
海の中で起こる、ほんの少しの渦や波も感じられるように。
だけど――。
どんなに頑張っても、やっぱり結果は同じだった。
「この海にはなんにもない……。パライソも、サメ島も、魚もいない。あるのはさっき沈んだ俺達の船と、この島だけっぽい――」
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