これからはまた
「いやはや、皆さん今日は本当にお疲れ様でしたっ! この場所は皆さんだけの貸し切りになっておりますので、ゆっくりお使いになって下さいねっ!」
「ありがとう、ハルさん」
「フハハハハ! ただの受付にしては随分と気が利くではないか! ならば望み通り、心ゆくまでこの大魔王一派が使い倒してやる! 喜びにむせび泣くが良いぞっ!」
「ええ……。そうさせて頂きます。私は席を外しますので、何かあればいつでもお声がけをっ!」
あの水泳勝負の後。
俺達は大盛り上がりのお客さん達にもみくちゃにされそうになった。
けどそこで上手いこと機転を利かせたハルさんに連れられて、この〝冒険者ギルドアクアキングダム出張所〟っていうところにやってきたんだ。
そこはどこからどう見ても、俺がハルさんと初めて会ったギルドと同じ見た目だったけど……そこについてはあんまり深く考えなかった。
「フフフ……見事だったよラキ君。私の完敗だ」
「いいえ、アールリッツ様。僕はオルアクアとリリーという、僕が〝この世で最も信頼する二者〟の力を借りなければ貴方に勝てませんでした。アールリッツ様がそれを不服と言われるのなら、僕はそれを受け入れるつもりです」
「ハハっ! そんなこと言う訳ないじゃないか。もしそうなら、最初から君がドールに乗って現れた時点でそう言っていたよ。立派だったさ、私の想像以上にね……」
「兄貴……」
ギルドの丸いテーブルの横に座るお兄さんは、もうピカピカしてなかった。
あの金色パンツ姿でもないし、鎧も着てない。ただのどこにでもいるスーパーイケメンになって、静かにラキとリリーに向き合ってた。
「ごめんよ、ラキ君。そしてリリー……。私は最初から、ラキ君がどれほどの覚悟でリリーと共にこれからを歩んでいくつもりなのか……それを確かめたかっただけなんだ」
「確かめるって……。でもそれなら、別にこんなことしなくたって良かったじゃないか……」
「フフ……。私とラキ君はもう何回も戦場で刃を交えた仲だ。彼がそこらのボンクラじゃないことなんてとっくに知っていたよ。けどね――」
「…………」
お兄さんはそう言って、とっても優しく、だけど真面目な顔で二人を真っ直ぐに見つめた。
「――けど、全ての人々の導となる役目を負った聖女のリリーと、魔族四天王であるラキ君の関係は、いずれ大きな困難となって二人の前に立ちはだかるだろう……。私は、ラキ君にその困難と戦う〝覚悟〟があるのかを見たかったんだ」
「そ、そんなのあるに決まってるだろっ!? 私達だって、それがどういうことかなんて良く分かって……」
「いいかい、リリー……。意思と覚悟は違う。たとえ君達二人にその困難に立ち向かう意思があったとしても、覚悟がなければいざその困難と直面した時に、容易く折れてしまうことだってある……。それは、どんなに強い力を持った存在でもあり得ることなんだよ」
「なら……ここで改めてお約束します。リリーは、僕に人の優しさと温かさを教えてくれた大切な人です。たとえこの先に何があろうと……僕はリリーと一緒に幸せになります」
「私だってそうだ! 一人で幸せになるんじゃない……! そんなんじゃ、全然楽しくないんだよっ! 私だって……ラキと一緒じゃなきゃ絶対に嫌だっ!」
「ら、ラキ……! リリー……! なんと眩しい……! こ、これが愛の力だというのか……!? だ、大魔王パワーが浄化されて……光が……!」
「二人共、かっこいい……」
なんだこれ。
本当にかっこいい。
マジでびっくりした。
リズとか服が浄化されて白くなってるし。
ラキもリリーも。
どういう風に生きてきたらこんな風になれるんだろう……。
「そうだね……二人の覚悟は良く分かった。私のしたことも余計なお節介でしかなかったようだ。改めて、謝罪させて貰うよ」
「……なら、今度はアールリッツ様に僕との約束を守って頂く番です。約束通り、しばらくの間はリリーと一緒にいてあげて下さいませんか?」
「ははっ。それはいいけど、私はともかくリリーは嫌だと思うよ。私は今まで、ずっとリリーのために何もしてこなかったからね……」
ラキの言葉に、お兄さんは寂しそうに笑った。
けど――。
「あ、兄貴……! あのさ……。その……これ……」
「……? これは……」
「ハンマーだよ……。もう何年も前に私が作って……でも兄貴からなんの返事もないから送るのを止めて……。そのままほったらかしにしてた、最後の一個だ……。実はさっき、ラキが館からこっそり持ってきてくれててさ……」
「リリーはもう何年も前に、トルクス議長から説明を受けているんです。リリーと引き離されたアールリッツ様が生まれ育った貧民街を離れ、世界中の剣豪や、当時の勇者に弟子入りして回っていたと……」
「そんな兄貴に、手紙なんて出しても返事なんて来るわけなかったのにな……。素直じゃなかったのは私なんだよ……。兄貴がどれだけ苦労したのかなんて、もうとっくに分かってたのに……。寂しかったのも、辛かったのも全部兄貴のせいにして……。本当に、ごめんなさい……っ」
「リリー……」
おずおずって感じでリリーが差し出した、小さなオモチャのハンマー。
お兄さんはそれを確かに受け取って、大事そうに両手で包んだ――。
――――――
――――
――
「――えぐえぐ……っ! よ、良かった……っ! 本当に良かったのだ……! リリーもアールリッツも、これからは元通りの仲良し兄妹になれるであろうな……っ!」
「ん……そう思う」
あれからちょっと後。
凄く良い感じの雰囲気になった三人を置いて、俺とリズは二人で帰ってた。
外はもうすっかり暗くて、遠くから波の音が聞こえてくる。
二人で歩く道にはオレンジ色の街灯がぽつぽつ立ってて、ずっと向こうの先まで続いてた。
なぜか俺もリズも凄く浮かれてて、リズなんてあびゃーって泣いたりもしてた。
別に俺がなんかしたわけじゃないのに。
それでも、気分はすごく良かった。
「しかしだ……! そういえば今日は四人でデートをする筈だったのだな……!? 終わってみれば、ラキとリリーに最初から最後までぶんぶんに振り回された一日だった気がしてきたぞっ!?」
「そういえばそうだった」
「フフ……まあ、私は楽しかったから良いのだっ! カノアはどうだ……? その……私と一緒で……。楽しかったか……?」
「すごく楽しかった」
「お、おおおお……!? な、ならばその……もし良かったら……今度は、二人で……」
「うん……また一緒に行こう」
「っ……! そ、そうだなっ! きっとまた楽しいぞっ! 間違いないのだっ!」
気付いたら、いつのまにかリズと手を繋いで歩いてた。
俺がしたのかな。
それとも、リズが握ってくれたのかな。
そんなことを考えながら、てくてく帰り道を歩いて行く。
結局、握った手は家に着くまでそのままだった――。
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