勇者のお兄様
「き、貴様……! 勇者アールリッツ!? あの洪水から姿が見えんと思っていたが、一体今まで何処をほっつき歩いておったのだ!?」
「フフ……久しぶりだね大魔王。実は大洪水の時に戦っていたドラゴンがなかなか厄介な相手でね。そのままドラゴンと一緒に空に飛ばされていたから、地上に戻ってくるのに手間取ってしまったのさ……! フフフフ……!」
「だから私の力にも引っかからなかったし、カノアに助けられたりもしてなかったのか……。相変わらず人騒がせな兄貴だな」
いきなり出てきたキンピカの人……アールリッツさん?
話を聞いてると、なんかリリーのお兄さんで勇者っぽい。
この人が動くと、それだけで周りがキラキラして目が痛い。
あとなんか〝フ〟が多い。
「アールリッツよ……! 分かっているとは思うが、今の私に貴様と戦う理由はないぞっ!」
「大丈夫、そう警戒しなくてもいいよ。戻ってくるまでに見聞きした話で、人と魔族の戦いが終わったことや、そこにいる〝彼〟が海の英雄と呼ばれる泳ぎの達人だということももう知っているからね」
「俺を知ってるの?」
「もちろんさ。本当なら、あの大洪水から人々を守るのは聖女であるリリーや、私のような勇者の役目だったんだ。まあ、たとえ私がドラゴンに阻まれていなくても、君みたいに世界中の命を救うことはできなかったよ。ありがとう、カノア君」
「うわ、まぶし」
勇者さんはそう言って、ぱあああって辺りを光らせながら笑った。
っていうか本当に凄く眩しい、サングラス買おうかな……。
「う、うむ! 分かればいいのだ分かれば! 貴様には我らも散々やられたが、味方になってくれるのならこれ以上心強い相手はおらんからな!」
「やられたの?」
「こんな全身金色悪趣味野郎だけど、兄貴は〝月間勇者ランキング〟47ヶ月連続一位の〝殿堂入り勇者〟だからな。リズ達みたいな魔族の相手だけじゃなくて、皆を襲うモンスターや、凶暴な野生動物なんかの相手もガンガンにこなしてる」
「タナカとラキがいなければ、もはや魔族の中では大魔王である私くらいしかまともに戦えぬ相手だ……。此奴のせいで、タナカは長らく本来の四天王最弱の任を一時保留にしなくてはいけない程だったのだ」
「フフ……いくら平和になったとはいっても、またいつかあの〝威勢のいい赤髪の剣士〟や、そこにいるラキ君とは手合わせしたいところだね。それくらいなら構わないだろう?」
「却下だっ! 今はただでさえ人と魔族の関係が不安定なのだ。ここで名も実もある殿堂入り勇者の貴様と、四天王のラキやタナカが刃を交えれば、せっかくの友好ムードに水を差しかねんっ!」
「そうかい? フフ……それは残念」
「うわ、まぶし」
なんか凄い人らしい勇者さんは、全然残念そうじゃない感じでまた笑った。
よく分からないけど、俺でも勇者っていう人達のことは知ってる。
俺が前になろうとしてた冒険者……その冒険者の中でも、冒険者ランキングの上位になるような凄い人達が勇者になれる。
勇者になった人達は、それまでの冒険者ランクじゃなくて、今度は勇者ランキングっていう所に名前が載るようになる。
そうなるともう冒険者ギルドとかで仕事を貰う必要もなくて、本当に一日中寝ててもいい感じになる……だったと思う。羨ましい。
「しっかしなー……。どうして今帰ってくるかな……。見ての通り、私達は互いに楽しく親睦を深めてる所なんだよ。いきなり兄貴が出てきたら、眩しすぎてそれどころじゃないだろ」
「まあまあ、そう邪険にしないでくれるかい? 私がここに来たのは、最愛の妹であるリリーの顔を一刻も早く見たかったからさ。用が済んだらすぐに帰るつもりだよ」
「おー! そうかそうか、それなら話は早いな。ならこうして私の顔も見たことだし、もう用は済んだだろ。兄貴の話は後で聞くから、とりあえずさっさと家に帰っててくれるか?」
「フフフ……。どうしたんだいリリー? 君が私にキツいのはいつものことだけど、今日はいつもより酷いんじゃないかい? もしかして……私をここに〝長居させたくない理由〟でもあるとか……?」
「チッ……! てめぇ……!」
「こやつ……っ!?」
勇者さんはそう言うと、ずっと黙って俺の隣に立ってたラキにギランって光る目を向けた。
「フッ……どうやら、君はすでに〝覚悟〟を決めていたようだね。さすがは四天王筆頭、塵殺のラキ……。まさか、この私と刺し違えるつもりだったのかい?」
「…………」
「ラキ……!?」
「うわ」
俺が気付いたとき、勇者さんがラキに向けたのは目だけじゃなかった。
本当にいつのまにか、勇者さんの〝剣〟がラキの目と鼻の先に突きつけられてた。
けどそれと同じタイミングで、ラキの銃も勇者様に先っぽを向けてたんだ。
「ご無礼をお許し下さい、アールリッツ様。僕もまだ死にたくはありませんので」
「なっ……!? こ……っのクソ兄貴ッッ! ラキになにしてんだっ!?」
「ハハッ! 気にしなくていいよラキ君、先に仕掛けたのは私だからね。けど……察しのいい君ならもう分かっただろう……? 私がここに来た〝本当の目的〟をねッ!」
勇者さんは笑いながら剣をしまうと、そのままリリーとラキの間に割り込むみたいにして立った。
「フフフ……! この私が久しぶりに再会した愛する妹の変化にも気付けない、愚かで残念な兄だとでも思ったかい……? 君には悪いけど、私の持つ伝説のチートスキル……〝フラグチェックSS〟の前では、君達二人の仲なんてまるっとお見通しなのさ……!」
「フラグチェックSS……!?」
「フラグ?」
「はぁ!? な、なんだよそれっ!? 兄貴がそんなスキル持ってるなんて聞いてないぞ!? っていうか……兄貴はスキルなんて――!」
「ど、どうなっているのだっ!?」
瞬間。勇者さんはぶわああああって周り全部をキラキラさせて、白いマントをばっさばっささせながら、ラキに向かってビシーって指を差した。
「魔族四天王、ラキ・ミリラニ……! 残念だけど、私は〝君と妹の関係〟を認めるわけにはいかない……! なぜならリリーはこの世で最も可憐で健気で気丈で知的で優しく気も利いて果断で苛烈な女傑で小さな頃から兄である私に手作りのハンマーをいつもプレゼントしてくれるこの世でもっとも素敵な妹だからだっ! たとえ神や悪魔や鬼やドラゴンや何万もの軍勢が相手だろうと私は絶対にリリー守るし他の誰かに渡すこともないし今後も死ぬまで渡すつもりもこれっぽっちもない! なぜならリリーは私のだからッッ! さあどうする……!? 大人しく君がリリ-との間にせっせと構築した〝全ての恋愛フラグをへし折る〟か、それとも私と一戦交えるか……どちらか選ぶといいッ! アハハハハハハッ!」
「くっ……!? さすが勇者……! 途轍もないプレッシャーですね……!」
「この凄い早口、誰かに似てる気が……」
もの凄い眩しさに目を閉じかけながら、俺はなんだかんだでこの勇者さんも別に悪い人じゃないのかなって思い始めたりしてた――。
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