大切な時間
「フハハハハ……! 見るがいい、この私の華麗なるジェットパック機動を……! このようなオモチャ、二歳の頃には自在に乗りこなしておったわ! クッハハハハハハハ!」
「うわわっ!? こ、これって結構難しいな!? いっつもハンマーで飛んでるから、背中に重心があるとバランスが……!」
「僕の手に掴まって! 大丈夫、リリーなら慣れればすぐですよ。それまでは僕と一緒に飛びましょう」
「あ、ありがとな……! っていうかさ……これって別にバラバラで飛ぶ必要なんてないだろ。このまま一緒に二人で飛ぼうぜっ!」
「ふふ……それはそうですね。なら、そうしましょうか」
「おおー……」
あれからちょっとして。
デートを始めた俺達は、公園の海側にあるジェットパックエリアで遊んでた。
背中にすごい勢いで水がドバーって出る機械を背負って、浅い海の上をビュンビュン飛べるっていうの。
俺も今までにリズの大砲で飛ばされたり、自分でジャンプしたりはしてきたけど、こんな風にふわふわびゅーんって飛んだことはなかったから、結構気持ちよくて楽しい。
リズは凄いから、一人でフハハハハって高笑いしながら直角にカクカク飛んでる。
リリーは慣れてなくて、ラキと手を繋いで一緒にゆっくりゆっくり飛んでた。
そしたら――。
「ぐぬぬ……!? リリーめ……まさかそのような手があったとは……! ならば…………あ、あー!? 助けてくれカノアー! 実は私はこのような機械は初めてでうまく飛べぬのだぁー!」
「すごいキモイ動きで飛んでたけど」
「ば、馬鹿者っ! あれはビギナーズラックがアレでソレで……と、とにかくたまたまっ! 偶然だったのだっ! ほ、本来の私はこのように、空中では生まれたての子鹿のようにぷるぷるでヘナヘナっ! あ、ああー!? このままでは海に落ちてしまうー!」
「危ない」
なんか急にビックリするくらいふらふらになったリズを助けようと、俺はガシってリズの体をかなり頑張って抱きしめた。
背中の機械に当たらないように、腰と肩を掴む感じで。
「おぎゃっ!? て……手……てててて、手ではないのかッッ!? あわわわわわ……!?」
「ごめん。リズがフラフラすぎて、手じゃ危なかった」
「そうだったか!? し、心配させてすまなかった……っ! その……少し調子に乗ってしまって……」
「気にしないで。リズが大丈夫になるまで抑えておこうか?」
「あー……。うー……。そ、そうだな……。ありがとう……お願いする……」
「うん」
俺もまだちゃんと飛べるわけじゃないけど、リズみたいにバランスを崩したりはしてないから。
結局、そこではずっとリズを抱えたまま遊べる時間が終わっちゃった。
リズは着陸した後も真っ赤になって、右に左にふらっふらだったけど、本当に大丈夫かな……。
「では、少し休憩にしましょうか。飲み物は僕とカノアさんで取ってくるので、リリーとリズ様は先に席に座って待ってて下さい。行きましょう、カノアさん」
「うん」
お昼まであと一時間って頃。
一休みのために入ったお店で、俺とラキは二人でカウンターまでてくてく歩いて行った。
「お見事ですカノアさん。やっぱり僕が見込んだ通り、貴方はやれば出来る人です」
「そうなの?」
ラキは店員さんに飲み物を頼みながら、柔らかい感じでにっこり笑う。
俺は全然意味が分からなくて、首をぶらんぶらん揺らした。
「今日のリズ様は、とても楽しそうです。元々、カノアさんと知り合ってからのリズ様はとてもハイテンションでしたけどね」
「俺も楽しいよ。リズと一緒なのも、ラキやリリーと遊ぶのも楽しい」
「それは僕もそうですし、リリーもきっと楽しめてると思います。最初はリズ様のため……なんて言ってましたけど。実際は僕も、こうして皆で遊びたかっただけなんです」
「そうなんだ」
頼んだ飲み物が出てくるまで、ラキとそんな話をして待ってた。
俺は本当にずっと一人で、こんな風に誰かと遊びに行ったりなんて全然なかった。
だから、ラキが俺をこういう場所に連れてきてくれてとっても嬉しいし、ありがたいなって思ってた。
「あの大洪水で人と魔族の関係は大きく変わりました……。僕とリリーも前よりも気軽に会えるようになって、とても幸せな時間を過ごせています」
「それはとってもいいこと」
「でも、リリーの力では魔王城のシステムに守られていた僕達魔族を、あの洪水から助けることは出来ませんでした。僕が今こうしてリリーと一緒にいられるのも、カノアさんが助けてくれたからです」
「…………」
ラキのお話しは、とっても真面目だった。
雰囲気は柔らかかったけど、凄く苦労してきたんだろうなって感じだった。
「カノアさん……。どうか、リズ様をもっと幸せにしてあげて下さい。そして出来れば、カノアさんも幸せになって下さい。僕とリリーは、こうして二人で出かけることも今まで出来ませんでした。せっかく平和になった訳ですし、楽しまないと損ですからね」
「ん……わかった」
俺は頷いて、飲み物を乗せる板みたいなのを手に取った。
――俺はリズと一緒だと楽しい。
幸せって言うのも……まだよく分からないけど、きっとそうだと思う。
だから、やっぱりリズが泣いたり、怪我したりしないようにしてあげたい。
リズだって、いっつも俺にそうしてくれてるし……。
俺もリズもちゃんと楽しく……。
そんなの、そっち方がいいに決まってるもんな。
そんなことを考えながら、俺達は大きなグラスに入った飲み物を運んでいった。
でも、そうしたら――。
「――やあリリー。随分と久しぶりになってしまったけど、相変わらず元気そうでなによりだよ」
「あれ?」
「っ!? ま、まさか……あの人は!?」
「き、貴様……!? なぜここに……っ!?」
「げげ……っ!? マジかよ……!」
俺達が戻ろうとした先。
リズとリリーの座る席の前に、全身金色のピカピカの鎧に真っ白なマントをつけた、金色の髪の……とにかく何もかもキラキラの、とんでもないイケメンの人が立ってた。
でもなんというか……キラキラしすぎて目が痛い。
「ったく……。また面倒なのが帰ってきたな……」
「おや? 久しぶりに会ったのにつれないね。そう恥ずかしがらなくても、遠慮せず〝勇者〟である私の胸に飛び込んできていいんだよ? リリーは私にとって誰よりも大切な妹なんだからね。フフ……」
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