小さな二人
「このテーマパーク……ウォーターキングダムは、開園して間もない最新の水上公園です。少なくなってしまった陸地を有効活用するような、ある程度体を動かすアスレチックや運動場。ウォーターバイクやジェットパックを使った海上散策がメインになっています」
「へー! そいつはいいじゃないか! 私って見ての通りじっとして並んだりするのが苦手でさ」
「もちろん、だからここを選んだんです。行きましょう、リリー」
「へへ……。いつもありがとな!」
「な……なな……!? ば、馬鹿な……っ!」
「完全に夫婦……」
オルアクアをどこかに戻したラキは、そのままリリーの手を取って俺やリズにもちょいちょい声をかけながら公園の中を歩いて行く。
ラキはいつものビシッとしたスーツじゃなくて、動きやすそうな格好だった。
一緒に歩いてるリリーは汚れた作業着のまま。
二人の背の高さは殆ど一緒。
楽しそうに歩いてるのを見ると、仲のいい子供同士って感じだった。
だけど――。
「初めて来たけど、結構いいところだな! ここを作る時は私もいたんだけど、出来てからは一回も見に来てなかったんだ」
「パライソでの口コミレビューでは開園以来ずっと高評価みたいですよ。いくら生きていくことに不自由はなくても、僕達にはやっぱり遊んだり、体を動かすことも必要ですからね」
「でもさ、せっかくのデートなのにこんな格好でごめんな。さっきも言ったけど、土壇場でどうしても外せない作業が出てきてさぁ……」
「謝ることじゃないですよ。それに、僕はその姿のリリーが一番好きですし……」
「お、おい……っ?」
「お、おおおおお……!?」
「はわわ……」
そう言うと、ラキはもの凄く自然な感じでバックから小さなタオルを出す。
そしてそのまま、さっきリリーの鼻についた汚れを優しく拭いた。
「この汚れだって、リリーが毎日皆のために頑張ってる証拠です。やっぱり、リリーといえば作業着っ! ですよね?」
「まったく……本当にお前は悪い奴だな……?」
「……ん」
「ふお!? ふおおおおおおおおおお!?」
「はわわ……」
ラキにそう言われたリリーは、俺達が横にいるのも気にしないで、普通にラキにちゅーした。ちゅー。
それを見たリズは、完全にカチコチの銅像みたいに固まる。
リズの横を歩いてた俺も、あわわあわわってガタガタ震えた。
むぅ……この二人、見た目は小さいのにすごすぎる……。
「ちょ、ちょっと待て貴様らああああああああッ!? お前達、一体いつからそのような関係だったのだ!? 私は今の今までさっぱり知らなかったのだがっ!?」
「それについては、ずっと黙っていて申し訳ありませんでした。僕とリリーは、ちょうど二年ほど前からこうしてお付き合いを続けていたんです」
「そうそうっ! ほら、前々から直接来れないリズの代わりにラキがよく私の所に来てただろ? そうやって何回か会って話してる内に、こう……ついな!(てへぺろ)」
「な、何が〝つい〟だ何がッッ!? ラキは私にとって、大切な弟のようなものなのだぞ!? そ、それがまさか……よりによってこんな完全肉食ガテン系脳筋バトル脳聖女の毒牙にかかっていようとはぁぁぁあ……っ!」
「なはは! それじゃあリズは私の〝お姉さん〟じゃないか。〝リズ姉様〟って呼んでやろうか?」
「いらんわっ!」
リズは言いながら、ふりふりの可愛い白い服のままだだっ子みたいにガンっガンって足踏みして、両方の目から血の涙を流して悔しがった。超こわい。
「待って下さいリズ様。僕達だって、ただお互いの気持ちのままにこのような関係になったわけじゃないんです。だからこそ、今までリズ様にも……勿論他の誰にも教えなかったんですから」
「だな。大体聖女と魔族四天王が実はラブラブなんてバレたら、今だって大問題だろ? 今日はラキが〝ステルス迷彩〟ってのを使ってるから大丈夫らしいけどさ」
「はい。上空に滞空しているオルアクアから、僕とリリーの周囲にだけ視覚を誤魔化す光学迷彩を展開させています。これで一般の人には僕とリリーだとは分かりません」
「すごすぎる」
そうやって話しながらも、ラキとリリーはずっと手を握ったまま前をてくてく歩いて行く。
すごいな……本当に二人はとっても仲良しなんだ。
「うぐぐ……」
「むぅ……?」
でもそんな俺の横。
一緒に歩いてるリズは、さっきからなんか様子がおかしい。
トイレかな。
「大丈夫?」
「だ、大丈夫だっ! あ……いや、大丈夫ではない……! はうあっ!? やっぱり大丈夫だ……!」
「すごくダメそう」
「ぬわあああああああああ!? ち、違うのだ……! わ、私も……あんな風にカノアと手を繋ぎた……いや、違っ……!」
「そうなんだ」
「はわっ!」
そうだったのか。
リズも手を繋いで歩きたかったんだな。
そういえば、今日はデートってラキは言ってた。
俺は初めてだからよく分からないけど……きっとデートの時は手は繋ぐんだ。
そう思った俺は、ちゃんとリズの手をなるべく優しく握って手を繋いだ。
リズは最初カチンって固まったけど、すぐに握り返してくれた。
「これでいい?」
「あ、う……。うん……いいぞ……」
「うん」
さっきよりももっと小さくなったリズと手を繋いで、俺達はラキとリリーの後についてった。
うんうん。
こういうのは初めてだけど、ラキのお陰で結構上手く出来そうだぞ。
やっぱり、ラキって本当にすごいな……。
俺はそんなことを考えながら、青い空と緑色の葉っぱや木の下を皆で楽しく歩いていった――。
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